編集室より

昔話には、勧善懲悪の筋が多いので意地悪や欲深な人が多々登場します。
意地悪爺さんといえば「花咲かじいさん」の話が思い浮かぶ方が多いのではないでしょうか。『とっつこか へちゃつこか』(1967年偕成社)は、こぶとり爺さんといった方がわかりやすいかもしれません。

物語に登場する悪いヤツらを追いかけながら、かこがどんな思いでそういった人を物語に登場させたのか、「あとがき」をご紹介してまいりましょう。

あとがき

(引用はじめ)
この物語のもとになったのは、東北地方から中国地方まで日本各地に広く知られている「とっつこうか」話です。

つつましく暮らしているものが、そのつつましさのゆえに、思わぬ幸に恵まれ、欲深で強欲なものが、自らの欲望のために破滅をしてゆくーと言う筋は、貧しい暮らしをしている人々の共感を得たのでしょう。各地で様々な類話となり、変形を見出してきました。こうした摂理がちゃんと行われているなら、いまわしい収賄や権力者の脱税などということはなくなるはずなのにーと思いたくなるところです。

しかしこの昔話には、もう一つ、恐ろしい針が含まれています。それはその強欲なものが、同じような暮らしをしている隣人だということです。真面目に暮らし、慎ましく生活し、誠実に努力しているものの足を引っ張り、あざけり、邪魔をし、横取りしようとするのが、同じ近隣の庶民であるということです。身体の不自由をものともせず頑張ろうとしている人に、最もひどい仕打ちをするのは一般の人であり、素晴らしい才能や優れた知恵を持った天才を、つまらぬ世俗で煩わせ、苦しめ絶望させた同時代の人々の例を、私たちは多く知らされてきました。そういう「シャーない」人間に対する批判や警告が、この物語のもう一つの大事な骨ぐみです。

その厳しい内容を少し柔らかくするため、方言を使用しました。岡山の美作女子大の皆さんや、鳥取、島根の方々にお礼を申し上げ、子供たちが「シャーない人でない人間」に育つよう祈ります。

かこさとし 
(引用おわり)