2019

「あとがき」コーナーではありますが、前書きとしてのかこさとしの言葉「はじめに」をご紹介します。

はじめに

このたび出版となった『あそびの大事典 大宇宙編』は『あそびの大宇宙 全10巻』(1990〜1991年)を時代に対応するように再構成編集したものです。

私は戦後、川崎の戦災跡の工場労働者住宅街で、会社に勤めながら子ども会を25年していて、遊びの持つ野性的な楽しさと生きる意欲を、子供たちから教わりました。その後、会社を退職し、六つの大学で10年間、児童文化と行動論の講義を担当しました。

その折、「遊びの本」出版の依頼を受けたので、子どもたちから受けたあそびの多彩な楽しさと、大学講義の基軸である子どもの成長発達の推進力を込めて記述したのが『あそびの大宇宙』で思い出深い著書です。

今回、新装出版にあたり、嬉しい懐かしさとともに、新しい読者の方々に、当時の子どもたちのいきいきとした行動と生き抜こうとする力が伝わるなら、最高の幸いです。

かこさとし

上は、表紙カバー内側で、この下には【この本の特徴】として、以下のような著者による解説が続きます。

【この本の特徴】

○ 子供の遊びの主人公である子供の立場、総合的な成長と発達と、個性孤独の心理環境を主軸とし、大人の遊びへの介入、関与、干渉を排しました。

○ 子供の遊びは森羅万象にわたり、その素材は従来の類書のように狭い一方に偏したものではなく、多元、多様、総合の形を目指しました。

○ クイズ、なぞなぞ、笑い話、絵さがし、さては頁の一部を切ったり、折ったりし、楽しくなるよう工夫しました。

子供の遊びでは、森羅万象全てが題材対象となります。しかも「トンボのハネの迷路探し」や「三輪車による町内見回り」のようにその楽しさは当人にしか味わえぬ個人個別なのが本筋です。一部の教育者や親のすすめる「よい遊び」や集団行動による成果期待の「大人の立場」ではなく、失敗・錯誤・忘却・偶然といった不安定非効率の集積をのりこえる魅力の源泉を、「本での遊び」の中に集約した、40余年実践と調査の結晶ですので、お楽しみ下さい。著者

「水菓子」、果物の事をこう呼びますが、今のようにお菓子が簡単に手に入らなかった昔、果物の甘さとみずみずしさは格別だったに違いありません。そんな時代の水菓子の代表は桃でしょうか。梨、それとも柿?

こういった果物が登場する昔話が『こわやおとろし おにやかた』(1986年偕成社)です。
桃から生まれた桃太郎だけではなく、梨、柿から生まれた三人が大きくなり鬼退治をする展開は昔話を元にした加古の創作です。物語の筋とともにその語り口調が味わい深く、漢数字以外は全てひらがなの分かち書きで、こう始まります。

(引用はじめ)
「むかしむかしの そのむかし、ちいさな さみしい むらに 一けんやが あってな、としよったばあさまが さびしく ひとりで くらしていたそうな。」
(引用おわり)

あとがき かこさとし

あとがきをご紹介します。
(引用はじめ)
今から30年ほど前、私は日本の昔話を調べたことがあります。その中に、いろいろな果実やなりものから子どもが生まれてくる話がありました。不思議な面白い話が、なぜたくさんあるのだろうかと考えました。果物・木の実を大切にしたこと、貧しいけれど努力して生活していたこと、不意に来る災害や悪者に怯えていたこと、老人はしっかりした子どもや身寄りをほしいと思っていたことなどを知って、若かった私がまとめたのが、この「おとろしばなし」です。
(引用おわり)

食欲の秋!餃子・コロッケ・ホットケーキ……

『からすのパンやさん』

暖かな食べ物がうれしい季節になりました。おいしいものが出てくる本の紹介のなかで取り上げられているのは『からすのパンやさん』。焼きたてホカホカのパンの香りがしてくるようです。

この続編には『からすのおかしやさん』『からすのやおやさん』『からすのてんぷらやさん』からすのそばやさん』といずれもおいしそうなものがズラリと並びます。合わせてお楽しみください。

記事は以下です。

ほんのひきだし

『コウノトリのコウちゃん』(2017年小峰書店)は、かこの生まれ故郷福井県越前市の白山・坂口地区の様子を取材して出来上がった絵本ですが、この地区では兵庫県豊岡市の取り組みを模範にコウノトリがすめる、人間にもよい環境作りに県や市とともに取り組んでいます。

人間の仕掛けたわなでケガをした豊岡のコウノトリが元気になって放されたことを伝える記事で、かこが小峰書店のご協力でお手伝いした「手ぬぐい」が、お役に立ったようです。以下でお読みください。

コウノトリ

2019年ノーベル化学賞を受賞された博士が化学に目覚めるきっかけになった本として、改めて注目されているファラデーの『ろうそくの科学』は、原題が『ろうそくの化学物語』で、「1860年からずっと現在まで、全世界のたくさんの人に読まれ、かがやきつづけている、すばらしい本です」と、かこさとしはその著書『世界の化学者12カ月』(2016年偕成社)で書いています。

この絵本では1月から12月まで、月ごとに「今月の化学の人」をその業績やエピソードとともに紹介しています。10月はノーベルとノーベル賞を受賞した福井謙一、11月はノーベル物理学賞と化学賞を受賞したマリー・キュリー、そして12月は、紙の発明者蔡倫と「クリスマスの夜、子どもたちに化学の話をした人」ファラデーの生い立ちを紹介しています。

2019年春に開催した越前市武生公会堂での展示会で、この蔡倫とファラデーを描いた原画を展示しましたので記憶に新しい方もいらっしゃるかもしれません。

『世界の化学者12カ月』は、他にも「化学 花ごよみ・味めぐり」として季節の花の色や食品にまつわる化学的な豆知識、1年366日(2月29日を含む)その日に生まれた歴史上の科学者を挙げその業績を紹介しています。またビッグバンからこの本の出版された2016年までの科学年表があり、科学の歴史を俯瞰することができます。2017年以降は読者の皆様に書き入れて欲しいとかこは語っておりました。お手元に本をお持ちの方は是非宜しくお願い致します。

下は裏表紙。

ラグビーの熱戦が繰りひろげられていますが、『遊びの大宇宙 1おにごっこ じんとりのあそび』(1990年農文協)には、数多くのおにごっこや球技、綱引き、石蹴りなどが紹介されていて、その1つが上の「ラグビーごっこ」です。「ごっこ」ですから本物のボールではなく、ドッジボールや身近にある軽い素材で簡易に作ったボールを使って遊びます。

側で見ている猫のセリフがふるっています。子猫に向かって「いいかい そばへいくと まちがえられて あぶないヨ」

かこさとし考案「ラグビーあそび」も登場しますが、ルールの最後に「すこしくらいのことで、ないたり おこったり するようでは、ラグビーを たのしむことはできませんよ。」とあり、以下のようなメッセージもあります。(漢字にはふりがながあります)

(引用はじめ)
「おしくらまんじゅう」や、「ラグビーごっこ」の楽しさは、こども同士、からだを動かし、はだををたがいにくっつけあって、全身で遊ぶところです。仲のよいなかまであれば、たおされたり、さわられることで、ますますしたしみが増し、おもしろさがふえてくるものです。
(引用おわり)

現在ではこのシリーズ全10巻を合本にした『あそびの大事典 大宇宙編』の第1パートの最後に『おにごっこ じんとりのあそび』の「あとがき」が収められています。

外あそびの すばらしさ かこ さとし

(引用はじめ)
子どもは、大人とちがって成長するものです。細胞がふえ、体は大きく、骨は強く、筋肉がしなやかになっていきます。その伸びてゆくものを、適切につかい、きたえ、活動させることが、次の成長の力となります。だから子どもは、ほうびや無理なすすめがなくても、かけまわり、動きまわるものです。そのため戸外で体を大きく動かす子どもの遊びは、特に大事です。この伸びゆく者の、全身の楽しい遊びを集めたのがこのパートです。
(引用おわり)

「おしくらまんじゅう」を見かけることは、ほとんどなくなってしまいましたが、「ラグビーごっこ」に名をかえた「全身の楽しい遊び」が盛んになればと思う今日この頃です。

だるまちゃんもいます!

菊薫る武生中央公園です。
今年のテーマは童話のお姫様。シンデレラの馬車に乗って写真が撮れるそうです。白雪姫、人形姫にかぐや姫や乙姫様。そして「だるまちゃん」も特別参加!

入場無料です。

目の保養ができて、美味しい空気に菊の香りにも癒される越前市中央公園で秋のひと時をお楽しみください。
シンデレラの馬車からゆっくり歩いても5分もかからずに「かこさとし ふるさと絵本館 石石(らく)」に到着。『まさかりどんがさあたいへん』の全場面も展示しています。是非お寄り下さい。

2019年10月5日福井新聞でも報じられました。以下でお読みください。

福井新聞

福井新聞online

また、2019年10月8日には、読売新聞でも「広がる童話の世界 シンデレラ、白雪姫ら登場 たけふ菊人形」という見出しで報じられました。

2019年10月11日 中日新聞 「だるまちゃん 残った残った 越前市 園児読み聞かせ、紙相撲」

2019年10月9日に、ふるさと絵本館で行われた「だるまちゃんといっしょにあそぼう!」のイベントについては以下からどうぞ。

同様の記事が2019年10月10日 福井新聞朝刊「みんなで読もう」コーナーで【加古ワールド ゲームで満喫 越前市の園児】として報じられました。

中日新聞 ふくい地域

福井新聞

『くりひこ うりひめ』

かこさとしが20代後半、サラリーマン時代にたずさわったセツルメント活動では、子どもたちが自分で工夫し思い切り楽しく遊んで欲しいと願い、そのお手伝いをしていました。紙芝居をみせたり、こども新聞を発行したり、絵の教室を開いたり、遠足や運動会もありました。

中でも人気は幻灯でした。幻灯というのは8ミリスライドのようなものです。映画やテレビがまだまだこどもには縁遠いものだった時代、こどもたちの幻灯に寄せる期待は大きなものだったそうです。内容はなじみのある日本の昔話が多かったとか。

セツルメント活動は全くのボランティア活動なので、セツルメントハウスと名付けられた活動場所となる小さな家の家賃などすべてがセツラーと呼ばれるボランティアの人たちの寄付でまかなわれていたそうです。様々な活動に必要な資金を捻出するため、幻灯を100ほど製作し販売したと、かこが話しておりました。そのいくつかが現存し、これまた今となっては大変貴重な幻灯機によって上映する催しが、山形で開催されます。

上のチラシにあるように山形国際ドキュメンタリー映画祭関連自主企画「幻灯の映した昭和 ー絵本と炭鉱 ー第1部 絵本作家の幻灯画」にてです。

日時: 2019年10月12日(土)10:30-12:00
場所 : 山形大学小白川キャンパス 人文社会科学部 301教室 入場無料 予約不要

手元に残っている原画は、全てモノクロで、製作:川崎セツルメントこども会、配給 :日本幻灯文化株式会社とあります。最後の場面の右下に「1955・8さ」とありますので1955年8月にかこさとしが描いたと思われます。当時は、スライドに直接、彩色する方法ですので彩色は会社によるものでしょう。

お近くの方は「くりひこ」と「うりひめ」をめぐる、かこさとしの創作昔話を幻灯でお楽しみください。

なお、この企画については2019年10月5日山形新聞朝刊に社会情報として報じられました。
以下でどうぞ。

くりひこ うりひめ

「うみにうまれ いのちをつなぎ」大中恩作曲 かこさとし作詞

『パピプペポーおんがくかい』(2014年偕成社)では、いろいろな動物たちが、次から次へと歌や踊りを披露する楽しい音楽会が繰り広げられます。その最後の演目「うみにうまれ いのちをつなぎ」の言葉に作曲家大中恩(めぐみ)先生が曲をつけて下さり、その楽譜がカワイ出版より刊行されました。

実は、大中先生とかこさとしには不思議なご縁がありました。長くなりますが、お読みいただけたら幸いです。

かこさとしが大学を卒業する直前、大学近くに住む小学生を招待して「夜の小人」という三幕の童話劇を上演しました。演劇研究会のメンバーだったかこが脚本を手がけた最初で最後のこの劇を大学一の大きな教室で演じたのは、もちろん演劇研究会の仲間でした。この劇には踊りあり合唱ありで、演出、踊りの振り付け、舞台装置、衣装デザインなどもかこが担当しました。ただ、劇中歌の作曲は、大中恩先生にお願いしました。

大中恩先生は当時、かこが住んでいた板橋区の高校で音楽を教えていらして、その学校の演劇部の舞台装置や衣装デザインのことで、かこがお手伝いをする機会があったのがご縁で知りあったそうです。恩先生のお父様は島崎藤村の歌詞で有名な「椰子の実」を作曲された大中寅二先生で、恩先生ご自身ものちに「犬のおまわりさん」や「サっちゃん」をはじめ多くの名曲を作られました。

話を「夜の小人」に戻します。大中先生はこの上演にあたり、合唱団を連れて来てくださり前日に大学近くのお寺で練習したそうです。このことは2016年秋、不思議なご縁で大中先生がかこを訪ねて来てくださった時に先生から直接伺いました。

2016年のこの訪問で、大中先生とかこは、70年近い時を経て再会することになったのですが、そのきっかけはこうでした。夏の終わりのある日、かこにNHK特報首都圏の番組スタッフから一本の電話がかかってきました。同世代の作曲家の方に歌詞を提供してもらえないか、という内容でその作曲家は。。。と説明が続きましたが、大中先生の名前が出るや、かこは「存じ上げているので喜んで」と即答。まさか過去にこの二人に接点があったとは、電話をかけてきた方も思いもよらない事でした。

程なくして、腰痛のあるかこのために2歳年上の大中先生が御奥様とともに会いに来てくださいました。かこはいつ用意したのか大中先生への色紙をしたためておりました。そして大中先生は、御奥様が見つけてくださった、かこの公式ウェブサイトの冒頭にあることば「こころとからだ よりたくましくあれ よりすこやかであれ よきみらいのためにー」に曲をつけてきてくださったのです。御奥様の歌声でご披露していただき、尚更大感激で、70年の空白があっという間に埋まり旧交が深まりました。

絵本『パピプペポーおんがくかい』(偕成社)の最後の場面(上)、いろいろな動物たちが次々にステージで歌った後、全員で歌う「うみにうまれ いのちをつなぎ」で始まる詞に大中先生は心ひかれるとおっしゃり、曲を作ってみましょうということになりました。このやりとりの一部が「特報首都圏」で放映され、その番組でこの曲の完成を知りました。番組スタッフは曲が放映直前に出来上がっていたことをサプライズにしようとかこにあえて連絡しなかったと後で聞きました。とにかく、テレビの前で曲を聴きかこは相好をくずしておりました。

『うみにうまれ』の曲はその後2017年9月30日、大中先生の指揮で先生の合唱団「メグめぐコール創設20周年記念演奏会」のフィナーレとして発表してくださいました。思うように動けないかこに代わり筆者がこのコンサートに伺い大中先生にご挨拶したのが、先生にお目にかかれた最後となってしまいました。翌年2018年5月にかこが、そして12月に大中先生がこの世を去りました。

再会を喜んでいた二人の不思議なご縁でうまれた2つの曲が、2019年9月1日に楽譜になって出版されました。歌曲集「アマリリスに寄せて」に「たくましく うつくしく すこやかに」と「うみにうまれ いのちをつなぎ」が収められ、また後者はピースも発売されています。90代の二人の「魂の交流」によって遺された音楽に親しんでいただけたら、と願っております。