あとがきから

ただいま越前市絵本館で全場面を展示中の「だるまちゃんとてんじんちゃん」(福音館書店)には、あとがきがありませんが、月刊「こどものとも」654号として刊行された2003年3月号折り込みふろくには「てんじんちゃんと天神について」と題し、加古里子の文がありますので以下にご紹介します。

(引用はじめ)
今度のだるまちゃんのお相手は、てんじんちゃんです。 天神とは天満宮の祭神菅原道真のことです。 右大臣に任ぜられてすぐ、九州に左遷されたといいますが、道中は従者1名のみで馬も食も給せられず、着いたところは床はぬけ雨漏りの廃屋で、実際は流罪だったわけです。

その天神をまつる社は、稲荷神社と首位を争うほど全国に広がり、千年の月日を超えて敬愛を集めているのは何故なのかを知りたく、20年位前たずね回った事があります。

無実の罪に対する同情や、上層政治権力者に対する反感、沈黙敗者に対する憐びんなどにより、1. 信義を重んじ礼節を守った人格 2. 簡素清廉な気質と温厚な態度 3. 逆境にあっても学問や文化、書や詩歌を失わぬ信念と意欲 4. 幼児、梅菊、鳥獣を愛した高い品性---の4点が人々の共感をよび、心をとらえ、全国150をこす素朴な土人形や木彫の郷土玩具にもなっているのを知り、たちまち「天神ちゃん」のファンになりました。

実際の道真は幼い二人の子供だけを伴った単身生活でしたが、この絵本では天神一家にだるまちゃんをまじえ、前記の4点を生かし自然と詩心と労働に包まれた新しい生活を描こうと務めました。 出てくる小鳥は天神ゆかりのウソ鳥です。

日本の児童文化が品位を失ったといわれる昨今なので、自らの低俗な育ちを省みず特に4項に力を入れたつもりなのですが、結果はどうだったか、ただもう天神様に祈るばかりです。
(引用おわり)

実は越前市、武生(たけふ)には男の子が生まれると天神人形をお嫁さんの実家から贈る習わしがあるそうです。

絵本館での「だるまちゃんとてんじんちゃん」の展示は6月27日までです。期間中は、てんじんちゃん工作や本物そっくりの動きをする黒牛を触ることもできます。

絵本館にて展示中の武生の天神像

「だるまちゃんとてんじんちゃん」(福音館書店)表紙
だるまちゃんが手にしているのはホタルブクロ

かこさとしの絵本には、あとがきが多く書かれ「おうちの方や先生方に」著者からのお願いが語られています。お子さんの時に読んだ絵本に、こんなあとがきがあったとは大人になって初めて気付いた、と驚きを込めた感想を言ってくださる方が間々あります。

今では絶版になってしまいましたが、1975年に出版された「 行事とあそび こどものカレンダー 」(偕成社)という12巻のシリーズがありました。1巻が1ヶ月分になっていて毎日、2ページごとに季節にちなんだ遊びや自然現象の解説、行事等が紹介されているほか、<きょうのひと><きょうは どんな ひ>のコラムがありました。その4月のまきのあとがきをご紹介します。(かな使いは本のままです)

(引用はじめ)
この本にこめた私のねがいは2つあります。

一つは、こどもにカレンダーとして、この本から、きょうやあしたという日のできごとを知っていただきたいということです。その日におこった事件や生まれたり、死亡した偉人たちを知り、なぜそんなことが起り、偉人たちがえらいと称せられたのかを、将来考えるこどもになってほしいとねがっているのです。もしその日が、そのこどもやまわりの人の誕生日にあたっているなら、できごとや偉人によせて、心からのはなむけの言葉とはげましを、ケーキよりも何より、あたえていただきたいのです。どうぞコラム欄をこどもたちに読んであげてください。

もう一つは、私が約25年ほどのあいだにこどもたちと遊びの中で試してきた、さまざまな形式と方法を使って、たのしさの中で考え、自らすすんでちえをみがいてゆくよう工夫と効果を、このほんのねらいとも、ねがいともしてあります。おとなの考えで判断せず、もしおとなも、こどもの世界にとびこんでゆかれるなら、失礼ですが、あなたも1つか2つかは、かしこくなられることだろうとおもいます。

みなさま方のよきお力ぞえををえて、このささやかなねがいが達せられるなら、作者の幸いとするしだいです。(引用終り)