編集室より

コスモス

投稿日時 2024/09/16

秋の花で思い浮かぶのは秋の七草、ヒガンバナ、菊、コスモス⋯。
加古は秋が大好きで、コスモスの花もよく描いています。

『世界の化学者12か月』(偕成社・上)の9月のカレンダーにはコスモスが添えられています。『秋』(2022年講談社・下)の美しいコスモスは大変印象的です。

コスモスの特徴は綺麗な花の色と風に揺れる繊細な作りでしょうか。若い頃にはそんな風情を詩に書いたりしていた加古です。

下の場面は『あそびの大星雲3みごと はなやかなあそび』(農文協)からです。
その雰囲気が残る言葉から始まりますが、コスモスの花のしくみの科学的な説明もあり、加古自身が数えて調べた、まるで理科の観察記録のような数字が並びます。

かこさとしらしさは花を使った遊びの紹介(小峰書店『あそびずかん あきのまき』)にとどまらず、

『こどものカレンダー10月のまき』(偕成社)の目次のページにはこんなユーモラスな絵もあります。

この秋、コスモスを見かけたら、しばし目をとめてご覧ください。

昭和51(1976)年12月臨時増刊号として出版された「月刊絵本」(すばる書房)は『絵本の本棚200冊』と題し「受け手と作り手が選んだ200冊の絵本」が紹介されています。

加古作品では『かわ』『だるまちゃんとてんぐちゃん』『だるまちゃんとかみなりちゃん』『とこちゃんはどこ』が取り上げられています。また、当時活躍中の16人の絵本作家に対して「わたしと絵本」というアンケートがあり、赤羽末吉、安野光雅、瀬奈恵子、滝平二郎,山脇百合子、長新太、西巻茅子といった現在でも人気の方々が答えています。

かこさとしの答えの一部をご紹介しましょう。
(引用はじめ)
①はじめて描いた絵本は?
「ねこやなぎのケンちゃん」小5〜中1の間に作った長編でした。戦災で失いましたが、これが最初の私の絵本です。印刷になったのは「だむのおじさんたち」松居直さんと内田路子さんのお力の賜物です。

②絵本を発想するときはどんな時ですか?
芥川龍之介の表現をかりれば、机上・車上・厠上につけくわえて、路上・枕上・材上・床上・山上・雲上・波上など、時と所をといません。時や所を定めるような余裕をもちませんし、又そうした計画外の非合理な世界の事であるからです。

③絵本をつくる時、読者(=子ども)をどこまで想定していますか?
質問の意がよくわかりませんが手がきのものであろうと、印刷であろうと、外に発表をしたり、他の人に見てもらったり、特に成長してゆく子どもが見て下さる時、その時の反応はもちろんその反応のゆきつく20年後位を出来るだけ考察してゆきたいと努力しています。
(引用おわり)

上記について少し説明を加えさせていただきます。
皆様に手に取ってご覧いただける加古作品の最古のものは小学校卒業に際してつくった『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社)という画文集です。手書き文章の文字、水彩で描いた絵のいずれもが後のかこさとしに通じるものがあります。一人の小学生の記録であるとともに当時の社会を垣間見ることができる作品です。

かこさとしは中学生になった時、その図書館の立派なことに驚き本棚に並ぶ本を片っ端から読んでみたいと意気込んだそうです。そして芥川龍之介の全集を読んだとよく話していました。その中で知ったのが芥川龍之介がどのように創作をしたのかという点でした。天才ですらいつ何時も作品のことを考えているのであれば、自分のような者は尚更、いついかなる時も作品のことを考えていなければならない、というのが持論でした。

まだまだ暑い日々ですが秋の気配も感じられるようになってきました。
秋の学校行事といえば、運動会。ということで、運動会の場面を藤沢市内4図書館に展示しています。

藤沢市民図書館 新展示

また本庁舎1階ホールには『だるまちゃんととらのこちゃん』の元気が出る絵を飾っています。お近くにいらっしゃる機会がありましたら是非ご覧ください。

シートン動物記とかこさとし

投稿日時 2024/08/23

こどもたちは動物のお話が大好きです。かこさとし自身もそうでしたので、動物が主人公の紙芝居や絵本作品を大変多くつくりました。『かこさとし童話集』全10巻の最初の3巻が[動物のおはなし]になっていますし、他の巻にも動物がたくさん登場します。

第2巻の最後に収められている短いお話の前にあるのが、「ぎざちゃんのぼうけん」で〈シートン童話より〉とあります。もちろんシートン動物記のことです。これは1996年「こどもチャレンジ」(上)に掲載するために絵、文ともに加古が書き直したもので、最後には、大きくなったら「シートン動物記」を読んでくださいというメッセージも添えられていました。

素晴らしい作品であっても小さいこどもにはまだ難しいものは、わかりやすく書きかえることで親しんでもらいたいという加古の気持ちの表れです。小さいお子さんたちには、童話集②で読み聞かせ、語り聞かせをしていただけたらと思います。

宮沢賢治とかこさとし

投稿日時 2024/08/15

かこさとしが中学校に入って何より嬉しかったのは図書室に並んだ多数の本でした。本棚の端から端まで読むんだという意気込みで通ったそうです。そこで読んだのが芥川龍之介や宮沢賢治の全集でした。「烏百態」や「林の底」を読んだのもその時です。

ところが中学2年生になると学校に配属将校がやってきて、航空士官にならないかとしきりに勧めたそうです。士官になれば給料がもらえて両親に負担をかけずにすみ、国のためにもなると決心し、その日から図書室に行くことを自らに禁じ、士官になるために必要な理科や数学の勉強に励みます。しかしながら近視がすすみ体格検査すら受けられませんでした。


図書室で読んだ「林の底」ではトンビが始めた染め物屋さんで鳥たちが様々な柄に羽を染めてもらいます。息を詰めて壺の中の染めもの液に頭から浸かって染めるのですが、加古は刷毛で塗って染めてもらうやり方に代えて、1951年手描きの紙紙芝居「おしゃれのカラス」を作成、こどもたちに見せていました。童話集②にも収録されています。

童話集⑤〈日本のむかしばなしその2〉にある「みどり沼のおとろし話」は、創作昔話です。

みどり沼では次々に謎の死をとげる出来事がおき、すっかりおとずれるひともなく草におおわれるありさま。

「このありさまに、与一爺が考えた。ひとつ、村のために、そのえたいのわからん化け物か悪者をはっきりさせ、できればとりのぞいてやろまいか。」

そうして、ついにこの沼に棲む悪ものを退治することができた。そのお話を不審に思うのだったら「ほらなんたらという作家が書いた⋯」という書き方で芥川龍之介の作品を引合に出して説明しています。ネタバレになってしまいますので、お伝えできるのは残念ながらここまで。悪モノの正体は是非童話集⑤でお読みください。


グリム童話とかこさとし

投稿日時 2024/08/08

「赤ずきんちゃん」はグリム童話集にある有名なですが、『かこさとし童話集③』には「赤ずきんちゃんとおおかみのはなし」があります。
この巻には「スピッツベルゲン協会の集まり」や「テリブル・クリニック」といった大人の読者を意識したような作品があり、加古の「赤ずきんちゃん」はグリム童話のパロディで、次のように始まります。

(引用はじめ)
森につづく小道を、とっこぽっこ、小さな赤ずきんちゃんが歩いているすがたを、とおくから、はらぺこおおかみがみつけました。
(中略)

木のくつをはいているせいで、歩くたびに、とっぽこっぽと音がして、かわいい赤ずきんがゆれます。
(引用おわり)

最後は赤ずきんちゃんがおおかみに食べられたり、おおかみのお腹を裂いたりすることはなく、おおかみは「わるさを しなくなったということですとさ。」で終わります。

さてさて、この赤ずきんちゃんとおおかみにどんな出来事があったのでしょうか。童話集③でお楽しみください。

童話といえばアンデルセンを思い出す方も多いのではないでしょうか。筆者は幼い頃「マッチ売りの少女」の絵本を見ていた記憶があります。

かこさとしがセツルメント活動を始めた1950年代には、自作のお話の他にアンデルセンの「5つのエンドウ豆」を手描きの絵で紙芝居にして、こどもたちに見せていました。後に童心社を創立することになった稲庭桂子さんと共同脚色、佐藤忠良さんの絵で教育紙芝居研究会から紙芝居を出版しています。

『こどものカレンダー8月のまき』(1975年偕成社)の8月4日のページには、この日亡くなったアンデルセン(1805年〜1875年)を紹介、以下のような場面となっています。

[おうちのかたへ]として次のような文章があります。

(引用はじめ)
アンデルセンは貧しい靴直しの子に生まれ、その上、父も祖父も精神病で、母は字の読めない、不遇な極貧のうちに育ちました。そうした中で、アンデルセンはたゆまず努力して、勉強を続け、詩人、童話作家として知られるようになりました。死んだ時は国葬になり、葬列に、こどもから老人までがつらなったと言われています。
(引用おわり)

『かこさとし童話集⑩』の「はじめに」でお伝えしているように加古はおもちゃの視察にデンマークを訪れたり、家族を連れて北欧を旅しました。

上の絵にある人形姫の像は思っていたより小ぶりでしたが、コペンハーゲンの市庁舎脇にあるアンデルセン像は立派で、家族揃っての記念写真を撮ったのものでした。

加古が描いたアンデルセンの肖像は『あそびの大事典』(2015年農文協・上)にあります。アネルセンはデンマーク語に近い発音です。

「みにくいアヒルの子」はみんなとは違うことで兄弟から仲間はずれにされたり、最後に母親からも可愛がってもらえなくなります。アンデルセンの場合は、本当はアヒルの子ではなかったということで明るい結末となりますが、かこさとしは、たとえみんなとは違っていてもそれを乗り越えるよう母から励まされる物語を作り出しています。

『ぞうのむらのそんちょうさん』(1985年偕成社)はのちに『しろいやさしいぞうのはなし』(1983年全国心身障害児福祉財団)として紙芝居に、さらには2016年に同名で復刊ドットコムより絵本として出版された物語です。乾信一郎先生による象の実話をもとに、加古が創作したもので、白い子象が母親の犠牲によって火事から生き残り、その優れた感覚が皆に認められ、やがて象の村の村長さんになるお話です。


『かわいいきいろいクジラちゃん』(1985年ポプラ社/1985年復刊ドットコム)も同様に黄色いクジラの子が励ましてくれた母を亡くし、色が違うと笑われ、星に願いながら悲しみと孤独、苦しみに耐えるなか、希望の光が差してきます。童話集では②きいろいくじらの物語として収録されています。

加古は小学校2年生の時に故郷から東京に転居し、言葉が違うと笑われたりいじめられた経験がありました。『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社)によると、身体が大きく負けん気が強かったのでケンカが絶えませんでしたが、ガキ大将を介抱してあげたり、教室でみんなに絵話をしたり人形劇を見せたりして次第に仲良くなっていったようです。

いじめられたことがありその痛みを知っているからこそ、そして長い間目の病を患いハンデをもって生きていたからこそ、一層こういった物語を皆様に届けたかったに違いありません。

イソップ童話とかこさとし

投稿日時 2024/07/23

世界で三大童話集と言われているのはイソップ、グリム、アンデルセンです。
かこさとしの童話集にはこれらの童話を意識したものがあります。イソップはたくさんの寓話がありますが、『こどものカレンダー7月のまき』では次のようなイソップ童話をご紹介しています。

(引用はじめ)
ことりを うさぎが おいかけて、「わたしのほうがえらい。」おもいました。
うさぎを きつねが つかまえて、「ぼくがつよいんだ。」といいました。
きつねを ライオンが たべようとして、「わたしが いちばん えらいんだ。」といばりました。
ライオンを 小さな かがさして、「おいらが いちばん つよいんだぞ。」といいました。
かを くもが つかまえて、「おれさまが いちばんだぞ。」とわらいました。
すると そこへ とんできた ことりが くもを たべて しまいました。
さぁ、だれが いちばん つよいか、わからなくなりましたね。
(引用おわり)

このイソップのお話は誰が強くて弱いのかぐるぐる回りで決着がつきません。もちろんこのお話は完全な食物連鎖ではありませんが、子どもでもわかる強い弱いの関係が、結局はどうなっているのか??ということが面白い訳です。

かこさとしはこのぐるぐる回りを強い弱いの勝ち負けではなく、助け合いのお話として創作したのが童話集②の「デンデコ山の大合唱」です。

イソップ同様、小鳥で始まりますがこの小鳥は目にゴミが入って困っています。次にのどが渇いてつらいリス、ひっくり返ってしまい元どうりになれないカメ、きつねにこぐまと続きます。皆が苦しかったり痛かったりで泣いていますが、それぞれができることをしてあげて、みんなの親切、おもいやりで全員が元気になってさいごには声を揃えた大合唱がデンデコ山に響きひろがってゆきます。

このお話の創作がいつなのかははっきりしていませんが、これと非常によく似た物語が絵本『こまったこぐま こまったこりす』(1986年偕成社/2017年白泉社)です。こちらは小鳥やリス、きつねやこぐまに加え、ミノムシ、こざるにこじかと7匹の動物が登場します。

想像の域を脱しませんが、歌が入っている点などから「デンデコ山の大合唱」が紙芝居の脚本として最初につくられ、それをさらに書き加えて出来上がったのが『こまったこぐま こまったこりす』ではないでしょうか。後者は幸い、加古の存命中にリニューアル版を出版していただきましたが、それまでの長い間絶版状態だったため、最初に考えた「デンデコ山の大合唱」を童話集に加えておいたのではないかと思われます。

いずれにしても5匹、7匹の小さな親切や思いやりのぐるぐる回りを描き、「子どもたちに持っている力や才智に応じた共生助けあいの心と、未来に生きる情熱を持ってもらいたいと念じて作ったのがこの作品です。」とあとがきにあります。

こんな泥だらけはもちろん困ります。

しかしながら泥というのは一朝一夕でできるものではなく、実は大変貴重なものなのです。『地球』には、木の葉や水草や野原にしげった草が枯れて、くさって何百年も経つと茶色のぼろぼろのかたまり、土になると説明があり、巻末の解説にはこの場面は「地下10m、腐食、土泥」に関してとあります。

科学絵本ではありませんが、『あおいめ くろいめ ちゃいろのめ』(1972年偕成社)では3人のことどもが泥だんごつくりをして遊んでいるとミミズが出てきて泣きだす子がいて遊びは中断。ところがミミズは良質の泥を作るのに実はなくてはならない存在なのです。

そんな豊かな泥、土壌についての成り立ちやその大切さを丁寧に説明しているのが『かこさとし 大自然のふしぎえほん 大地のめぐみ 土の力大作戦』(下・2003年小峰書店)です。

加古は化学会社の社員として肥料の研究をしていた時期がありましたので、その長短所をよく知り尽くしていました。著作を主にするようになってからは、人口爆発に伴う食料危機や環境破壊などについて、科学者としての見識を持って絵本でお伝えしてきましたが、『大地のめぐみ 土の力大作戦』はまさにその代表とも言えるものです。そのあとがきには「小さな日本だけのことではなく、迫りくる地球規模の危機と未来の問題に、関心をもってほしいとの願いから」とあります。

「大作戦」とはただ人目を引くための言葉ではなく、まさに大勢の人が意識を持って取り組まなければ解決できないものであるから、今こそ実行に移さなければという強い気持ちを込めての題名です。

同じシリーズの中にある『モグラのもんだい モグラのもんく』(2001年小峰書店)もモグラを主人公にしつつ土壌の大切さを訴えています。ちなみにモグラは土中にすむ最大の哺乳類です。

食物を育てることができるような豊かな土壌は「地球をリンゴだとすると、皮のあつさにもたりない、うすいところ」であると『大地のめぐみ⋯』の「8.どんどんへってゆく大地」にある通りなのです。

大雨で土砂が流されるのを見るたびに大切な大地が削りとられ、かけがいのない宝物が失われるようで胸がいたみます。今こそ大作戦を繰り広げなければならないと語る著者の言葉に是非耳を傾けていただければと思います。