こぼれ話

作品によせて「ゴム長、長靴、レインシューズ」で書き漏らした加古のエッセイについてつけ加えておきます。

その題名は「長靴ー流れていった私の戦後」。1982年10月22日号「週刊朝日」に〈値段明治大正昭和風俗史〉として掲載されたものです。

北陸雪国育ちのかこさとしにとって、幼い頃の冬の思い出は長靴とともにあり、東京へ引っ越してからは長靴を履かずに過ごします。しかし戦後の物資がない時代、またしても長靴が必要な状況になり、また別の思い出がうまれました。

このエッセイには時代や、著者の心持ちなど様々な要素が盛り込まれ短いながらかこさとしの半生が書き込まれているかのようです。『別冊 文藝 かこさとし 人と地球の不思議とともに』(2017年河出書房新社)に再録されています。

4月23日は「子どもの読書の日」そしてその日から5月12日までは「こどもの読書週間」だそうです。
福井県立ふるさと文学館では、これにちなみプロローグゾーンにて、「ふくいゆかりの児童文学」展を開催中で、かこ作品の中から『未来のだるまちゃんへ』の表紙複製原画を展示しています。

4月からの新しい環境に緊張がちな日々、幼い頃にお気に入りだった絵本を読んで、心を落ち着けるのはいかがでしょうか。 もちろん、新しい分野の本に挑戦するのも素晴らしいことです。

子どもにとって、外遊びが大切ですが、一日のどこかで本を手に取る時間、習慣を身につけることは大きな意義のあることに違いありません。

2018年4月26日に開館5周年を迎える福井県越前市ふるさと絵本館では、だるまちゃん、マトリョーシカちゃん、そしてからすに変身できる衣装を揃えています。ご覧のような新しい帽子に、写っていませんが、チョコちゃん、リンゴちゃん、レモンちゃん、オモチちゃん色のマントも出来上がりました。

大人用、小さなお子様用の2種類のサイズがありますので、是非この衣装をまとってからすの気分に慕ってみてはいかがですか。絵本館でお待ちしています。

絵本の絵の下描き、下絵はあくまで著作の完成に向けた一段階にすぎませんので普通は皆さまのお目に触れることは、展示会などの機会を除き、ありません。

ところが、だるまちゃんシリーズの新作『だるまちゃんとキジムナちゃん』の下絵、それも最初の段階のラフなものが写っている雑誌があります。「絵本作家61人のアトリエと道具」(2017年玄光社)です。

本作出版のかなり前にこのような形で登場するのは、かこさとしの作品の中では珍しいことです。 お手元の『だるまちゃんとキジムナちゃん』(2018年福音館書店)と比べてご覧いただくと、この下絵が出来上がるとこんな風になるのだと、実感していただけるのはないでしょうか。ちなみに、写っている指先はかこさとしです。

他の写真で書斎の机の上に無造作に並べられているのも同作品のラフです。思わぬところで見られる下絵に興味を持っていただけたら思い、ご紹介しました。

絵描き遊びの代表といえば、「へのへのもへじ」。「へへののもへじ」という言い方もあります。「じ」と言いながら「し」と書く場合もあり、そのバリエーションだけでも40種類あると、この本では例をあげて紹介しています。

また、「の」の代わりに「め」を書いたり、さらに「へ」のかわり「こ」にして「こめこめ」で始まるなどその多様さは眼を見張るばかり。50年間全国各地で収集した10万以上の資料を整理、分析、考察して600ページ近くあるこの本の最後で著者は「子ども」「図形遊び」「伝承遊び」という3つのキーワードにたどり着きます。

掲載されている無数の図形を見ながら、かこさとしの考察過程をたどる面白さは格別です。その図形を全部網羅した著者の資料を2018年1月27日から2月6日まで開催の「たかさき絵本フェスティバル」で展示します。圧巻の多様さこそが、子どもの力を現しています。是非ご覧下さい。

2017/12/13

かるた

なんともほのぼのする絵は、『こどものカレンダー1月のまき』(1975年 偕成社)のあとがきに添えらているものです。

筆者が小学生だった頃、「カルタ」はポルトガル語だということを習いびっくりしたのを覚えています。「かるた」とひらがなで書かれるようになったのは、長い年月が過ぎ日本の文化にすっかり馴染んだ証拠だと聞き、言葉の表記一つにも文化の歴史があることを知り感動しました。

百人一首を覚える宿題が出たのは中学生の時でした。かこさとしの出身地・越前市は、かるた競技が大変盛んで名人位やクイーンを多く輩出しています。競技かるたは、スポーツとも言えるほど機敏な反応が必要で、それには口の形による呼気の差まで聴き分けられることが要求されると聞きました。幼い頃から聞いている音、例えば名前の最初の音などには特に早く反応できるそうです。

それほどのことはできないまでも、お正月には「かるた」でいつもとは違う時間を楽しまれてはいかがでしょうか。冒頭の絵の『こどものカレンダー』には、地域による「いろはかるた」の違いなども紹介されていて、それぞれの地域のかるたも楽しいことでしょう。

かこさとしによる「かるた」もあります。上は、「だるまちゃんかるた」(福音館書店)、下は「かこさとし おはなしのほん かるた」(偕成社)。いずれも読み札は全部ひらがなです。絵本とは別の面白さをあじわっていただけたら嬉しいです。どうぞ良い新年をお迎え下さい。

年賀ハガキの発売が話題にのぼり、来年が気になる時期になりました。

昨年(2016年)NHKラジオ深夜便「人生のみちしるべ」でお世話になったアンカーの村上里和さんのインタビューが「母の友」(福音館書店)2017年11月号の特別記事「ラジオが好き」に掲載されています。その中で絵本のこと、朗読のこと、そしてかこさとしのインタビューを聞かれた方からのお手紙のことなどが語られています。

「ラジオ深夜便」の放送で反響をよんだ「珠玉のことば」が週ごとに記されている「NHKラジオ深夜便日記手帳2018」には2016年の番組で放送されたかこさとしの言葉も登場します。(下の写真、日記帳の右下にかこさとしのことば。)様々のお立場の50人を超える方のことばには、深く心に響くものがあります。

毎年発行されてきた「かこさとしおはなしのほんカレンダー」ですが、来年は大きなサイズになって家族の予定が書き込める月ごとの「からすのパンやさん一家ファミリーカレンダー」となります。毎月、からすたちが皆さんのスケジュールをしっかり見守ります。

今年もあと2ヶ月余り、どうぞお健やかにお過ごし下さい。

かこさとしの絵本に『パピプペポーおんがくかい』という作品があります。いろいろな動物たちが音楽会を開くというお話です。この作品の最後に出てくる「演目」が「うみにうまれ いのちをつなぎ」というもので、観客もいっしょになって全員で大合唱というフィナーレになるシーンです。「うみにうまれ いのちをつなぎ」に曲を付けて下さった方がいらっしゃいます。「サッちゃん」や「いぬのおまわりさん」の作曲で知られる大中恩(めぐみ)氏です。「特報首都圏」(2016年NHK)というテレビの番組がきっかけでした。

2017年9月30日、紀尾井ホールにて開催された「メグめぐコール創設20周年記念演奏会」のコンサート最後の曲にこの曲が、大中氏最新の曲としてお披露目されました。合唱としては初演、ピアノの伴奏と混声で奏でられるハーモニーに聴衆一同、至福のひとときを過ごすことができたのは言うまでもありません。

実は大中氏とかこさとしの出会いは70年前、かこが東京大学の演劇研究会に所属していた頃にまでさかのぼります。『別冊太陽 かこさとし』(2017年平凡社)や、『現代思想 かこさとし』(2017年青土社)にも記載がありますが、かこが大学を卒業する直前の1947年2月、近隣の子どもたちを招待し、かこ自らが脚本、演出、(踊りの)振付けなど、舞台美術の一切を取り仕切り上演した童話劇「夜の小人」(未発表)の作品の中で歌われる「サタンの合唱」「祈りのうた」を作曲したのも他ならぬ若き日の大中恩氏でした。

テレビ番組制作のスタッフはそのような経緯は全く知らず、大中氏と同年代のかこさとしの詞は大中氏の新曲創作のきっかけになるのではないかと考え、氏に相談する前にかこに詞の提供を依頼してこられました。数々の名曲を作られた大中氏との接点については、家族も詳しく聞いたことがなく、そんなご縁があったこと、また氏のお父上が「椰子(ヤシ)の実」の作曲者大中寅二氏であること(作詞は島崎藤村)、などもその時初めて知り、ただただ驚くばかりでした。

こうして偶然のご依頼により70年の時空を超えて2016年、番組の撮影で二人は再会をすることになったのです。番組のナレーションは大中氏が古い友人を訪ねた、と淡々と伝えるにとどまりましたが、その裏には事実は小説より奇なり、としか言いようのない、こうした事があったのです。

氏は「夜の小人」上演のことをよく覚えていらして、公演の前日に近くのお寺で合唱の練習をされたとエピソードをお話し下さいました。かこにとってはまさに夢のような再会でした。『パピプペポーおんがくかい』のあとがきは次のように始まります。

「私は柄にもなく若年のころ、演劇など、舞台芸術に関心をもっていました。」

こうして2017年9月30日は、若き日の情熱が通じたかのような邂逅により生まれた90代コンビによる合唱曲が発表された記念すべき日となりました。

読書の秋、夜長のお友に『未来のだるまちゃんへ』(2016年文藝春秋)はいかがでしょうか。文春文庫今年の100冊の中に選ばれました。著者書斎での写真や『どろぼうがっこう』の元になった紙芝居なども掲載。あとがきに加え、文庫には、ハードカバー表紙用に描き下ろした絵や、なんと中川李枝子さんによる解説もあるのです。

読書会・研究会の課題図書として取り上げてくださることもあるようですし、電子書籍でお読みくださった海外の方からの感想が届いたりもする昨今です。

この本のハードカバー発行は2014年。実はかこさとしの執筆ではなく、語り下ろしによるものでライターの瀧晴巳さんと編集の鳥嶋七実さんを前にかこさとしが語ること14回、ほぼ一年近くにわたりました。お二人は午後一番に来られ、かこは熱心な聴き手の問いかけに応え、笑いに勇気づけられ、次々とかこの口から飛び出す歴史的な事件とそれにかこさとしが様々な形で関わりあっていることに皆で驚きながら、いつもあっという間に時間が過ぎて気づくと夕暮れとなっていたものです。

米寿を迎えようというかこにとってはどうしても言い遺しておきたいこと、聴き手にとっては是が非でも聴いておきたいことがとめどなく続き、話は縦横無尽、時計の長針が一回りしてようやく話が元に戻るといったことも多々ありました。双方にとってそれはかなりのエネルギーがいることであったはずなのですが、いつも幸せな満足感でまた次回、といって笑顔で終わるのでした。

そんな雰囲気で語られたかこの言葉。皆さんに知っていただきたい思い。皆様の心に届くことを願ってやみません。

以下のような感想が寄せられましたのでご紹介します。

「加古里子はこの作品を(自分の)遺言というタイトルにしたいと言ったそうだが、それでは暗くなるから、という周囲の声があって現在のタイトルに変わったとのことらしい。それだけに、内容的にも、表現方法的にも、なんのてらいも、虚飾もなく、実にストレートに自分の体験と思いを語る内容になっている。読んでいて、むずかしいところは全くない。すっと心に入ってくる。しかし、扱われているテーマは決して軽くはない。時代の背景(とくに戦争の体験)や、人間としての生き方、考えさせられることの連続だった。現代という生きにくい時代にあって迷える大人にこそ是非読んでほしい本である。」(愛知県ASさん)

カラス

加古は戦中戦後の食料難の若い頃、畑を耕してはカラスに種を取られたりと苦労をしたものの、なぜかにくめず、むしろ人間の有様をじっと見ているカラスに興味をもったようです。やがてカラスを主人公にした手描きの絵本や紙芝居を作成したことから後に「カラスのパンやさん」(1973年 偕成社)が生まれることになりました。

上にご覧いただいているのは2012年越前市の子どもたちへむけて描いたメッセージで原画は絵本館に展示してあります。
(引用はじめ)
未来をひらくため
自分で努めて学問や科学を学び
芸術や文化を愛する
かしこい子どもをめざしましょう
また自分のくせや力にあった方法で
すこやかな心と体をそなえた子どもになりましょう
そしてこうのとりのように世界に向って
力いっぱいはばたいて進んでゆきましょう
(引用おわり)

越前市の鳥・コウノトリとからすが一緒に飛んでいます。

コウノトリ

2017年2月に刊行された、加古の書き下ろし最新作「コウノトリのコウちゃん」(小峰書店)では越前市の取り組むコウノトリを育む活動を紹介しながら生き物の共生をテーマにしています。

カ・コのコンビ

ところが、カラスとコウノトリ、実は仲が良くないそうです。上にご覧いただいている写真は、コウノトリ育む会の三好栄氏が2016年4月19日に撮影されたものです。コウノトリがからすを追いかけるかのようです。自然界ではそれぞれの種がバランスを保つのは難しいのでしょう。

8月11日に開園するかこさとし監修の全国でたった一つの公園、越前市武生(たけふ)中央公園には、「だるまちゃんひろば」「パピプペポーひろば」「コウノトリひろば」があります。絵本の世界が投影され、山並みを望む大空間、綺麗な空気の中でのびのび遊ぶことができます。そこでは自然界ではむずかしいカラスとコウノトリも仲良く一緒に皆様をお迎えします。カ・コのコンビに会いに是非お越し下さい。

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