絵本 「かわ」について -2- 加古里子
折り込み付録(1962年より)
1962年福音館書店「こどものとも」7月号として刊行された「かわ」には折り込み付録があり、著者の詳細な解説がありました。長いものですので3回に分けてご紹介いたします。
今回は2回目、第5場面から第9場面までの解説を掲載します。
表紙・第1場面から第4場面に関しては、絵本「かわ」について-1-をご覧ください。
第5場面は
山地から平野に出た川が、運んできた土砂を堆積(たいせき)してできた扇状地(せんじょうち)*。ひらかれた耕地の上に、ちいさいけれど平和な村がつくられています。川はここらあたりから、はげしい上流ではなく、ゆるやかな中流となります。
軌道と筏で運ばれた木材は集材所に集められ、ここから消費地に運ばれてゆきます。
*扇状地:川が山地から平地に流れでるとき、流れが急にゆるやかになって、土砂をつみかさねてつくった扇状の緩傾斜地のこと。
第5場面。川のながれのようなゆったりとした暮らしが見られる。
第6場面は
川がゆっくりと流れながら、ゆたかな水田地帯と沼沢地(しょうたくち)を形づくっているところです。
水稲の生育には水が必要です。そのため水路や水門などの施設と人力・機械による灌漑(かんがい)が、農家の協力や工夫によりおこなわれています。
また川がうねりながら流れると、流れのあたる岸はしだいにけずりとられ、反対岸にはそれらの土砂がつもってゆくため、そのうねりはますますひどくなります。そして洪水などで川筋が変わると、もとの湾曲(わんきょく)部は三日月(みかづき)湖や沼となって残され、水鳥や魚や水草の多い湿地帯をつくります。
第7場面は
ひろい川原をともなって川幅がさらにひろくなって流れている所です。こういう所はいたって浅く、そのため一度大水になると氾濫することが多いものです。ですから水勢を弱めるための防護林や、長いかごに石をつめた蛇籠(じゃかご)やコンクリートの堤防による水制護岸工事が施され、一方では堆積した川底をふかくし、ほり出した砂礫を建設材として利用する砂利取場が見うけられます。
対岸の広漠地は 牧草地と温室栽培地として利用され、そこに働く人たちと遠足のこどもたちがみえています。
第8場面は
川沿いの緑地帯です。都会の騒音やよごれた空気をさけて、新鮮な外光と緑気を浴びることは、健康な心身のために、この上ないレクレーションとなるでしょう。俗悪な施設や過当な競争によって、このような貴重な地域を次々と失わせることなく、大切に保存活用してゆきたいものです。
第9場面は
川がいよいよ大きな都市の周辺に近づいてきた所です。コンクリート住宅の団地群と、そこと都心部を結ぶ郊外電車、そして第4場面の取入口から暗渠*の水路で送られた水が、浄水場で飲用水となり、都会地の各家庭に送られます。
また第3場面のダムで発電された電気が、送電線を通って変電所に送られてきました。ここで電圧をさげ、工場や家庭へ送られてゆきます。
都市を水害からまもるためと工業用水路として、堰(せき)*とそれに対応する放水路が、大きな湾曲部に設けられ、おおきくのびた川洲はゴルフ場となって利用されています。
*暗渠: 道路・運河・鉄道・軌道の下を水をとすためのおおいをした水路や、排水などのために地下に設けた溝。
*堰: 水をせきとめたり水のながれを調節するために、水路中または流出口につくった建造物で、水はこの上を越して流れる。