編集室より

かこさとしの絵本は子どもから大人まで楽しんでいただけるものが多くありますが、そのような本の一冊に「大きな大きなせかい」(1996年偕成社)があります。
お子さん達は文とともに絵を見て想像を広げてゆきますが、この本は大人にとっても絵を見て思いを巡らすことができる科学絵本です。

この本の冒頭には[はじめに]として、この本の見方の説明があるというのもユニークです。というのは、この本では次のページにすすむごとに長さで10倍、広さで100倍になるように絵が描かれてるのです。
最初のページに登場するのは、おこさん達の姿とおもちゃ。それが次のページになると同じ絵が2センチ足らずになってページ片隅に描かれ、そのページの絵の中心は高さが10倍のスケールで描けるような2階建の家やキリンです。その次のページではその家やキリンは2センチ角の中に収まってしまい、ページ全体に描かれいるのはさらに10倍つまり最初のページの100倍の長さのものとなります。家やキリンに比べクジラや東大寺大仏殿、飛行機がどんなに大きいのかが一目瞭然となります。こうやって、私たちが見慣れたものからだんだんと遠くまで、地球を超えて宇宙の遥かかなたまで、大きな大きなせかいが広がる様を体験できるのです。

もう一つこの絵本が科学絵本として特色あるのは、各場面が表す距離を1秒間で進む波長が記載されていることです。普段私たちの身の回りにありながら目視することができない電子レンジや通信放送用電波から地磁気など特殊な広範囲のものがあげられ、それに比較して光の速さがいかに速いかを知ることができます。

また、所々にそのページのスケールにはいっている酸素分子の数や水素原子の数などが示され小さなものの大きな数の明示は、この本の姉妹編「小さな小さなせかいへの伏線にもなっています。
それではあとがきをご紹介しましょう。

あとがき

(引用はじめ)
1970年の暮れ、NHKTVで宇宙についての科学番組の収録がありました。著名な学者先生の相手役を命ぜられた私は、手書きの1冊の絵本を作り、第1場面の人間から始まり、住宅、高層ビル、富士山と次々にページをめくり、最後の27場面で、「私たちの宇宙はこの大きさで、今日はこの話です。」とはじめることにしました。

その番組が放映になった当日、ある大手出版社の編集長がとんできて、その絵本をすぐにかいて欲しいと言われ、驚いたり熱心さに感心したりしました。まだ十分に調査もしていない思いつきだったので、そのときは丁重にお断りしたのですが、それがこの絵本をつくるもとになりました。

しっかり間違いのないようにと、集めた資料は山をきずき、楽しいものにしたいと厳しく選択して、その山を崩すことを何度も繰り返しながら、その間、めざましい学問の進歩やその成果を伝えたいと試みているうちに、あっという間に25年の月日が過ぎてしまいました。

すでに退職された、その時の仕事熱心な編集長に、お詫びとお礼の気持ちをこめて、この本を科学を敬愛する皆様にささげます。
(引用おわり)

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