編集室より

お家にいよう!
そんなメッセージを込めて、かこ作品の中から「いえ」に関連する絵本のあとがきを3回シリーズでご紹介します。
第1回目は1960年に福音館書店から出版された「母の友」絵本48『あたらしい うち』です。絵は残念ながらかこさとしではありません。今から60年前ですから現在の住宅事情とは異なりますが、家を失ったかこさとしの経験からにじみ出る言葉をお読み下さい。

希望と狂気

(引用はじめ)
最近は、どこへいっても新築、改築をし ています。都会地では、新しいビルがたち効外では、集団住宅やアパートがおそろしいいきおいで建設されています。また、まったく個人的な新築も、さかんにおこなわれています。それをみていると、とてもうれしい気がします。新しい家へ、新しいアパートへやってくる家族やその子ども達はきっと希望に胸おどらせてくるだろう。

子どものころ、新しい家へ、 トラックに のってひっこしをしたときのことは、今もありありとおぼえています。きっとあの日の空は、青々とはれわたっていたはずだ、といったような確信めいた気持さえします。

それと反対に、家をやかれ、爆撃におびえてにげたときの恐怖と絶望。同じ人間の手でおこなわれるにしては、あまりにも違いすぎます。同じ物資がつかわれるにしても、一ぽうはあまりにも狂気です。

一年ほど前に、『こどものとも』の一冊 として、「ダムのおじさんたち」という絵本がでました。それはダム建設という、社会的な集団的な建設をテーマにしたものでした。この号は、もっと身近な、家族的なーつの建設をとりあつかっています。私はこのどちらもたいせつだと思います。これから育つ子どもたちが、その両方の建設の仕事を、しっかりとやれるようになってほしいとおもいます。破壊のおそろしさを痛切には知らないいまの子どもたちに、より多く、より強く、建設のよろこびをしらせるようにしたいとおもいます。
(引用おわり)