編集室より

素数

投稿日時 2024/11/02

6年ぶりに新しい素数が発見されたというニュースが伝わりましたが、素数とは1とその数以外に約数がない数で、すべての自然数は素数の積になっています。英語ではprime numberといいます。(英語だと何か特別な感じがしますね。)

ところで、具体的にある自然数がどの素数の積になっているのかを調べることを「素因数分解」といい、中学数学でも学習します。『科学者の目』(新版2019年・童心社)に登場するガウスは、18世紀の終わりにこの素数が自然数の中にどのように分布しているのか予測を立てました。それから百年以上も経った19世紀の終わりに、ガウスの予測が正しいことが証明され、素数定理と呼ばれるようになりました。この定理はのちの数学の発展に大きく貢献しました。

『科学者の目』(新版2019年・童心社)では「数学の王さま」と呼ばれるガウスの若い頃の逸話や「算術幾何平均」などを紹介「真実をどこまでも追求するすばらしい「科学者の目」となったのである」と結んでいます。

10月27日(日)、選挙や地域のお祭りと重なる日曜日でしたが、定員いっぱいの皆様にお集まりいただき、この春全10巻の刊行が終わった『かこさとし童話集』についてお話しをいたしました。

246話からなるこの童話集は、一番古い作品は大学卒業前の1947年に執筆、翌年に上演した童話劇「夜の小人」の脚本、一方新しいものは2010年ごろ加古が80代の作品に至るまでを収録しています。

全部ひらがなが書かれた、ことばを覚え始めたお子さん向けの作品から文語調の格調ある韻文に至るまで実に多種多様の作品が含まれていますが、1ー3巻は動物のおはなし、4、5巻は日本のむかしばなし、6−8巻は生活のなかのおはなし、9、10巻は世界のおはなしという構成で各巻の最初や最後にはメッセージ性の強い作品が来ること、各ジャンルのお話が複雑に重なり趣のある作品となっていることなど例を挙げ、その一部を朗読しながらご紹介いたしました。

生活のなかのおはなしは、加古が20代後半からおよそ20年間取り組んだセツルメント(ボランティア)活動で子どもたちがかいた作文と絵を活かして、加古が作品化したもので特色があり、「自転車にのってったお父ちゃん」を動画でご覧いただきました。

限られた時間で多数の作品をご紹介したく駆け足でしたが、ご質問にお答えする時間も少し取ることができました。大変熱心に頷きながらお聞きくださった皆様と読書週間の最初の日に大変貴重な時間を過ごすことができました。

ご清聴いただいた皆様、この会のためにご準備くださった方々に心より感謝しております。



2024年11月4日午前11時〜11時40分 藤沢総合市民図書館にて 童話集の読み語り 申し込み不要

楽しいお話、心に響くお話など子どもも大人も楽しめる『かこさとし童話集』作品の読み語りの催しが図書館スタッフにより開催されます。
どなたでもご参加いただけます。2階ホールに直接お越しください。

紙芝居あれこれ

投稿日時 2024/10/20

紙芝居といえば幼稚園や保育園でご覧になったでしょうか。
ご自分で演ずることはあまりないかもしれませんが、紙芝居にまつわる話題をお届けします。

加古が子どもたちのためになることをしようと思い至り20代はじめ、会社員の時に人形劇と紙芝居の勉強を始めました。人形劇は劇団プークで、そして紙芝居は童心社の前身、教育紙芝居研究会の会合に参加し自作を披露、合評会を通して学んでいったようです。

後に、その童心社からは多くの紙芝居を出版する機会をいただきました。現在販売されているものは、かこさとし かがくのいりぐちシリーズで以下の5作品と『みんなげんき ピヨピヨ1・2』です。

『あめふってきた ゆきふってきた』
『うみのはなし』
『スイスイおよごう スイミング』
『せぼねのはなし』
『6がつ6ちゃん はっはっは』


『みんなげんんきピヨピヨ1・2』は、小さいお子さんも大好き、誰でも思わず笑顔になります。

セツルメント活動で子どもたちに見せていた手描きの紙芝居や、現在出版されていないものなど150あまりを作りました。その全部をご紹介しているのが書籍『かこさとしと紙芝居 創作の原点』(2021年童心社)です。

たのしい 紙芝居の世界 童心社のぜんぶだしフェア 2024年10月17日〜11月20日

全部と言えば、上記のようなフェアが開催され、かこさとしの作品と拙著も並ぶそうです。紙芝居を本屋さんでお手にとっていただくことはなかなかできませんが、この企画ではじっくりご覧いただけそうです。
詳しくは以下をどうぞ。

童心社 紙芝居フェア

同音異義語にまつわること

投稿日時 2024/10/05

同音異義語は子どもにとって、ちょっとややこしいものです。目と芽、歯と葉、鼻と花などだるまちゃんの「だるまどん」でなくても混乱を招くことになりかねません。

お話をご存知ない方のためにお伝えすると、「てんぐちゃん」のトンボが止まる長い鼻を見た「だるまちゃん」はおとうさんの「だるまどん」に「てんぐちゃんのような長いハナがほしい」と言ったところ、だるまどんが用意してくれたのは花!だったのでだるまちゃんは怒ってしまいます。

童話集⑦の最初にある「めと はと はなの はなし」はまさにこの同音異義語について全部ひらがなでわかりやすく、特に体の働きを中心に説明しています。

このようによく使われる同音異義語とは別に、それほど頻繁に使われてない言葉の場合、それはそれでまたややこしいようです。

「ひいらぎ」で思い出すのはクリスマスにも登場する柊でしょうか。ところが魚の名前でもあります。

「かます」は魚しか思い浮かびませんが、土嚢(どのう)袋の元になったものを「叺」(かます)というそうです。ムシロを折って袋のようにして縄をかけて使います。実はこの言葉は童話集⑥の『ぼくの母ちゃん』に「かますの縄かけ」という言葉ででてきます。

馬連(ばれん)をご存知でしょうか。版画を刷るときにこする物で、竹の皮でできたものを使ったことがあります。一方、纏(まとい)の下の垂れて別れている部分もバレンというそうです。
近頃庭に植えられているのをよく見るエキナセア(下)は花が咲き終わるとこのバレンのように花びらが下に垂れてしまうので別名バレンというのだとか。

ものには名前があるのは当然ですが、まだまだ知らない名前があることに気づかされるこの頃です。

運動会の種目

投稿日時 2024/09/26

秋は運動会の季節。猛暑の影響で時期を遅くすることがあるようですが、学校行事のなかで1番の注目かもしれません。

昭和30年代の運動会では、足元は「はだしたび」がお決まりで、帰る頃には、指先あたりが擦れて穴があくので、高学年になると、はだしたびをはいた上に運動靴をはいて登校しました。
赤白ハチマキや赤白帽は今でもかわりませんね。

昭和時代に小学生だった筆者にとっては玉入れ、大玉ころがし、綱引き、徒競走といった種目が思い浮かびます。

加古作品の中にも登場しています。
『ことばのべんきょう②くまちゃんのいちねん』では玉入れ(上)、綱引きに加え二人三脚とかけっこ(徒競走)が描かれています。

『ことばのべんきょう くまちゃんのいちねん』

『こどものカレンダー10月のまき』

小学校に上がったばかりの頃、二人三脚の意味がわからず加古に尋ねると「脚というのは足のことで二人だけれど足を結んで一緒に動かさなければならないので3本の足のようだから、こういうのだ」と教わりました。

『とんぼのうんどうかい』(下)では、玉入れの代わりにたまわりです。

『どろぼうがこうだいうんどうかい』では大玉ころがしや、綱引きのほか、逆走100メートル走(下)や「ドルばこリレー」「ニセさつわたし」など世にも珍しい種目がプログラムに並んでいます。

綱引きは簡単ながら全員参加できる競技で、『とんぼのうんどうかい』にもあるように空中でもできるようです。『だるまちゃんしんぶん あきのごう』(下)では、「そらまめようちえん」の運動会のおしまいに綱引きで白組が勝ちというニュースも絵入りであります。

童話集③にも「かにちゃんおーえす かめちゃんおーえす」(下)という綱引きのお話があってこれはなかなか面白いので是非お読みください。

今年の運動会、みなさんはどんな種目に参加したり応援したりするのでしょうか。

コスモス

投稿日時 2024/09/16

秋の花で思い浮かぶのは秋の七草、ヒガンバナ、菊、コスモス⋯。
加古は秋が大好きで、コスモスの花もよく描いています。

『世界の化学者12か月』(偕成社・上)の9月のカレンダーにはコスモスが添えられています。『秋』(2022年講談社・下)の美しいコスモスは大変印象的です。

コスモスの特徴は綺麗な花の色と風に揺れる繊細な作りでしょうか。若い頃にはそんな風情を詩に書いたりしていた加古です。

下の場面は『あそびの大星雲3みごと はなやかなあそび』(農文協)からです。
その雰囲気が残る言葉から始まりますが、コスモスの花のしくみの科学的な説明もあり、加古自身が数えて調べた、まるで理科の観察記録のような数字が並びます。

かこさとしらしさは花を使った遊びの紹介(小峰書店『あそびずかん あきのまき』)にとどまらず、

『こどものカレンダー10月のまき』(偕成社)の目次のページにはこんなユーモラスな絵もあります。

この秋、コスモスを見かけたら、しばし目をとめてご覧ください。

昭和51(1976)年12月臨時増刊号として出版された「月刊絵本」(すばる書房)は『絵本の本棚200冊』と題し「受け手と作り手が選んだ200冊の絵本」が紹介されています。

加古作品では『かわ』『だるまちゃんとてんぐちゃん』『だるまちゃんとかみなりちゃん』『とこちゃんはどこ』が取り上げられています。また、当時活躍中の16人の絵本作家に対して「わたしと絵本」というアンケートがあり、赤羽末吉、安野光雅、瀬奈恵子、滝平二郎,山脇百合子、長新太、西巻茅子といった現在でも人気の方々が答えています。

かこさとしの答えの一部をご紹介しましょう。
(引用はじめ)
①はじめて描いた絵本は?
「ねこやなぎのケンちゃん」小5〜中1の間に作った長編でした。戦災で失いましたが、これが最初の私の絵本です。印刷になったのは「だむのおじさんたち」松居直さんと内田路子さんのお力の賜物です。

②絵本を発想するときはどんな時ですか?
芥川龍之介の表現をかりれば、机上・車上・厠上につけくわえて、路上・枕上・材上・床上・山上・雲上・波上など、時と所をといません。時や所を定めるような余裕をもちませんし、又そうした計画外の非合理な世界の事であるからです。

③絵本をつくる時、読者(=子ども)をどこまで想定していますか?
質問の意がよくわかりませんが手がきのものであろうと、印刷であろうと、外に発表をしたり、他の人に見てもらったり、特に成長してゆく子どもが見て下さる時、その時の反応はもちろんその反応のゆきつく20年後位を出来るだけ考察してゆきたいと努力しています。
(引用おわり)

上記について少し説明を加えさせていただきます。
皆様に手に取ってご覧いただける加古作品の最古のものは小学校卒業に際してつくった『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社)という画文集です。手書き文章の文字、水彩で描いた絵のいずれもが後のかこさとしに通じるものがあります。一人の小学生の記録であるとともに当時の社会を垣間見ることができる作品です。

かこさとしは中学生になった時、その図書館の立派なことに驚き本棚に並ぶ本を片っ端から読んでみたいと意気込んだそうです。そして芥川龍之介の全集を読んだとよく話していました。その中で知ったのが芥川龍之介がどのように創作をしたのかという点でした。天才ですらいつ何時も作品のことを考えているのであれば、自分のような者は尚更、いついかなる時も作品のことを考えていなければならない、というのが持論でした。

まだまだ暑い日々ですが秋の気配も感じられるようになってきました。
秋の学校行事といえば、運動会。ということで、運動会の場面を藤沢市内4図書館に展示しています。

藤沢市民図書館 新展示

また本庁舎1階ホールには『だるまちゃんととらのこちゃん』の元気が出る絵を飾っています。お近くにいらっしゃる機会がありましたら是非ご覧ください。

シートン動物記とかこさとし

投稿日時 2024/08/23

こどもたちは動物のお話が大好きです。かこさとし自身もそうでしたので、動物が主人公の紙芝居や絵本作品を大変多くつくりました。『かこさとし童話集』全10巻の最初の3巻が[動物のおはなし]になっていますし、他の巻にも動物がたくさん登場します。

第2巻の最後に収められている短いお話の前にあるのが、「ぎざちゃんのぼうけん」で〈シートン童話より〉とあります。もちろんシートン動物記のことです。これは1996年「こどもチャレンジ」(上)に掲載するために絵、文ともに加古が書き直したもので、最後には、大きくなったら「シートン動物記」を読んでくださいというメッセージも添えられていました。

素晴らしい作品であっても小さいこどもにはまだ難しいものは、わかりやすく書きかえることで親しんでもらいたいという加古の気持ちの表れです。小さいお子さんたちには、童話集②で読み聞かせ、語り聞かせをしていただけたらと思います。

宮沢賢治とかこさとし

投稿日時 2024/08/15

かこさとしが中学校に入って何より嬉しかったのは図書室に並んだ多数の本でした。本棚の端から端まで読むんだという意気込みで通ったそうです。そこで読んだのが芥川龍之介や宮沢賢治の全集でした。「烏百態」や「林の底」を読んだのもその時です。

ところが中学2年生になると学校に配属将校がやってきて、航空士官にならないかとしきりに勧めたそうです。士官になれば給料がもらえて両親に負担をかけずにすみ、国のためにもなると決心し、その日から図書室に行くことを自らに禁じ、士官になるために必要な理科や数学の勉強に励みます。しかしながら近視がすすみ体格検査すら受けられませんでした。


図書室で読んだ「林の底」ではトンビが始めた染め物屋さんで鳥たちが様々な柄に羽を染めてもらいます。息を詰めて壺の中の染めもの液に頭から浸かって染めるのですが、加古は刷毛で塗って染めてもらうやり方に代えて、1951年手描きの紙紙芝居「おしゃれのカラス」を作成、こどもたちに見せていました。童話集②にも収録されています。

童話集⑤〈日本のむかしばなしその2〉にある「みどり沼のおとろし話」は、創作昔話です。

みどり沼では次々に謎の死をとげる出来事がおき、すっかりおとずれるひともなく草におおわれるありさま。

「このありさまに、与一爺が考えた。ひとつ、村のために、そのえたいのわからん化け物か悪者をはっきりさせ、できればとりのぞいてやろまいか。」

そうして、ついにこの沼に棲む悪ものを退治することができた。そのお話を不審に思うのだったら「ほらなんたらという作家が書いた⋯」という書き方で芥川龍之介の作品を引合に出して説明しています。ネタバレになってしまいますので、お伝えできるのは残念ながらここまで。悪モノの正体は是非童話集⑤でお読みください。