編集室より

2020/06/27

富士山

7月1日は、例年なら富士山の山開きですが、今年は登山道が閉鎖されるそうなので、登らずに眺めて楽しむ夏になります。残念ですが、だからこそ富士山の絵や本をご覧いただきましょう。

かこと富士山の出会いは小学校2年生(1933年)の6月10日、生まれ故郷の武生(現在の福井県越前市)から東京に転居する道中、東海道線の車窓から見たのが最初でした。小学校を卒業するにあたり作った絵いりの文集『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社・上)には、下のような挿絵があって次のように書いています。

(引用はじめ)
「僕が絵をうまくまったのはこのときからである。景色のよい中部の山々、太平洋や富士の勇姿を見ては、自らどうかしてあのようなよいものを紙の上へうまくあらわそうと思った。」
(引用おわり)

その後中学生の時、野営、今風に言えばキャンプですが、戦争の足音が近づく時世で鍛錬のために学校で出かけた山梨で板に描いた富士山の油絵があり、全国巡回展(次回は2020年12月12日から盛岡市民文化センターで開催予定)でご覧いただいています。

富士山といえば世界的に有名な葛飾北斎の「神奈川沖波裏」が思い浮かびますが、かこは『こどものカレンダー4月』(1975年偕成社・上)の中で北斎の描いた富士山を模写して掲載しています。ご覧いただいているのがその場面で「山下白雨」の模写(下)なども全国巡回展で展示しています。

富士山の美しさを独自の分析でご紹介する『富士山大ばくはつ』(1999年小峰書店)は富士山の美しさを愛した、かこさとしらしさが溢れる科学絵本です。

地質、生物、気象、文学、芸術などの要素を含み総合的に富士山誕生の過去から未来を見通す視点、登れない今年にこそおすすめ致します。

みんなこどもから教わった

『からすのパンやさん』

愛媛県歴史文化博物館で開催中の「かこさとし絵本展」の見どころを学芸員さんの解説で紹介するシリーズの第3回目は、『からすのパンやさん』(1973年偕成社)について。

見開きいっぱいのパンの場面をいつまでも見ていた覚えのある方も多いことでしょう。パンやさんにやってくるからすたちの個性的なこと、4羽の子どもが家のお手伝いをしてお店を盛り立てる「個性を尊重し共生に思い」そこに「社会を考えるヒントを与えて続けている」と解説。

この本とその続編『からすのおかしやさん』(2013年偕成社)については以下の偕成社のサイトを是非ご覧ください。本屋さんで手に入る素敵なプレゼント情報があります。

偕成社 からすのパンやさん

2020年6月30日愛媛新聞 「加古作品の魅力 知って 児童らに読み聞かせ」

本展示会にあわせて6月27日には歴史文化博物館のある西予市の図書交流館分館で学芸員さんによる絵本の解説と読み聞かせ会が開かれ6月30日愛媛新聞にその模様が写真とともに紹介されました。以下でどうぞ。

愛媛 読み聞かせ

誕生日に贈りたい絵本

『からすのパンやさん』については絵本ナビスタイルで、「3歳、4歳、5歳の誕生日に贈りたい絵本」として紹介されています。以下でどうぞ。

絵本ナビ からすのパンやさん

もう半世紀以上も前のことになります。筆者が小学3年生だった時、お父さんの絵を描くという課題が出されました。それにはまずお父さんに日頃はどのような仕事をどんな所でしているのかを聞いてきましょうと言われました。

当時、かこは化学会社の研究所に勤務していましたので、白衣を着てフラスコを振っている絵を描きました。級友には母子家庭の子もいて、なんだかかわいそうな宿題だと思ったことが強く心に残っていて、父の日や母の日をお子さんたちに向かって話題にすることができないまま長い時間が過ぎました。

昨年の夏、小松市立 空とこども絵本館のお招きで小風さちさんと父のことをお話しする機会がありました。小風さんは、かこを絵本の世界にデビューさせてくださった福音館書店の編集長(当時)松居直さんの御息女で、2011年には出版に関しての講演のため松居さんご家族と北京旅行をした楽しい思い出もあり、小風さんがご一緒ならと、慣れないお話を引き受けた次第でした。

その時の講演「父の話をしましょうか〜「かこさん」と「松居さん」〜を編集、一部加筆したものが2020年3月31日、かこの誕生日に合わせて出版されましたが、ちょうどコロナ禍でお手元に届くのが遅くなってしまいました。ようやくご要望にお応えできるようになりましたので、改めてご案内致します。

本の編集や、執筆にご興味のある方、娘の目から見た父親の姿が垣間見える本冊子をお読みいただけたら幸いです。
詳しくは以下でどうぞ。

父の話をしましょうか

Twitterも是非どうぞ。

ブックスタート

幼い頃、雷が光ってから、いくつ数えたら音がするのかをかこと数えたことが何回もありました。数が少なくなると「近づいてきたぞ」の声に緊張したものです。

「かこさとし かがくのほん(全10巻)」は1968年に童心社から出版され、ご覧いただいているのは1988年に新版となったものです。このシリーズでは、出版社の意向で絵を他の方にお願いすることになり、(ただし、『よわいかみつよいかたち』は引き受けて下さる方が見つからずかこが描きましたが)この本は2020年6月に逝去された田畑精一さんが担当されました。

田畑さんとは、かこが人形劇団プークで人形劇のことを学びお手伝いをしていた頃に初めてお目にかかったようです。

本のカバーには〈物理〉とありますが、かこは、ただ単に光と音を物理的に紹介するにとどまらず、もっと広い視野を持って書いたことが、「あとがき」からわかります。題して「何がちがい、何が特長かをを見落とさぬこと」、ご一読ください。

何がちがい、何が特長かをを見落とさぬこと

(引用はじめ)
映画やテレビから、すぐおわかりになるように、音と光のもつ魅力は、私たちの五感に、特に華やかな、豊かな印象を与えます。感受性の鋭い子どもたちは、素直にその魅力のとりこになります。すばらしい芸術や文化はもちろんのこと、スポーツや学問さえも、この音と光をぬきに考えられません。

この、誰もがその恩恵を受けている音と光は、よく考えてみると、その実体はたいへんむつかしいものです。しかも、私たちは、音は耳にきこえるもの、光は目にうつるものとして、別々に考えがちです。

そういう、全くはなればなれのものにも、共通性があること、その両者に通ずる適当な尺度を選ぶと、異質のものも対比できることを、私はこの本に盛り込みたいと念じました。比べるということは、差を見つけるとともに、同一性を見落とさないと言う重要な科学の基本であることを知ってほしいのがこの本の願いです。高大強優の結果だけをよろこぶのではなく、それぞれの特長個性を知り大切にするためです。ひょっとすると学課試験の成績や偏差値もそうであるかもしれませんね。
かこ・さとし
(引用おわり)

特集 「今、家の中の たのしみを考える」

特集は、絵本作家の皆さんの提案する家の中でできるお楽しみアイデアいろいろ。そんな趣旨にそって「だるまちゃんとあそぼう!」とクイズとぬりえが再登場しました。
1969年に掲載されたものの再録で、当時のかこは視野も正常できれいな線のだるまちゃんとだるまこちゃんがクイズを出題しています。お楽しみください。

いろは歌の作者ともいわれる空海が生まれたのは6月15日、三筆の一人でもあります。
『こどものカレンダー6月のまき』(1967年偕成社)には「空海は、真言宗をひらいた僧であるとともに、学問・教育・文芸・美術にすぐれた人でした。かな文字やいろは歌の作者とつたえられているのは、その偉大さをたたえたあらわれといわれています。」とあります。

次のように続きます。
(引用はじめ)
空海は、日本でいちばんはやく、ふつうの子どものための学校を開きました。その名まえを「しゅげいしゅちいん(綜芸種智院)」といいます。
(引用おわり)

『人をたすけ国をつくったお坊さんたちー日本の土木工事をひらいた人びとー』(2004年瑞雲舎)にも空海が登場します。

道登(どうとう)、重源(ちょうげん)に続き空海は土木や建設工事によっても人々をすくいました。仏教でいうところの「利他行」(自分のことより他の人を助ける行い)です。

「また828年空海は大輪田造の別当(責任者)に任命され」行基がつくり、重源が修理した「港をさらによく整え」たのでした。

835年に亡くなり、「その功績により延喜21年(921)に弘法大師という称号がおくられました。」

この本のあとがきにあたる部分を引用します。
(引用はじめ)
お坊さんが、土木や建設の工事をしたのは、お金や地位を得るためではありませんでした。

農民や下づみの人々の苦しみをのぞこうと願い、その人の立場になって考え、計画をつくり、一緒に苦労して役に立つ土木の仕事を進めていったのです。

このお坊さんたちは、日本の土木工事の技術や知恵を切り開いただけでなく、土木や建設にたずさわるものに、誠実な考えや深い思いを失ってはならぬことを、身をもって教えてくださったことをお伝えして、この巻をおわります。
(引用おわり)
本文や横書きで漢字にはふりがながあります。

2020/06/01

カビ

梅雨時、気になるのがカビです。エアコンが普及した昨今はまだしも、先人たちはどんなにか悩まされていたことでしょう。かこも『こどものカレンダー6月のまき』(1975年偕成社・上・下)では、小さなこどもにもわかるように絵を入れて説明しています。

(引用はじめ)
「ばいきんは①じめめした②あたたかい③うすぐらいところに ある おいしいたべものが だいすきで、かずを どんどん ふやします。
たべものに、たくさん ばいきんが ふえると、かびがはえたり、くさったりします。

⚫︎よごれた てや かおには、たくさんのばいきんが ついています。きれいに てを あらいましょう。」
(引用おわり)

そして[おうちのかたへ]次のようにお願いしています。
(引用はじめ)
「物を腐らせたり、有用な薬を作りだしたりする力があるバイキンは、目に見えないくらい、小さな生物です。そのバイキンがいることをカビや、くさった物をみたとき、教えてあげてください。」
(引用おわり)

この言葉にあるように、悪者扱いされるカビですが人間にとって役立つものもあります。発酵食品が好例ですが、薬として大きな役割をはたしているのがペニシリンです。『世界の化学者12か月』(2016年偕成社)では6月の化学者として【アオカビを守りそだてた3人の学者】を紹介しています。

1906年6月19日、ドイツに生まれたチェーンは、父がユダヤ人であったためイギリス、オックスフォード大学にわたり、オーストリア出身のフローリー教授の元で研究を始めます。

フローリーは「第二次世界大戦できずついた兵士をすくうため、細菌をとかす物質をしらべているうち」「イギリスの細菌学者フレミングが、アオカビからみつけた、細菌をとかすペニシリンの論文」を見つけます。

チェーンとフローリーが工夫を重ねてフレミングが得たより「100倍も強いペニシリンをつくることに成功」したのは1940年のことでした。「空襲のつづくロンドン」で命がけでペニシリンを守り育てた方法は壮絶なものでした。

アオカビを守り育てた化学者たちの苦心と努力については是非、本文をお読みいただければと思います。大戦中につくりだされたペニシリンは、戦争で傷ついた人々を感染症から救っただけでなく、今日に至るまでこの薬のおかげで多くの人々が助けられています。

もし、戦争が起きず負傷者もいなかったら、この薬は開発されなかったのかもしれない。。。と考えると何が災いで何が幸いであるのか、人間の歴史の複雑な経緯を思わざるを得ません。

『こどものカレンダー6月のまき』(下)のあとがきの一部を引用して終わります。
(引用はじめ)
じめじめして、カビが生えたりする嫌な時ですが、このころ降る雨のおかげで、わたしたちは、だいじな水の資源が得られるのですし、米や作物のみのるもとがつくられるのです。

ですから6月は、特に体に気をつけ、飲み物や食べ物に注意して、丈夫で健康で、暑い夏を迎えるよう心がけてください。
(引用おわり)
本文は縦書きで漢字にはふりがながあります。

コロナ禍で滞ってしまいましたが、藤沢市役所本庁舎1階のホールの絵を掛け替えていただきました。1枚ではありますが、『あさですよ よるですよ』(1986年 福音館書店)の第2場面をご覧いただけます。

まめちゃんたちが、あさ起きてからのいろいろな動作が並び、小さなお子さんに日常の習慣や時計の読み方を覚えていただくのにお役に立つかもしれません。

本の印刷より鮮やかで緑色が爽やかなこの絵の展示は8月末頃までの予定です。お近くに行かれましたらご覧ください。

かこさとしの生まれ故郷、福井県越前市武生中央公園にはこの絵本をモデルにした、小さなお子さん専用の「まめちゃんえん」があり、立体のまめちゃんたちに会え遊具で遊べます。機会がありましたらお出かけください。

梅雨入りした地域もあり、まもなく6月を迎えます。
『こどもの行事 しぜんと生活6月のまき』(2012年小峰書店)の表紙も雨降りで紫陽花の花、裏には蛍狩りです。

6月の別名が数々前扉(下)に並びその中には常夏月(とこなつづき)という名もあります。これはカワラナデシコ(別名・常夏)の花がさく月だからです。このカワラナデシコはかこが好きな花の1つでした。
絵は麦畑、麦秋の様子で本文には「ムギの秋」として説明があります。ムギの種類や収穫方法、ムギワラ人形の作り方も載っています。

6月のまきでは歯がため、衣替え、虫歯予防デー、芸事はじめ、父の日などお子さんたちに関係の深い事柄や時の記念日や夏至、お米のできるまでなどもわかりやすく解説してあります。また6月23日に生まれたヘレン・ケラーさんにちなみ手話、指文字も絵いりで全部紹介しています。あとがきをどうぞ。

6月あとがき

生活に大切な歯と時間!

(引用はじめ)
6月4日を「虫歯」に語呂を合わせて「虫歯予防デー」としたのは1928(昭和3)年のことでしたが、既に室町時代から、氷もちやかきもち、あられを6月1日に食べ、歯や体の健康を保つならわしがありました。

また、6月10日を「時の記念日」としたのは1920(大正)9年ですが、これは天智天皇のむかし、漏刻と言う水時計をつかいはじめた日にちなんでいます。

人間の生活にたいせつな歯の健康や時間について、むかしのならわしを今の時代に生き返らせた行事が6月にあるのは、とてもすばらしいことだとおもいます。
(引用おわり)
本文は縦書きで漢字にはふりがながあります。

この6月のまきをはじめ『こどもの行事 しぜんと生活』全12巻の表紙・裏表紙の複製原画を現在開催中の愛媛県歴史文化博物館「かこさとしの絵本展」で展示しています。12枚揃ってご覧いただくと日本の四季を改めて感じていただけることとおもいます。

かこさとしのペンネームの「かこ」はあいうえお順の前の方の音で選んだとーその1ーでお伝えしました。この絵はその「かこ」がひらがな、かたかなで書いてある本の前扉です。何の本だかおわかりですか。左ページの紙、右ページの図形がヒントで、答えは『よわいかみ つよいかたち』(1968年 童心社)です。一見弱いように見える紙もなかなかどうして強いのだ、ということが自分で確かめられる科学の入り口にぴったりの絵本で、少しのかたかな以外は全部ひらがなで書かれています。

さて、前回ご紹介した『ありちゃんあいうえお』(2016年講談社)の後半は、かこが孫である二人の男の子を間近に見ながら創作した詩です。孫の名前にちなんだ言葉を選んだり、小さな子どもの様子を再現してほとんどひらがなで書かれていますので、お子さんから読めるやさしいリズム感ある言葉の連なりです。

『こどものカレンダー12月のまき』(1975年偕成社)には、「わがはいは、ねこであるぞよ。それでは おもしろい おいうえお ものがたりを おしえよう。」と前置きがあり、猫が語るあいうえお物語が始まります。それでは、お楽しみ下さい。

あいうえお ものがたり

(引用はじめ)
むかし、
あいうえお王という わるい おうさまが いました。
かきくけ公という わるい だいじんと、
さしすせ僧という 悪いぼうさんと、
たちつて島(とう)という しまに いって、
なにぬね野という のはらにある
はひふへ法という きそくで、とっては いけない
まみむめ藻というもを、とっていました。
やいゆえ世という よのなかに なって、 わるい 人は
らりるれ牢という ろうやに いれられて、
わいうえ王という よい おうさまにかわりました とさ。
ばんざい ばんざい。
(引用おわり)

この小さな物語の後には[おうちのかたへ]として「あいうえおを棒暗記させるのでは、子どもにとって苦痛になります。楽しみながら覚えるように」とかこのメッセージです。

いろはを覚えるには、『だるまちゃんすごろく』(2016年福音館書店・下)がぴったりです。このすごろくは両面遊べて赤い縁の「おくにおもちゃのいろはすごろく」は、いろは順にすごろくのますを進みます。いぬはりこ(とうきょう)→ろっかくだこ(にいがた)→はとぐるま(ながの)といった具合でそれぞれに郷土玩具の絵がついています。

青い縁の「にっぽんぜんこく おくにおもちゃめぐり」にも1つ1つのますに郷土玩具が描かれていて「ふりだし」の次はほっかいどう→あおもり→いわてと日本列島の北から沖縄まで巡り「あがり」となります。ちなみに北海道は【きぼりぐま】青森は【やわたごま】岩手は【しかおどり】の絵です。

かこの作品があいうえおやいろはを覚えるお役に立てたら幸いです。

尚、このすごろくの複製原画は現在開催中の愛媛県歴史文化博物館「かこさとしの絵本展」でご覧頂けます。出版されているものとは違う彩色で見比べていただくと面白いでしょう。