作品によせて
『くらげのパポちゃん』刊行を記念して越前市ふるさと絵本館ではかこさとしが描いたクラゲの絵をたくさん展示しています。
例えば科学絵本『クラゲのふしぎ びっくりばなし』の表紙や扉、本文からミズクラゲの絵を選んで初公開しています。
たくさんのクラゲが背景にも描かれている表紙
ユーモラスなクラゲや海の生き物が描かれている前扉
たくさんのミズクラゲが乱舞する最終場面
又、初公開といえば『あかですよ あおですよ』(下)の絵など、いずれも初公開ですから、この時期の絵本館展示は見応え十分です。
クラゲや海の生き物達が、たこの学校の授業を興味深々で見学している様子は、思わずニヤニヤしてしまうほどです。絵本館で心ゆくまでご覧ください。
この展示は9月1日までです。
絵本館で展示していないものにもミズクラゲは描かれています。
『こんにちは また おてがみです』(下)の中はこんな感じ。
「7、8、くらげ、くじゃくにくじら」と続きます。
もちろん科学絵本『海』の中にもミズクラゲや他の種類のクラゲがあちらこちらに登場していますし、他の絵本にも描かれています。ほぼ全作品が揃う絵本館で探してみるのも一興かもしれません。
(尚、絵本館は6月26日(木)は館内整理のため臨時休館となります。ご了承ください。)
かこさとしの孫、中島加名の描いた「パポちゃん」はこちらです。
昭和100年で昭和レトロなものに注目が集まっています。
その時代にこどもだった筆者にとっては懐かしさと共に思い出すのですが、ご存知ない方々には新鮮に映るのかもしれません。
そんな昭和の生活風景が多く描き込まれている加古作品、今回注目するのはネッカチーフ。
聞いたことがないという方もいらっしゃるでしょうか。スカーフのことです。真四角で大きさはバンダナくらい。
調理実習で使う三角巾のように、半分に折って三角形にして使いますが、三角巾は首の後ろで結ぶのに対し、ネッカチーフはは首の前、つまりあごの下で結ぶことが多かったように記憶しています。
百聞は一見にしかず、『ことばのべんきょう くまちゃんのいちにち』(1970年福音館書店)をご覧ください。
『あさですよ よるですよ』(1986年福音館書店)のおかあさんも仕事中はネッカチーフ。
『わっしょいわっしょいぶんぶんぶん』(1973年偕成社)の表紙には、昔ながらの手拭いとおしゃれのアイテムとしてネッカチーフです。
まだまだいますよ。
よくばりアクマの意地悪にがっかり
右端の人も楽譜を持つ右側の人も
『からすのやおやさん』(2013年偕成社)の表紙、「リンゴさん」に注目です。「リンゴさん」の幼馴染の「イソちゃん」もネッカチーフをかぶってお店のお手伝いをしています。
右がリンゴさん、左がイソちゃん
仕事が終わって首に巻いています
『からすのやおやさん』に描かれているならきっと『からすのパンやさん』(1973年偕成社)にも⋯いました!
声を張り上げているおとうさんの下に⋯
今年の秋にはネッカチーフが流行るでしょうか⋯???
昭和の中頃、子どもだった筆者は自分宛の手紙やハガキを受け取ると大変嬉しかったものです。多くは年賀状でしたが、小学校3年生の頃には授業で手紙を書いてお返事をいただくということもあり叔母宛てに書いた覚えがあります。
そんな時代でしたから郵便というものは子どもにとって興味深いもので、加古は幼稚園児向け絵本「キンダーブック」に、のちには絵本『ゆうびんです ポストです』(1983年/2017年復刊ドットコム)、そして童話集⑧ には「さわちゃんのねんがじょう」という題名でほぼ同じ内容のお話を載せています。
「こんにちは また おてがみです」の封筒表側
「こんにちは また おてがみです」の封筒裏側
福音館書店から出版されている「こんにちはおてがみです」(2006年)「こんにちは また おてがみです」(2014年)は絵本作家10人による作品で、それぞれ絵本でお馴染みのキャラクターからの絵つきお手紙がユニークな封筒に入れられているという凝った作りです。
好評で続編が出たことからもお子さんたちがワクワクドキドキしながら大好きな絵本の登場人物からのお手紙をみたに違いありません。
加古がかいたのは、もちろん「だるまちゃん」からのお便りです。
いったいどんな内容のお手紙なのでしょう?ヒントは封筒の周りに描かれた絵です。どうぞお楽しみください。
青葉若葉が茂るこの季節、ふと思い出すのはスズランの花。北の大地では今頃咲いているのではないでしょうか。
そしてスズランが登場するかこ作品を読み返すのもこの季節です。
ひとつは『しらかばスズランおんがくかい』(1986年偕成社)。
絵本の裏表紙にはハリネズミがスズランを手にしています。あとがきには、ご覧のような絵(下)とともに「シラカバの林にスズランの花が咲いている風景というと⋯」という出だしで、実は「地味のやせた、寒冷の厳しい所」で、「一見美しいが、その実、とても厳しい」場所にすむ動物がこの絵本にはたくさん登場します。
束の間の夏、「おとをだすおもちゃ」のまわりでくりひろられる動物たちが詩情ゆたかに描かれるこの絵本は2025年5月28日の福井新聞1面のコラム「越山若水」でも取り上げられてました。
このお話の元になったのが、新聞に掲載した「おおきなおおきな おとしもの」という1963年作の小さなお話で、『かこさとし童話集②」に掲載されています。短い文章ですが2ページにわたる挿絵(下)があり、絵を見ながら自分で続きのお話作りを楽しんでいただきたいという加古の願いが込められているようです。
もう一作ご紹介したいのがウポポイが開館した記念に復刊していただいた『青いヌプキナの沼』(1980年/2020年復刊ドットコム)です。
ヌプキナとはアイヌの言葉でスズランのこと。スズランが咲く青い沼の地でアイヌの人々に起きた悲惨な出来事は、決して歴史の闇に葬り去ってはならないという強い気持ちが込められている作品です。
スズランに託したかこさとしの思い、願いが皆様に届くことを願ってやみません。
『青いヌプキナの沼』のあとがきは以下でどうぞ。
青いヌプキナの沼 あとがき
ボッティチェリはあだ名で本名はフィリペピ。イタリア、フィレンツェに生まれ1510年5月17日に没したこの画家が描いた作品は現在でも多くの人々に感動を与えています。
加古も『こどものカレンダー5月のまき』(1975年偕成社)のその日のページに、模写した“はるのおとずれ”(下)を載せています。
1972年に会社員を辞め執筆に専念することとなった加古はようやくヨーロッパを訪れ、ボッティチェリ絵画を自分の目で見ることができました。大変感動したようで、筆者にもぜひ実物を見るよう勧めたほどでした。
1981年に偕成社より『絵で見る化学のせかい』シリーズが出版され、2024年『新・絵でみる化学のせかい』として新版が出されましたがその第3巻『化学の大サーカス 技術の歴史』にあるのが、ボッティチェリのこの絵(下)です。
ウフィッツ美術館にある名画中の名画をここで描いたのは、現在では生地に色鮮やかな染めをするのに泡を使うことから、海の泡から生まれたとされるギリシャ神話の美の女神(ローマ神話ではヴィーナス)を連想するからなのでしょう。
百花繚乱、春たけなわの今、絵の中の春もどうぞご覧ください。
小さいお子さんはままごとやお店やさんごっこが大好きです。
おかしやさん、やおやさん、てんぷらやさん、そばやさんはご存知『からすのパンやさん』の続編です。
この4冊の続きのお話を40年ぶりに出版した時には、かつて子どもだった方々が、次のおみせやさんはなんだろう?とご自分のご贔屓のお店を思い、真剣に予想して盛り上がったものです。
読者さんからのカードには「おかしやさん」ではなく、パテイシエがいい、チョコレートやさんをぜひ!といったお声もいただき加古はそのリクエストの多様さに驚きつつ大変喜んでおりました。
『うさぎのパンやさんのいちにち』(2021年復刊ドットコム)という作品はご存知かもしれませんが、「とこやさん」や「はなやさん」のお話はお読みになったことがないのでは⋯?
『コチコチやまのとこやさん』(1984年偕成社)は2023年にオンデマンドで出版されました。『からすのやおやさん』は商売のお話として読むこともできますが、この「とこやさん」も「うさぎのパンやさん」同様、お店の仕組みを考えるきっかけになりそうです。
『はちの花やさん』は『かこさとし童話集②』に収録され、表紙にその絵があります。このお話は1993年「こどもチャレンジ」(ベネッセ)として出版されたものですが、はちが花やさんをするというのはなかなかの思いつきだと思いますし、最後に花屋さんならではのあっと驚く仕掛けがあるのが、楽しい物語です。
またこの②巻には「おしゃれのカラス」という、染め物やのカラスのお話も収録されています。
時代と共にお店やさんの形態も種類も変わってきますが、お店にものを並べて売って、これはこどもにとっては社会活動の一端を分かりやすく見ることができ、興味尽きないに違いありません。
童話集②表紙の絵は「はちの花やさん」
童話集②に収録の「おしゃれのカラス」
もうすぐ小学生になるお子さんたちは、小学校ってどんなところ?と思っているかもしれません。
兄や姉がいなかった筆者は、小学校がどんなところなのか全く想像できませんでしたが、学校にあがり勉強するということに、成長してゆく喜びと意気込みをほんの少し感じていたように記憶しています。
学校は子どもたちにとって一番身近な場所なので、加古作品のなかには学校を舞台にしたものが多くあります。
『どろごぼうがっこう』(偕成社1973年)は、「やま また やま」の奥深くにあるので、残念ですがちょと通えませんね。
『おたまじゃくしのしょうがっこう』(2014年偕成社)は、『おたまじゃくしの101ちゃん』が大きくなって小学校に上がるという設定です。101匹いたおたまじゃくしですが、これまた残念なことに小学生になれたのは84匹でした。
後ろ足がはえそろって、いちべえぬま小学校ではお母さん先生と言葉の勉強、数の足し算、体操。遠足では、こわいおもいもしましたが、見守役で「ついでに ごみを ひろったり そうじを したり」の校長先生(どこか加古の雰囲気がします)の活躍もあり、「みんなは、げんきに べんきょうして育っていきましたとさ。おしまい。」
一方、『あかですよ あおですよ』(2017年福音館書店)は海中のタコの学校です。
この学校があるのは「いわのなか べんきょも たいそうも なみのまにまに ゆうらゆら」ですから、授業参観をするものがたえません。魚や貝が、しかも個性的ないでたちだったり親子連れだったり、興味津々でやってきては,タコの子どもたちが描く絵のモデル?になったり、教室でかくれんぼ?をするものもいて、なかなかどうしてユニークな授業風景です。
たこたこ学校の生徒もランドセルを背負って登校
学校には黒板とモットーがつきものです
こちらは「げんそのがっこう」「元素学苑」。『かこさとし新・絵でみる化学のせかい』の第2巻『なかよしいじわる元素の学校と周期表』の最初の場面です。
この絵本は、中学や高校に入学するみなさんにも、大人の方々にもお読みいただきたい内容です。もちろん、いじわるを教える学校のお話ではありません。
小学校ってどんなのところ?と思ったらぜひお読みいただきたいお話は『かこさとし童話集第2巻』にある「きつねの学校たぬきの学校」全7話です。
1年生、2年生、3年生、4年生のお話もあれば全校生徒が登場する運動会や卒業式のお話もあり、学校ってどんなことをするのか、学年が進むとどういうことになるのかが少しずつわかってきます。
楽しいお話しをたくさん読んで、元気に入学式を迎えられますように!
加古は絵を描くだけあって色に関心が強く絵本の題名に色がつくものがたくさんあります。
古い順にあげると①『おおいめ くろいめ ちゃいろのめ』(偕成社1972年)、②『あかいありと くろいあり』(偕成社1973年)、③『しろいやさしいぞうのはなし』(1985年偕成社/2016年復刊ドットコム)、④『かわいいきいろのクジラちゃん』(偕成社1985年/2021年復刊ドットコム)、⑤『青いヌプキナの沼』(1986年偕成社/2020年復刊ドットコム)。そして①②の続編『あおいめのめりーちゃんのおかいもの』『あかいありのぼうけんえんそく』(2014年)
40年後に出版された続編『あかいありのぼうけんえんそく』
続編『あおいめのめりーちゃんのおかいもの』(2014年)
『おおいめ くろいめ ちゃいろのめ』は当時まだSDGSなどという言葉はありませんでしたが、肌の色や目の色が違っても子どもは子ども、みんな同じということが小さいお子さんにも自然にわかるのが優れているところです。
「しろいやさしいぞう」と「きいろのクジラちゃん」はいずれも仲間とは違う色ゆえにいじめられるのですが、最後には皆に認められる物語です。
ヌプキナとはアイヌの言葉でスズランのことでスズランの花が縁取る青い沼を背景に、差別されてきたアイヌの人々の悲しみを伝える物語で、ぜひ知っておきたい歴史の一コマを再現しているかのようです。
科学絵本の題名にも色が出てきます。
『あか しろ あおいち』(1977年童心社)の赤は赤血球、白は白血球です。青は人間の静脈が青くみえることからの命名でしょうか。イカやタコの血は青です。
そのタコを主人公にした色を学べる科学絵本『あかですよ あおですよ』(福音館書店2017年)は、海の中、タコの学校の生徒たちが先生の指導でそれぞれの色を使って絵を描きます。
その様子は、かこさとしが20代後半からおよそ20年間川崎のセツルメント(ボランティア)活動で子ども絵の指導をしていた時の姿と重なります。赤や黄色、緑に青、茶色⋯黒は、いったいどんなものを描くのでしょうか。
紙芝居『あかくんぽっぽ あおくんぽっぽ』は童話集⑧の表紙にもなり、収録されています。
童話集の挿絵はモノクロですが、ここにも多くの色を含む題名のお話があります。それについてはまたの機会にお知らせいたします。
お子さんたちにとって色は大変魅力的なもので視覚による情報は記憶に長く残ります。さまざまなな色が登場する絵本をじっくり見ていただけたらと思います。
大正15年生まれの加古は、幼い頃、小川で小魚をとるには、手ぬぐいがもってこいだった、とその手順を詳しく『だるまちゃんの思い出 遊びの四季』(2021年文春文庫・上)に挿絵付きで紹介しています。
そして若い頃も手ぬぐいを愛用していました。そんな姿が絵本の中に登場しています。
『わっしょいわっしょいぶんぶんぶん』(1973年偕成社・下)の裏表紙、腰に手ぬぐいで子どもを肩ぐるましているのは加古の姿、そのものです。ねじり鉢巻やほおかむり、姉さんかぶりの人もいます。
そして表紙(下)にも手ぬぐいの人、ひと⋯。
2024年に新装版が刊行された『かこさとし新・絵でみる化学のせかい』(講談社)にも、麦わら帽子をかぶり、首に手ぬぐいを巻いた加古が描かれています。
『からすのパンやさん』にも⋯
サイチどんも
パンやが焼けた?!
圧巻は、この面々の手ぬぐい姿!
こちらは2025年1月に重版になった『かっぱとてんぐとかみなりどん』(復刊ドットコム)の最終場面です。昔話の時代、手ぬぐいが必需品だったのがよくわかります。
そんなこんなで、加古作品の一場面が手ぬぐいになったりしました。
当サイトのニュースにも掲載されています。
手ぬぐい
てんぐとかみなりといえば、『だるまちゃんとてんぐちゃん』(1967年)、『だるまちゃんとかみなりちゃん』(1978年、いずれも福音館書店)を思いうかべてくださる方も多いことと思います。
実は、このてんぐとかみなりを加古は絵本を作るようになる以前、手描き紙芝居に登場させています。
1952年、セツルメント(ボランティア)こども会のため作った『てんぐのはなはな』はてんぐのうちわをあおぎながら「てんぐのはなはな」と唱えると鼻が伸びてゆくというユーモラスなお話ですが、調子にのっているうちに大事件が起こり、主人公が安楽な生活を反省することとなります。
2年がかりで構想を練った、仕掛けのあるこの紙芝居は大好評となり、貸しては戻ってこず、新たに作り直しを繰り返し現存するのは1995年に作ったものが『かこさとしと紙芝居 創作の原点』(2021年童心社)に掲載されています。
そして『童話集④日本のむかしばなし〈その1〉』(2023年偕成社)にも場面ごとの挿絵入りで収録されていますので、お楽しみください。また、この巻には2002年作の「天狗とばあさん」(下)という実に愉快なお話もあります。
1953年作の「カミナリ・ゴロちゃん」は、かみなりの坊やが空から落ちてきて、人間の子どもたちと遊びます。しかし夕方になると子どもたちは家に帰ってしまい、カミナリ・ゴロちゃんは空から降りてきたカゴに乗って帰ってゆくという17場面からなります。
手描き紙芝居「カミナリ・ゴロちゃん」第1場面(表紙)
「カミナリ・ゴロちゃん」第2場面
加古はかみなりの子どもの姿を描く前に宗達の風神雷神図を模写したり、様々なかみなりの絵を見て模写しながら自分なりのかみなりの姿を作り出そうとしていました。
『だるまちゃんとかみなりちゃん』が誕生するのはこの紙芝居から15年後のことになります。
手描き紙芝居「かっぱとてんぐとかみなりどん」
「かっぱとてんぐとかみなりどん」第3場面
1959年作の紙芝居「かっぱとてんぐとかみなりどん」(上)は炭焼きの「とうべえ」にかっぱとてんぐとかみなりの三者が無理難題を言いつけるのすが、いつもは泣いてばかりの「とうべえ」のこども「とうへい」がこの3者を一気に退治してしまう愉快な物語です。
子どもの機知で問題を解決する、このお話は1978年にかこさとし・むかしばなしのほんシリーズ5巻 お第1巻として同名で絵本として出版されました。
この物語の中では、てんぐもかみなりも人間に悪さをするものなので、その雰囲気が漂う顔つきが表紙に並んでいます。
悪者たちをやっつけた「とうへい」は最後にこんな表情です。さて、どうやって退治したのでしょうか。
独特の味わいのある絵と言葉で語られる物語を是非、お楽しみください。
2014年に復刊ドットコムで出版され、2025年にも重版されることになりました。詳しくは以下でどうぞ。
かっぱとてんぐとかみなりどん