編集室より

『海』(1969年福音館書店)には巻末に11ページにわたる、各場面ごとの解説がついて、その最初に部分には、あとがきにあたる2章があります。長いので1章づつご紹介します。

《「海」ができるまで》

(引用はじめ)
私が海を絵本にしたいと思ったのは、もう7年も前の夏のことです。 それはちょうど「かわ」という絵本を書き終えたときでした。本を書き終えたときの私のくせとして、それまではりつめていた反動で1か月ばかりごろごろ寝ころびながら、壁に張りめぐらせた下絵群をながめ、淡い悔悟と反省に浸っていたとき、その最後の海の場面をスタートとして、海を舞台に取り上げてみたいという最初の衝動にとりつかれ、あれこれ思いをめぐらせ気持よくうたたねしたことを覚えています。

そのとき以来、折にふれては本を買い込 み、時をみては海岸に行ってできるだけ構想をまとめるように心がけましたが、いっこうに考えはまとまらず、いたずらに走り書きのメモは山積するばかりで数年がすぎていきました。 幸か不幸か南極観測と、その次に続いた宇宙開発のかげになって、はなばなしくはありませんでしたが、その数年間海洋に関 する多くの事柄が続々と明らかにされ、私のたくわえとなっていきました。

それらをもとにしてようやく具体的な作業にとりかかったのが2年ほど前になりま す。しかし専門の先生方のお話を聞き、個々の事実を調べると、まだまだ海は大きく果てしなく、知っている事のあまりに少ないのに気がつきました。私がというのではなく人類が海洋で知っている量は、あたかも海の表層部と海全体の比のごとく微小であることを知って、無知なのは私ばかりでなかったとほっとした反面、ひどい不安におそわれました。

その不安や迷いをほぐそうと、文献を読んだり図書館通いをしても、一つの解明は一つの疑問を生みだし、あふれる資料の波浪にもまれ、何度か計画は座礁しそうになりました。そうした折「海は、未知で未開拓な分野だからこそ、海の本が必要だし、子どもたちに与える大きな意義が出てくるのではないか」というはげましや、「海という巨大で複雑多岐にわたる対象を、盲蛇におじず、手をつけられるのはあなたのような専門外の人がいいんだ」というあたた かい(?)おだてにのって、ようやく形あるものにたどりついたのがこの本です。
(引用おわり)

13ページより。この丸メガネは構想をねっている、かこの姿でしょうか?