加古里子の文体
子どもさんが読む絵本をつくるとき、それが科学絵本であれ、童話であれ、わかりやすく伝えることに、かこは腐心していました。これは、かこに限ったことではなく、言葉で表現する際、多くの人がすることでしょう。
「子どもさんの理解の輪の中で」という表現をかこは好んで使っていました。子どもさんたちに身近なことから始め、理解できる範囲を少しずつ広げ深めながら丁寧に説明していけば一見難しく見える事柄でも理解できるようになるという考えです。したがってその時には、子どもでも知っているやさしい言葉を使うことになります。
ところが、かこの私信では、あるいは大人向けの文章では、全く違う言葉使い、文体となります。一体どんなものかというと『14歳の世渡りシリーズ 世界を平和にするためのささやかな提案』(2015年河出書房新社)をお読みいただければすぐにわかります。
この本には22人の提案が収められているのですが、かこは「10代諸氏への委任状」という題で5つの提案をしています。5ページほどですから分量としては、ささやかかもしれませんが、濃く重い内容です。
「10代は最も清新な、穢れ・汚濁・塵芥に染まぬ人間の有意義な境地なのだから、ひるむ事なく同志としての呼びかけを記述する事にした。」
と述べ、4番目の提案では
「これ迄の戦争戦乱の裏には、資源、交易、市場等の経済情勢が関係しており、資源、エネルギー、食料等の再生循環は限界に拘わらず、今猶各国政府は経済第一に固執し、それがまた前記の飢餓と人口問題を更に悪化させている。」と書いています。
そして5番目の提案のあと、最後にこう結んでいます。
「私が10代の折、未熟独断妄想のまま軍人を志望した後悔贖罪の為、20歳以後密かに求め歩んできた事項で、60年の微力活動も未達となっているもの。次世代の同志への遺言的委任状なのである。健闘を祈るや、切。」
14歳も一人前の人間、という認識があってのかこの提言を受けとめていただければと思います。