編集室より

この本が書かれたのは1986年。当時かこの次女は救命救急医として働いていました。たまにではありましたが、時折こぼれ聞くその様子がきっかけとなり病院で働く人々を応援しようとこの本を書いたと亡くなる直前にかこが話してくれました。

この本にはドクターヘリなどによる救命活動もえがかれていますが、当時と比べものにならないほど現在の医療は高度で進んでいます。しかし、そこで働くのは同じ人間です。現在の病院の様子をかこが知ったらどんな言葉を口にするでしょうか。そんなことを思いながらご紹介いたします。

あとがき

(引用はじめ)
いま、日本の医学は、非常に高い水準にあるといわれ ています。ところが、いったん病気になると、治療も施設も看護も、入院も費用も対応も相談も、なかなか満足のいく状態になっていないことがわかります。

保険制度や大学病院は立派でも、最後は個人の力によらなければならないというのは、非常に残念なことです。 「病人になったら、まず医療状態をなおさないと直らない」のでは困ったものです。

こうした問題を考えてもらうため、最も医療の原点である救急医療の活動を描きました。
かこさとし
(引用おわり)

今から35年も前の夏、イギリス各地を巡るグループ旅行の途中でひなびた片田舎に立ち寄りました。イギリス人であり、日本で大学の学長をしていた方が案内してくれたのはニュートンが万有引力を発見するきっかけとなった1本のりんごの木でした。あの有名な逸話のりんご木。。。それにしてもこんな田舎だったとは!その意外さに、いぶかしささえ感じ強く印象に残りました。

その地は「ロンドンのきたにあるウールスソープというむら」であると『がくしゃもめをむくあそび』(1992年農文協)にあり、この本では「ニュートンのもんだい」で「リンゴはまっすぐにおちなかった」理由、ニュートンの考え方えをわかりやすい図入りで説明しています。

ニュートンは1642年この地で生まれ、ケンブリッジ大学で学び学位を取得をしようとしていたところ、1665年から1667年にかけてイギリスではペスト(黒死病)が大流行し大学は封鎖、そのため人の少ない生まれ故郷に戻ったのでした。そして素晴らしいのはその避難生活をしていた1年半余の間に、万有引力の法則をはじめ後世にも多大な貢献をすることとなる大きな業績となった発見や証明を成し遂げたのだそうです。

ウイルス禍の中にあって、ペストのことを調べていて知ったニュートンの驚異の諸年(*)と、あの寒村でおぼえた疑問の答えが結びついたのでした。

*わずか1年半ほどの期間にニュートンの主要な業績の発見および証明がなされているため、この期間のことは「驚異の諸年」とも、「創造的休暇」とも呼ばれている。(ウィキペディアより引用)

下の絵はニュートンとは関係ありませんが、だるまちゃんのりんごの木です。『だるまちゃん・りんごんちゃん』(2013年瑞雲舎)より

イースター・復活祭はその名の通りキリスト復活を祝う日ですのでキリスト教徒にとっては非常に大切なものです。2019年4月に「こぼれ話」でご紹介しましたが『こどもの行事 しぜんと生活』(2012年小峰書店)には、「キリストが金曜日に十字架にかけられてなくなったあと、三日目の日曜日によみがえったことをいわう、キリスト教のまつりです。」とあります。春分後の最初の満月の後の日曜日とされ2020年は4月12日です。

キリスト教徒が多い国では、こどもたちは卵に色を塗って、それを隠して探すのを楽しみます。卵型やウサギをかたどったチョコレートが売られたり、うすいピンクやブルー、レモン色などカラフルで優しい色の飾りやお菓子が売られ、春の到来を感じる嬉しい行事ですが、今年はそんなこともままならない状況で心配です。

時間がたくさんあるのでしたら、ちょっと慎重に作らなければならない卵の殻を使った工作はいかがでしょうか。『かこさとし あそびの本 さわやかなたのしいあそび』(2013年復刊ドットコム)に復活祭の紹介とともに卵の殻で作る金魚や動物の作り方があります。生卵の中身を出すには両側に小さな穴を開けて息を吹き込む方法もありますが、いつものように大きくわって、中身ををだしてからきれいに洗って、紙をはり、顔を描いたり、紙などでヒレや目耳など貼って思い思いのデザインをお楽しみください。

最後に昔のイギリスで復刊祭の休みに起きたある出来事をお知らせしましょう。
時は1856年、18才のパーキン青年は、マラリヤ病によくきくキニーネという薬を人工的に作ろうと実験室にこもりましたが、「試験官の底には、どろりと黒いまるでコールタールのようなものしかでき」ませんでした。しかし、当時の化学者にはかえりみられなかった「まるできたないごみための泥」のような物質の中にも、「なにかよいものがかくされているかもしれない」と考えたパーキンは実験を続け、ついにすみれ色の世界最初の人工染料を発見することに成功します。

この逸話は『科学者の目』(2019年童心社)第3話「泥のなかからすみれ色を見つけた少年の瞳 ウイリアム・パーキン」(上)からの引用です。春に咲く、スミレ色のきれいな色の染料を復活祭に見つけたこの青年は、その後も様々な苦心と努力を重ね化学界の発展に力をそそいだのでした。

かこさとし こころのほん2『ねんねした おばあちゃん』のあとがきをご紹介します。もとは、1980年ポプラ社より刊行されていた本ですから、40年前の状況を語っています。はたして40年経った現在の状況をかこさとしはどのように見るでしょうか。

(引用はじめ)
子どもを育てる上で、必要な事項はよい育児書を開 けばくまなく述べられています。しかし、理論や原則だけでは、「生きた人間」への成長は完うされません。 どうしても「生きた人間」の世話や応対が必要となります。うまいことに、それらは超能力コンピュータやスーパーロボットではかえられない、人間の経験 や実践の成果が大きく作用する部分です。教育や医療で実技や臨床が理論とともに大事にされる点からもその重要さがおわかりいただけるでしょう。

こうした面から見ると、経験者であり人生の辛苦をのりこえてこられたお年寄、 特に祖父母は、子育ての貴重な家庭の先達者ということがいえます。高度成長の時代には、文化生活を謳歌していみじくも「家つきカーつきババぬき」 と明言され、現代の家庭には年寄なぞ無用不必要だという風潮がはびこってきました。体力や動作の劣る老人を排斥し、思い出したように「敬老の日」や シルバーシートで、お茶をにごす社会や家庭は、子どもの成長の為の貴重な人類の知恵や財産をみすみすすて、ハウス栽培かインスタント食品なみで子どもを育てられるとしている行為ではないのかーーこれが『ねんねしたおばあちゃん』の訴えです。
(引用おわり)
尚、本文は縦書きで、漢字には全てふりがながあります。

日ごろの疲れがたまっているときにこそ、手に取ってほしい本5選 (プレシャス)

不穏な空気の中、「温かい気持ちになる本」を紹介しているコーナーで加古の遺言とも言える『未来のだるまちゃんへ』を取り上げています。遺言なのに温かな気持ち?と思われたら是非、お読みください。

記事は以下でどうぞ。

未来のだるまちゃんへ

2019年MOE絵本屋さん大賞6位に選ばれ書店でも特設コーナーで展示されている『みずとはなんじゃ?』(2018年小峰書店)は、生前かこさとしが手がけた最後の絵本です。下絵までは描いていたものの絵を自ら描くことが出来ず断念、その思いを鈴木まもるさんに託し、完成を見たこの科学絵本についての詳しい解説と書評が科学雑誌『日本の科学者』2020年3月vol.55(2020年本の泉社)に掲載されました。絵本ですが年齢問わず読んでいただきたい、深い内容です。

以下に情報があります。

日本の科学者

『ラジオ深夜便 珠玉のことば』(2020年NHK出版サービスセンター)

〜ラジオが伝えた名言、金言150〜

ラジオ深夜便放送30周年記念として「いやしのメッセージ150を厳選」と帯にあります。

様々な分野で活躍した方々の言葉には、説得力があり、いつもの日常が奪われてしまっている感が強い今、言葉の力に励まされます。かこさとしの言葉も収録されています。

「刹那・六徳・虚・空・清・浄」この一連の言葉はお経ではありません。10のマイナス乗を表す関数詞で、刹那は10のマイナス18乗、浄は10のマイナス23乗だそうです。

『小さな小さなせかい』(1996年 偕成社)は、子どもの背丈から始まってその10分の1、そのまた10分の1という具合に小さな世界へ旅する絵本です。それによると

「病気をおこすばい菌のなかで、ウイルスとよぶ種類は、生物のなかでいちばん小さいため、からだにはいってこないようふせぐのは、たいへんです。ウイルスをしらべるためには、ふつうの顕微鏡ではなく、電子顕微鏡をつかいます。」

とあり、10のマイナス6乗から10のマイナス7乗ミリの枠に、はしかやインフルエンザウイルスの大きさや形が図で示されています。その次の場面にはDNAやRNAが描かれ、最後には量子宇宙、宇宙の始まりのところでおしまいとなります。是非、大人の方もお読みください。あとがきをご紹介しましょう。

あとがき

(引用はじめ)
つぎつぎに10倍ずつ大きな世界をえがいたり、ぎゃくに10分の1 ずつ小さな世界をえがく方法は、1957年オランダのキース・ボーク氏の『宇宙的視点』という書があり、このアイデアをもとにアメリ力のイームズ夫婁が、『パワーズ・オブ・テン((10のべき)』 という映画や本を1982年につくっています。

『大きな大きなせかい』のあとがきにかいたようないきさつで、1970年この本の製作にとりかかった私は、そうしたすぐ れた作品を不勉強でしりませんでした。製作をすすめている途中で、前記の作品を見る機会がありましたが、地上の人から視点が遠ざかって大宇宙にいたり、ぎゃくに近づいて原子、素粒子にいたる方法は、「連続の面白さJと「科学的な確かさ」で、とてもすぐれた作品でしたが、視焦が固定しているため 「自由さがない」ように感じました。

そこで、「連続性」と「科学性」に加えて、もっと自由な楽しさや多様性を同時にもちこむことが、それからの私の目標となりました。その方法をさがしているうち、幸いにも微小世界の姿がつぎつぎに科学者の英知と努力によってあきらかとなってゆき、 その成果にもとづいてこの小さな本を作ることができました。

お手本を示してくださった先輩や、未知の世界をあきらかに示してくださった科挙者の方に態謝しつつ、この朱を読著のみなさまにおくります。 
(引用おわり)

尚、この本の姉妹編『大きな大きなせかい』(1996年偕成社)のあとがきは当サイト「あとがきから」コーナー(2017年5月20日掲載)にあります。

下は裏表紙、中央にあるのが10のマイナス7乗の世界・インフルエンザウイルス、右は10のマイナス10乗のせかい・水の分子。

2020年3月15日まで越前市ふるさと絵本館では『むしばミュータンスのぼうけん』を展示。16日から18日までは展示替えの為休館いたします。
3月19日からは『だるまちゃんととらのこちゃん』を全点展示いたします。尚、3月24日までは高校生以下の入場をご遠慮いただいております。ご了承ください。

このウイルス禍で全国各地の美術館などが休館中ですが、収束したら巡ってみたい絵本関連の施設を紹介する『全国 大人になってもゆきたい 私の絵本めぐり』(下・2020年株式会社GB)が3月16日に出版され、福井県越前市にあるかこさとしふるさと絵本館も紹介されています。

『人間』のあとがきの後半を掲載いたします。

3部23場面による構成

前述した柱によって、実際の本づくりをつぎのよう な手段と方法で進めました。
まず、
(1)生物の発生とその子孫としての人間の出現 (第1 一9場面)
(2)人間の成長と身体各部の機能 (第10一17場面)
(3)人間の個人と集団の活動とその集積 (第18一23場面)
という3部の組み立てと、23場面の展開としました。

したがって、前述した多くの学間の成果や資料から得た「人間のすべて」を、ことこまかく網羅列記する分厚い図鑑集の形ではなく、複雑で多岐にわたるならば、それを簡潔明快に示しながら、最も重要な点をゆ っくり、画像と文章でくり返し読者に伝える絵本形式とするため、いってみればそのための選択と圧縮に10 年以上を費やしたことになります。

描画の表現と工夫

この「絵とことば」による絵本の形態を最大限に活 用するため、各場面に新しい展示や錯視を利用した工 夫をほどこし、前後の場面とのつながりと流れを保ちながら、隔絶や断層を生じない範囲での飛躍を心がけ ました。

挿画はかならずその近傍の文と対応して色・形・情 感をつたえ、ことばは画像が表現できぬ所を描出して、理解の輪をひろげること、とくに画面は、幼少の読者 にもわかる平易さと、合理的な具象性、そして明快な健康さをめざしました。

たとえば科学絵本であっても、内臓表示に当っては 解剖書のようなリアルな表現ではなく、ここちよく接しうるような整理を行い、一方裸体や技術知識の集積といった表示に対しては往々マンガ化や抽象化しがちな所を、本書では真正面から美の力をかりての表現に 努めたということです。

きわめて個人的な思い

こうして描き進めたこの本に、ーカ所、筆者の個人 的な感慨がこめられていることをお断りしなくてはな りません。それはもう10年(?)にもなると思われる昔、 仕事中に耳にしたラジオの子ども向け電話相談番組のひとこまです。小学2年(?)のその女の子は、はじめ から涙声で、切々と「ゆうべお風呂に入った時みたら、 母には腹に傷あとがなかった。だから私は母の子では ない、悲しい」というのです。高名な先生方がいろいろなだめ、説明しましたが、その子の疑念と悲しみは解けず、最後に「バカだなあ、あんたは」の声で終わりとなりました。この問答が、以来筆者の脳裏を去来し続けました。当意即妙な答えなどできぬ筆者ですから、回答の先生方を批難するのではなく、どうしたらこの子の悲しみを解明できるかと、内外のいわゆる性教育の本をあさりましたが、不充分の思いしか残りま せんでした。第12場面冒頭の文は、長いことかかった筆者のお詫びをこめてあるつもりなのですが、もう立派な娘さんになられたであろうそのご本人は、きっと 「あまりにおそい答」に苦笑されることでしょう。

ご支援へのお礼

おそいといえば最初の発意起案の時から17年もの長い間、辛抱づよく待っていただき、遅筆な筆者を温か く励まして、脱稿までつれてきて下さったのは福音館書店松居直会長、編集担当者のお力です。 さらに本書の完成は、私の微弱な能力では不充分で、私の尊敬するそれぞれの専門分野の方々の校閲・教示・助言を得て達成することができました。ここにお名前を記し感謝をこめてご報告といたします。

杉本大一郎(宇宙物理学)
中村桂子(生命誌)
米田満樹(発生生物学)
下出久雄(内科呼吸器病理学)
亀津優(神経内科) 成瀬浩(精神科神経生化学)
北川隆吉(社会学)

こうした状況と経過により、本書を読者にお届けできるようになったものの、筆者の浅学頑迷のため、せ っかくのご指導の主意を把握できず、ご迷惑をかけた のではと恐れているところですが、責任はすべて筆者 にあり、読者のご叱正をお待ち申し上げます。そうし た読者の強いご支援によって「川」をお目にかけてか ら30余年間、科学絵本を描きつづけて来られた幸いを最後にお礼申し上げ、あとがきといたします。ありがとうございました。

(引用おわり)

*尚、本文中で「川」とあるのは『かわ』(1962年福音館書店)のことです。
下は後ろ見返しにあるヒトの染色体の図