編集室より

2025

スズラン

投稿日時 2025/05/21

青葉若葉が茂るこの季節、ふと思い出すのはスズランの花。北の大地では今頃咲いているのではないでしょうか。
そしてスズランが登場するかこ作品を読み返すのもこの季節です。

ひとつは『しらかばスズランおんがくかい』(1986年偕成社)。
絵本の裏表紙にはハリネズミがスズランを手にしています。あとがきには、ご覧のような絵(下)とともに「シラカバの林にスズランの花が咲いている風景というと⋯」という出だしで、実は「地味のやせた、寒冷の厳しい所」で、「一見美しいが、その実、とても厳しい」場所にすむ動物がこの絵本にはたくさん登場します。

束の間の夏、「おとをだすおもちゃ」のまわりでくりひろられる動物たちが詩情ゆたかに描かれます。

このお話の元になったのが、新聞に掲載した「おおきなおおきな おとしもの」という1963年作の小さなお話で、『かこさとし童話集②」に掲載されています。短い文章ですが2ページにわたる挿絵(下)があり、絵を見ながら自分で続きのお話作りを楽しんでいただきたいという加古の願いが込められているようです。

もう一作ご紹介したいのがウポポイが開館した記念に復刊していただいた『青いヌプキナの沼』(1980年/2020年復刊ドットコム)です。

ヌプキナとはアイヌの言葉でスズランのこと。スズランが咲く青い沼の地でアイヌの人々に起きた悲惨な出来事は、決して歴史の闇に葬り去ってはならないという強い気持ちが込められている作品です。


スズランに託したかこさとしの思い、願いが皆様に届くことを願ってやみません。
『青いヌプキナの沼』のあとがきは以下でどうぞ。

青いヌプキナの沼 あとがき

子どもの読書週間が5月12日に終わるのを前に「「考える」ことへと誘ってくれる⋯本との良い出会いを期待したい」と結んでいる福井新聞1面の「越山若水」で加古里子(かこさとし)著『宇宙』を取り上げていただきました。

この科学絵本はノミのジャンプという思いがけないところから始まるので有名ですが、それは人間が宇宙に飛び出すには高く速く飛ぶことが必要ということの発端として、身近な例から少しづつ理解の範囲を広げてゆくという加古の手法です。

こうして順を追って61ページある本文の31ページなってようやく地球の重力の影響を受けない宇宙空間に達することがことができるようになり、そこからが本格的に宇宙探索となります。

『宇宙』の表紙に描かれている国立野辺山天文台は加古がこの本を執筆している当時は建設中でした。この絵の右下には小さく車が描かれていてこの天文台のアンテナの巨大さがお分かりいただけることと思います。

宇宙はこの本が出版された時に比べ遥かに私たちの生活に密接に関わってきています。大人の方々にもお子さんたちにも手に取っていただけたらと思う絵本です。本書の最後にはこう書かれています。

「この おおきな うちゅうは にんげんが はたらいたり かんがえたり たのしんだりするところです⋯あなたの かつやくするところです。」

加古里子(かこさとし)を絵本の世界に招き入れてくださったのは当時福音館書店編集長の松居直氏でした。

この度文庫として出版された「絵本をみる眼」は序章と5つの章に分かれていてその第2章[日本の絵本画家の仕事]の中に「加古里子ー知的生産の技術者」という項目で加古との出会い、デビュー作『だむのおじさんたち』、『かわ』などの科学絵本「だるまちゃん」シリーズなどを例にかこさとしの絵本の特色、その思想性の大切さについて触れています。

あとがきの他に、加古の多くの絵本の編集を手掛けてくださった古川信夫氏による「松居直のふたつの眼」と題する深いエッセイもあり、絵本を読む人、編集する人にとどまらず、多くの気づきと発見があり示唆に富む355ページです。

2025年4月26日で開館12周年を迎えた越前市ふるさと絵本館にて鈴木万里が講演をいたしました。

2023年から24年にかけて順次刊行された『かこさとし童話集』(偕成社)10巻。
かこさとしを理解する上でこの『童話集』が重要な意味を持つこと、そこに込められた思いを紐解き、地元越前市が舞台となったお話を紹介しながらの90分間でした。

ご質問もあり、皆様大変熱心にお聴きくださったばかりか、童話集に登場する地元の情報を教えていただくこともできました。お集まりいただいた皆様、ありがとうございました。

翌4月27日には福井県ふるさと文学館開館10周年記念対談「未来へ伝えるかこさとし作品」というテーマで元偕成社編集者の千葉美香さんと対談をいたしました。

千葉美香さんは『太陽と光しょくばい物語』『からすのパンやさん』の続きのお話や『過去六年間を顧みて』や『かこさとし童話集』の編集をしていただいた方です。

『童話集』の原稿を託された時のことから始まり、246話の中から「トンネルの童話」や「スピッツベルゲン協会の集まり」を取り上げ、前者の文学性や後者に込められた強いメッセージについてお話しました。また最後には最新作『くらげのパポちゃん』(講談社)もご紹介、定員の100人近い方々がメモをとりながら熱心にお聞きくださいました。

この対談については2025年4月29日の中日新聞福井版に、5月5日の福井新聞、5月17日には読売新聞大阪版に記事が写真入りで掲載されました。

2025年5月5日 福井新聞 ふるさと文学館

こどもの日にちなんで都営地下鉄子育て応援スペースの広告を東京都交通局が東京新聞に掲載しました。

東京都交通局馬込車両検修場で開催されたイベントで撮影された車内の写真に写っているのは『だるまちゃんとてんぐちゃん』の場面。クリーム色の背景にお馴染みのお話の絵が車内いたるところにあります。

背景が表紙の色の空色の『だるまちゃんとかみなりちゃん』の絵がついた車両もあります。

都営地下鉄の子育て応援スペースは浅草線、三田線、新宿線、大江戸線に導入、かこさとし作品以外の絵もあります。都営交通アプリで応援スペースがある車両の走行位置が確認できるとのことです。

ボッティチェリ

投稿日時 2025/05/04

ボッティチェリはあだ名で本名はフィリペピ。イタリア、フィレンツェに生まれ1510年5月17日に没したこの画家が描いた作品は現在でも多くの人々に感動を与えています。

加古も『こどものカレンダー5月のまき』(1975年偕成社)のその日のページに、模写した“はるのおとずれ”(下)を載せています。

1972年に会社員を辞め執筆に専念することとなった加古はようやくヨーロッパを訪れ、ボッティチェリ絵画を自分の目で見ることができました。大変感動したようで、筆者にもぜひ実物を見るよう勧めたほどでした。


1981年に偕成社より『絵で見る化学のせかい』シリーズが出版され、2024年『新・絵でみる化学のせかい』として新版が出されましたがその第3巻『化学の大サーカス 技術の歴史』にあるのが、ボッティチェリのこの絵(下)です。

ウフィッツ美術館にある名画中の名画をここで描いたのは、現在では生地に色鮮やかな染めをするのに泡を使うことから、海の泡から生まれたとされるギリシャ神話の美の女神(ローマ神話ではヴィーナス)を連想するからなのでしょう。

百花繚乱、春たけなわの今、絵の中の春もどうぞご覧ください。

2025年4月16日の読売新聞石川県版「北陸小旅行」で紹介されたかこさとしふるさと絵本館。(写真は記事掲載のものではなく、昨年の連休の様子です)

武生中央公園からごく近いところにあり、外にはこんな遊具もあります。
館内1階には、かこさとしの絵本がほぼ全て揃い、手にとってご覧いただけます(貸し出しはしていません)。
靴を脱いで入る、遊びの部屋には写真に撮りたいフィギュアもあって、いろいろなイベントが楽しめます。

2階には複製原画や資料が並び、貴重な映像も。火曜日が休館ですが、連休前後は以下のような休館日となります。

絵本館とかこさとしの世界感溢れる武生中央公園、そして4月21日のNHK福井「ニュースザウルスふくい」で紹介された墓所のある引接寺(いんじょうじ)は武生駅と絵本館の中ほどに位置しています。このお寺の幼稚園に幼い加古は通いました。その洋風の園舎は今でも幼稚園として使われています。

絵本館への旅をお楽しみください。

お店やさんのお話

投稿日時 2025/04/08

小さいお子さんはままごとやお店やさんごっこが大好きです。

おかしやさん、やおやさん、てんぷらやさん、そばやさんはご存知『からすのパンやさん』の続編です。
この4冊の続きのお話を40年ぶりに出版した時には、かつて子どもだった方々が、次のおみせやさんはなんだろう?とご自分のご贔屓のお店を思い、真剣に予想して盛り上がったものです。

読者さんからのカードには「おかしやさん」ではなく、パテイシエがいい、チョコレートやさんをぜひ!といったお声もいただき加古はそのリクエストの多様さに驚きつつ大変喜んでおりました。

『うさぎのパンやさんのいちにち』(2021年復刊ドットコム)という作品はご存知かもしれませんが、「とこやさん」や「はなやさん」のお話はお読みになったことがないのでは⋯?

『コチコチやまのとこやさん』(1984年偕成社)は2023年にオンデマンドで出版されました。『からすのやおやさん』は商売のお話として読むこともできますが、この「とこやさん」も「うさぎのパンやさん」同様、お店の仕組みを考えるきっかけになりそうです。


『はちの花やさん』は『かこさとし童話集②』に収録され、表紙にその絵があります。このお話は1993年「こどもチャレンジ」(ベネッセ)として出版されたものですが、はちが花やさんをするというのはなかなかの思いつきだと思いますし、最後に花屋さんならではのあっと驚く仕掛けがあるのが、楽しい物語です。

またこの②巻には「おしゃれのカラス」という、染め物やのカラスのお話も収録されています。

時代と共にお店やさんの形態も種類も変わってきますが、お店にものを並べて売って、これはこどもにとっては社会活動の一端を分かりやすく見ることができ、興味尽きないに違いありません。

童話集②表紙の絵は「はちの花やさん」

童話集②に収録の「おしゃれのカラス」

かこさとし生誕99年を祝うイベントが越前市ふるさと絵本館で開催されました。(上の写真はかこさとしふるさと絵本館提供)

こどもさんたちが「だるまちゃん」や「からすのパンやさん」の塗り絵を楽しみ、その画像がデジタルアートとして天井や壁面に写し出されました。

また、同時に床に映されたケンパを踏むとデジタル花火が打ち上がり、お祝いムード全開。賑やかな記念イベントとなりました。

その様子が写真と共に2025年3月30日の福井新聞で報じられました。

福井新聞 絵本館 かこさん生誕99年