編集室より

3月5日は、啓蟄。冬ごもりの虫が這い出る頃をさす二十四節気の一つですが、土は冬ごもりの虫だけでなく、私たちにとっても大きな恵みをもたらす大切なものです。

その貴重さ、有り難さをわかりやすく紐解く科学絵本『大地のめぐみ 土の力大作戦』(2003年小峰書店)はこれまでにも、ご紹介しましたが、そのあとがきに「30代の8年間、フミン酸の研究を行った」と、あります。

かこは大学卒業後、民間の化学会社の研究所に勤務し、土壌改良の為の研究を任され、なるべく早く博士号を取得するようにとのことで書き上げた論文を提出しました。その論文のことが以下の東工大のサイトに掲載されています。どうぞご一読ください。

フミン酸

あとがきに添えられた「ミレー作 羊毛をつむぐ少女」かこの模写です。

このウイルス禍の中にいて、ずいぶん前のことですが複数の大人の方から伺った「不安でいっぱいだった入院中に読んで心が落ち着きました」という感想をいただいた科学絵本『人間』(福音館書店)のあとがきご紹介致します。

人間を生命発生から、生物学、歴史、医学そして文化面まで扱ったこの大型絵本は『海』『地球』『宇宙』に続く作品で、かこが『宇宙』のあとがきの最後に「つぎのこのシリーズにとりかからなければ」と記した、まさにその作品です。『宇宙』を刊行したとき、「ついに大きな宇宙の本ができこれでシリーズが終わりですね」と言われたかこは即座に「宇宙よりもっと大きなものがある」と言って周囲を驚かせたました。その時すでにこの『人間』の構想があったわけです。

長いあとがきになりますが、2回に分けてご紹介致します。

人間の総合形を

(引用はじめ)
この本は、これまで読んでいただいた「川」(1962年)、「海」(1969年)、「地球_I (1975年)、「宇宙」(1978年) につづく科学絵本シリーズのーつとして「より大きな 対象を、より広い視野とより深い総合形で」と意図し、 前作の原稿を脱したころ、具体的には1977年後半から 描き始めたものです。

従来、生物としてのヒトや人類/生理医学面の人 体/社会的見地からの民族/産業技術上の人工や人 智/民族風習上の人跡や人生/歴史政治的な国民や人 民/制度法律上の人事や人権/文明文化からみた人文 や人世などの書が出版されていましたが、筆者はそうした部分(傍点あり)ではなく、そのいずれをも包含した、生きた 総合体としての「人間」を、前向きの姿勢で描きたい と志しました。

幸いなことに、この間、関連する学間諸分野のめざ ましい進展があり、その余恵に励まされ、ようやくた どりついたのが本書です。

科学という知の力

上述の望みを達成するため、3 つの柱をこの本のささえとすることにしました。

第1 の柱は、科学絵本としては当然のことながら、 最近の、そして確かな科学の知見と立場を拠り所とし たことです。

人間は地球に現れた生物のーつであり、その地球は 宇宙の誕生によってもたらされたのですから、人間を 科学的に追及してゆくと、どうしても宇宙の問題に結 びついてゆきます。こうして科学を柱とすることは、 この宇宙の出発から人間の諸問題すべてを、科学とい う「知」の力にゆだねることとなります。したがって、 天地創造のさまざまな神話や伝説は、民衆や部族の知 的産物として尊重されなければなりませんが、本書では安易な想像や寓話に託すことを許さず、同様に、核 兵器や公害・環境問題の源を科学のゆえとする反科学や、主因である経済政治機構を無視した非科学の立場をもとらないこととしたわけです。

人間の発生・成長・活動の基本

第2 の柱は、人間にかかわる基本事項の理解と判断 を、「生命の設計書」という表記とその内容によって行ったということです。 人間をふくむ生物の基本は、細胞内にあるDNA(デオキシリボ核酸)に依存しています。「大腸菌の真実はゾウの真実である」と同時に、「ネズミはネズはネズミであり、ヒトはヒトである」ちがいは、その構成する塩基対の差によることが明らかとなったので、よくDNA は「設計図」とたとえて呼ばれます。

さらに、変化する部分や時間にかかわる性質をふくめ「情報テープ/番組プログラム/工程図/スケジュ ール表/楽譜」などともたとえられますが、「一覧でき る図形」より「記述された集録」という面から本書で は「設計書」という名称を用いました。

そして本文中では、そこにふくめる意味をDNA、 遺伝子、染色体、ゲノムと、しだいに広義に拡大しているため、4ヶ所にわたって註を附し、理解していた だくようにしました。

生物の一種のとしての存在

第3の柱は、人間は地球生物の一種にすぎず、したがって人間至上主義を排したということです。

万物の霊長とか、他と基本的に 異なる高等動物といいう意識はもちろん、「進化」という概念にも、人間を最終ゴールとし、最もよく発達した生物の存在とみなす 価値や傾向が、今なおつきまとっているので、本書で は「進化」という語を極力使わず、「進化」(Evolution) 本来の意味である「展開・変化・多様化・顕在化・発 展」を、それぞれに応じて用いることにしました。

この柱によって、生物の歴史は、弱者必滅・強者生 存の競争殺りくの連続であるより、たがいに影響しあ いながら、共生し、たがいに補う歩みをしてきた足跡という面がはっきり浮かび上がってくるということです。

2020/02/29

311

3月11日がやってきます。2011年3月のあの午後、そして翌日。。。信じられない光景を目にし言葉を失いました。地震、津波、そしてそれに続く大災。見ていて何もできない不安な日々でした。

かこさとしは『こどもの行事 しぜんと生活』(小峰書店)12巻の執筆中で、ちょうど3月の巻の原画を出版社にお渡ししたところでした。急ぎ編集者さんに電話をするとまだ印刷所には出していないことがわかり急遽、この日の出来事を組み込むことにしました。計画停電で寒い中、描いたのがご覧いただいている場面です。

あの時、ニュースで何度も 見た原発の構造については、ずいぶん前からかこは描いていました。最初に登場するのはちょうど50年前『でんとうがつくまで』(1970年福音館書店)で、これは「かがくのとも1月号」として出版されました。電気を作るためにタービン(この本では、「じょうきぐるま」と記されています)を回すエネルギーを何で得るかの説明で「げんしりょく」が図で示されています。

そして311が起きてから再注目されたのが、1992年刊行『がくしゃもめをむくあそび』(農文協)でした。これは、かこさとしあそびの大星雲という10巻シリーズの第5巻で、副題「物とは何か科学の難問」とあるように、あそびの本とは思えない難問、お子さんに説明するのをためらうような物理や化学の事柄が並びます。

アルキメデス、ガリレオ、パスカル、ニュートンから「核はんのうの もんだい」「げんばくのもんだい」「すいばくのつくりかた」そしてご覧のような「げんぱつのもんだい」(下)と続き、さらには超電導やアインシュタインも登場します。

もちろん、かこさとしのユーモアたっぷり「がくしゃもあきれる あらまあマシン」など愉快なものもありますので、頭の休憩も出来ます。

絵本ではありませんが、311の後に行った中村桂子氏との対談でも「東日本大震災の後で思うこと」を『リレートーク 言葉の力 人間の力』(2012年 佼成出版社)で語っています。また、『未来のだるまちゃんへ』(2016年文藝春秋)でも「震災と原発」の項目でメッセージを伝えています。ご一読いただけたら幸いです。

幼い頃に楽しんだ絵本が今でも本屋さんの書棚に並んでいるのを見つけると無性に嬉しくなります。
その本を手に取ってページをめくると、あっという間に気持ちは子ども時代に戻っていることに気づきます。
皆さんにとって、そのような本はありますか。たった1冊でもそんな絵本があれば嬉しいですし、子どもたちにはそういう本に出会ってほしいと願っています。

ロングセラー絵本として『からっすのパンやさん』が紹介されています。47年前に出版され、おかげ様で今でも人気です。
以下で。

ロングセラー

パラリンピックの年で、多様性のあり方が様々に報道されています。まだまだそういった事が世の中で多く語られていなかった時代、かこはいち早く1980年刊行の絵本で問いかけています。『かこさとし こころのほん』シリーズ(1980年〜ポプラ社)は当初9冊のシリーズとして刊行され、のち2005年に5巻が改めて刊行されました。順を追って、そのあとがきをご紹介いたします。

やや長い文になりますがお読みください。

あとがき かこさとし

(引用はじめ)
わたしたちの子どもは、父母の細胞核のなかにある染色体の組みあわせによって、形づくられます。お父さん似だとか、口もとがお母さんそっくりになるのは、そうした父母から受けた、体の設計図(書)の組み合わせによるからです。

この設計図(書)である染色体の数は、23対ありますから、その同一父母からの組合わせだけでも、2の23乗x2の23乗、すなわち70兆以上となります。ですから兄弟姉妹でも、よく似ているときも、ちがうときもあることとなります。

この染色体の数が23対、すなわち46個でなくて、過不足となって、子どもに伝えられるときがまれにおこります。ダウン症と呼ばれる子どもは、こうした染色体の、異常によっておこりますが、その原因は、まだあきらかとなっていません。

本人は、もちろんのこと、父母などになんら問題はないのに、こうした障害をもつ子どもにたいし、日本では、まだまだ真の理解が社会一般に、不足しているように思います。

ところが、健康な一般の子と、こうした障害をもつ子がいっしょにいる場合、とくにいじめられたり仲間はずれになることは、ふつうの場合ほとんどおこりません。ぎゃくにいたわりやかばいあうという、他ではみられぬ行動がわいてくるのです。

たまに、わるい状態になるのは、親やまわりの大人たちが、かげ口をいったり、忌避する態度をとっていることが、原因となっているのが大部分です。

欧米に行かれたなら、障害をもつひとや老人に子どもたちがすすんで席を立ってゆずる風景を、あたりまえのようにみうけられるでしょう。どうしてしたの?という余計な質問には、人間は必ずだれでも、健康であり金持ちであっても、年をとれば体が不自由となり、身障者となるのだから、とくべつな恩恵をするのではなく、自分たち自身をいたわり守ることなんだという答えがかえってくることでしょう。

この本は福祉というものを、一部の篤志家に任せたり、募金に応ずるだけでなく人間の意識や生きる姿勢なのだということを、子どもとともに大人の方が、考え直してほしいと念じてかいたものです。
(引用おわり)
本文は縦書き、漢字には全てふりがながあります。

福井県越前市ふるさと絵本館よりお知らせです。

新型コロナウイルスの感染予防のため、2020年3月24日(火)まで高校生以下の入場をご遠慮いただいております。

また、現在のところ、各種イベントを延期・中止いたしております。
皆さまにはご不便をお掛けしますが、ご理解とご協力をお願い申し上げます。

北海道にこの4月ウポポイというアイヌの人々の文化を紹介する国立博物館が開館するそうです。

2020年年2月25日に復刊された絵本『青いヌプキナの沼』(2020年復刊ドットコム)はアイヌの兄妹とを主人公にした物語です。あとがきをご紹介します。

あとがき

(引用はじめ)
同じ人間でありながら、肌の色や風習が違うと言うだけで、地球上では、いまだに争いや憎しみが絶えません。しかもそれは、中近東やアフリカの例に見るように、人間の心を救うはずの宗教がさらに対立を激しくさせていたり、インディアンや黒人問題に見るように、文明や開発の名のもとに非道なことが行われてきました。そしてそれらの事は、何も遠い国の古い事件ではなく、この日本でも起こっていたし、今なお形を変えて行われていることに気づきます。

強大な武器や圧倒的な経済力、あくどい策略によって、勝者は輝かしい歴史を書き上げます。しかし、反対にそれによって奪い取られ、追いはらわれ、閉じ込められた側には、わずかな口伝えしか残りません。そうした小さな伝説や名残の中から、ふと耳にした白いヌプキナ(すずらん)の花の物語は、涙の連なりのように私には思えました。汚れた栄光で見失ってはならないものを、埋もれてはならないものを、この国の中で、この国の子どもたちに知ってほしいと思ってまとめたのが、このお話です。 かこさとし
(引用おわり)

本文は縦書きで、全ての漢字にふりがながあります。
2020年3月28日から7月5日までニセコにある有島記念館で開催される展示会では、この作品の絵も展示する予定です。

『未来のだるまちゃんへ』(2016年 文藝春秋)

出版にあたり90歳のかこさとしがこの本の題名を当初「遺言」にしたいと考えたように、柔らかな語り口で、幼少期から晩年までを振り返り、未来の子どもたちへの思いを伝えます。

中でも、なぜ絵本を書こうと思うようになったのか、19歳で敗戦を迎え、「かこさとし」として生きる道を見出し全うした90年を知ることは、子どものみならず、これからを生きる大人にも大きな力を与えてくれます。

推薦者のコメントとともに紹介されています。

「かがくのとも」五十年

福音館書店から「かがくのとも」が刊行されて50年が過ぎました。かこさとしは、このシリーズで『あなたのいえ わたしのいえ』『だいこんだんめん れんこんざんねん』『はははのはなし』など数多くの絵本を制作、現在でも読み続けられています。そこにはどんな魅力があるのでしょうか。特集記事のインタビュでーで編集の方々が語っています。

二月は逃げる、と言われます。1月や3月など31日ある月もあるのに何故2月だけが28日なのか、子どもならずとも不思議に思いますが、なかなかきちんとした説明ができないものです。

しかも、今年はうるう年。2月29日に生まれたら誕生日は4年に1回なの?そんな疑問にも、やさしく答えてくれるのが『こどもの行事 しぜんと生活 2月のまき』です。

「令和」命名とも関係する令月(れいげつ)・麗月、梅見月(うめみづき)、如月・衣更着(きさらぎ)などに加え、この本の冒頭の「2月の別のいいかた」(日本)には、短月(日数がすくなく、はやくすぎる月)も紹介されています。

「ふるいこよみ、あたらしい暦」「うるう年、うるうの日(2月29日)」「2月がみじかいのはなぜ?」「一週間が七日のわけ」という項目で、図をふんだんに使い順を追って説明してあるので、お子さんにもわかりやすい内容です。

「2月あとがき 新旧の暦と天体のうごき」

(引用はじめ)

カレンダーや学校の行事など、みな太陽暦(新暦)なのに、各地の行事の中には、旧暦やひと月おくれで行われているものがあります。すべて新暦にすればいいのにと言う意見もあります。

むかしの人たちは、月のみちかけを用いて昼と夜の時間や四季の変化をたくみにはかり、まちがいのないよう工夫をして、農耕や生活を実行していました。

この旧暦と新暦の関係と違いを知ることは、太陽・地球・月のうごきをただしく知る機会となります。むかしの暦などとおもわずに、宇宙と人間の生活をかんがえるきっかけにしましょう。
(引用おわり)
(縦書きで漢字には全てふりがながあります。)

上は、雪消月(ゆきげづき)言い方もある2月、あとがきに添えられた絵です。