うつくしい絵
かこさとしが出版を依頼した唯一の本
1974年 偕成社より出版され現在に至る本書は、かこさとしが自ら出版社に企画を持ち込み、その刊行を依頼した唯一の作品です。そのあとがきをご紹介します。
(1974年1月の初版ではタイトル「うつくしいえ」で、同年4月に図版の一部の編集を変更し、「うつくしい絵」となりました。)
(引用はじめ)
1973年の秋、私は旅さきで、ふと絵の本をまとめたいという強い衝動にかられました。帰宅とともにほとんど眠らぬまま、2日半ほど部屋にこもってかいたのが、この本の原案になりました。しかし実をいうと、この本はずいぶん長い間いだき続けてきた私の三つの思いがこめられているのです。
その第一は、私が中学生のころ上野の博覧会の会場でダ=ビンチの自画像の瞳にいすくめられたことに端を発しています。それいらい芸術や科学のすばらしさに魅せられた私は、あるときは図書館の一隅で、あるときは試験勉強のさなかひろげた画集の上で、ときには展覧会の人ごみの中で燃えつのらせた、偉大な絵かきさんたちへの思慕と敬愛の念を、この本にこめました。
第二は、学生時代から約17年ばかり子ども会でやっていた絵画指導の折、私が子どもたちに問い、考え、語ってきたことの集約をこの本にもりこみました。
第三は、私たち庶民の生活とは無縁なところで、近代的と称して動いている画流や現代芸術論とやらにたいする疑問と批判をひそかにこめておきました。
このささやかな本を、美を愛する人びとと、子どもたちにおくることができるのを、私はたいへんうれしく思っています。
かこ さとし
(引用おわり)
尚、この本制作の経緯については、ラジオ深夜便、2016年6月15日の放送でかこさとしが詳しく語りました。2016年7月31日まで、ストリーミング放送でお聴きいただけます。
本作を作る直接のきっかけとなったモナ・リザの美しさはどこにあるのか、なぜ世界中の人々が美しいと感じるのか、本作の次ページで説明されます。