編集室より

2017/09/22

運動会

秋の学校行事といえば、かつては運動会が筆頭でした。一家揃ってお弁当を広げてというのが定番で、その形体が変わったとはいえ、普段見れられぬ一面を発揮する姿に声援を送るのも運動会ならではです。

1950年代、かこさとしが川崎でセツルメント活動・子ども会の世話をしていた頃、秋になると地域の運動会を催し500人近い子どもが集まってきてリレーや借り物競争などで大いに盛り上がったそうです。どんなにか賑やかだったことでしょう。

かこ作品の中でも、運動会はなくてはならない一大イベントです。

セツルメント活動で子どもたちに見せていた紙芝居から生まれたお話の一つで、秋晴れの空を背景に繰り広げられるのが、『とんぼのうんどうかい』(1972年偕成社)です。大群で飛ぶとんぼを見たことがあればその発想に頷けるのですが、そんな光景を近頃の都会では見かけられなくなってしまい本当に残念です。

典型的な種目といえば、綱引き、大玉ころがし、玉入れでしょうか。ご覧いただいているのは『こどものカレンダー10月のまき』(1975年偕成社)からです。2見開きが運動会に当てられています。動物たちの表情がそれぞれ面白く、右下、「スプーンきょうそう」のからすの表情は最高です。

二人三脚の、うさぎとカメ、オオカミとブタの組み合わせにも笑ってしまいます。

『ことばのべんきょう くまちゃんのいちねん』(1971年福音館)では11月に運動会となっていて、熱中症予防の現在を先取りでしょうか?! テントには「土等猫(ドラネコ)小学校PTA同窓会」とあります。

一方、『どろぼうがっこう だいうんどうかい』(2013年偕成社)はその競技種目が何ともアッパレ愉快で、いつかどこかで実践してみたいと密かに願っているのは筆者のみではないはずです。

「どろぼうがっこう」とはいえ学校ですから校長先生のちょっと気取ったお話から始まり応援歌という流れにもニンマリしてしまいますし、ハプニング発生でプログラム変更が余儀なくさせられるあたりは妙に現実味があり、後見返しにその表示があるのも、いやはや参ったなと言わざるを得ません。

木に囲まれて手に優しい木製遊具で思い思いに遊べる「かみなりちゃんのおうち」が2017年9月10日にオープンしました。その隣にあるのが飲食施設「はぐもぐ」(上の写真)で、育む+食べるの連想から名付けられたそうです。

4店舗がはいり、お寿司などお弁当専門店、丼ものをその場で調理し提供する店、焼きたてパンなどが釜から店頭に並ぶ店、アイスクリームや洋風ランチパックがある店と個性豊かです。

フードコート形式でそれぞれお好みのものを共通のテーブルで召し上がれます。もちろん公園に持って行くのも大丈夫。(ただし公園内にはゴミ箱がありませんのでよろしくお願い致します。)

この施設では、さらなるサービスを計画中ですので、ご期待下さい。

下の写真は「はぐもぐ」前にある「まちあるき散策マップ」(左)・公園の見取り図(右)と「はぐもぐ」から見える「コウノトリ広場」の観覧車。

読書の秋、夜長のお友に『未来のだるまちゃんへ』(2016年文藝春秋)はいかがでしょうか。文春文庫今年の100冊の中に選ばれました。著者書斎での写真や『どろぼうがっこう』の元になった紙芝居なども掲載。あとがきに加え、文庫には、ハードカバー表紙用に描き下ろした絵や、なんと中川李枝子さんによる解説もあるのです。

読書会・研究会の課題図書として取り上げてくださることもあるようですし、電子書籍でお読みくださった海外の方からの感想が届いたりもする昨今です。

この本のハードカバー発行は2014年。実はかこさとしの執筆ではなく、語り下ろしによるものでライターの瀧晴巳さんと編集の鳥嶋七実さんを前にかこさとしが語ること14回、ほぼ一年近くにわたりました。お二人は午後一番に来られ、かこは熱心な聴き手の問いかけに応え、笑いに勇気づけられ、次々とかこの口から飛び出す歴史的な事件とそれにかこさとしが様々な形で関わりあっていることに皆で驚きながら、いつもあっという間に時間が過ぎて気づくと夕暮れとなっていたものです。

米寿を迎えようというかこにとってはどうしても言い遺しておきたいこと、聴き手にとっては是が非でも聴いておきたいことがとめどなく続き、話は縦横無尽、時計の長針が一回りしてようやく話が元に戻るといったことも多々ありました。双方にとってそれはかなりのエネルギーがいることであったはずなのですが、いつも幸せな満足感でまた次回、といって笑顔で終わるのでした。

そんな雰囲気で語られたかこの言葉。皆さんに知っていただきたい思い。皆様の心に届くことを願ってやみません。

以下のような感想が寄せられましたのでご紹介します。

「加古里子はこの作品を(自分の)遺言というタイトルにしたいと言ったそうだが、それでは暗くなるから、という周囲の声があって現在のタイトルに変わったとのことらしい。それだけに、内容的にも、表現方法的にも、なんのてらいも、虚飾もなく、実にストレートに自分の体験と思いを語る内容になっている。読んでいて、むずかしいところは全くない。すっと心に入ってくる。しかし、扱われているテーマは決して軽くはない。時代の背景(とくに戦争の体験)や、人間としての生き方、考えさせられることの連続だった。現代という生きにくい時代にあって迷える大人にこそ是非読んでほしい本である。」(愛知県ASさん)

2017年9月10日武生中央公園に雨雪や寒さに関係なく遊べる屋内の施設「かみなりちゃんのおうち」が誕生しました。

木のぬくもりが心地よい空間には靴を脱いで入ります。室内は、床はもちろんのこと、ふんだんに木材が使われ積み木や木製の遊び道具が沢山。木の小さなボールが入っているボールプールや滑り台、かみなりちゃんのあの場面を見ながら壁を登ることもできます。

窓からはだるまちゃん広場が見渡せます。授乳室やお子さん用トイレもあり、小さなお子さん連れでもゆっくり過ごせる嬉しい場所です。こんな掲示もあります。『かこさとし 遊びの大星雲7 くしゃみやおへそのあそび-体と病気のなやみ問題-』(1992年農文協)からです。

どこにあるかというと、お子さん用トイレにです。(この施設の外、だるまちゃん広場側にもトイレがあります。)

みなりちゃん型のハンガー掛けやマット、時計もかわいいらしく、この施設のお隣には通路を挟んで飲食施設「はぐもぐ」がありますが、そのご紹介は次回にいたします。

武生中央公園は今回のリニューアル前は市民の公園として長い間愛されてきました。そういった越前市のセントラル公園として欠かせないものが園内にはいろいろあります。

越前市は1500年前に国府が設けられていた歴史ある町です。古くは6世紀初めに即位した継体天皇の出身の地とされ、紫式部や前田利家といった歴史上の人物、天皇昭和の料理を担当した秋山徳蔵やいわさきちひろさんなど越前市にゆかりのある14人を紹介するモニュメントが園内に設置されています。

下は、幕末に、地元の教育、文化、産業の発展に尽くした松井耕雪を紹介するもの。モニュメントの銀鼠色のタイルは越前瓦の色あいで、鉄結晶によるものだそうです。寒冷地でも凍らず割れにくく滑らない特徴があり、園内の案内板もこの色調に合わせています。

越前市の地形・地質を示すものも「地球生命の歴史」(下の写真)紹介の最後にご覧いただけます。こういった地勢・自然と歴史によって培われた伝統文化である越前和紙に欠かせない植物ミツマタやコウゾも植えてあります。

これは、おなじみコシヒカリ。イチベエ沼の脇に少しですが植えられています。本当の田んぼではないので実り具合は良くないのですが、福井県は美味しいお米として有名なコシヒカリ発祥の地なのです。

「武生中央公園ご紹介その8:こだわりあれこれ」でお伝えしたヒントはお役に立ったでしょうか。
ヒントのヒントはこの場所です。

だるまちゃんとかみなりちゃんの足あとをたどって脇の少し高い場所から街灯の上を見ると。。。

なぜ、そこにまな板?
いえ、これは下駄のつもり。。。

昔やりませんでしたか。明日の天気はなーんだ、と言って履物を空に向かって飛ばすこと。。。



近頃話題のマンホール蓋は公園限定で、あえて色のないこの2種類です。

だるまちゃんとかみなりちゃんの周囲の図柄は越前市の花、菊。秋には菊人形がこの公園を美しく彩ります。

2017年9月9日午後2時より1時間ほど、加古総合研究所の鈴木万里が約50名の皆様にお話をいたしました。かこさとしがセツルメント活動をする中でどのようにして子どもたちと過ごし、子どものことを知り得るようになったのかを焦点に手描きの紙芝居作品(下の写真は1953年作)をご覧頂きながら探る内容でした。
ご覧いただいた約100枚の写真には、未公開の紙芝居作品もありその内容、目的、描き方などそれぞれに込められた意図をご紹介しました。

山形、東京など遠方からご参加の方々もあり聴衆の皆さんは大変熱心に耳を傾けてくださり質問コーナーでは、思い出を紐解きご質問くださる方、研究会での感想を伝えてくださったり卒論のテーマに関連してのお尋ねなど30分程の時間内で十分なご説明がしきれず申し訳なく思いました。

若干の補足をここで付け加えさせていただきます。
1953年、かこさとしが第一回平和展に出展した「平和のおどり」(わっしょいわっしょいのおどり)の審査員であった内田巌画伯からその絵葉書を受け取った内田路子(のち堀内誠一氏夫人)さんは、かこさとしが活動していたセツルメントに参加、当時アルバイト先であった福音館書店松居直編集長にかこを紹介することとなりました。これがきっかけでかこさとしは、1959年デビュー作『ダムのおじさんたち』を出版することになりました。

上の写真はふるさと文学館「医と文学 -杉田玄白からかこさとし・山崎光夫まで-」の撮影コーナー。会場では本展開催にあたり最新のかこさとしインタビュー映像もご覧いただけます。会期は18日(月・祝)まで。

日本では話題になることがなかったヒアリがニュースになったのは、絵本館でゴールデンウイークに4周年イベント『あかいありとくろいあり』(1973年偕成社)のストーリーオリエンテーリングをした直後でした。
子どもにとって身近なアリにも注意を払わなければならなくなってしまい自然環境の変化を痛感しています。
2014年に出版されたその続編『あかいありのぼうけんえんそく』(偕成社)」のあとがきをご紹介します。

(引用はじめ)
前作で『あかいありとくろいあり』でなっちゃんぺっちゃん姉妹の春のあかあり小学校の様子をお知らせしましたが、その続編のこの作は、秋の遠足のお話です。実はかつて私は『あかりちゃんのやまのぼり』という絵本を作ったことがあります。それらはみな、当時の私が世話をしていた子ども会の中で、原型が生まれたものです。実際の子ども会では登山はしませんでしたが、時々、子供たちをやや遠い丘陵や林間に連れ出し、その間の出来事や親御さんとの接触が私のとても良い刺激になりました。

戦前の小学校の父兄会が戦後PTAに変わり、形式化したその様子のことが時折新聞種なんかになっていたので、この作にはあえて、あかあり小学校のPTAの活動の一端を添加したわけです。以来六十年、日本のあかいありたちはいまだに健在で、私の庭にも楽しい行列を作ってくれています。
(引用おわり)

だるまちゃん広場のだるまちゃんルートは、てんぐちゃんの持っているようなものがほしくて、いろいろ探すだるまちゃんを想像しながら歩いていただけたらという願いを込めて作られました。
途中にあるモザイク画は、お子さんたちが組み合わせて作成したもので上手にできています。

これは、ご飯茶碗やお椀の位置を覚えましょうという意図があるのですが、お茶碗の柄に注目していただくと。。。「見たことがある!」という方は、素晴らしい記憶の持ち主です。

上のように絵本ではお茶碗は白いのですが、ご飯茶碗には何かしら柄が入っているのが普通ですので、そう!ここから柄を取っています。『だるまちゃんとてんぐちゃん』の」見返しのデザインです。武生中央公園にいらしたら是非「だるまちゃん広場」のお茶碗の柄もご覧ください。

ところで、だるまちゃんがてんぐちゃんの下駄に見立てたものが、だるまちゃんルートにあります。ヒントはズバリ、上。上を向いて歩こうです。是非探してみてください。

パンやさんと言えば『からすのパンやさん』(偕成社1983年)ですが、加古作品には、他にもパンやパンやさんを描いた絵本があります。

1987年に農文協から『かこさとし たべものえほん10巻』(文のみ・かこさとし)が出版され、その第2巻が「せかいのパン ちきゅうのパン」です。この本のねらいについて、かこさとしのことばが巻頭にありますのでご紹介します。

この本のねらい かこさとし

(引用はじめ)
食物のシリーズのなかで、このパンの絵本をかいたのは、パンが数千年の昔から、今も世界各地で毎日作られ、多くの子どもたちが食べている重要な食物だからです。

子どもにとって食物は、健康や成長の糧であるとともに、文化・生活・教育などに関わり、精神や心に大きく作用していることを、このパンが最も雄弁に物語っています。

パンのながい歴史と、背景となった風土や文化を、香ばしさやふくらみをこめてえがいたのがこの絵本です。
(引用おわり)

『食べごと大発見 第6巻 たまごサラダこんがりパン』(1994年農文協)は主に西洋の食事や料理を紹介する巻で、[リーンなパン こんがりパン](下の写真)[リッチなふわふわパン]と[三度サンドサンドイッチ]」という3項目3見開きでパンの作り方や調理法と美味しそうなパン、サンドイッチ、バーガー、ホットドッグなどが並びます。

美味しそうに描かれている絵を見るだけでも幸せに気持ちになりますが、実際の食事をともにすることにより「国や言葉や文化の壁がいっぺんに取れ、互いに親愛を深められる」食べごとの意義を実感していただけたら幸いです、というのが著者のこの本に込めた願いです。

絵本館から定期的に届けられるご来館者の方からのお手紙の中に『うさぎのパンやさんのいちにち』(2004年 ベネッセコーポレーション)が大好きですというお子さんのお便りがありました。

この本は題名からわかるように、うさぎのパンやさんが早朝から粉をこねる場面からはじまり、時間の経過とともに成形、発酵、焼き上げ、調理を経て店頭に並んだり給食になったりと多種類のパンを彩りに、片づけ掃除で1日が終わる様子が手にとるように描かれ、小さなお子さんにもパン作りの様々が理解できるお話です。

かこは給食用のパンを含む多くのパンを長年製造している熟練の方をパン工場に訪ね、その製造過程やコツ、注意点などを取材した上でこの本を描きました。『からすのパンやさん』同様、楽しんでいただけたら幸いです。