編集室より

かこさとしからの問いかけ

投稿日時 2023/05/15

きみはタヌキモを知っているか ー食虫植物とぼくたちの関係ー

タヌキモ?
いったい何のことかと思われるかもしれません。

最近のニュースで絶滅危惧種の水草「ムジナモ」の国内唯一の野生が石川県で確認されたとありました。
ムジナ(上の絵の左)というのは、アナグマのことで、タヌキ(上の絵の右)とよく間違えられるそうですが、タヌキはキツネの仲間でムジナとは異なる種だそうです。

「ムジナモ」はムジナの尻尾の形に似ていて、牧野富太郎博士によって命名されました。この水草は根がなく、栄養を葉の先についている2枚貝のような葉で水中の虫を捕える食虫植物なのです。

そしてこれによく似ているけれど、虫のとらえかたが異なる食虫の水草「タヌキモ」もあります。

加古がこのタヌキモのことを初めて知ったのは小学3年生の時で、その時のことは『過去六年間を顧みて』2018年(偕成社)にもかかれています。

ある日曜の朝、父親の友人の息子さんでかこより一回り以上年上の英(エイ)さんが釣りに行かないかとやってきました。かこは翌日は遠足だからどうしようかと迷っていたものの沼にでかけ、沼の近くの田んぼでめだかを20ぴきほどつかまえて、金魚ばちで飼い始めます。

ところが翌日、こどものメダカがいなくなっていることに気づき、あれこれ尋ねたり調べた結果メダカと一緒に持ち帰ったタヌキモが原因だとわかります。『きみはタヌキモを知っているか』はこんな出来事から始まりますが、副題ー食虫植物とぼくたちの関係ーとあるように、タヌキモ、ムジナモの詳しい生態をはじめ、前後の見返しにも驚くほどたくさんの食虫植物が紹介されています。

しかしながら、かこの問いかけは、そこにとどまりません。

1930年代には東京のどこにでも自然に生息していたタヌキモですが、戦争で焦土と化し、現在は野生のものでなく、栽培されたものが流通しているようです。そして、タヌキモに似ているけれど虫(魚)のとらえかたが異なるムジナモは、ニュースで報じられたものが唯一になってしまったそうで絶滅危惧種です。

15場面で構成されるこの本の最後の3場面は、「植物と虫のほんとうの関係」「植物と動物の長い長い関係」「植物と虫とぼくたちの関係」について」で、晩年完成させたかった「生命図譜」に通じる思いが込められています。

この本の終わりには次のような一節があります。
(引用はじめ)
だから、人間だけがよければという考えや、やりかたをしていると、それはかならずめぐりめぐって 自然のつりあいをこわし、生きもののくらしをつぶす、わざわいとなってくる。
(引用おわり)

1999年にこの本を出版した時点でのかこの危惧がますます深刻になってきていることが、この1冊の本を通してわかります。

最後に、あとがきをご紹介しましょう。

あとがき

(引用はじめ)
ぼくが、タヌキモという名前を知ってから、もう60年以上もたちました。そのあいだ、たくさんのこん虫や動植物から、たくさんのこと、環境や公害や健康や生きることなどについて、教えてもらいました。そのきっかけとなったエイさんですが、戦争にいってなくなり、一人のこった奥さんの家もぼくの家も、戦災で焼けてしまい、そのあとのようすをお伝えできないのが、残念です。おゆるしください。
(引用おわり)