編集室より

かこのデビュー作は『だむのおじさんたち』(1959年福音館書店・上)です。当時、日本は電力不足で佐久間ダムの建設が進められている最中でした。取材に行くことはできず何回も記録映画を見て、建設の様子を探ったとかこは語っていました。それから約30年経ったある日、読者からのお手紙でインドネシアで大きなダム建設が始まっていることを知りました。

『絵本への道』(1999年福音館書店)によると
(引用はじめ)
『だむのおじさんたち』のテーマは、建設と生活、科学技術と自然とを、対立するものでなく、渾然として調和させて描くことでした。昭和30年代はそれがまだ可能の時代だったのだけれど、その後の社会情勢は矛盾と問題を生み出すようになり、今の日本では限界となりました『ダムを作ったお父さんたち』の出版に際しては、向こうの人々のダムに対する対処の雰囲気を確かめたかったのです。
(引用おわり)
そこで、現地に赴き、当時のインドネシアは30年前の日本同様であることがわかり、執筆に取り掛かりました。

この現地取材でお世話になった方々が、かこの訃報に接し、福井県越前市のふるさと絵本館を訪ねてくださり、その思い出を色々と語ってくださったそうです。そういったことが2020年9月26日、日刊福井新聞に連載されている「絵本のまほう かこさんから子供たちへ⑥科学絵本の凄さ」で谷出千代子絵本館館長により紹介されました。

前扉のカバーには次のような説明があります。
(引用はじめ)
この本の舞台となったチラタ水力発電所は、1983年12月に着工され、約5年後の1988年9月に完成しました。貯水量約22億立方メートル(22億トン)、十和田湖より20%も大きい、64キロメートルの湖が出現する巨大なダムです。最盛時には、5000人もの人々が働いた、現在のピラミッド建設とも言える、スケールの大きな工事です。技術的にも、世界じゅうの関係者から注目されました。

総予算6億ドル、世界銀行の融資による国際的なプロジェクトで、日本からは約300人の技術者が参加しました。この本は、ダムと、発電所となる巨大な地下空洞を担当した大成建設の多大な協力を得て作成されました。
(引用おわり)


それでは、あとがきをお読みください。

あとがき

(引用はじめ)
この絵本は、インドネシア・チラタに建設された、水力発電用のダムとトンネルのようすを描いたものです。

わたしはかつて1959年、当時の日本のダム建設をテーマにした絵本を作ったことがあります。その本は残念ながら、経済・社会の変化により絶版となりましたが、アメリカのTVA(テネシー川流域開発公社)などに見るように、国の発展や地域の復興上、水力による発電は人類の基幹技術・基本事業として、今後も消えることがないというのが筆者の考えでした。そのような場と機会を求めていたところ、読者の方から、地球規模の大きな計画が、国際協力と言う新しい理想的な姿で実施されているのを教えていただき、勇躍したわたしに、関係部所の誠実で温かい理解と、取材のためのあらゆる便宜が与えられ、30年ぶりに取り組んだと言うわけです。

ようやくまとめることができた今、それらの方がたと、現地で奮闘された各国の人々に、この絵本を捧げたいと思います。それらの人の労働の大きさ、協力の美しさ、信頼の尊さを子どもたちに伝えたいと願います。
(引用おわり)
漢字にはすべてふりがながあります。

このダム竣工30周年の2018年7月、建設に当たった日本の方々が現地を訪れたそうです。この時、かこはすでに他界していましたが、イドネシアの電力を支えるこのダムの現在を知ったら、どんなにか喜んだことでしょう。

2020/09/18

閲覧注意!

画像や映像が手がるにいつで見られるようになって、クレイム対策もあるのでしょうが、【閲覧注意】を目にする機会も増えたように感じています。

筆者が小さかった頃、絵本の中に出てくる怖い鬼の場面は、目に入れないように細心の注意をはらってページをめくっていました。もう少し大きくなってからは、よせばいいのに、怖いもの見たさで昆虫図鑑を開いて鳥肌になったことがありました。昆虫大好きさんなら、目をらんらんと輝かせるところでしょう。好き嫌いは、人それぞれですので何が閲覧注意なのかは、判断が難しいかもしれません。

かこの作品でも、それに近い注意をいれてあるものがあります。『あかいありとくろいあり』(1973年偕成社)の続編、『あかいありのぼうけんえんそく』(2014年偕成社)です。

『あかいありとくろいあり』では春の草花の中、ありたちの大事件がおこるのですが、『あかいありのぼうけんえんそく』は、秋の遠足、しかも「ぼうけんえんそく」ですので秋の草花だけでなく想定外のものに遭遇します。引率する先生や父兄はそれに対しての備えも万端(下・裏表紙)なのですが、あかあり小学校の全校生徒たちにしてみれば冒険級の出来事というわけです。

山登りを始めた一行ですが、
(引用はじめ)
「そのうち だんだん みちが けわしくなって あせが
 でて あしが いたくなったときーーー」

* どくしゃへ ごちゅうい!! きをつけて ページを ひらいてください!
(引用おわり)

9ページの最後に、*の一行が赤字でいれられています。
そして、次のページをあけると「あかい おおきな かいぶつ」がおそいかかってきます。

多数のかこ作品の中でも、このような注意書があるのはこの作品のみです。
一体どんな怪物?と思われた方は、どうか十分「きをつけて ページをひらいてください!」

ラジオ深夜便 人生のみちしるべ “生きる力”は子どもたちから かこさとし

2016年5月11日に放送された「ラジオ深夜便」のインタビュー2回分が、放送ライブラリーで公開されました。横浜新情報センター8階視聴ホールで無料で聴くことができます。詳しくは以下でどうぞ。

放送ライブラリー

台風や暑さ、コロナと子どもたちがのびのびと楽しむ時間がこれまで以上に制約されていることが気がかりです。このような状況だからこそ、温かみのある遊びや小さな自然とのふれあいを大切に、この絵本で紹介しているちょとした遊びが、大人が思う以上にお子さんたちの心に響くことを体験していただければ幸いです。

あとがき

(引用はじめ)
秋は実りの季節。子供たちの活動もいちだんと深まる時です。

植物や昆虫、光や風などの自然の影響だけでなく、ともに遊ぶ子の言葉や声、表情や動きが互いに働きかけてゆきます。発育途上にある子にとって、周囲の自然や人々との交流や接触が、ひとりひとりの子の総合的な糧となって、成長を支え、促し、実りをもたらしていくのです。
どうぞ、こうした実りある秋の遊びとなるよう、楽しんでいただければ幸いです。
(引用おわり)

漢字には全てふりがながあります。

来年のカレンダーができました。卓上に置くタイプが初登場です。

「だるまちゃんかれんだー」は絵本『だるまちゃんとてんぐちゃん』(1967年福音館書店)の絵と『こどもの行事 しぜんと生活』(2012年小峰書店)の行事にまつわる絵や解説もあり、大人も大満足のカレンダーです。それにお子さんが遊べるかわいい仕掛けもあります。

詳しくは以下でどうぞ。

だるまちゃん 卓上カレンダー

2020/09/04

コロナ

コロナといえば新型ウイルスのことと思うようになってしまった私たちですが、そもそもはラテン語で冠を意味し、太陽の外側にあるガスの層が冠にように見えることからコロナと名付けられたそうです。

『大きな大きなせかい』(1996年偕成社・下)には、コロナについて注があり次のように説明しています。

(引用はじめ)
太陽表面の外がわに、高温の大気が彩層となり、さらにその上に、もっとかがやくうすい大気。
(引用おわり・漢字にはふりがなあり)

この本によると、太陽表面は温度が6000K、外側の彩層は10000K、紅炎は7000Kそしてコロナ流線は100万K以上とあります。そして次の場面ではそんなコロナ流線をまとった太陽よりも巨大な恒星(自らかがやいて光をだす天体)が描かれ、さらにその次ページにはそれらの星よりもはるかに大きな巨星が描かれてています。

さらに驚くことに、私たちが知っている太陽が生まれたばかりの原始太陽と言われる時には、途方もなく大きく「現在の100倍も明るくかがやいていた」というのです。さぞかし大きなコロナであったことでしょう。

太陽の一生については『宇宙』(1978年福音館書店・下)にも描かれています。
宇宙にはさらに大きな超巨星と呼ばれるアンタレスやさらに大きな恒星があることが『大きな大きなせかい』や『宇宙』を見ると一目瞭然です。

目に見えない新型コロナウイルスに気を使う毎日ですが、本を開いて大きな大きな世界に目を向ける時間はいかがでしょうか。

2020/08/29

浦島太郎

昭和時代の日本では、おそらく浦島太郎を知らない子どもはいなかったのではないでしょうか。絵本を読んだことがなくても、聞いたことがある昔話です。

かこが川崎でセツルメント活動をしていた時のことを綴った中に、この浦島太郎のくだりがありますので、ご紹介します。

(引用はじめ)
。。。子どもたちが「学芸会」をやり出すのをみていると、お天気なのに長ぐつをもって来て、女の子のスカートをはくから妙だなと思ったら、それが浦島太郎の役だったのである。おかしくって脇腹がいたいほど笑ったあと、私は涙が出てきた。この子らは、学校なんかじゃ絶対に学芸会の役なんかまわってこないガキなんだ。それが自分たちで劇をやろうとなったら、たどたどしいけれどセリフを覚え、長靴をきれいに洗い、そのドタくつをはいて、それらしき仕草や演技をし、世にもうれしそうにおじぎをした顔や、そしてまたドタ靴をかかえて満足にかえるーーーその力はどこからでてくるのか。
(引用おわり)

『おもちゃの旅』(ほるぷ新書)の一部ですが『かこさとしの世界』(2019年平凡社)に該当部分は再録されています。

子どもたちの隠れた力の凄さを知ることになった、こどもたち演ずる浦島太郎の物語は、かこにとって特別なものになったに違いありません。

『あそびの大惑星5 こびとおとぎのくにのあそびー遊び宮殿かんらん車ー』(1991年農文協)には表紙(上)にも描かれ、絵探し(下)まであります。

『あそびの大惑星6 どじょっこ ふなっこのあそび ー遊びの水中実験船ー』(1991年農文協)は海の生き物にまつわる遊びが満載されています。その中に、【えにもかけない りゅうぐうじょう】の絵と玉手箱がひっくり返る不思議な紙おり遊びがでてきます。さらに、浦島太郎の3人の弟を絵入りで紹介するという、ユーモアあふれるものまであるのです。

下は【えにもかけない りゅうぐうじょう】の絵。画面左上にいる魚の名はリュウグウノツカイ(龍宮の遣い)。

さて、令和の子どもたちは、浦島太郎のお話を知っているのでしょうか。今一度、昔話を思い出してから、かこさとし作『だるまちゃんととうらしまちゃん』をお聞きください。残念ながら下絵の段階のままで出版されることはありませんでしたが、『母の友』(2018年福音館書店)10月号【ありがとう 加古里子さん!】に掲載されました。YouTubeでご覧いただけますので、以下でどうぞ。

だるまちゃんとうらしまちゃん

今年ももう三分の二が過ぎようとしています。9月といえば、夏休みが終わり、2学期を迎え、秋の行事の準備を始める時ですが、今年はどうも勝手が違います。それでも、日の入りが早くなり、蝉の声に虫の声が混じり、猛暑とはいえ季節は少しづつ移ってゆきます。

あとがきをどうぞ。

9月のあとがき

わざわいとたのしみの行事の月

(引用はじめ)
9月はイネのみのりには、たいせつなときです。それなのに、この時期には、たびたび台風がおしよせるので、むかしの人は「二百十日」や「二百二十日」といって、立春の頃から注意をはらって、わざわいをふせぐようにつとめていました。

9月は本来、満月や、かおりのよいキクをながめたり、しずかなながい夜をたのしむ季節です。

9月の行事には、わざわいをさけようとする努力やたのしみをひろげたいという人びとのねがいがこめられていることをよくくみとってください。
(引用おわり)

本文は縦書き、漢字にはふりがながあります。

かこさとし あそびの大惑星8 

かこさとしは遊びの本全10巻、3シリーズを出版しています。あそびの大宇宙全10巻、あそびの大惑星全10巻、そしてあそびの大星雲10巻です。

これはそのうちの一冊で世界中の遊びを紹介しています。タイトルは、ボールをつきながら歌う🎵「あんたがた どこさ 肥後さ 肥後どこさ」からつけられたようです。

副題【遊びの歌劇舞踏会】とあるように、パラリンピックの競技種目にもなっているボッチャー(本文の表記)やモルジブのたねとりごっこ(下)、ニューギニアのあやとりなど珍しい数々の遊びと子どもが参加するお祭りなど楽しさあふれる47ページですが、あとがきは辛口です。かこの思いをお読みください。

あとがき

人類の政治家や経済学者に

(引用はじめ)
地球人は多くの国・民族に分かれていますが、30億年前地球に生まれた生命が進化し、4百万年前現れた人類祖先の皆一族といえましょう。その後の居住条件や食性が、変化と多様をもたらしたのは、すばらしい事です。胎乳児期はもちろん幼少期の子どもは、基本的に全世界同じ経緯をたどる事を思えば、国や民族間の対立抗争は悲しいより暗愚な事です。この本はそうした大きな喜びと、政治家や経済関係者への責任告発をこめてつくりました。
(引用おわり)

2020/08/09

ベルツ水

ベルツすい、といっても、一体何?ですよね。ずーと忘れていたのに突然思い出した言葉です。半世紀以上前の昔、私が幼稚園に通っていた頃、冬になるとしもやけの手をしていました。原因は手を洗ってきちんと拭かずいたからかもしれません。

当時はハンドクリームの種類も限られ、まして、子どもなのでクリームのようなものはベタベタして嫌い。そこで化学会社につとめていた、かこがツルの首のようなものが付いているプラスチックの容器に入った液体を持ち帰りました。それがベルツ水。水というくらいですから水のようなさらったした無色透明、匂いもない液体です。

弾力性のある容器を押すとそのツルの首のように細くなった先からでてきます。しもやけに塗ることになりました。いつしか、しもやけもなくなりベルツ水のこともすっかり忘れていましたが、コロナ禍でしっかり手を洗う回数が増え手荒れが話題になって記憶の底からよみがえってきました。ベルツというのはドイツの化学者だそうです。

その容器のことは、つる首スポイト(洗浄びん)というらしいのですが、かこは絵を描く時この容器に水をいれて水彩絵の具をといていました。今でも書斎の机の片隅に置かれています。いつも見ていたその容器ですが、ベルツ水、急に湧いて出てきた言葉につられ思い出した幼い頃の記憶に若き日のかこの姿がありました。