絵本”かわ”について -1- 加古里子
折り込み付録(1962年)より
1962年福音館書店「こどものとも」7月号として刊行された「かわ」には折り込み付録があり、編集部の以下のような解説(最後の段落)につづき著者の詳細な解説がありました。長いものですので3回に分けてご紹介いたします。
この絵本では、できるだけくわしく"かわ"の生態が画面にかきこまれています。しかし文章のほうは、絵の細部までを、1つ1つ説明してはいません。それを詳細に説明することは、幼い人たちをかえって混乱させ、わずらわしくさせるだろうと考えました。しかし半面、知的な好奇心にみちている彼らは、あるいは本文の説明だけでは満足しないでしょう。そんなとき、もうすこしくわしく説明してあげられるように、画面の詳細な解説を作者にしていただきました。(編集部)
絵本"かわ"について -1- 加古里子
この絵本を読まれる際の手引きとして、各場面の補足的な説明をのべさせていただきます。
表紙には
この絵本の総まとめの意味で、全場面を一連の地図として示しました。第1場面から第6場面にいたる地域が裏表紙に、第7場面以下第13場面を表の方に配置しました。
絵本の中で、13に分けられたそれぞれの場面が、どんなふうに連続し、関連し合っているか、首軸である川がどのような流れと曲折をへているか、また同時に地図ではどんな記号がどれをあらわしているかを絵さがしのように、各場面と対照しながら、おとなの方も子どもさんといっしょにみていただけたらとおもいます。
「かわ」裏表紙。この地図の等高線も加古が描いた。
第1場面は
河川のはじまり、水源の様子です。所によっては、湧水とか涸谷(かれだに)*が水源地となっている所がありますが、ここでは、3000m級の高山地帯にしました。雲や霧がもたらした氷雪や雨露が、集まって小さな流れとなる過程に気をつけてください。はい松*やらいちょう*、高山植物といった風物、登山者の服装備品なども、かきこんでみました。
*涸谷:乾燥気候の地方にあり水の流れていない谷。急雨のあるときにだけ流れる。(著者による簡単な説明。以下同様)
*はいまつ:地をはっているような形のまつ。本州の中北部の高山や北海道北部・千島などの風雨の激しい所にはえている。
*らいちょう:日本アルプスや立山(たてやま)などの高山帯にすむ鳥。夏は茶色、冬は白色になる。天然記念物に指定されている。
第1場面、左端。登山者たち。
第2場面は
高山からの流れと、湖から滝となって流れ出た水流とが合して、深い山と山との間、いわゆるV字谷を走るありさまです。
左手遠く噴煙をあげる活火山、火山のすりばち形のくぼみにできたカルデラ湖、そしてロープウェイなどのある温泉観光施設など、火山地帯の状況が見られます。
右手前の尾根には、地形測量に従事している人がいます。航空写真による測量法が発達した今日でも、最終的な決定のためには、こうした地味な苦労が続けられているのです。
中央の樹林におおわれた山頂には、無線の中継塔が立っています。送られた電波が距離や地形で弱まったり阻害されるのを、こうした施設装置によって防ぎ、全国へのテレビ網や通信が確保されているのです。
第3場面には
ダムとそれにつづく森林地帯があらわれています。
地形をえらんで設置されたダム(この絵ではアーチダム)*は、単に発電ばかりではなく、洪水・渇水(かっすい)防止や灌漑(かんがい)、養魚など多くの目的につかわれますが、ここでは水力による発電を目的にしたダムです。その電力を遠い消費地に送る高圧送電線が、発電所から出ています。ダム開発のときにつくられた輸送路を、遊覧バスが走っています。
右手は、山の傾斜面を利用した植林・造林地帯で、杉を主とした国有林を示しました。斧や、手引鋸・機械鋸によって伐採された木材は、索道*やそりや、軌道、所によっては筏(いかだ)にくまれて集材所へ運ばれてゆきます。
*アーチダム:貯水による水圧を堤体のアーチによってささえる形式のダム。材料はコンクリート。
*索道:空中ケーブル式に、材木やときには人を運搬する設備。
第4場面には
川が山地を脱する前に両岸がきりたった岸壁となっています。集まった水はしだいに量をまし、かたい岩を侵食(しんしょく)*し、できた砂礫(されき)は水の勢いとともに押し流されます。
流れの下手に都市の飲料水用の取入口がみえ、水門のそばの管理所では、常に水質・水量を監視して、上水の確保につとめています。
*侵食:川や海の水が地盤を掘り削って溝や谷をつくり、山をくずしたりする作用。