編集室より

作品によせて

本の誕生日

投稿日時 2026/01/29

『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店)が誕生したのは1967年2月1日、59年前のことです。
2026年1月27日福井新聞「越山若水」で取り上げられた『ゆきのひ』(福音館書店)はそれより1年前の1966年2月1日生まれで今年還暦。

かこさとしのデビュー作『だむのおじさんたち』は1959年1月でしたからもう67歳になりました。

2026年1月25日、福井放送「ふれあい若狭」絵本館紹介の中で取り上げられた最新作『くらげのパポちゃん』(講談社)は2025年2月3日、まもなく1歳のお誕生日を迎えます。

加古の没後に出版の『みずとはなんじゃ?』(小峰書店)は2018年11月11日、『ありちゃんあいうえお かこさとしの71音』(講談社)は2019年3月5日でした。

本がたくさん表紙や裏表紙に描かれている、 かこさとし初の詩集

こちらも2月1日生まれ。『だるまちゃんとてんぐちゃん』誕生の前年1966年作。

こういった、奥付といって本の最後に著者名などとともに記載されている日付が公式な本の誕生日ですが、全国の書店さんに並ぶころを見計らっていますので、実際にはそれより1週間くらい前に出来上がっているのが普通です。

本の刊行日は出版社さんが決めますが、素敵な計らいをしてくださることもあります。

偕成社の場合、奥付には日にちは入れず月までしか表示していませんが、かこさとしの誕生日に合わせていただいた『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社)は3月(31日)。加古の生涯最後の誕生日が最後の本の誕生日となりました。

また、加古が亡くなってから出版となった『てづくりおもしろおもちゃ』(小学館)は2021年7月12日。これも加古が大好きだった七夕に本ができあがるようにという編集者さんのお心遣いがありました。

皆さまのお気に入りの本の誕生日はいつでしょうか。思いがけず古い本だったり、本の誕生日がご自分のお誕生日と同じだったり!

本を手に取られたら最後のページの奥付もご覧になってみてはいかがでしょうか。

もともとはアメリカで出版されていた本。2021年英語版も国内で同時発売となりました。

2026年1月25日新潟日報で紹介された『ダンスをする魚のなぜなぜなぜ?』は2000年5月23日出版

「ん」の話

投稿日時 2026/01/16

「ご幸運に恵まれますように!」の願いを込めて「ん」についてです。

しりとり遊びでは「ん」で終わる言葉に注意して遊ぶわけですが、意外と多いものです。いっぽう、「ん」で始まる言葉はそうそう簡単に思いつきません。

ところが、昭和時代の子どもたちが楽しんだ絵描き遊びでは、この「ん」から始まるものがあるのです。それを面白く感じた加古が、なんと絵本の題名にしてしまったのが『んちゃんがまめたべてのあそび』(農文協)で、現在は『遊びの大事典大宇宙編』としてまとめられています。

ご存知のように絵描き遊びでは直線や丸などの線がきや数字、へのへの・・・のようにひらがなも活用しますから、「ん」もこどもたちにとっては使わない手はない、ということなのでしょう。語尾の「ん」も含め、ここぞとばかり見事に「ん」を活用しているのはあっぱれです。

『ありちゃんあいうえお かこさとしの71音』(2019年講談社)には、次のようにあります。

(引用はじめ)
こどもたちのことばの習得は「あいうえお」の順序ではなく、半濁音やマ行の方が先となる。
(引用おわり)

したがって、いわゆるあいうえおと濁音、半濁音の71音で始まる言葉に絵が添えられているのですが、「ん」は次のようです。

五十音図最後の「ん」ですが、カルタではどうなっているでしょうか。
「かこさとし おはなしのほん かるた」(偕成社)では

「とんぼ あめんぼ てんとむし すいれん にんじん あかだいこん」と文章ではなく「ん」がつく言葉が並びますが、残念ながら「ん」で始まる言葉はありません。

『だるまちゃんかるた』(福音館書店)はこうです。
(引用はじめ)
ん、なんだ 
ん、ん、わかった
んとこしょ
(引用おわり)

どの一音もそうですが、「ん」」もその調子や音の長さ、上げ下げでさまざまな感情を伝えられます。「ん」に注目して絵描き遊びやカルタをどうぞお楽しみください。

編み物

投稿日時 2025/11/18

伝記『かこさとし 絵本と遊びで子どもの未来を』 (2021年あかね書房 鈴木愛一郎著)の中で加古は新聞記者のインタビューに答えて、次のように語っています。
(引用はじめ)
科学をもっと自由で広い目で見て欲しいですね。身の回りにあるもの、編み物、工作、花火、そういうものをつきつめれば科学が出てくる。そんなところから科学に興味を持ってもらいたいと思っています。
(引用おわり)

かこさとしからだの本6『てとてとゆびと』(1977年童心社)には手でする動作を40以上紹介、手偏のつく漢字が100も並ぶ科学絵本ですが、もちろん編み棒を持つ絵が描かれています。

2歳頃の加古の写真(下左)には母が編んだ帽子にセーター、ズボンに靴下を履いた姿。加古は大人になっても母親の手編みのチョッキや腹巻きを愛用していましたし、絵を描く時には前髪が邪魔だといって、妻が編んだヘアバンドをしていました。

『別冊太陽』に掲載している2歳の頃の加古

『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社)より。グレイヘアでわかりにくいが同色のヘアバンドをしている

編み物がテーマのお話を書いています。
『お話こんにちは秋十一月の巻』(1979年偕成社)には「かわった あみもの」。

寒くなってきたのでお母さんが編み棒を動かして赤ちゃんに毛糸の靴下を編んでいると、赤ちゃんが泣いたのであやしに行きます。戻って来て編み物を再開すると今度はミルクを欲しいと泣き声。それが終わって、また編み物をしながら赤ちゃんの成長をあれこれ考えているうちに、靴下の曲げるところと通りすぎてしまい・・・
こんなことを繰り返すうちに、編み物は赤ちゃんの靴下から、お姉ちゃんの帽子、やがてはお父さんのマフラーになって、お父さんの首に巻きついているのです。

赤ちゃんようの靴下をと思って編み始めたお母さん

編んでいるうちに帽子にしようと変更・・・

結局出来上がったのはお父さんのマフラーでした

編み物は無心になれる時間でそれはそれで楽しいのですが、考えごとをしながら手を動かすと、こんなことになるのもうなずけます。

この冬、編み物に挑戦されてはいかがでしょうか。

『わっしょい わっしょい ぶんぶんぶん』ではアクマが取っていった編み棒に毛糸も落ちて戻ってきます

秋の風情

投稿日時 2025/11/06

秋の風情を感じる光景といったら、どのようなものを連想されますか。
うろこぐも、雁の群れ、夕陽に染まる照り葉、まがきの菊・・・

かこさとしにとっては『秋』(2021年講談社)の絵本にあるような、高く澄んだ空にコスモスや野原の草花がゆれる風景だったのではないでしょうか。そして晩秋の趣といえば柿の木に残された赤い実。

そんな場面で『秋』は終わります。

虚子の句、「柿食えば鐘がなるなり法隆寺」ではありませんが、秋の澄み切った空気と静けさが伝わり、『秋』の平和を願う最終場面にふさわしいものとなっています。

他の絵本にも多く、柿が実った風情を描いていますが、『ならの大仏さま』(復刊ドットコム)のこの場面では、静かな秋の日に大仏の勧進をする聖人を取り巻く人々の様子がまるで声が聞こえてくるかのように描かれています。背景にある塀越しの柿の実や黄葉、道端の色づいた木が、中央の松の常緑との対比で一層秋の風情を醸し出しています。

日本の秋の風情のみならず、ヨーロッパの絵も『こどものカレンダー11月のまき』(偕成社1975年)で紹介しています。
【おうちのかたへ】では以下のように書いています。
(引用はじめ)
画家は美しい景色に出会った時、受けた感動をそのまま作品に表現します。ですから、私たちが美しい絵を見るとき、美しい景色を見るのとは、別の深い感動を受けるのでしょう。
(引用おわり)

美しい景色を描いた絵は、画家の感性と筆によって、景色そのものの美しさに加え、深みを持ち、それが見る人に感動を与えるということ。

今一度ここにご紹介した絵を見ていただければと思います。

石段のおばあさん

投稿日時 2025/10/24

山の上にあるお寺に詣でるのでしょうか。細く長い石段を登ってゆくおばあさんの姿が、加古作品のあちらこちらに描かれています。

『かわ』(福音館書店1962年)は科学絵本ですが、そこにもなぜか「石段のおばあさん」がいます。この絵について、かこ自身は『絵本への道』(1999年福音館書店)でインタビューに答えて次のように話しています。
(引用はじめ)
取水場のそばのお寺に行くおばあさんはお年寄りを登場させたかったから描き込んだわけですし、山羊などを描いたのも一種の遊びです。実感とか体験に重ねて読者が興味を持ってくだされば良いと思いました。
(引用おわり)

石段のおばあさんのほか、取水口を点検する人、だんだん畑で働くひと、柴を背負う人などの姿が見られる

炭にするために木を伐採するひと、焼けた炭を背負って運ぶ人の間に山羊と遊ぶ子の姿

『かわ』同様『地球』(1975年福音館書店)にも小さくではありますが紅葉する秋の山々の中にお寺の参道の石段と人々が描かれています。神社仏閣とも関係し、ある意味これは非常に日本的な文化的な風景です。科学絵本でありながら、こういった「うるおい」を織り込む点がかこさとしらしい点でもあります。よく見ると石段の下のバス停にも杖をついたおばあさんが立っています。

上述の引用にもあるように、私たち日本人だからこそ、こういった光景を見て、自身の実感や体験と重ねておばあさんの心境や神社仏閣の静けさなどをおもうことができるのです。

1979年に刊行された『かこさとし お話こんにちは 秋11月の巻』(偕成社)にも「石段のおばあさん」の絵が大きく載っています。

これは「ごくどうもんとさんぞく」の挿絵です。あらすじをお伝えしましょう。

村一番の長者さんの一人息子は怠け者で働きもせずあそび人で、”ごくどうもん”とよばれていた。長者が亡くなってからもごくつぶし、長者の屋敷は荒れ放題となり持ち山には山賊がすみつくようになった。

村人が楽しみにしている秋祭りの日、祭りの呼び物の勝ち抜き相撲に山賊が現れ、ほうびの品をさらっていった。これを見て、この”ごくどうもん”は「みんなが楽しくあそんでいるのをじゃまするものは、おれは大きらいじゃ。」と、山賊にくみつき、組み合ったままやしろの坂をころげ落ちた。

「村の衆、おれは いままで ごくどうもんであそんでばかり、何もできなんだ、これが おれの たった一つの おかえしじゃ。さいならようー。」と叫びつつ、山賊にしっかり組みついたまま深い崖からどどうっと落ちてしまった。

こうして石段の脇にたてられた小さな石仏、そしてそれを拝むおばあさん。

加古作品のさまざまのところに登場する「石段のおばあさん」には、こんなお話が重なります。

驚いたことに『みずとはなんじゃ?』(2018年小峰書店)にもこの「石段のおばあさん」が登場しているのです。この絵本は加古が最後に手がけたものの下絵の状態から進むことができず、鈴木まもるさんに託して完成させていただきました。

加古の下絵は本当にラフなもので細かい描き込みはなかったにも関わらず、出来上がった絵には「石段のおばあさん」がいるではありませんか!

それを見て思わず叫んでしまいました。そして鈴木まもるさんにどうしてこれを描かれたのですかとお尋ねしたところ、まもるさんはこどもの頃から『かわ』を読みその世界に入り込んでさまざまな想像をめぐらせていたので、自然に絵の中に登場することになった、と話してくださいました。

こんな小さな描き込みですが、そこから広がる世界は大きく、時に深いものに通じていくことを驚きとともに知ることができた「石段のおばあさん」です。

「石段のおばあさん」が登場する『みずとはなんじゃ?』絵は鈴木まもるさん

「石段のおばあさん」の部分と対応する『かわ』の裏表紙の地図