「からたちばやしのてんとうむし」(1974年偕成社)
様ざまな虫たちが活発に活動するのを目にする季節です。
かこさとし おはなしのほんシリーズから、てんとうむしを主人公にした「からたちばやしのてんとうむし」(1974年偕成社)のあとがきをご紹介しましょう。
(引用はじめ)
子ども会でのある日、ひとりの女の子が、にぎりしめた小さな手を、そっとひらいて私に中をみせてくれました。
どんな大事なものが、入っているのかとのそきこんだ私の目に赤いてんとうむしが一匹、チョロチョロとはい出し、やがて、やおら羽を広げて飛んでいきました。それを見送ったとき、その女の子は私の顔を見上げて、ニッと笑いました。その笑った歯の白さと飛んでいったてんとう虫の赤い色がこの作品を作る直接のきっかけとなりました。
西欧では、"淑女の甲虫"とか"レディーバード"とか呼ばれて可愛いがられ、日本でも各地のわらべうたに、
〽︎ てんとむし てんとむし
てんとさまの おつかい いってこい
〽︎ まんじゅうむし まんじゅうむし
まんじゅう かっておいで
とうたわれて、子どもたちのよい遊び相手となっています。
このてんとうむしを題材にして、①色の変化と身近な虫たちの四季の変化と身近な虫たちの習性をえがくこと、②てんとうむしの紋様や種類のくべつをおりこむこと、を目標に子ども会での理科教材として作ったのがこの作品のはじめの形でした。
今回、このシリーズに入れていただくため、やや文学的(?)なよそおいにかきなおしたものの、本来は、理科教材の昆虫編のひとつだったを考えて読んでいただければ幸いに存じます。
(引用おわり)
(上は裏表紙。右下に小さく「さ」とサインが入れられています。
あとがきには、「やや文学的な(?)」とありますが、「からたち」と言うと北原白秋の童謡を思い出す方もおられるでしょう。加古は川崎でのセツルメント活動を1970年夏、藤沢に転居するまで続けていました。今ではなくなってしまいましたがその頃には藤沢の家から海に向かう小道の傍に「からたち」の低い生垣があり、そこから着想を得たそうです。からたちばやしを舞台にしたてんとうむしたちの春夏秋冬をお楽しみください。