編集室より

【さ】『サン・サン・サンタ ひみつきち』(1986年・2019年復刊ドットコム)

クリスマスにはこの一冊。しかしながら、クリスマスを迎えるために、北の果てにある秘密基地で人知れず行われている作業のお話でもあるので、一年中そばに置いておいて見ていたい絵本でもあります。

それはそれは沢山のおもちゃとオーロラが描かれた、かこさとし、とびきりのファンタジーをお楽しみください。

【と】『トントンとうさんとガミガミかあさん』(1982年・2005年ポプラ社)

トントンと扉をたたくお父さん、いつもはガミガミのお母さん。そのお母さんが病気になってしまって、お父さんは、トントンと野菜を切り食事つくりに精を出します。

そんなお父さんを見て小学生のともゆきくんと妹のさあちゃんは、入院したお母さんの代わりに家事をしようと思いお父さんから調理の仕方を教わります。

かこは、この本のあとがきで、家庭での食事つくりに関して次のように書いています。
(引用はじめ)
その結果として家族交流とだんらん、そして健康が確保されるのですから、それこそ時間や労力や金銭をさいても入手したい「すばらしいこと」と思います。
しかもそれは毎日、各家庭の台所で展開されるとき、かならず生活をともにしている子どもたちはその様子
に接します。その見聞、におい、ふんい気、手順、手さばき、そうした人間行動の背後にある心づかいや配慮、おもいやりや心くばりを食欲の満足とともにつよくふかくきざみつけます。これは料理の本や講習会でつたえられぬ家庭の教育の賜物です。
(引用おわり)

【し】『しっこのしんちゃん じまんのじいちゃん』(1985年ポプラ社)

かこさとしが、時代に先駆けて心の問題をテーマにしたシリーズの1冊で、オネショの悩みについて取り上げた異色の絵本です。
幼稚園に通うしんちゃんは、よくオネショをします。小学校に上がる前の夏休み、海のそばのおじいちゃん、おばあちゃんと暮らし、身体も心も強くたくましくなってオネショも卒業します。

「オネショは、子どもの心ばかりでなく、親の子どもに対する考えや生活態度を反省し検証する、とても大事な道しるべ」と、あとがきの言葉にあります。

最後の2冊に登場する祖父母による支えにも考えさせられます。

『かわいいみんなのあそび』『こどものげんきなあそび』『さわやかなたのしいあそび』『とってもすてきなあそび』『しらないふしぎなあそび』(2013年復刊ドットコム)の頭文字を読むと「か・こ・さ・と・し」になるのは、かこさとし遊びの本5冊シリーズです。

それにならい、寒い冬に心が温かくなるような「か・こ・さ・と・し」の絵本を2回に分けてご紹介します。

【か】『かわいいきろのクジラちゃん』』(2021年復刊ドットコム)

『かわいいきろのクジラちゃんは1985年同名でポプラ社から刊行されましたが、その年に全国障害者福祉財団「ふれあい紙芝居」として作ったものが元にもなっている、とあとがきにあります。

かこは自身が緑内障で視野が欠けた不自由を抱えながら半生を送り、最後はほとんど見えないほどだったこともあり「心身にハンデをもつ子に対しておもいやりのないいじめや、つめたい無関心が今なお横行しているのに、じっとしておられず」この作品に「おもいを托したのです」。

みんなと色の違う子クジラが、それを理由にいじめられ、かばってくれた母クジラ亡くし失望のどん底で星に願うことしかできませんでした。しかし夜が明けるとその願いが通じます。

あとがきの最後の言葉は次のようです。
「どうか、みんなの心に朝の光がさしてくるよう祈ります。かこさとし」

【こ】『こまったこぐま こまったこりす』(1986・2017年白泉社)

『こまったこぐま こまったこりす』は、自分ができることをしてあげることでみんなの「こまった」ことが解決できるお話です。

道に迷ってこまったこぐまが、喉が渇いているのに疲れて水を探せずこまったこりすを肩に乗せてあげます。すると目にゴミが入って痛くて飛べない小鳥に出会い、というように次々とこまった動物が行動を共にしてゆきます。

1986年偕成社から出版された時のあとがきの最後には次のようにあります。
(引用はじめ)
「明るく、はっきり、ゆったり」と立ち向かう大人の姿から子どもは生きる力をひとつひとつ学びとってゆくように、このお話のこぐまたちから困難をのりこえる力を読み取ってほしいと願います。
(引用おわり)

そして2017年の復刊に際しての言葉は次のように結ばれています。

(引用はじめ)
せめて子ども達に持っている力や才智に応じた共生助け合いの心と、未来に生きる情熱を持ってもらいたいと念じて、作ったのがこの作品です。その私の願いが今も変わらないのが、少しさみしい気がしている所です。愛読を感謝します。 かこさとし
(引用おわり)

武生中央公園の「だるまちゃん広場」のトランポリンや「からすの風車塔」(下)はいつでも賑わっていますが、雨や雪の時には使えません。

冬にはしぐれることが多い土地柄なので2019年武生駅前の商業施設の3階に「てんぐちゃん広場」が設置されました。天候を気にせず遊べるので特に小さいお子さんや見守る方に優しく、季節や時間帯を問わず利用されています。

入り口には、『たっくん ひろちゃんのちょうちょうとっきゅう』(小峰書店)に出てくる列車が置いてあります。このコーナーには絵本もあり、ゆっくり読んでいる大人の姿も見かけられます。

広い壁面を利用してボルダリング。左から右に行くほど難易度が高くなります。

一番左は加古が幼い時に遊んだ村国山、その後ろに日野山が描かれ、だるまちゃんたちが歩くこの絵は「未来への行進」と名づけられています。文春文庫『だるまちゃんの思い出し遊びの四季カッコの表紙でご覧になった方もいらっしゃるでしょう。

ヨーロッパのアルプス、ヒマラヤの山脈は『せかいあちこち ちきゅうたんけん』(2005年農文協)からです。

同本の絵とともに、世界の時刻を知ることができる場所もあります。

通路を挟んで2つのエリアがあり、どちらも靴を脱いで遊びますが、こちらの「どんどこどんのおへや」は身体を使って遊ぶゾーンで自分がこまになって遊ぶすごろくもあります。

通路の反対側にある「101ちゃんのおへや」は加古の絵本の世界のイメージでおままごとをしたり、手先を使う遊びができるように整えられています。

手洗いも設置、その正面には『あめ ゆき あられ くものいろいろ』(2022年農文教協)から、水のことについてのパネルがあって、お子さんに説明するのに役立ちそうです。

越前市に行かれたら、ご利用、見学されてはいかがでしょうか。

てんぐちゃん広場の最新情報は以下でご覧ください。

てんぐちゃん広場

武生中央公園には市内外から大型バスで遠足の子どもたたちが訪れます。万一の雨の時に休憩したり、さまざまな催しを開催できる体育館よりも大きな建物、「まさかりどんの館」そしてその前には「たいへんあそびば」があります。

越前市は打ち刃物の伝統産業があり、木を切り工作する数多くの道具が登場する『まさかりどんがさあたいへん』(1996年小峰書店)が名前の由来です。

壁面には、その道具が絵本そのままに描かれています。

夜になるとこの建物の巨大な壁面に『どろぼうがっこう』の場面が浮かび上がります。夜の遠足「ぬきあし さしあし」のあの場面です。越前市にいらっしゃる折には是非ご覧ください。

テニスコート、その向こうには「コウノトリの大冒険」や「かいぞくせん・がぼがぼまる」の支柱が小さく見えるこの「あそびば」に赤い車が停められています。

『ねずみのしょうぼうたい』(1985年偕成社)にちなんで命名、かつて実際に使われていた消防車です。運転席にも座れるのではお子さんたちは大喜び。

表紙絵が看板になっています。

5回に分けてご紹介した武生中央公園のリニューアル部分のご紹介はこれでおしまい。次回は駅前にある室内広場のご紹介です。

コウノトリの大冒険

2018年の公園整備に際し、長い間地元の皆さんに親しまれていた大観覧車の中央に『コウノトリのコウちゃん』(2017年小峰書店)にあるコウノトリが大空を舞う絵が設置されました。しかし2022年、観覧車の老朽化に伴い、堅牢な支柱とこの絵のみを残し大幅なリニューアルが行われ、上の写真にある「コウノトリの大冒険」が誕生しました。

冒険心をくすぐるようなスリルあふれる大型遊具で子どもたちは目を輝かせて夢中で遊んでいます。

最上部から公園を見下ろすとこんな感じ。

地上7メートルの高さから、あずまやの屋根の上に滑り降ります。

コウノトリの大空散歩

やや離れた隣にもコウノトリ遊具、「コウノトリの大空散歩」。1羽1羽に絵本に登場するコウノトリの名前がついていて、混んでいなければ好きなコウノトリに乗ることができます。

腰掛けながら自転車のようにペダルを漕ぐと、さらに座席が上昇。周りながら上がるので飛んでいる気分を味わえます。

越前市はコウノトリのすむ里山作りに取り組み、コウノトリの自然繁殖の地となりました。それはあたかも絵本の物語そのものです。

越前市伝統の箪笥を作る技を用いて作られた、引き戸のように左右に絵を動かせる掲示版にも絵本が登場。遊具の周囲にもコウノトリにまつわる越前市の取り組みが、紹介されています。

コウノトリの繁殖には、そのエサが取れる豊かな自然が必要です。

里山の自然を連想させる木組の迷路は、栄養たっぷりの土壌を好むモグラの迷路です。『モグラのもんだいモグラのもんく』(2001年小峰書店)などから興味深い情報が掲示されていて、遊びながら環境について知ることができます。

木製のアスレチック遊具や水に親しめる設備もあって夏には歓声に包まれます。

水といえば、大海原を航行する船型の遊具「かいぞくせん・がぼがぼまる」も忘れてはなりません。リニューアルで『かいぞくがぼがぼまる』にそっくりになりました。

下の写真では、モグラの迷路の向こうに裏側が見えています。

表側の船体には海賊船長の大きな顔や絵本の場面が描かれていて迫力満点。
手前に見える亀は悪さをした海賊たちを懲らしめる海の少年がのっているものです。

安全に遊具を楽しむために身長制限があり、怖い顔の「がぼがぼまる」がにらみをきかせています。

「がぼがぼまるより大きな子は乗ってよし!」

2022年のリニューアルで一番大きく変わったのがパピプペポー広場です。この広場を囲むように巡っていたモノレールはお色直しをして『だるまちゃんとかみなりちゃん』にでてくるような「かみなりまちのモノレール」になりました。

動画は以下です。どうぞご覧ください。

パピプペポー広場 動画

そびえたっているのは「かみなりまちのほうでんとう」です。

2人で並んですわる座席がゆっくり上がっていきますが、目の前にあるロープを引くとさらにそのスピードが増し、あっという間に最上部に到達します。そのままロープを引っ張り続ければその場に止まっていることもできますし、手をロープから離すとゆっくり下降、最後は下に戻ってくる仕掛けです。

てっぺんには、かみなり型のパラボラアンテナがついています。

放電灯の下を走るのは、ウンカーではなく『だるまちゃんととらのこちゃん』の「とらのまちのひげとらタクシー」です。
バッテリーで時速2キロで走り、小さなお子さんが大人と一緒に乗って安心して運転できます。

モノレールのレールの向こう、放電灯の手前にあるのは、リニューアルしたての「おもちゃの国のメリーゴーランド」です。

天井の絵や周囲の柵や屋根にかこの絵を配置。下は絵を見やすくするため90度回転させています。

公園の東側から入って、大人気の「からすのパンやさんの風車塔」や「だるまちゃんとかみなりちゃんのふわふわ雲」(トランポリン)へ向かうところにあるこの絵。飲食施設〈はぐもぐ〉の裏側と言った方がわかりやすいかもしれません。

上の絵の右側には、広場の名前の由来となった絵本『コウノトリのコウちゃん』と『だるまちゃんとてんぐちゃん』の2枚の絵があります。

左には同様に『にんじんばたけのパピプペポ』前扉の絵。

モザイクで作ってあるように見えますね。

ところが、近づいて見ると、たとえばだるまちゃんの胸のあたりはこんなかんじです。

かみなりちゃんの方は、

全て、かこの絵本の表紙からできています。

それでは動画でご覧ください。

表紙でできた絵

2018年に誕生した武生中央公園(福井県越前市)には「だるまちゃん広場」をはじめ3つの広場があります。かつては野球場だった広大な場所を整備して出来上がりましたが、その後もリニューアルや新遊具の設置が進められついに2022年秋に全ての施設が整いました。

新たに加わったものをご紹介しましょう。

遠くに山、建物には「越前山歌」の大壁画、手前の巨木の下にあるのはウッドデッキとかまどでしょうか。
何か字が書いてあるのは看板?

反対側に回ってみましょう。。。

からすのパンやさんの看板です。

幹の上の方には⋯

いました!

4羽のからすのこどもたち。
ここは「からすのパンやさん」のおうちなんですね。

よーく見るとウッドデッキはクロワッサンの形です。かまどに見えるものは紙芝居の台にもなり、ウッドデッキに座って木陰で紙芝居を見る。そんなことができるよう作られています。

ロンドンのハイドパークにあるスピーカーズコーナーのように、自由に紙芝居ができるようにという願いが込められています。

おや?
からすのお父さんでしょうか?

2022年11月18日、福井県越前市にて講演会を開催しました。駅前の植栽にも雪吊りが施され冬支度の整った武生でしたが、好天に恵まれ、晩秋の紅葉に彩られた村国山(写真中央、手前は〈コウノトリの大空散歩〉の遊具)を望む、かこの墓所がある引接寺のお堂が会場でした。

コロナ禍で全国紙芝居大会の2021年プレ大会と2022年夏の本大会が中止となり、関係者一同は大変落胆されましたが、それを振り払うかのように当日は紙芝居に関わる大勢の方々がご参加くださいました。

前半は紙芝居『ゆきこんこん かぜこんこん』の上演とかこの手描き紙芝居のご紹介。紙芝居をもとに作成された幻灯「ぼくのかあちゃん」と「自転車にのってったおとうちゃん」も上映し、当時の様子に思いを馳せました。

熱心なご質問が相次ぎ、和やかに楽しく紙芝居やこどもを話題に全体で1時間半ほどの会でした。

久しぶりにかこのふるさとの皆様とゆっくりお話しすることができ温かな気持ちに包まれたひとときに感謝の気持ちでいっぱいになりました。

翌2022年11月18日、福井新聞朝刊に写真入りでご紹介いただきました。一部ですが以下に記事があります。

福井新聞「紙芝居遊びを創る一歩」

11月27日は四谷怪談を書いた鶴屋南北、そしてアメリカの劇作家でノーベル文学賞を受けたユージン・オニールが亡くなった日です。大学時代に演劇研究会には入っていたかこは洋の東西や時代を問わず、芝居には大変興味を持っておりました。

『こどものカレンダー11月のまき』(1975年偕成社)ではその日に合わせて「おしばいができるまで」というタイトルで、脚本家、演出家、舞台監督、衣装、化粧、効果、照明、音楽、装置、宣伝、総務など俳優以外の人々が働いたり考えたりしていると紹介、プロンプターや演出助手にも触れているほどです。

『うつくしい絵』(1974年)『すばらしい彫刻』(1989年いずれも偕成社)に続き演劇の絵本も作りたいとよく口にしていました。もし演劇の本を作るとしたら、まず入れたいのは人形浄瑠璃・文楽と申していたのが大変印象的で忘れられません。

その文楽については『こどものカレンダー3月のまき』(1976年偕成社)であやつり人形と共に紹介しています。[おうちのかたへ]というメッセージには、次のようにあります。
(引用はじめ)
文楽の名前は知っていても、実際に見たことのある方は案外少ないものです。できたらテレビより劇場でいちどご覧になることをおすすめします。
(引用終わり)

演劇の本といえば、シェイクスピアやチャプリン、あるいはオーソンウェルズを取り上げるのかと想像していたので意外でした。出版は叶いませんでしたが、『こどもの行事 しぜんと生活4月のまき』では壬生狂言について触れていますし、『だるまちゃん・りんごんちゃん』(2003/2013年瑞雲舎)に飯田の人形劇を登場させるあたり、演劇にこめたかこの思いをかいま見ることができます。

ところで、かこが大学時代、演劇研究会で担当していたのは舞台美術で、その精緻なデザイン案は現在、群馬県立館林美術館で開催中の「かこさとしの世界」展で展示しています。

下はその一枚、昭和22(1947)年5月18日東京大学五月祭で上演のアンドレ・ジイド作「13本目の木」の舞台案です。
是非、まじかでご覧ください。