編集室より


2月23日を静岡県では富士山の日と定めているそうです。

かこが最初に富士山を目にしたのは、小学2年生の6月10日、東京へ転居のため乗っていた東海道線の車窓からでした。小学校の卒業を記念して作った画文集『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社)にその時の様子が描かれています。

(引用はじめ)
僕が絵がうまくなったのはこのときからである。景色のよい中部の山々、太平洋や富士の雄姿を見ては、自らどうかしてあのようなよいものを紙の上へうまくあらわそうと思った。お父さんがいろいろ手ほどきをおしえて下さった。僕はもってきたクレヨンで一生けんめいにうつしとろうとした。
(引用おわり

次に間近に富士山をうつしとることになったのは、1942年、かこが16歳の時のことでした。当時の中学は5年まであり、その中学5年生で戦争に備え訓練のために富士山の裾野で野営(キャンプ)に行った時に描いたと語っていました。小さなノートほどの大きさの板に油絵の具で、中腹まで雪のある富士山を描いています。

絵本を作ることが仕事になってからは、富士山をテーマとした北斎の浮世絵をかこが模写して『こどものカレンダー4月のまき』(1975年偕成社)で紹介しています。

富士山に魅せられたかこが、その美しさだけではなく科学的な見方で6年をかけてつくったのが、かこさとし 大自然のふしぎえほんシリーズの第一冊目『富士山大ばくはつ』(1999年小峰書店)です。その第一場面が冒頭にある美しい姿で、前扉(下)には北斎の他に広重の絵の模写と共に噴火のメカニズムを示す図があり、科学絵本としての要素と美しさ、人々を惹きつける富士山の魅力を解明しようという、この本が目指すところが伝わってきます。

ちなみに後ろ扉には富士山固有のフジサクラ、フジアザミが描かれていて、この本では、火山としての富士山だけでなく、それを見つめながら暮らしてきた古今の人々、気象、生き物、植物についても詳しく知ることができるのです。

小学生や中学生の時に描いた絵は、巡回展公式図録『かこさとしの世界』(2019年平凡社)に掲載されている他、2022年3月5日から名古屋松坂屋美術館で開催の巡回展でご覧いただけます。