2017年9月30日 大中恩氏コンサートで「うみにうまれいのちをつなぎ」(『パピプペポーおんがくかい』より)が初演されました
かこさとしの絵本に『パピプペポーおんがくかい』という作品があります。いろいろな動物たちが音楽会を開くというお話です。この作品の最後に出てくる「演目」が「うみにうまれ いのちをつなぎ」というもので、観客もいっしょになって全員で大合唱というフィナーレになるシーンです。「うみにうまれ いのちをつなぎ」に曲を付けて下さった方がいらっしゃいます。「サッちゃん」や「いぬのおまわりさん」の作曲で知られる大中恩(めぐみ)氏です。「特報首都圏」(2016年NHK)というテレビの番組がきっかけでした。
2017年9月30日、紀尾井ホールにて開催された「メグめぐコール創設20周年記念演奏会」のコンサート最後の曲にこの曲が、大中氏最新の曲としてお披露目されました。合唱としては初演、ピアノの伴奏と混声で奏でられるハーモニーに聴衆一同、至福のひとときを過ごすことができたのは言うまでもありません。
実は大中氏とかこさとしの出会いは70年前、かこが東京大学の演劇研究会に所属していた頃にまでさかのぼります。『別冊太陽 かこさとし』(2017年平凡社)や、『現代思想 かこさとし』(2017年青土社)にも記載がありますが、かこが大学を卒業する直前の1947年2月、近隣の子どもたちを招待し、かこ自らが脚本、演出、(踊りの)振付けなど、舞台美術の一切を取り仕切り上演した童話劇「夜の小人」(未発表)の作品の中で歌われる「サタンの合唱」「祈りのうた」を作曲したのも他ならぬ若き日の大中恩氏でした。
テレビ番組制作のスタッフはそのような経緯は全く知らず、大中氏と同年代のかこさとしの詞は大中氏の新曲創作のきっかけになるのではないかと考え、氏に相談する前にかこに詞の提供を依頼してこられました。数々の名曲を作られた大中氏との接点については、家族も詳しく聞いたことがなく、そんなご縁があったこと、また氏のお父上が「椰子(ヤシ)の実」の作曲者大中寅二氏であること(作詞は島崎藤村)、などもその時初めて知り、ただただ驚くばかりでした。
こうして偶然のご依頼により70年の時空を超えて2016年、番組の撮影で二人は再会をすることになったのです。番組のナレーションは大中氏が古い友人を訪ねた、と淡々と伝えるにとどまりましたが、その裏には事実は小説より奇なり、としか言いようのない、こうした事があったのです。
氏は「夜の小人」上演のことをよく覚えていらして、公演の前日に近くのお寺で合唱の練習をされたとエピソードをお話し下さいました。かこにとってはまさに夢のような再会でした。『パピプペポーおんがくかい』のあとがきは次のように始まります。
「私は柄にもなく若年のころ、演劇など、舞台芸術に関心をもっていました。」
こうして2017年9月30日は、若き日の情熱が通じたかのような邂逅により生まれた90代コンビによる合唱曲が発表された記念すべき日となりました。