編集室より

3月11日は忘れてはならない日ですが、『世界の化学者12か月』(2016年偕成社)で紹介されている二人の化学者にとっても3月11日は関係の強い日でした。

この本の表紙中央には紀元前ギリシャの三人の肖像画があります。天文数学に優れ万物は水から生まれ、水にかえると考えたタレス、科学者デモクリトス、そしてプラトンの弟子でアレキサンダー大王の師アリストテレスです。

表紙の三人が六角形の中に描かれていることには理由があります。この亀の子あるいは亀の甲のような形は「カメノコ」と呼ばれ「化学を代表するシンボルマークとして」使われていて、そのきっかけとなったのがドイツの化学者ケクレ(1829−1896)でした。

「1865年、6個の炭素と6個の水素からできている、ベンゼンの構造式を考え出し、3月11日、学会に報告しました。」この式は「とても便利でよい表しかたなので、多くの人につかわれるようになり」100年後の1965年3月11日、「ベンゼン祭」がベルリンで盛大におこなわれました。

ケクレの栄光の影でケクレよりも早く「炭素結合についての考えを発表しようとし」たイギリスのクーパー(1831−1892)は、研究地フランスの教授にそれを許されず、失意のうちに病み、1892年3月11日に「かなしい一生を終えました。」クーパーの研究成果は「死後50年たって、ケクレの弟子アンシュッツによって再発見された」と、「3月の化学のできごと 失意と栄光を秘めたベンゼン祭」と言う見出しで紹介されています。

何を隠そう、加古が化学会社に勤務していた時には、このベンゼン式が並ぶ実験研究をしていました。それがどんなものなのか、筆者には、幼かった当時も現在も全くわからないのですが、加古が絵本をかき始めた頃、出版社の方がベンゼン式の並ぶ書類や本が加古の本棚にあるのを目にしたのが科学絵本の執筆を依頼するきっかけになったと聞きました。

ちなみにクーパーの誕生日、3月31日は加古の誕生日と同じ日です。そんなことを想いながらこのページを執筆していたのでしょうか。是非、本書をご覧ください。

尚、東日本大震災に関連した忘れられない逸話は当サイトの以下にあります。

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