編集室より

しばらく品切れ状態が続き重版が待望されていた『すばらしい彫刻』(1989年偕成社)が2018年11月に印刷されました。かこさとし自らが出版を依頼した唯一の絵本『美しい絵』(1974年偕成社)から15年を経て刊行された姉妹編ともいえるのが本作です。著者の言葉は、2016年7月16日に当サイト「あとがきから」でご紹介しましたので是非ご覧下さい。

かこさとしと彫刻との出会いは、いつ頃だったのでしょうか。
生まれ故郷福井県越前市で通っていた幼稚園は引接寺(いんじょうじ)という1488年に建てられたお寺にありました。総ケヤキ造りの山門には彫刻があるほか境内には古い石仏などもあり、幼い頃にこのようなものを目にしていたはずです。

東京に転居し1942年中学生の時、上野で開催されたレオナルド ・ダ・ヴィンチの展示会を見て驚愕したそうです。以来、ダ・ヴィンチに魅了され、興味が深まっていくのですが、その時に上野で見た彫刻のスケッチが残っています。西郷隆盛の像、ロダンの「考える人」や「カレーの市民」の歩む人の足元が、色が変わってしまった古いわら半紙に、せいぜい4-5センチくらいの小さなものですが鉛筆で走るようなタッチで描かれています。これだけ見ると中学生の手によるものとは信じがたい手慣れた線ですが、『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社)を小学校卒業時に描いた加古ならば、合点が行く描きっぷりです。

『すばらしい彫刻』でとりあげられているミロのビーナスの思い出は、高校にあったミロのビーナス像に始まり、ゲートルを巻いた加古とのツーショット(『別冊太陽』に大きな写真掲載)が残っています。そして終戦後初めての五月祭、大学2年生だった加古はミロのビーナスの版画を作成(当ウェブサイトのプロフィール1946年に掲載)したほどです。

『すばらしい彫刻』に紹介されているエジプトのアブシンベル神殿・ラムセス2世の像や奈良の大仏なども加古が長年興味を持ち研究していたものです。1985年に『ならの大仏さま』(福音館・現在は復刊ドットコム)、1990年に『ピラミッド』(偕成社)を出版していることからもわかります。

そしてこの本の最後には、あの上野で見たロダンの作品が取り上げられています。『すばらしい彫刻』で古今東西のすばらしい彫刻とそれを作った芸術家、そしてそれを見て感動した加古里子と出会っていただけたらと思います。