編集室より

2021

2022年を前にかこさとし公式サイトのタイトル画像を新しいものにしました。2005年全国心身障害児福祉財団のために描き下ろした大きな絵本型紙芝居『だるまちゃん はるのうた ふゆのうた』12場面から7場面をご紹介しています。四季折々の自然の中で元気に力を合わせるだるまちゃんとお友達の姿をご覧ください。最後の場面は皆でついたお餅を届けます。

11場面から12場面にかけての文にかこさとしの思いがこめられていますのでご紹介致します。

(引用はじめ)
風に 寒さに 雪 氷
食べ物 なくて ふるえる ひとに
ぺったん このもち とどけよう

着るもの なくて いえ こわれ
かじかみ こごえ ないてる ひとに
ぺったん いたわり とどけよう

ちから うしない きもち しずみ
あすの のぞみを なくした ひとに
こころを こめて とどけよう

こごえる寒さ しみる雪
耳も冷たい こおる風
そりで くばるは あったか心

きびしさ 胸に 唇かんで
うたもうたわず 声出ぬ人に
しずかに とどけ あったか心

くるしみ つらさ なげきのひとに
えがおよ 戻れ 祈りをこめて
やわらか やさしい あったか心
(引用おわり)

2021年は出版に恵まれた一年でした。

かこ自身の作品に孫の中島加名の挿絵を加えた『くもとり山のイノシシびょういん』(福音館書店)や、初公開の多数の写真を掲載し、かこの人生に迫る、鈴木愛一郎による伝記『かこさとし 遊びと絵本で子どもの未来を』(鈴木愛一郎・文/あかね書房)が出版されました。

また、かこの紙芝居についての貴重なエッセイと手描き紙芝居を含む全紙芝居について鈴木万里が解説を加えた『かこさとしと紙芝居 創作の原点』(童心社)も誕生しました。

これまでに出版されたものに新たな写真や挿絵を加えて文庫化した『だるまちゃんの思い出 遊びの四季 ふるさとの伝承遊戯考』(文春文庫) は『未来のだるまちゃんへ』とともに、お読みいただきたい、かこさとし珠玉のエッセイです。

1986年にアメリカ向けに出版された幻の『Chock Full o’Fun』(小学館)が、2021年日本で出版され、その日本語版『てづくり おもしろおもちゃ』も同時に刊行されました。

かこの初稿から60年以上の時を経て世に出ることとなった『秋』(講談社)は、かこの青年時代の衝撃的な戦争体験を一人称で語る絵本で大きな反響がありました。
2022年2月号MOEでは「先人たちの絵本」として紹介されています。

これぞ絵本といえる可愛らしい『うさぎのパンやさんのいちにち』『たろうがらす じろうがらす』は、『からすのパンやさん』とは違う様々なパンやからすの表情が魅力的です。

また、時代を大きく先どりしてSDGsを扱った『かわいいきいろのくじらちゃん』はその美しい絵と深い内容に心打たれることでしょう。

こうして2021年新たに出版された10冊の本は趣やテーマは様々ですが、いずれもかこの思いが滲み出ています。

そして2022年には『かこさとしと紙芝居』の作品リストで触れているように「かこさとし自選集」シリーズが出版の予定となっていますし、かこが精魂込めた絵本が復刊されます。どうぞご期待ください。

1年、100年、1000年そして2022年

投稿日時 2021/12/24

想定外のことが色々とあった2021年も残りわずか。一年を振り返ることが多いこの時期ですが、この100年を絵本と通して見る機会となったのが『日本の絵本100年100人100冊』(2021年玉川大学出版部・広松由希子著)です。

1912年から2014年(年譜では1870年から2020年)までに出版された絵本に関して、各年1冊を表紙と3見開きほどの写真とともに解説する223ページにわたる大部の大型本で、最初の1912年に紹介されているのは、かこが亡くなる前年(2017年)にいただいた巌谷小波賞創設の由来でもある巌谷小波著の『日本一ノ画噺』(杉浦非水・画)。小箱に詰められた6冊の絵本で、横書きの文章は右から左に読みます。

かこが生まれた1926年出版の絵本は月刊の『子供之友』(婦人之友社)ですが、当時のかこはこういった絵本には縁がなく自然の中で遊びまわっていました。

2021年は1941年の真珠湾攻撃から80年ですが、その1941年には『マメノコブタイ』(帝國教育出版部)が出されました。この絵本は、解説よると「戦争もの」で「児童書によって子どもたちを洗脳するなど、あってはならないことが実際にあった」とあり、戦争を経て1946年には『トケイノハナシ』(妙義出版社)という科学絵本が出されたそうです。

1967年の絵本として、だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店)がとりあげられています。

だるまちゃんシリーズは2018年3作まとめて同時出版となった『だるまちゃんとかまどんちゃん』『だるまちゃんとはやたちゃん』『だるまちゃんとキジムナちゃん』を合わせて全11冊で、最後の3作品には東日本大震災と原発事故、戦後の影が今なお残る沖縄に思いを寄せていた著者についてもふれています。

まもなく2022年。新年を迎える日本の行事には、100年どころか1000年以上の「ふるくからつたえられたもののほか、海外、とくに中国からつたわったものがたくさんあ」るとしている『こどもの行事 しぜんと生活 1月のまき』(2011年小峰書店)は、2021年12月5日の福井新聞「文学の森から」でお正月の風習を調べるのに参考になる絵本として紹介されました。

あとがきには次のようにあり、再度ここで記します。
(引用はじめ)
日本にすんでいたむかしの人たちにとって、1月は一年間の農耕のはじまりのときで、田畑をまもってくださる歳神さまをむかえたり、そなえものをするなどのだいじな行事があるので「正月」といったことを、はじめにのべました。

このように、日本の行事のならわしのうち、この本では、その理由と行事に込められた人びとの思いやかんがえもあきらかにして、つぎの時代につたえるようにえらびました。むかしの人たちがもっていた力や知恵や心を総動員して、生活をささえようとしたことを、この1月 の巻でしっていただきたいおもいます。
(引用おわり)

2022年を迎えるにあたり、100年、1000年を超え、長い間人びとが心から願い思ってきたことをどう伝えどう活かしていくのか、そんなことを想うこの頃です。

一年に一度雪が降るか降らないかの地域でも、冬はやはり雪のイメージが思い浮かびます。

藤沢市本庁舎に季節ごとに掛け替えているかこ作品、2021年12月からは『ゆきのひのおはなし』(1997年小峰書店)の2枚を展示しています。お近くに行かれましたらご覧ください。

なお、この絵本については以下でおすすめの雪の絵本として紹介されています。

雪の絵本

本の表紙とカバー

投稿日時 2021/12/11

多くの絵本にはカバーがかけられています。本の保護のためでもありますが、お子さんには扱いにくいこともあり、「ことばのべんきょう」や「だるまちゃん」シリーズ(いずれも福音館書店)にはカバーがありません。

文春文庫『未来のだるまちゃんへ』のカバーはシンプルでありながら、「だるまちゃん」が目立ちます。『だるちゃんの思い出 遊びの四季』(2021年)は「未来への行進」という題名の絵画を使っています。これは、合併で誕生した越前市10周年を記念して2006年にかこが描いたもので、だるまちゃんシリーズの仲間たちが越前市民には馴染みの村国山(むらくにやま)を背景に楽しげに歩いています。

この本の内容は生まれ故郷、越前市で過ごした7年間の日々からかこが得た貴重な経験をもとに、子どもが人として成長するのに何が大切かということを語っています。

昔の文庫本はカラー印刷のあるカバーではなく、薄いパラフィン(グラシン)紙で、絵本を卒業しよういう年頃だった筆者には、大人に近づいた気持ちで嬉しく手にとった覚えがあります。

2021年11月20日の朝日新聞「天声人語」では、このカバー(ジャケット)と本の表紙について、その違いを楽しむことが書かれていましたが、かこの本の中にもカバーと本自体の表紙が異なり二度楽しむことができるものがあります。

『万里の長城』(2011年福音館書店)のカバーは緑の連山に龍のごとく作られた長城。本の表紙には、長年にわたり多くの人々が積み重ね作りあげた長城とそれを守る人々。裏表紙(下)にはその歴史の一コマが再現されています。

壮大な自然と悠久の歴史。どちらも「万里の長城」を語るには大切なもので、カバーと表紙で伝えています。

これは『だるちゃんと楽しむ 日本の子どもの遊び読本』(2016年福音館書店)のカバー(右)と表紙です。


『日本伝承の遊び読本』(1967年福音館書店・下左)という脚光を集めた絵本の現代版として平成に出版されたもので、それを引き継ぐようにして表紙の色を同じにしています。新しい版であることがわかるようにご覧のようなカバーの柄になりました。

たかがカバー、されどカバー。そこには著者や本作りに関わった人たちの思いが込められています。

師走

投稿日時 2021/12/01

師走だからでしょうか
だるまこちゃんが走っています。

だるまちゃんも

てんぐちゃんもかみなりちゃんも

おやおや、来年の干支のとらのこちゃんも
そしてその前には、再来年の干支のうさぎちゃんまで走っています。

これは「だるまちゃんかるた」の箱の側面でした。
フダを見てみましょう。

「あ」は、「あしたもあなたとあそぼうね」

「え」の「えんとつえがいたえほんです」には『マトリョーシカちゃん』を夢中で読んでいるだるまちゃんとかみなりちゃん、可愛いですね。

「ん」もあります。
「ん、なんだ 
ん、ん、わかった
んとこしょ」

それでは、新年に向けておめでたいフダでご紹介を終わりとしましょう。
「ひがしに ひかり ひがのぼる」

「だるまちゃんかるた」お楽しみください。

かこさとしが自然に関してどんな思いを抱いていたかは、2021年秋冬号の雑誌「花椿」の特集:Living on This Beautiful Planet 「透明な力を糧に」で林綾野さんが引用しているように、かこの著書『私の子ども文化論』(1981年あすなろ書房)でふれている宮沢賢治の「狼森と笊森、盗森」の自然観に重なります。

賢治のこの作品について、かこは「人間が、その自然の構成の一員として、その制約と相互依存の状況下にあることをえがいたこの先覚者の含蓄を味わって」とし、(中略)次のように述べて「子どもたちの遊びと自然保護」と題する節を結んでいます。

(引用はじめ)
子どもたちは、自然と親しみながら、あそびながら、自然の尊さとそして人間も自然の中の生物の一つであるという自覚を肌で感じとって育っていくものではないだろうか。そして、おとなになって日本の自然をなつかしみ、大事にするひととなるのではないだろうか。それがひいては、将来の日本を背負ってたつ子どもたちに自然保護を呼びかける最善の方法のような気がする。
(引用おわり)

『こどもの文化論』の出版からさかのぼること10年前に刊行された『きんいろきつねのきんたちゃん』(1971年学研/2005年ブッキング)には次のような場面が描かれています。ゴルフ場や別荘地などの大規模開発が盛んに行われるようとしているのを察知して日本の自然が破壊されることを危惧していました。

残念ながらこの本は絶版ですが、かこの絵をいもとようこ氏の絵に替えて出版された『きつねのきんた』(金の星社)版にかこさとしのあとがきがあり、この問題について記していますのでここで全文ご紹介します。

(引用はじめ)
この絵本のもとになったのは、一九七一年にかいた、『きんいろきつねのきんたちゃん』(学習研究社・刊)というお話です。当時、それほど問題になっていませんでしたが、自然をこわしたり、ゆがめたりする人間のわがままな行いを、動物たちを通じて考えてもらおうとした作品です。

それから二十年もの間、たくさんの人たちによんでいただき、紙芝居になったり、時にはミュージカルやアニメ映画にしようというお話があったりしているのですが、もとになった自然と人間の関係は、まだまだよい方向に進んでいないようです。ですからきんたをはじめ、動物たちも、いまも苦労をしていることでしょう。

この本をきっかけに、なぜ二十年以上も、よくなって行かないのかという、本当のわけを、よく調べ、勉強し考えて、正しくするよう力をつくしてくださるのを、願っています。
作者 かこ・さとし

(引用おわり)

この文が書かれてから17年。取り戻すことができない自然破壊を続けてきた17年が過ぎてしまいました。今こそ、かこがこのあとがきに込めた願いを実現させなければならない時であると思いを新たにしています。

クリスマスの前に読みたい本

投稿日時 2021/11/18

クリスマスプレゼントとしてではなく、プレゼントをもらう前にお子さんたちに読んでいただきたいのが、『サン・サン・サンタ ひみつきち』(2019年白泉社)。とびきりのファンタジーで、大人も嬉しい「夢あふれる傑作」と帯にあります。

かこさとし作ですから、物尽くしの頂点とも言えるほど、たくさんのおもちゃが並びます。しかも、そのおもちゃ工場があるのは秘密基地! こっそり潜入して見てみると、あのおもちゃ、このおもちゃが、実はその工場から届けられたのだとわかります。

「サンタはいるの?」というお子さんたちの疑問にも答えています。ですから是非、クリスマスの前に読みたいですね。

クリスマスは多くの国では冬の寒い季節ですが、そんな中でもあたかさあふれる『マトリョーシカちゃん』(1984年福音館書店)はクリスマスのイメージにぴったりです。

クリスマスプレゼントを手作りしようと思いたったら、『てづくり おもしろ おもちゃ』(2021年小学館がピッタリです。赤い表紙でプレゼントとしても素敵ですし、一緒におもちゃを作って遊ぶ時間は、最高に嬉しい贈り物かもしれません。英語版『Chock Full
o’ Fun』もおすすめです。

赤い本、ということでしたら思い切って赤い表紙の科学絵本『地下鉄ができるまで』(1987年福音館書店)はいかがでしょうか。11月18日の土木の日にちなんで、この本を紹介してくださった書店さんもあり、大人にも小さいお子さんにも、特に乗り物好きには絶対に喜ばれること間違いなしです。Xマスセールの垂れ幕も場面の中に描かれています。

そしてさらに赤い色が印象的な表紙の『富士山大ばくはつ』(1999年小峰書店)もあります。この本の最後の部分はこう結ばれています。
(引用はじめ)
高い大きい美しいすがたで、富士山が、長いあいだわたしたちをなぐさめ、はげましてくれたように、富士山のことをよくしらべ大自然のふしぎをしっかり勉強する番です。
ではみなさん、がんばりましょう。
(引用おわり)
火山の多い日本に住んでいる私たちに大切なことを伝えている科学絵本です。

クリスマスにちなんださまざまな分野の赤い本、お楽しみください。

2021年11月4日伊勢新聞・6日琉球新報・8日佐賀新聞・9日河北新報・静岡新聞・10日埼玉新聞・中国新聞・山陰中央新報12 日熊本日日新聞 22日神奈川新聞 24日京都新聞 26日山陽新聞. 12月5日宮崎日日新聞 7日 奥羽日報

今年を振り返るのは少し気が早いかもしれませんが、2021年11月に上記各紙で報じられたように、2021年は出版に恵まれた1年でした。
1月には、『くもとりやまのイノシシびょういん ー7つのおはなしー』(福音館書店)がでました。これは読み聞かせ・語りを目的にかこが書きためていたお話で、コロナ禍のステイホームで苦しい中、気持ちの和らぐお話として楽しんでいただいたという嬉しいお声が届いています。

かこさとしの伝記が初めて出版されたのも今年でした。初出の写真も豊富でかこさとしを知るには、必読です。わかりやすい言葉でかこの内面を伝え、生きる意義を考えさせられる、お子さんにも大人にもおすすめしたい一冊です。上記の新聞記事では著者の言葉を引用し詳しく紹介しています。

日本エッセイスト賞を受賞した珠玉のエッセイが文春文庫として登場したのは5月。ここにも貴重な写真やかこの挿絵がさらに加えられ、深い洞察が数々の思い出話の中に散りばめられ、読みやすい作品です。

加古が興味を持って研究した子どもの遊びは、子どもの成長にとって不可欠で、それにより想像力と創造力を育てる原動力になります。そのお手伝いとして、身近にあるものを使って自分でおもちゃを作る楽しさを紹介する『てづくり おもしろ おもちゃ』(小学館)は、1968年アメリカで発売された『Chock Full o’Fun』の日本語版で、この7月に英語版の復刻と合わせて出版されました。

復刊といえば、『うさぎのパンやさんのいちにち』『たろうがらす じろうがらす』『かわいい きいろのクジラちゃん』(いずれも復刊ドットコム)が次々に復刻され、こんな絵本があったとは!」と驚きを持って手に取っていただいています。

そして大きな反響を呼んだのが、絵本『秋』(講談社)。一人称で語られる18歳のかこが目にした戦争の凄惨な出来事はこれまでかこが語ったことがないもので、秋の美しい風景と対象的で胸にせまります。後年かこが子どもたちのために人生をかけて、とりくんだのはこうしたことがあったからなのです。

かこ作品の中でおよそ4分の1を占める紙芝居については、まとめたものがありませんでした。そこで、一冊の本にして8月に出版されたのが『かこさとしと紙芝居 ー創作の原点ー』(童心社)です。かこ自身による紙芝居の歴史や考察などを収録、現存する自作の紙芝居全てのあらすじも掲載しています。研究資料としても読み物としても面白いこの本について、記事では詳しく紹介しています。

また、記事では加古総合研究所が資料画像等を提供した長野ヒデ子氏による『かこさとしの手作り紙芝居と私』(石風社)についても合わせて伝えています。

このように2021年には新刊、復刊合わせて10冊が刊行され、いずれもかこさとしを知るのに欠かせないものですし、新しい情報に富み、読んで面白い、見て楽しいものばかりです。是非ご覧ください。

2022年卓上カレンダー

「来年のことを言うと鬼が笑う」とはいうものの、そろそろ来年のことが気になります。

2022年の卓上カレンダーはすでに販売開始、本年の『だるまちゃんとてんぐちゃん』に続き、『だるまちゃんとかみなりちゃん』が登場です。というわけで、来年のことを言うと「かみなりちゃん」が笑うのです。

本年のカレンダー同様、各月の行事にちなんだ絵や解説が『こどもの行事 しぜんと生活』(小峰書店)のシリーズから掲載されています。豆知識が確認できる楽しいクイズ付きというのが新しいところ。お手元でご愛用いただけたら嬉しいです。

2022年かみなりちゃんカレンダー