編集室より

45年前に出版された『どろぼうがっこう』の面白さは、語るより読んでいただくのが一番です。著者にとっては、ある意味衝撃的なかけがえのないものですが、読者の皆様にとっても、きっと思い出や逸話に事欠かないことでしょう。

「たかさき絵本フェスティバル」(2018年1月27日から2月6日)では、表紙、裏表紙、全場面を展示します。初日のトークイベントではどんな裏話が飛び出すことになるのかお楽しみに。

あとがきをどうぞ。

あとがき かこさとし

(引用はじめ)
今、手もとに残っているこの作品の原作は、13年前に他に紙がなかったわけではないのに、私の論文の下書きの裏に、黒と黄色の2色で乱暴に走り書きした紙芝居でした。当時の私は、「子どもたちに与えるものは、子どもたちだから最高ですぐれた水準のものであるべきだ」という主張をいだいていました。しかし、極度に時間のない毎日を送っていた上、ちょうど学位審査があったので、一種の笑劇(ファース)としてまとめたこの作品を、こんな乱暴な絵によって子供たちに見せることになったのを、残念に思っていたのです。

ところが、私のこんな恐れを裏切って、子ども会で見せた最初から、この紙芝居は圧倒的に子供たちに迎えられました。単色に近い彩色の、しかもぐっさんも構図もいい加減なこの紙芝居を、何か事あるごとに子供たちは"見せて"とねだり"演じろ"とせまりました。

何度となく、そのアンコールにこたえながら、私はかれらが表面上のきらびやかなケバケバしさや豪華さにひれるのではなく、盛り込まれた内容の高い面白さを求めているのだということを、子どもたちに教えられたのです。

その当時の子どもたちに教えられたことを思い返し、当時の後悔をくり返さないよう注意しながらまとめてみたのが、この「どろぼうがっこう」です。十三年たった当時の子どもたちや、十三年後の今の子どもたちが、どうこの本を迎えてくれるでしょうか。
わたしのおそれとはずかしさは、まだまだつきないようです。
(引用おわり)
尚、本文は縦書き、漢字には、ほぼふりがながついています。

2018年1月27日から2月6日に開催される「たかさき絵本フェスティバル」はご案内のようにかこさとしの展示会史上、その会場規模、出展画数、購入できる著作の幅、ゲストの多彩さなど、何れをとってもこれまでに類のないものです。一人の著者のみの展示というのも、このフェスティバルでは異例のことだそうです。

中でも、一冊の本の全ページの画をしかも4冊分展示することは注目に値します。特に『小湊鐵道沿線の旅 出発進行! 里山トロッコ列車』は、原画ならびに下絵も全ページ分、かこさとしの手書き解説を含めて展示致します。2016年、かこさとし卒寿の作品を是非まじかでじっくりご覧いただけたら幸いです。あとがきをご紹介しましょう。

あとがき

(引用はじめ)
老化の為、とみに世情にうとくなった私がトロッコ列車を知ったのは、望外にも小湊鐵道石川社長より、パンフレット添画の依頼を受けたに始まります。地域の方とともに、着実熱心に進めてこられた計画の、健康であることと未来性に感動し、陋筆を省みずお手伝いすることとなり、下絵を進めていたおり、俊敏な出版社の目に留まり、列車運行を目指しての絵本を作ることになりました。

せっかく見ていただく読者には読者に少しは良い内容をと、いただいた資料を読むうち、房総は縄文人の先祖の人たちの遺跡点在の地であり、壬申の乱にまつわる古代史伝説や、「南総里見八犬伝」のモデル女性の寺、さては磁場逆転層の所在など、歴史、文化、自然科学に至る総合多元の由緒の地域であることを知り、それらをできるだけお伝えしたいと思い、ご繁忙の中、石川社長に何度も下絵や原稿を詳細に点検、教示をいただくとともに、温かい励ましをくださったことに感謝いたします。

以上がこの絵本出版の経過ですが、どうぞ、機を見て、里山トロッコ列車に乗車され、房総里山の自然と文化を体験されるようお勧めして、あとがきとします。
かこさとし
(引用おわり)
尚、本文の漢字には全てふりがながありますが、ここでは省略しています。

上は本作あとがきのページ。
尚、展示会情報にもあるように1月27日には、小湊鐵道石川社長、この本の編集者、偕成社・千葉美香氏と加古総合研究所の鈴木万里の三人が展示会場の絵の前で語るトークイベント「かこさとしの仕事を語る」が開催されます。

2018/01/04

気になる犬

戌年ということで、犬が気になります。絵本の中に多く見られる子どもと犬の組み合わせを探してみましょう。
上の絵は『あなたのいえ わたしのいえ』(1969年福音館書店)の裏表紙で、このイヌはこの家に暮らし、屋根の上の小鳥同様、家族が増えていきます。

家族の一員として登場するイヌには、ネコと同じように凝った名前がつけられてることがあります。農文協の「食べごと 大発見」シリーズに出てくるイヌはコチいぬ。コチは東風(コチ)で、菅原道眞「東風吹かば 匂い起こせよ 梅の花」からの命名です。

『子どもの行事 しぜんと生活』(2012年小峰書店)に出てくる茶色の垂れ耳をもつ白犬のマルスは、3月生まれだからこの名前です。

名前はないけれど物語を通して登場するイヌもいます。『たっくん ひろちゃんのちょうちょうとっきゅう』(1997年小峰書店)・下の写真)の白い毛並みに赤いブチは他の動物同様ぬいぐるみという設定です。小さな、たっくん、ひろちゃんと一緒に「ちょうちょうとっきゅう」に乗ってスリルあふれる旅のお供をします。

『だるまちゃんとにおうちゃん』(2017年福音館書店・下は裏表紙)には、だるまちゃんとにおうちゃんちゃん達が境内で遊んでいるのを遠巻きに見ている女の子が、イヌを連れています。

あとがきにもあるように、このお寺はかこさとしが戦後間もなく家族が住んでいた京都府宇治市に戻った際、近くの黄檗山萬福寺(おうばくさんまんぷくじ)の境内で実際に見かけた光景を取り入れています。食糧難の時にイヌを連れているのが非常に珍しく思われたそうです。お相撲遊びには加わらないのは女の子だからなのでしょうか。女の子を見つめるかこの視点が本を読む者と同じ側にあるのが感じられます。

この他にも、『とこちゃんはどこ』(1970年福音館書店)の裏表紙のイヌ(下の写真)など、子どもの友達として犬が描かれています。皆さんが気になるイヌはどこにいますか。

年越しそばの準備で大忙しかもしれない『からすのそばやさん』(2014年偕成社)。そのあとがきをご紹介します。

あとがき かこさとし

(引用はじめ)
日本にはいろいろな昔話や民話が伝えられています。そのなかの食べ物にまつわるお話には、そばやそうめんなどがよく出てきます。それは、良い耕作地のない山間でくらしていた昔の人たちが、よほどのお祝いや正月でないと、米の飯などをたべることがなくて、ふつうは、雑穀や草木の実を混ぜたものをたべていたので、それを食べやすくするため、めんの形にするなどのくふうをしていたあらわれなのでしょう。

今、世界の各地ではいろいろなめん類が作られ、とくに子どもたちの好きな食べものとなっているので、からすのオモチくんにめん類の店を手伝ってもらうことにしたわけです。

どうぞ、そうした昔や今のことを、つるつるおもいながら楽しんでください。
(引用おわり)
本文は縦書き、漢字には全てふりがながついています。

空気が澄んで星空を見上げるには良い季節になりました。星空を仰ぎながらの年越しはいかがでしょうか。『ふゆのほし』(1985年偕成社)のあとがきをご紹介します。

あとがき

(引用はじめ)
わたしが小学2年の子どもだったとき、あんなにたくさんちらばっている星の場所や名や形を覚えることは、とてもむつかしいことだと思っていました、ところが、近くに星の好きなノッポの中学生がいて、なんでも知っているので、びっくりしました。そのうえ、冬でも物干し台にでて夜遅くまで星を見ていて、とてもえらいお兄ちゃんだなあと思っていました。

ちいさい子どもにもすぐわかって、やさしくておもしろくて、いい星の本をつくりたいと思いたってから、とうとう7回目の冬がすぎてしまいました、写真をとってくださった藤井旭さんと、そのむかしのノッポの中学生を思いながら、この星の本をおくります。
(引用おわり)
尚、本文の漢字には全てかながふってあります。

2017/12/22

吹雪

この4冊には共通点があります。それは「吹雪」の場面があることです。

デビュー作の『だむのおじさんたち』では四季折々の雄大な自然を背景に人間の力を結集しダム建設が進む様子を描いています。その大変さ過酷さを表すのが吹雪の中の危険な作業に取り組む「らんぼうで、こわくてーーーやさしい」吹雪にも負けないおじさんたちの姿。肌を刺す強風のヒュウヒュウ鳴る音が聞こえてくるような(下の)場面。そうした困難、苦しさを乗り越えて、桜舞い散るうららかな春にダムは完成します。

かこさとしは北陸(現在の福井県越前市)、雪国育ちで、1階の高さまで降り積もる雪の重さで木造の建物はギシギシ音をたてその重みで玄関は扉が開けられず2階の窓から出入りしたこともあったそうです。そのときの不気味な音と不安な思いを今でも天気予報で故郷に雪だるまマークがつくと語ります。

『ゆきのひ』は『だむのおじさんたち』のような大自然の中ではないものの雪と暮らす人々の日常生活を描き、著者の幼い頃の体験が画面に投影されています。下は吹雪の夜、雪に埋まった線路の復旧作業をする人々の場面。

科学絵本、例えば『地球』や『地下鉄ができるまで』でも、そこには四季が描きこまれています。晴れの日もあれば雨風の日もあり、暑い夏も雪降る冬の日もあるのだからそれを描かない方が不自然なのでしょう。長久の歴史を持つ壮大な規模の『万里の長城』も同様で「長城の守備線で日本軍と戦う八路軍」の様子、「痛ましい犠牲や悲しみにしずむ人々に、長城はその巨大な姿で無言のはげましをあたえ」る2場面は吹雪の様相となっています。

童話である『しらかばスズランおんがくかい』(1986年偕成社)はかこさとし七色のおはなしえほん・青をテーマにした創作で、シラカバやスズランの咲く寒冷地を舞台とする物語は以下のような文で始まります。
(引用はじめ)
ひどい ふぶきのなかを
おおきな ひこうきが
とんでいました。
あんまりゆれがひどくて、
おおきな にもつが
おちたのに
きがつきませんでした。
(引用おわり)

この大きな木箱の荷物の中身は一体なんなのでしょう? 雪が消え春になって森の動物たちのたちが、この箱から出てきたものをめぐりお話が展開します。吹雪で始まり雪が再び降り出し冬ごもりをする動物たちの場面でこの話は終わりとなります。『ゆきのひ』同様、静かな冷たい世界ながら平和な空気、暖かさが感じられる物語になっています。

下 の写真は、この冬最初の降雪が止んだ越前市ふるさと絵本館の様子。

2017/12/13

かるた

なんともほのぼのする絵は、『こどものカレンダー1月のまき』(1975年 偕成社)のあとがきに添えらているものです。

筆者が小学生だった頃、「カルタ」はポルトガル語だということを習いびっくりしたのを覚えています。「かるた」とひらがなで書かれるようになったのは、長い年月が過ぎ日本の文化にすっかり馴染んだ証拠だと聞き、言葉の表記一つにも文化の歴史があることを知り感動しました。

百人一首を覚える宿題が出たのは中学生の時でした。かこさとしの出身地・越前市は、かるた競技が大変盛んで名人位やクイーンを多く輩出しています。競技かるたは、スポーツとも言えるほど機敏な反応が必要で、それには口の形による呼気の差まで聴き分けられることが要求されると聞きました。幼い頃から聞いている音、例えば名前の最初の音などには特に早く反応できるそうです。

それほどのことはできないまでも、お正月には「かるた」でいつもとは違う時間を楽しまれてはいかがでしょうか。冒頭の絵の『こどものカレンダー』には、地域による「いろはかるた」の違いなども紹介されていて、それぞれの地域のかるたも楽しいことでしょう。

かこさとしによる「かるた」もあります。上は、「だるまちゃんかるた」(福音館書店)、下は「かこさとし おはなしのほん かるた」(偕成社)。いずれも読み札は全部ひらがなです。絵本とは別の面白さをあじわっていただけたら嬉しいです。どうぞ良い新年をお迎え下さい。

いよいよクリスマスももうすぐそこ。越前市武生中央公園の「だるまちゃん広場」には「作品によせて」コーナーでご紹介した『きれいなかざり たのしいまつり』のクリスマスツリーをイメージしてモミの木が植えられきれいなイルミネーションがほどこされ幻想的な光に包まれているそうです。
下はその写真、越前市広報2017年12月号通巻147号の表紙を飾るクリスツリーです。題して「だるまちゃん広場のキラキラクリスマス」

サンタクロースが登場する絵本ー1ーでご紹介した『サン・サン・サンタひみつきち』の翌年に出版された絵本『ゆきこんこん あめこんこん』(1987年偕成社)にもサンタクロースが登場します。

左側が表紙、右側が裏表紙です。観察力の鋭い方はなぜ太陽が出ているのだろうと思われたことでしょう。実はこの本は2部構成になっていて第1部は「ゆきこんこん かぜこんこん 」第2部は「ひがさんさん あめざんざん」です。このような構成になった理由は、あとがきに説明がありますのでご紹介しましょう。

あとがき かこさとし

(引用はじめ)
この絵本は、2人の作者による二部作から成り立っています。(1)「ゆき こんこん かぜ こんこん」は、なかじま まりが幼稚園のとき、紙芝居コンクールに応募したもので、入選した紙芝居を、絵本の形に構成しました。(2)「ひが さんさん あめざんざん」は、かこさとしが(1)の続編として作ったものです。

子供たちが知っている親しい主人公たちが、野山や風雪や太陽の光の中で、自然につつまれ、のびやかに生活する喜びを、このニ部作で伝えられたらと考えています。
(引用おわり)
本文は縦書きで全ての漢字にふりがながありますが、ここでは省略しています。

サンタクロースがいるのか、どうか?これはお子さんにとっては大問題です。疑問を投げかけられた大人にとってもこの問いに答えるには思案がいるものです。この永遠の謎に対して歴史に残る名文を書いた記者さんのようにはいかないまでも、なんとか夢をこわさずこたえたい、そんな時に役に立つかもしれない絵本が『サン・サン・サンタ ひみつきち』(1986年偕成社) です。

この本によると今のサンタはソリではなく、もっと現代的なもので世界中にプレゼントを届けるのです。そのプレゼントは秘密の工場でつくられているのですが、(秘密基地なのに見返しには地図があります!)その工場ときたら、おもちゃ、オモチャの大集合。かこさとしが描くのですからその数と種類は半端なく期待を裏切りません。
『サン・サン・サンタ ひみつきち』のあとがきをご紹介しましょう。

あとがき かこさとし

(引用はじめ)
キリスト教徒の少ない日本の子でも、クリスマスはとても楽しい待ち遠しい日となっています。特に、それはサンタの存在によって、鮮やかに、そして、快く印象づけられています。しかも、その事は地球の北の冬、氷雪や厳しい寒さと強く結びついています。それゆえでしょうか、全世界からサンタ宛の手紙に、北欧フィンランドの郵便局が返事を送り続け、子どもたちの夢にこたえています。

もちろん、夏である南半球の子どもたちも、サンタの来訪を待ちわびています。何世紀も前から伝えられているように、たった1日で地球のすみずみの各家庭を、いっせいに訪れることができる不思議なサンタの謎と、その秘密の全部を、すっかり明らかにしたのが、この本です。どうぞ、まだ知らない子どもさんがいたら、そっと、この本を渡してあげてください。
(引用おわり)
なお、本文は縦書き、漢字には全てふりがながありますが、ここでは省略しています。
下はあとがきに添えられている絵。サンタからのプレゼントに喜んでいます。