編集室より

2022年3月、かこさとしの深い思いが込められた絵本『カッコーはくしのだいぼうけん』が復刊されます。かこがどんな気持ちで、この作品を生み出したのか、是非「あとがき」をお読みください。

あとがき

(引用はじめ)
人が好くって優しくて、知恵と正義のかたま りのようなカッコー博士を皆様に御紹介致します。

カッコー博士の絵本をごらんになって、ちょっと変わったことにお気づきでしょう。それというのも、カッコー博士は、日ごろ筋もストーリーもないムード画面の集録や、少しも読者を空想の世界へはばたかせないファンタジーや、大人のガンゼない郷愁の羅列、さては白々しい浪漫的ひとりよがりといった絵本の多くを苦々しくおもっているからでしょう。

絵本というものの根幹であり、基盤であり、本筋である、あのワクワクする物語のおもしろさ、起承転結の劇的興奮を何よりもだいじにしている先生です。そうした絵本の流れを支える「ことば」と「絵」にはなかなかやかましい人物です。「ことば」として生きていない空虚な文字の連なりや、冗長な文章、それにただ服従したような挿絵や作品と別な主張をもつ「芸術絵画」に対しては、もちろん鋭い批判をあびせかけます。ですからカッコー博士の登場する絵本は、こうした難関をへなければならないので皆様にお見せすることがとても大変です。

そのうえもうひとつ、カッコー博士は、作者や編集部や印刷の方々の努力だけで絵本ができあがるのではなく、作品をよく理解し、愛し、それに親しい息吹きを与えてくれる感受性豊かな読者があって、はじめて完成されるという主張をもっているのです。

さてよき読者の皆様によって、カッコー博士に新たな活力が与えられるでしょうか。
(引用おわり)