編集室より

実験用の安全メガネをつけ実験衣(白衣)を着た、こどもたちとワンちゃんネコちゃんが見つめる先は、何やら大喜びのヒゲの実験者。後ろには、これぞ物尽くし、とも呼びたいほど沢山のフラスコ、ガラス管などが複雑に入り組んだ実験設備が壁のようにそびえています。

一方、そんな光景を気に留める様子もなく、視線が目の前の器具、中の臭いを嗅いでいるメガネさんは、若き日のかこさとしのような雰囲気です。手にしているものの匂いに全神経を集中してその正体を考えているようです。

冒頭の場面が登場する『原子の探検 たのしい実験』(1981年偕成社)は、日本化学会のご依頼で執筆したシリーズの一冊で、分子や原子の発見や原子記号誕生の歴史を紹介しています。

また、基本的な実験方法や注意点も列挙されています。その中には、水に溶けないガス(気体)をとる方法としてキップの装置(上)も描かれています。

この本の前扉には同じ装置が描かれ、ワンちゃんがじっと見つめています。ところがこの絵には、一つだけ実験とは関係のないものが存在しています。

舌なめずりするネコちゃんの視線の先です。その視線を感じて、横目で警戒するこの金魚の表情、無機質な実験装置が3匹の動物の視線で、親しみのあるものになっています。かこさとしならではのユーモアです。

金魚がいる水は普通の水ですから金魚に害はないはずが、ネコちゃんには要注意?! 読者の皆さまのご心配を取り払うかのように、この本の最後にはご馳走に喜ぶ2匹がいて幕となります。