編集室より

幼い頃、雷が光ってから、いくつ数えたら音がするのかをかこと数えたことが何回もありました。数が少なくなると「近づいてきたぞ」の声に緊張したものです。

「かこさとし かがくのほん(全10巻)」は1968年に童心社から出版され、ご覧いただいているのは1988年に新版となったものです。このシリーズでは、出版社の意向で絵を他の方にお願いすることになり、(ただし、『よわいかみつよいかたち』は引き受けて下さる方が見つからずかこが描きましたが)この本は2020年6月に逝去された田畑精一さんが担当されました。

田畑さんとは、かこが人形劇団プークで人形劇のことを学びお手伝いをしていた頃に初めてお目にかかったようです。

本のカバーには〈物理〉とありますが、かこは、ただ単に光と音を物理的に紹介するにとどまらず、もっと広い視野を持って書いたことが、「あとがき」からわかります。題して「何がちがい、何が特長かをを見落とさぬこと」、ご一読ください。

何がちがい、何が特長かをを見落とさぬこと

(引用はじめ)
映画やテレビから、すぐおわかりになるように、音と光のもつ魅力は、私たちの五感に、特に華やかな、豊かな印象を与えます。感受性の鋭い子どもたちは、素直にその魅力のとりこになります。すばらしい芸術や文化はもちろんのこと、スポーツや学問さえも、この音と光をぬきに考えられません。

この、誰もがその恩恵を受けている音と光は、よく考えてみると、その実体はたいへんむつかしいものです。しかも、私たちは、音は耳にきこえるもの、光は目にうつるものとして、別々に考えがちです。

そういう、全くはなればなれのものにも、共通性があること、その両者に通ずる適当な尺度を選ぶと、異質のものも対比できることを、私はこの本に盛り込みたいと念じました。比べるということは、差を見つけるとともに、同一性を見落とさないと言う重要な科学の基本であることを知ってほしいのがこの本の願いです。高大強優の結果だけをよろこぶのではなく、それぞれの特長個性を知り大切にするためです。ひょっとすると学課試験の成績や偏差値もそうであるかもしれませんね。
かこ・さとし
(引用おわり)