編集室より

今回ご紹介するのは〈かこさとし大自然のふしぎえほん3〉「ヒガンバナのひみつ」(1999年小峰書店 )です。

秋のお彼岸の頃に突然現れるかのように花が咲くヒガンバナには、本書によると日本各地に600以上の別の名前があります。曼珠沙華(マンジュシャゲ)、ボンバナ、ジゴクバナなどお聞きになったことがある方もいらっしゃることでしょう。

(上は、前扉。左からキツネノカミソリ、ヒガンバナ、シロバナマンジュシャゲ)

なぜこんなに多くの名前をこの植物はもっているのでしょうか。花色や形からつけられた名前、咲く場所やこの植物が持つ薬効から名づけられれたものの他に、「ヒガンバナのひみつ」に関わる大切な役割が関係しています。

本書を読みながら、そのすごいひみつを解き明かしてください。先人たちが名前にこめた深い知恵に驚かれることでしょう。

科学絵本ですが、お茶の間で3世代の家族が会話をするような温かな雰囲気が魅力の親しみやすい構成です。

最後に、この本のあとがきを挿絵とともにご紹介します。

あとがき

(引用はじめ)
1934(昭和9)年、東北地方の冷害と飢饉が伝わり、全国に新聞社の義援金募られた。福井から東京に転校して間もない、小学3年生の私は、級友3人と語らい何をおもったか横丁の納豆問屋にとびこみ、売らせてくれと頼んだ。理由を聞かれ、売ったお金を東北に送りたいといったら、太ったおばさんが急に涙ぐみ、一銭ももっていないのに、商品の山とカゴまで貸してくれ、売り方をこまかに教えてくれた。こうして家々を訪ね、たどたどしく話をすると、どこの家でも快く買ってくれ、たちまち売り切れて、それから4人で入金を算術して、夕方おばさんから差額をもらった。

こうして一週間、総額は忘れたが、物を売るとこんなにもうかるのかという印象の4人の労賃を、なんと新聞販売店にもっていった。果たしてきちんと担当部署に届いたかわからないが、大人も子どもも、疑うことを知らぬ、貧しいが人情あふれる時代であった。このときあるおかみさんがしてくれた、ヒガンバナを掘って、飢えをしのぐ話が、私の心につきささった。

本書を書きながら、私の脳裏を、このときの納豆とおかみさんの話が何度も去来した。
(引用おわり)