お知らせ

今年度の展示テーマを「衣」「食」「住」「遊」としている越前市絵本館の秋の展示テーマは「住」です。

かこさとしは20代の時、住宅難で困っていた大学時代の歳上の友人とそのご家族のために小さな一軒家を建てたことがあります。

大学時代に加わっていた演劇研究会で舞台装置をまかされたのは、まさに適任だったといわざるを得ません。

日曜大工は時間が許せば喜んでしていたもので、本棚を作って部屋上部の周囲をぐるりと囲むように据え付けていました。

そんなかこですから、『だむのおじさんたち』でデビューした翌年1960年に『あたらしいうち』(文のみ担当)、1969年に『あなたのいえ わたしのいえ』(いずれも福音館書店)、そして『あきえちゃんのいえ ジロのいえ』(1985年童心社)と家についての絵本があります。

これらは戦争中、類焼を防ぐために建物のひき倒しに駆り出された大学1年生の時の経験、そして空襲で自宅を含む多くの家々が焼き尽くされ焦土と化したのを目の当たりにした忘れられない光景がその下敷きにあることを忘れるわけにはいきません。

下は『あきえちゃんのいえ ジロのいえ』から、あきえちゃんのお父さんが引っ越しのお祝いにもらった犬のジロの小屋を作っています。かこの姿と重なる場面ですが、あとがきには、「大切な家を新しい見方で取り上げてみました。(中略)ただ広ければとか便利であればよいのではない重要な点を、ぜひしっかり考えてほしかったからです。」とあります。

また、『あなたのいえ わたしのいえ』のあとがきには、かこがセツルメント活動をしていた戦後、
「戦災の名残が残っていた当時、浴室、台所、トイレのない寄宿舎などに住む人が大勢いたのです。そうした所の子に「自分が住んでいる所も立派な家だ」と思ってもらえるように描いた」とあり、「各地で災害が起こるたび、特に2011年3月11日に起きた東日本大震災で、体育館や仮説住宅の居住している子どもたちの様子を当時と比べ、胸が痛む思いです。」と記しています。

人間にとって大切な家を失うことはどれほど辛く、苦しいかを知るかこだからこそ、何気ないようでいて本質的なものを伝えることとなっている、これらの作品です。

「だるまちゃん」シリーズや「からすのパンやさん」つづきのシリーズでも日曜大工や建築の様子が描かれていて、上記の絵本の場面と合わせて展示致します。初公開のものも数点あり、夏の Bunkamuraでの展示会でご覧いただいた、加古が使っていた曲尺や折尺も並びますので、じっくりご覧下さい。