編集室より

かこさとしは、カラスが大好きと言われていますが、絵本の中ではスズメも大切な役回りをしています。

スズメに田んぼの大切な稲を食べられてしまったら大変なので、カカシや鳴子が必要だったわけです。京都・伏見稲荷の門前にスズメ焼きが空高くズラリと並べられ売られていたのを目にしたのは筆者が10歳になろうかという時でした。ちょうどその頃に「だるまちゃんとてんぐちゃん」(1967年福音館書店)が世に出ました。

10歳ともなればそろそろ絵本は卒業、もっと字がいっぱいある本だって読めるんだと挑戦したくなる年頃です。そんなこともあってか、残念ながら、だるまちゃんの世界にどっぷり入り込んだ覚えがありません。だるまどんが作るお餅の鼻が、うまくつくのかは心配でしたが、スズメのお米好きは伏見稲荷での生々しい光景のおかげですっかり承知していましたので、スズメがお餅の鼻にとまるのも当然と納得していました。

数々のうちわの場面では、「このうちわ、うちにもある!」「あれも描いたのー?」などと自宅にあるものが絵本に登場するのを楽しんでいましたし、ヤツデの木も植わっていましたから、なるほどなるほどと現実と絵本の世界を行き来していました。それが、ごく最近、加古が言った半世紀前の言葉が突然、唐突に蘇ってきたのです。窓から外を見ていた子どもの私に向かって「スズメのほっぺには黒いヒゲみたいなのがあるでしょ」

今一度絵本を見て愕然。全く見過ごしていました。スズメにはだるまちゃんと同じようなヒゲがある!

そうか!!
このヒゲがあるからだるまちゃんの鼻にとまるのは、ちょうちょではなくスズメ。お米が好きだからスズメと思っていたけれど、きっと加古は幼い時の観察でヒゲのようなスズメの黒いほっぺが面白くて、大人になってからも、いつか、どこかで使おうと思っていたに違いありません。

スズメ起用に二重の意味が込められていたことを発見するのに50年近くもかかってしまった私。もしあと2-3年早くだるまちゃんに出会っていたらその時に見つけていたかもしれない、スズメのヒゲ。見たつもりになっていたけれど、見落とし、気にもとめなかったこんな小さなことを大人になって発見するとは・・・失ってしまった感受性を今更嘆くのはなんと情けないことか。ああ、それにしてもスズメのほっぺ。