「ちえ ちから わきでるあそび」かこさとし あそびの大星雲10 (1993年 農文協)
人の生きがい 子の願い
上記の副題にあるように、この本は子どもへの応援であるとともに大人に向けて子どもの代弁をするような部分もあります。前扉にある「かこさとしから大人の人へ」と題する文をご紹介します。
ただしく うつくしいものを愛し思慕する子を
(引用はじめ)
法律、道徳、教訓といった事を大人は子どもに教えたがります。ともすれば一方的な見方であったり都合のよい所だけを強調したりして、それを受ける子どもにとってはウルさくて、イヤなものの一つでした。
しかし、本来は私たちの先祖や先覚者の悲痛な体験や貴重な知恵のかたまりであって人生をこれから歩む後輩にとっては灯といってもよい宝が多く含まれているものです。
たとえば、「正直の頭に神宿る」という一方で「嘘も方便」ということわざは、人間という生物の生活では、状況や条件によって二面性や矛盾した事に出会うものであることを教えてくれます。型にはまった法律や道理に子どもを押し込むのではなく自らが内に持つ力をより高いものへ、正しく美しいものへ柔軟に個性に応じ、楽しみながら伸ばすよう、そしてルソーやエーリッヒなどの先輩を敬慕する子が出てくれることを信じて、この巻をまとめました。
(引用おわり)
最初の見開きは、絵本館の[こども行事カレンダー]としてこぼれ話でご紹介した40もの国や地域の言葉での「こんにちは」の挨拶から始まります。多くある苗字のこと、痛いときのおまじない、怖いときのお祈り、嘘つきの見分けかたや正直者の見つけ方、SOSを例にモールス符号とその覚え方、暦のいろいろなどが続きます。(上は年、月、日、時間、分、秒を全て表す機械の絵)
さらに地球の環境を蝕む恐ろしいものや人口爆発、子どもの労働など社会の問題にも目を向けます。
[こうふくはどこに?どうすればこうふくになるの?][なぜいきるか どうしていきるか いかにしていきるか][なぜがっこうへいくの? がっこうでなにをするのか?][ひとにとってなにがだいじか][だいじなことをみぬくちから]⋯こういった問いかけに対する返答の言葉には説得力があります。
そして最後のページには宇宙船に乗り込んだ子どもたちの絵とともに、加古からの力のこもったエール[しんろをただしく だいせいうんをこえてゆけ!]で結ばれています。
そのメッセージに至った心境をあとがきで綴っていますのでご紹介します。
恥ずかしい思いを子どもにさせる大人
(引用はじめ)
北陸の辺地から東京に移住転校した小2の時、そこの校長が遊俚の恥行で捕まるろいう事件があった。その実態は不明だったが、「恥ずべき場恥ずべき行為」が大体どんなもにかは察知できた。なさけない学校に移ったものだと思いつつ、校長不在に教頭代理の式や運動会など半年も経過したが、一言もこの事については教師から説明がなかった。日頃口を開ければ終身・道徳づくめで忠義孝行や正義をといているのに、小1はじめ全校生徒関心を持ち、他校生に肩身の狭い思いをしているのに、適切な釈明も指導も激励もなかったのである、大人の、教育の敗北であった。近頃政治家などをめぐって種々事件がおこっている。多感な子どもたちは、それに対する親や大人の反応、動向をじっと見守っている。子どもたちは玩具あそびやゲームごっこより、もっと重要で大事だと見抜いているから高い関心でその対応を各自の胸に刻み込んでいるのである。
(引用おわり)