編集室より

2024

巳年 干支探し

年頭にあたり恒例の干支探しですが、今年は巳年。ヘビが苦手な方もいらっしゃるようですから、控えめに少しだけご紹介しましょう。

オンデマンド出版をしている『まほうのもりのプチ・ブルベンベ』(偕成社)はドイツの黒い森を舞台にしたお話で、最初の場面に小さなヘビがいるのですが、見つかりますか。この絵は2月末ごろまで藤沢市図書館に飾っていますので、お近くの方は是非ご覧ください。

干支になるくらいですから、昔話にも登場します。

『かこさとし童話集④日本のむかしばなし〈その1〉』にある「甲賀三郎伝説」(下・絵は中島加名)では、兄たちの策略で深い穴から戻ることが出来なかった三郎は、やがて三十年の後、大蛇に姿を変えて地上に戻り、城主争いをした醜い企てをした者たちもろともにこの世から消えてしまったのでした。

「伊賀の黒丸のこと」では忍者の修行中に見かけるヘビ、秩父を舞台に鉱山を発見した「赤銅源作」では、源作が出会ったヘビの銀黒などが鉱山を見つけるヒントとして伏線になっています。

『からすのパンやさん』のたくさんのパンの中に「スネークパン」があり、特設サイトで、ユーモラスなヘビもたっぷりご紹介しておりますので、是非そちらをご覧いただけたらと思います。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

初公開 手作り絵巻「松蛇伝」2001年2月21日作

思いがけず2024年末に発見されました。2001年加古がユネスコの「識字セミナーの教材として現地(ベトナム)で作成」とあります。

折り畳まれた紙を開いていくと次々に絵が広がっていき、題名から察せられるようにヘビが登場しますので苦手な方はお気をつけください。

ある山の松の木

あやしいあかいもの

それは大きなへびのした

へびのからだは大きく

ふとくてあばれるが

それをあやつる蛇の少年

松の肌は蛇のうろこー

2024年を振り返って 

出版

2024年は、おかげ様で多くの書籍を出版することができました。

① 『かこさとし童話集』10巻(偕成社)が完結
② 『かこさとし 新・絵でみる化学のせかい』5冊シリーズ(講談社)を11月に出版
③ 『くらげのパポちゃん』(講談社)出版決定、2025年2月出版予定



かこさとし童話集全10巻(偕成社)|

かこさとし 新・絵でみる化学のせかい全5冊(講談社)

展示会

展示会も開催でき、多くの方々にご来場いただき誠にありがとうございました。
④ 軽井沢絵本の森美術館にて「かこさとし 絵本への まなざし」展6月14日〜10月14日
⑤ 鎌倉芸術館にて、こどもてんらん会「かこさとしの世界展 ー絵本と紙芝居ー」8月4日〜13日
⑥ セーレンプラネット(福井市)にて特別展「宇宙のえほんとおもちゃーかこさとしの科学絵本」
12月7日から開催中、2025年1月17日まで

報道

⑦4月11日、かこさとしが20代後半から20年余りセツルメント活動をしていた川崎市幸区古市場第2公園(通称三角ひろば)に、その活動を伝えるプレートが設置されました。
⑧4月11日、プレート設置のニュースがNHKのテレビ、ラジオのニュースで報じられ、その日の夕刻にNHKラジオの全国生放送で加古についてお話することができました。

加古が強く望んでいたセツルメントの記念となるものを三角ひろばに設置していただき、広く大きく報道され感慨無量でした。

来年も

⑨ 藤沢市の4図書館での複製画展示を継続することができました。
⑩コロナ禍に始まったオンライン対談もすることもでき、こういった活動を今後も続けてまいりたいと存じます。

今年一年、公式サイトやxをご覧いただき、誠にありがとうございました。
どうぞお元気で佳き新年をお迎えください。

上・下の絵は『いろいろ食事 春秋うまい』(1994年農文協)のあとがきから。
です。

火の鳥 

投稿日時 2024/12/20

皆様にとって、“火の鳥”はどんなイメージでしょうか。

手塚治虫氏の作品を思い浮かべられる方も多いことでしょう。かこさとし最後の作品になってしまった『水とはなんじゃ?』(2018年小峰書店)の絵を描いてくださった鈴木まもるさんによる絵本も出ていますが、デビュー前のかこさとしも20代の若い頃から作品に“火の鳥”を登場させています。

社会人になって、何か子どものためになることをしたいと考えた加古は人形劇と紙芝居の勉強を始めました。1950年作の手描き紙芝居「夜の森」(下)の後半で“火の鳥”が現れます。この紙芝居には人形劇団プークのために、と書かれていて、人形劇が上演される前に紙芝居を見せたりして場を和ませる、そんな役割を加古が依頼され、作ったのです。

かこさとしと紙芝居

手描き紙芝居『かこさとしと紙芝居』より

『かこさとしと紙芝居 創作の原点』(上・2021年童心社)で、そのあらすじと2場面をカラー写真でご紹介しています。加古は、全26場面のこの紙芝居の脚本と絵を『かこさとし童話集 ⑩ 世界のおはなし〈その2〉の最後から2番目に登場させています。

実はこのお話はいわゆる「イワンのばか」のイワンが主人公です。恐ろしい化け物がいる森に入ってはいけないと言われているにもかかわらず足を踏み入れたイワンは、幹に閉じ込められた“火の鳥”を助け出し、素晴らしいお城で暮らすことになったのです。しかしながら、森から帰らないイワンのことを村では⋯
(引用はじめ)
「イワンはばかだからきっと森で殺されたにちがいない。やっぱり夜の森はおそろしや、おそろしや」といって、いまでも、森へ入っていこうとはしませんでしたとさ。
これで夜の森のお話紙芝居はおしまいです。
(引用おわり)

お城の素晴らしさとはいったいどんなことだったのでしょうか。それは見た目の豪華さや美しさだけではなく、“火の鳥”の国の治め方の素晴らしさで、加古はその点を伝えたかったに違いありません。だからこそ246話の童話集の最後から2番目に収録したのではないかと思われます。

紙芝居を作りはじめた頃にすでに“火の鳥”のお話を「紙芝居童話」にし、自ら編んだ『童話集』の目立つ位置に配置したほどですから、絵にも当然描いています。

セツルメント(ボランティア)活動で子どもたちにお話を語ったり紙芝居を見せたり、あるいは絵の指導を始めてすぐに描いた「おもちゃの国に朝がきた」(下左・1952年)はおもちゃや絵本を持っていない子どもたちにこの絵を前に世界のお話をしたり、鳥は何羽いるかというクイズを出題したり、しりとりの最初の言葉をこの絵の中から選んだりして活用していました。

その左上の隅にやっこだこ、平和の象徴ハトの間に描かれているのが“火の鳥”です。この絵のモチーフを活かし『こびととおとぎのくにのあそび』(1991年農文協)の最後を飾るのが[おとぎのくにに あさがきた]と題する絵です。

「おもちゃの国に朝がきた」1952年制作の画( 一部)

左の絵を元に新たに描いた「おとぎのくににあさがきた」

“火の鳥”は不死鳥ともいわれるだけあって(?!)2024年11月に43年ぶりに新版として講談社から出版された全5巻シリーズ『かこさとし 新・絵でみる化学のせかい③ 化学の大サーカス 技術の歴史』にも登場しています。

最初のブラウン管テレビに映し出された色鮮やかな画面が、どのような仕組みだったのかということを説明する[まばゆい火の鳥 蛍の光]という見出しで、加古は ロートレックの作品を元に“火の鳥“を描いています。

ブラウン管テレビの仕組みでは、熱をともなわない蛍光ということが重要な意味を持っているのですが、先程ご紹介した『かこさとし童話集⑩夜の森』の“火の鳥”の記述(下)が思い出されます。

(引用はじめ)
ゆらゆら赤い焔がもえている火の鳥なのに、ちっとも熱くもなければ、焦げたりなんかしないのです。そして強く明るく燃えているのです。
(引用おわり)

お正月の七草粥を作る時に、七草を刻みながら唱えると言われる言葉に🎵唐土の鳥が日本の土地に わたらぬさきに、とありますが、唐土の鳥とは朱雀や鳳凰、つまり火の鳥につながるもののようです。『こどもの行事 しぜんと生活 1月のまき』の七草がゆの項目で次の絵とともに紹介されています。

最後にもう一つ、加古がいかに”火の鳥“に思いがあったかがわかる絵をご紹介しましょう。

これは2010年に開催された科学未来館での展示用に描いたポスターです。たくさんの絵本のキャラクタともに、画面左上、からすたちの上に飛んでいます!

下の部分拡大をご覧ください。「かみなりちゃん」の後に見事な姿です。そしてその左下の地球上には加古らしき人もいます。

実はこの絵を再びチラシとして使った展示会が2024年12月から福井県セーレンプラネットで開催中で、この大きな絵も展示しています。

展示会であるいは本で、加古作品の中の“火の鳥”にであっていただけたらと思います。

みなさんがいらっしゃる場所の今日のお天気はいかがですか。
晴れ、曇り、雨、雪のところもあることでしょう。風が強いですか。

2024年12月14日北海道新聞〈卓上四季〉は「雪がしんしんと降ってくる」という言葉で始まり、「雪んことそり」と題して、幼い子どもたちはそりにのせられ「雪の匂いを胸いっぱいに吸い込んで」成長していくそうです。北海道の空模様と空気が伝わってくる文章に続き、かこさとしの『ゆきのひのおはなし』(1997年小峰書店)を紹介しています。

その日の空模様に合わせて、あるいは明日なってほしいお天気に合わせて絵本を読むのも楽しそうです。

雪に関する絵本は当サイトでもご紹介しています。

かこさとし 雪の本

12月8日におもう 

投稿日時 2024/12/07

12月8日は太平洋戦争開戦の日です。
『こどもの行事 しぜんと生活12月のまき』(2012年小峰書店)には次のような始まりで説明があります。

(引用はじめ)
1941(昭和16)年12月8日、すでに四年前から中国と日中戦争をしていた日本は、アメリカのハワイ、オアフ島の真珠湾(パールハーバー)にあるアメリカ海軍の基地を奇襲攻撃して、ヨーロッパでおきていた第二次世界大戦に加わりました。このアジア太平洋地域が戦場になった戦争を太平洋戦争といいます。
(引用おわり)

そしてこの「戦争によって、おおきな犠牲を日本国民だけでなく、ほかの国ぐにの人びとにもおよぼしたことをよくかんがえ、戦争のない真の平和をつくために、まず日本は真剣に平和な世界の実現を追求しなければならないとおもいます」と結んでいます。

その地図を見ると、どれほど広範囲にわたり多くの国々、人々を巻き込んだのかと思います。

戦争中、国内にいた加古が見たことを記した2冊の本が以下で紹介されています。

「戦争と平和」を考える本

この絵は、度講談社より新版として出版された『かこさとし 新・絵でみる化学のせかい』5冊Sシリーズの『1 原子と分子のたのしい 実験』の最終場面です。

なぜテーブルいっぱいに並んだご馳走が化学の本の最後に登場するのかというと、調理と化学の実験は共通しているのです。

そんなことを藤沢市の鈴木恒夫市長さんはじめ皆様にお話しする機会となった、藤沢市民図書館への贈呈の様子は以下でご覧ください。

化学の本シリーズ 藤沢市民図書館に寄贈

2024年11月25日に発売となった『かこさとし 新・絵でみる化学のせかい』(講談社)5冊シリーズ、20冊を加古が晩年半世紀ほど暮らした藤沢市に寄贈しました。

藤沢市の鈴木恒夫市長に加古総合研究所よりお渡しする写真とともに市長さんの「読んでみたくなるワクワクした作品」といったコメントなどまじえながら「東京理科大の藤嶋昭名誉教授が監修し、(中略)新型コロナウイルスなどの記載が加わっている」と新版の特色などが報じられました。

国内外で選挙に関しての話題が多かった2024年です。

11月24日の神戸新聞〈日々小論〉では、かこさとしの『こどものとうひょう おとなのせんきょ』を取り上げ、あとがきを引用しながら「メディアの選挙報道はもちろん、交流サイト(SNS)の情報発信のあり方など、さまざまな観点で検証が求められている」としています。

以下は、そのあとがきです。

絵本のカバーと帯

投稿日時 2024/11/20

絵本のカバー

絵本の多くにはカバーがかけられていますが、福音館書店の特に小さいお子さん向けの絵本にはカバーがありません。たとえば「だるまちゃん」シリーズや「ことばのべんきょう」シリーズなどがそうです。

これはカバーがあると小さいお子さんが本を持ちにくいということからなのではないかと想像しています。一方絵本でも、もう少し上の年齢の方がお読みになるであろう『海』『地球』『宇宙』『人間』にはカバーがかけられています。

カバーは表紙の汚れを防ぐ意味もあり、1968年に童心社より出版された「かこさとし かがくのほん」10巻シリーズ(旧版)には透明のビニールのカバーがかけられていました。

ほとんどのカバーは表紙と同じ絵が印刷されていますが、『万里の長城』(2011年)は龍のカバー(上)を外すと長城(下)が現れます。

表紙がソフトカバーの場合はカバーと表紙が違うことが多く、『だるまちゃんと楽しむ日本の子どものあそび読本』(下左・2016年福音館書店)はカバーを外すと旧版ともいえる『日本伝承のあそび読本』(下右・1967年福音館書店)を彷彿とさせるオレンジ一色の表紙が目に飛び込んできます。

この本の仕掛けを参考にしたのが『かこさとし 子どもたちに伝えたかったこと』(2022年平凡社)です。この年開催の Bunkamuraでの展示会の公式図録でもあり、表にはだるまちゃんとだるまこちゃんにからすのお父さん、お母さん。裏表紙にはからすの一家が飛んでいますが、このカバーの下から現れるのは、モノクロのペン画です。
ちょっと怖そうな恐竜の背中には子どもが乗っていて恐竜たちの言葉には加古のユーモアたっぷりのセリフがそえられています。

絵本の帯

カバー上にまく、帯はずいぶん前からあるようですが、最近は『からすのパンやさん』ホリデー版のように、カバーとほぼ同じ大きさの巨大帯まで登場しています。

2024年11月21日に出版の『かこさとし 新・絵でみる化学のせかい』5冊シリーズにも帯が巻いてあり、【かこさとしの人気化学絵本シリーズが最新データと学説で生まれ変わった! 監修 藤嶋昭】とあります。
『太陽と光しょくばいものがたり』(2009年偕成社)の共著者でもある藤嶋先生がいらしたからこそ新版にすることができました。

そして嬉しいことには、各巻に著名な方からのコメントが掲載されています!

『1 原子と分子の楽しい実験』

東京大学名誉教授の養老孟司先生からのメッセージです。
【化学の説明を通して、かこさんの自然やこどもに対する深い愛情が伝わってきます。子どもに愛される本だと思います。】

養老先生とは加古は対談でお話をさせていただき、このような心に響く言葉をいただきました。

『2 なかよし いじわる 元素の学校と周期表』

コメントは絵本作家 ヨシタケシンスケさん。味わい深い絵も添えていただき感激しております。

【思いやりと賢さとユーモアを携えて 人を、世界を、未来を信じていく。かこ先生の本は、私たちにとっててひとつの大きな「答え」であり、「問」でもあり続けるのです。】

『3 化学の大サーカス 技術の歴史』

『水とはなんじゃ?』(2018年小峰書店)の絵を描いていただいた絵本作家 鳥の巣研究家の鈴木まもるさんが、心を込めて嬉しいメッセージをくださいました。

【「そうだったのか、なるほど!」身近な絵の具やテレビ、半導体など、知っているようで知らないことばかり。かこ先生が描く昔の名画との組み合わせが心暖かく秀逸です。】

『4 地球と生命 自然の化学』

『ちっちゃな科学』(2016年中央公論社)の対談でお世話になった福岡伸一先生が、自ら「生物と無生物のあいだ」著者・大推薦!と太鼓判を押してくださいました。

【ビッグバンからRNAワクチンまで。網羅的想像力が全開。しかも科学技術万能主義への警鐘も。かこさとしの真骨頂ここにあり。】

『5 化学の未来 資源とエネルギー』

そしてもう一方、加古が直接お目にかかる機会がなかったのですが、宇宙飛行士 東大特任教授の野口聡一さんからも力強い応援メッセージをいただきました。

【科学技術の光と影を描き続けた、かこ先生のメッセージが時代を超えて蘇る! 資源とエネルギーが循環するサステナブルな未来像を、なつかしいイラストで教えてくれます。】

いずれも加古が読んだら大いに照れることしきりでしょう。
メッセージを寄せてくださった方々にこの場をかりて心より感謝申し上げます。

加古は読者の皆様が出版社にお寄せくださる読者カードを拝読するのを何よりの楽しみとしていました。今は亡き加古ですが、皆様の率直なご感想を出版社を通してお聞かせいただけたら幸いです。

とてつもなく「大きなもの」

投稿日時 2024/11/15

「大きなもの」と聞いて何を連想されますか。

『ピラミッド』、『万里の長城』、『ならの大仏さま』⋯いずれも加古作品になっていますが、2024年11月16日の福井新聞「越山若水」では、その冒頭で加古のデビュー作『だむのおじさんたち』(1959年福音館書店)を紹介しています。

今からさかのぼること65年前、まだ戦後の復興途中にあった日本では電力の供給が追いつかず夕方になると停電が起きたりしていました。当時福音館の編集長であった松居直さんに「時代にふさわしい大きなテーマ」の絵本をかいてほしいと言われてかいたのが、水力発電のため次々と建設されていたダムについてでした。

その後、読者さんからのお手紙をきっかけに、国際協力でインドネシアに建設されたチラタダムを取材して『ダムをつくったお父さんたち』(1988年偕成社)を出版することとなりました。

この福井新聞ではじめて知ったのですが、福井県では足羽ダムが5年後の完成を目指し建設中だそうです。そのスケールの大きさに圧倒されたと記事を書いた方の感想がありました。加古が存命だったら、出かけて行って3冊目のダム絵本に挑戦したかもしれません⋯

加古の2冊のダム絵本については当サイトに詳しい記載があります。

2冊のダム絵本

ダムをつくったお父さんたち あとがき