2021

写真のような◯を見て記号ですと言われたら、なんの記号と思われますか。

気象記号なら、快晴、晴、雨ですが、地図記号なら最初の◯は町村役場です。ちなみに◎は市役所で(気象記号なら曇)、黒い小丸、というか点3つで茶畑です。『かわ』(1962年福音館書店)の裏表紙(下)には地図同様、記号もかこの手書きで書かれています。

さて、冒頭の記号ですが、 ドルトン(1766.9.6〜1844.7.27)考案の記号によると、酸素、窒素、炭素となります。◯の中に縦線1本は窒素、2本になるとナトリウム、3本はカリウム。また、◯の中に+は硫黄、◯の中央にもう一つ小さな黒い丸⚫︎は水素だそうです。

『世界の化学者12か月』(2016年偕成社)の前扉(上)にドルトンの横顔とその原子記号が描かれています。丸い物、りんごにメロン、かこが好んだサッカーのボール、そして地球まで出てきてそちらに目が行きますが是非ドルトンとその記号にご注目ください。

しかしながら、◯の中に多様に書き込んでも原子全てを表すことができず、ドルトンは頭文字(英語)を入れたそうです。

その◯を取り、原子のラテン語名の頭文字を使うことを考案したのがスウェーデンの化学者ベリセーリウスで、現在の原子記号の元になったと『原子の探検 楽しい実験』(1981年偕成社)にあります。

「頭文字がおなじときは。2番目か3番目の字をもうひとつつけて、区別するようにしました。」

上下の図はそういった経緯を説明するもので、3段目に錬金術師の記号、続いてドルトンの記号、最後の段がベルセーリウスの記号です。原子記号は「科学を勉強するための、世界共通のことばとなっているのです。」

ドルトンは化学、物理学、のみならず植物学、昆虫学、数学なども研究し15歳から78歳で生涯と閉じた前日まで気象観測を行い記録をとりました。その興味深い生涯については『科学者の目』(2017年童心社)で取り上げています。是非、ご一読ください。

『万里の長城』がようやく完成した2011年、中国の絵本賞のプレゼンターとして、また北京にある、日本で言えば芸大にあたる大学での講演依頼もあって、長年にわたりこの本の出版を支えてくださった福音館書店の松居直、編集の唐亜明両氏とそのご家族とご一緒に、北京旅行出かけました。

筆者にとっては初めての中国大陸、興味津々でホテルの部屋をチェックして見つけたのが「牙刷」。なるほど、たしかに牙、と思ったその瞬間が記憶に残っています。加古は、1991年、1995年にも中国で講演をしていますのでその時に、もう牙刷を目にしていたことでしょう。牙刷とは歯ブラシです。なーんだ、そうか、ですね

『ぼくのハは もう おとな 6さいきゅうしが はえてきた』(1980年フレーベル館)の「けんすけ」くんがキバヤマ先生に診てもらう理由は、ハの奥の歯がないところが白くなってきて変な感じがしたから。それは6歳臼歯が生える合図です。

6歳臼歯は大人の歯で一番力が強い、ということで、横綱牙の山まで登場。しかも磨きにくいこと、どうやったらきちんと磨くことができるかを教えてもらいます。

あとがきをどうぞ。
(引用はじめ)
だれひとり ムシバになりたいひとはいないのに 5さいごろまでにほとんどのこどもが たくさんのムシバをもつように なってしまいます。ちいさいので いうことをきかなかったり まわりのひとの きのつけかたが よくなかったこともあるのでしょう。
ムシバになったハを きちんと なおしてもらっておくと まもなく あたらしく おとなのハがでてきます。 このほんは そのとき もう まえのしっぱいを くりかえさないようにと おもってかきました。 こどもも まわりのおとなも がんばってくださいね。
(引用おわり)

この本が出版された1980年頃は、日本の子どもの多くがムシバを持っていました。現在ではずいぶん減っていますが、一方でひどいムシバの子どもがいるのも事実です。また、6歳臼歯といわれ、最初に生えてくる永久歯は大人にとっても磨きにくくムシバになりやすいようです。どうか大切になさってください。

2021/05/22

いちにち

陽がのぼり、陽が沈んで、いちにち。

それを描いている絵本といえば、『あさですよ よるですよ』(1986年福音館書店)があります。豆の子どもたちが朝起きてから夜、寝るまでの生活を通して時間という目に見えないものを知ることができるよう、各場面にはさりげなく時計があるのもそのためです。

歯磨き、洗顔、トイレに朝ホウキ、園に出かけ、たくさんいろいろなことをして、帰り道でお買い物のお手伝い、お風呂でっさっぱりしたら、お行儀よく夕食をして、ピアノの演奏で一家団欒、いちにちが終わります。ぐっすり眠る窓の外には星が瞬きます。う〜ん、ゆとりのある理想の生活。

働く大人の一日をお子さんが、楽しみながら知ることができるのが『うさぎのぱんやさんのいちにち』(2021年復刊ドットコム)です。

朝早く暗いうちからパンやさんのいちにちが始まります。パン作りの工程がすすみパンが焼き上がると店先にはいい香りが漂う中、お客さんがやってきます。次々に焼き上がる沢山の種類のパンの中には、可愛い動物パン、美味しそうなおかずパン、世界中のパンが集まってきたようで見ているだけで幸せになります。園のお昼もみんなニコニコでパンをいただきます。

陽が傾くと賑やかなお店も閉まり、パンを作る場所はすっかり掃除も終わり明日の朝までおやすみです。見上げれば外には月が出ています。おや? 月のうさぎさんはお餅つきではなく。。。

きっと美味しいパンが食べたくなります。だからお家で作れるパン焼き方法のページもあって、愛らしいうさぎさんたちにも会えるし、パンやさんの仕事もわかるいちにちの物語。

小さいお子さんと一緒に楽しむのに、そして忙しい大人が一日の終わりにリラックスするにも、ぴったりの2冊です。

この本は小学2年生の理科の副教材として半世紀以上前に出版されたものです。

表紙の丸メガネはかこではなく一回り年上の物知りだった兄。右側の少年が、子ども時代のかこです。小学生時代の虫取りの思い出を語りつつ、昆虫とは、動物とは、と知らず知らずに生き物に興味が深まるような内容です。『だるまちゃんの思い出 遊びの四季』(2021年文春文庫)に綴られている、生まれ故郷、福井県越前市での幼き日のかこの姿と重なります。

あとがきをご紹介します。

(引用はじめ)
私は小さい時、この作品に出てくるような川や野原で、虫や風や水を友達とし、自然を相手に毎日を送りました。その自然の中での遊びは、どんなに後の勉強や仕事や考えや生活のかてになったか分かりません。今から思えば、本当に貴重な毎日だったと思っています。

この頃は、都会と言わず農村と言わず、近代化の波に乗って、どんどん自然が失われています。単なる昔なつかしさからではなく、子どもたちが成長し、発育する上に、自然が失われていくことは、やがて大きな影響を与えることだろうと心配しています。

けれども、まだまだくふうすれば、子どもたちにとって自然は残っています。自然の中の遊びを大事にし、互いに励まし、刺激しあって、この偉大な教師に接する機会を与えてくださることが、私の希望です。加古里子
(引用おわり)

2021/05/12

愛鳥週間

愛鳥週間にちなんで、2021年5月11日の福井新聞「越山若水」では、先入観にとらわれず、からすが主人公の『からすのパンやさん』を子どもたちが楽しんでいるとありますが、カラスに限らず、かこの作品には本当に多くの鳥が描かれています。およそ野外での場面には、科学絵本であれ、童話であれ読み物であれ、鳥が出てこないものを探すのが難しいほどです。

今年出版された『くもとりやまのイノシシびょういん』(2021年福音館書店)では、印象に残るカワセミのお話があります。最新刊『だるまちゃんの思い出 遊びの四季』(2021年文春文庫)の表紙には、だるまちゃんたちが歩く、はるか上には鳥たちが見えます。

『こどものあそびずかん』(2015年小峰書店・上)は季節ごとの4巻それぞれに、鳥の紹介ページ。『だるまちゃんしんぶん』(2016年福音館書店・下)も同様に四季それぞれの鳥のコーナーがあるといった具合です。

愛鳥週間として紹介をしているのは『こどもの行事 しぜんと生活 5月のまき』(2012年小峰書店・下)で、鳥の鳴き声と「ききなし」(鳥の鳴き声を人間の言葉におきかえたもの)を合わせて多数掲載しています。
例えば、メジロは♪ピーチュル、チューイ、チューイと鳴き、それを「ききなし」では、
〽︎ちょうべえ、ちゅうべえ、ちょうちゅうべえ

ホオジロは、
♪ツツピー、ツツピー、チッチッチッ、チッピー 
♪ピーチュー、ピリチュリチュー

それが「ききなし」になると
〽︎いっぴつけいじょう、つかまつりそうろう
〽︎げんぺい、つつじ、しろつつじ
〽︎でっち びんつけいつつけた

いずれも時代が感じられますが、面白いものがまだあります。ひなたちが巣立つ頃、無事に大きくなあれと願っています。

冒頭でご紹介した福井新聞の愛鳥週間に関わる記事は以下でどうぞ。

福井新聞 愛鳥週間

今日、5月2日はかこの命日ということで、最後の絵本となった『みずとはなんじゃ?』(2018年小峰書店・絵/鈴木まもる)の下書き(下)などにもふれながら、水が人間ひいては地球にとって、いかに大切かを伝えていると紹介しています。

この論説では、汚染水の海洋放出に関して、かこが敗戦時の大人に対して抱いた失望をひいて、「子どもたちを落胆させてはならない。」と結んでいます。

照明灯 

2018年5月2日にかこさとしが逝去して、今年で3年となります。

このほど見つかりました昭和55(1980年)9月の講演映像からほんのわずかではありますが、かこさとしの講演の様子を公開致します。

この年、54歳のかこが書いた本は、ポプラ社 かこさとし こころのほんシリーズ『うさぎぐみとこぐまぐみ』『ねんねしたおばあちゃん』です。

前者はダウン症の子どもを後者は老人問題をテーマにしていて、40年前にすでにこういったことを絵本としている点も、かこさとしならではです。

冒頭の絵は同じく1980年刊行の『むしばちゃんの なかよし だあれ』(フレーベル館)のあとがきに添えられているものです。『ぼくのハはもう おとな  6さいきゅうしがはえてきた』(フレーベル館)も同年出版です。

いずれも子どもたちの心身の健やかさを願った作品です。それでは、若かりし頃の姿をどうぞご覧下さい。

かこさとし 50代の動画

読もっか 子ども高知新聞55号 図書館だより

かんじゃさんをしっかりみて

「若葉が日ごとにこくなってくる良い季節でも具合が悪くなったり、ケガをしたり。そんな時にオススメの病院」としてこの本を紹介しています。

ちょと怖そうな顔のイノシシ先生が、患者さんの話をやさしくゆっくり聞く診察室をのぞいたら、元気のある人も、ない人も、おとなでも子どもでも、きっと安心できます。

ステイホームでおうち時間が長い今、イノシシ先生のお話をどうぞ。小さな7つのお話で構成されていて、小学生なら自分で読めます。

本書についての詳しい情報などは、当サイト上部2021年2月2日のメディア情報をご覧ください。

実験用の安全メガネをつけ実験衣(白衣)を着た、こどもたちとワンちゃんネコちゃんが見つめる先は、何やら大喜びのヒゲの実験者。後ろには、これぞ物尽くし、とも呼びたいほど沢山のフラスコ、ガラス管などが複雑に入り組んだ実験設備が壁のようにそびえています。

一方、そんな光景を気に留める様子もなく、視線が目の前の器具、中の臭いを嗅いでいるメガネさんは、若き日のかこさとしのような雰囲気です。手にしているものの匂いに全神経を集中してその正体を考えているようです。

冒頭の場面が登場する『原子の探検 たのしい実験』(1981年偕成社)は、日本化学会のご依頼で執筆したシリーズの一冊で、分子や原子の発見や原子記号誕生の歴史を紹介しています。

また、基本的な実験方法や注意点も列挙されています。その中には、水に溶けないガス(気体)をとる方法としてキップの装置(上)も描かれています。

この本の前扉には同じ装置が描かれ、ワンちゃんがじっと見つめています。ところがこの絵には、一つだけ実験とは関係のないものが存在しています。

舌なめずりするネコちゃんの視線の先です。その視線を感じて、横目で警戒するこの金魚の表情、無機質な実験装置が3匹の動物の視線で、親しみのあるものになっています。かこさとしならではのユーモアです。

金魚がいる水は普通の水ですから金魚に害はないはずが、ネコちゃんには要注意?! 読者の皆さまのご心配を取り払うかのように、この本の最後にはご馳走に喜ぶ2匹がいて幕となります。

赤い帽子のとこちゃん。お母さんの買い物についていっても、動物園やデパートでもいつのまにかいなくなってしまいます。

さまざまの場面に大勢の人がいる場面は、まさに密。今となっては遠い昔の世界のようにさえ思えてしまいます。各地でコロナ禍の対策としてステイホームが望まれているゴールデンウィークは、この本の中で、海やデパートにお出かけはいかがでしょうか。

かこさとしは、この本は有名な探し物の絵本より早く出版されていたことに加え、物語であることにも注目していただきたかったようです。楽しみながらじっくり、とこちゃんの物語を味わっていただけたらと思います。

ロングセラーとして以下のサイトで紹介されています。

とこちゃんはどこ