編集室より

『お子さんと遊んでいますか』は加古が書いた文章を集め、1冊にまとめたもので1987年に婦人の友社から出版されました。ーお母さんとこどもの成長を考えるーという副題があるように、こどもの成長にとって大切なものは何であるかを加古の体験や随筆などから考える一冊です。

その中の「私の体験から」という章に収められえている「四季の豊かな北陸の町で」という見出しの部分をご紹介致します。

(引用はじめ)
私は、成長するにつれて、いろいろな本を読んだり、多くの先人から教えてもらったりしてきましたが、昆虫や魚や鳥のことや、草や木の実や、森や沼のことを、私が書いたり、語ったりする基本となっているのは、前にも記したように、生まれ育った、北国の小さなまちの経験がすべてといってよいほどです。

春、学校から帰った子どもたちは、先を争って戸外にとび出していきます。兄さんや姉さんの帰りを待ちかねていた小さな子たちも、一生懸命その後からついてきます。そして、セリをつんだり、タンポポを胸に飾ったり、レンゲの花の首飾りを作ったりします。夏になれば、土手にバッタが飛び、日暮にはホタルの乱舞です。

土手に上ると、鉄橋が赤く見え、その上を時折、貨車や客車が通って行きます。そして列車が通りさえすれば、子どもたちは声をかぎりに両手を振って万歳をさけんだものでした。

子供たちにとっては、当時、自分たちがつかまえた、カニやアユやキジの子がおもちゃであり、白いチガヤや赤いノイチゴがおやつなのでした。

遠い山の峰に白く雪が見えるようになると、もう冬です。やがて、雪が降り積もり、寒風がヒューヒューと吹きつのっていきます。

こうした、幼い頃にきざみつけられた印象を私から取り去ってしまうとしたら、山道とあぜを歩くときの感じの違いや、海と雲のささやきや怒りなど、移ろいゆく四季折々のすばらしさについて、何一つ語ることができなかったことでしょう。
(引用おわり)

この文章にあるようなふるさとの日々とそこから考えられる遊びの意義については『だるまちゃんの思い出 遊びの四季ーふるさとの伝承遊戯考ー』(文春文庫)に豊富な挿絵とともにまとめられています。是非お読みください。