2017
年越しそばの準備で大忙しかもしれない『からすのそばやさん』(2014年偕成社)。そのあとがきをご紹介します。
あとがき かこさとし
(引用はじめ)
日本にはいろいろな昔話や民話が伝えられています。そのなかの食べ物にまつわるお話には、そばやそうめんなどがよく出てきます。それは、良い耕作地のない山間でくらしていた昔の人たちが、よほどのお祝いや正月でないと、米の飯などをたべることがなくて、ふつうは、雑穀や草木の実を混ぜたものをたべていたので、それを食べやすくするため、めんの形にするなどのくふうをしていたあらわれなのでしょう。
今、世界の各地ではいろいろなめん類が作られ、とくに子どもたちの好きな食べものとなっているので、からすのオモチくんにめん類の店を手伝ってもらうことにしたわけです。
どうぞ、そうした昔や今のことを、つるつるおもいながら楽しんでください。
(引用おわり)
本文は縦書き、漢字には全てふりがながついています。
空気が澄んで星空を見上げるには良い季節になりました。星空を仰ぎながらの年越しはいかがでしょうか。『ふゆのほし』(1985年偕成社)のあとがきをご紹介します。
あとがき
(引用はじめ)
わたしが小学2年の子どもだったとき、あんなにたくさんちらばっている星の場所や名や形を覚えることは、とてもむつかしいことだと思っていました、ところが、近くに星の好きなノッポの中学生がいて、なんでも知っているので、びっくりしました。そのうえ、冬でも物干し台にでて夜遅くまで星を見ていて、とてもえらいお兄ちゃんだなあと思っていました。
ちいさい子どもにもすぐわかって、やさしくておもしろくて、いい星の本をつくりたいと思いたってから、とうとう7回目の冬がすぎてしまいました、写真をとってくださった藤井旭さんと、そのむかしのノッポの中学生を思いながら、この星の本をおくります。
(引用おわり)
尚、本文の漢字には全てかながふってあります。
この4冊には共通点があります。それは「吹雪」の場面があることです。
デビュー作の『だむのおじさんたち』では四季折々の雄大な自然を背景に人間の力を結集しダム建設が進む様子を描いています。その大変さ過酷さを表すのが吹雪の中の危険な作業に取り組む「らんぼうで、こわくてーーーやさしい」吹雪にも負けないおじさんたちの姿。肌を刺す強風のヒュウヒュウ鳴る音が聞こえてくるような(下の)場面。そうした困難、苦しさを乗り越えて、桜舞い散るうららかな春にダムは完成します。
かこさとしは北陸(現在の福井県越前市)、雪国育ちで、1階の高さまで降り積もる雪の重さで木造の建物はギシギシ音をたてその重みで玄関は扉が開けられず2階の窓から出入りしたこともあったそうです。そのときの不気味な音と不安な思いを今でも天気予報で故郷に雪だるまマークがつくと語ります。
『ゆきのひ』は『だむのおじさんたち』のような大自然の中ではないものの雪と暮らす人々の日常生活を描き、著者の幼い頃の体験が画面に投影されています。下は吹雪の夜、雪に埋まった線路の復旧作業をする人々の場面。
科学絵本、例えば『地球』や『地下鉄ができるまで』でも、そこには四季が描きこまれています。晴れの日もあれば雨風の日もあり、暑い夏も雪降る冬の日もあるのだからそれを描かない方が不自然なのでしょう。長久の歴史を持つ壮大な規模の『万里の長城』も同様で「長城の守備線で日本軍と戦う八路軍」の様子、「痛ましい犠牲や悲しみにしずむ人々に、長城はその巨大な姿で無言のはげましをあたえ」る2場面は吹雪の様相となっています。
童話である『しらかばスズランおんがくかい』(1986年偕成社)はかこさとし七色のおはなしえほん・青をテーマにした創作で、シラカバやスズランの咲く寒冷地を舞台とする物語は以下のような文で始まります。
(引用はじめ)
ひどい ふぶきのなかを
おおきな ひこうきが
とんでいました。
あんまりゆれがひどくて、
おおきな にもつが
おちたのに
きがつきませんでした。
(引用おわり)
この大きな木箱の荷物の中身は一体なんなのでしょう? 雪が消え春になって森の動物たちのたちが、この箱から出てきたものをめぐりお話が展開します。吹雪で始まり雪が再び降り出し冬ごもりをする動物たちの場面でこの話は終わりとなります。『ゆきのひ』同様、静かな冷たい世界ながら平和な空気、暖かさが感じられる物語になっています。
下 の写真は、この冬最初の降雪が止んだ越前市ふるさと絵本館の様子。
なんともほのぼのする絵は、『こどものカレンダー1月のまき』(1975年 偕成社)のあとがきに添えらているものです。
筆者が小学生だった頃、「カルタ」はポルトガル語だということを習いびっくりしたのを覚えています。「かるた」とひらがなで書かれるようになったのは、長い年月が過ぎ日本の文化にすっかり馴染んだ証拠だと聞き、言葉の表記一つにも文化の歴史があることを知り感動しました。
百人一首を覚える宿題が出たのは中学生の時でした。かこさとしの出身地・越前市は、かるた競技が大変盛んで名人位やクイーンを多く輩出しています。競技かるたは、スポーツとも言えるほど機敏な反応が必要で、それには口の形による呼気の差まで聴き分けられることが要求されると聞きました。幼い頃から聞いている音、例えば名前の最初の音などには特に早く反応できるそうです。
それほどのことはできないまでも、お正月には「かるた」でいつもとは違う時間を楽しまれてはいかがでしょうか。冒頭の絵の『こどものカレンダー』には、地域による「いろはかるた」の違いなども紹介されていて、それぞれの地域のかるたも楽しいことでしょう。
かこさとしによる「かるた」もあります。上は、「だるまちゃんかるた」(福音館書店)、下は「かこさとし おはなしのほん かるた」(偕成社)。いずれも読み札は全部ひらがなです。絵本とは別の面白さをあじわっていただけたら嬉しいです。どうぞ良い新年をお迎え下さい。
いよいよクリスマスももうすぐそこ。越前市武生中央公園の「だるまちゃん広場」には「作品によせて」コーナーでご紹介した『きれいなかざり たのしいまつり』のクリスマスツリーをイメージしてモミの木が植えられきれいなイルミネーションがほどこされ幻想的な光に包まれているそうです。
下はその写真、越前市広報2017年12月号通巻147号の表紙を飾るクリスツリーです。題して「だるまちゃん広場のキラキラクリスマス」
サンタクロースが登場する絵本ー1ーでご紹介した『サン・サン・サンタひみつきち』の翌年に出版された絵本『ゆきこんこん あめこんこん』(1987年偕成社)にもサンタクロースが登場します。
左側が表紙、右側が裏表紙です。観察力の鋭い方はなぜ太陽が出ているのだろうと思われたことでしょう。実はこの本は2部構成になっていて第1部は「ゆきこんこん かぜこんこん 」第2部は「ひがさんさん あめざんざん」です。このような構成になった理由は、あとがきに説明がありますのでご紹介しましょう。
あとがき かこさとし
(引用はじめ)
この絵本は、2人の作者による二部作から成り立っています。(1)「ゆき こんこん かぜ こんこん」は、なかじま まりが幼稚園のとき、紙芝居コンクールに応募したもので、入選した紙芝居を、絵本の形に構成しました。(2)「ひが さんさん あめざんざん」は、かこさとしが(1)の続編として作ったものです。
子供たちが知っている親しい主人公たちが、野山や風雪や太陽の光の中で、自然につつまれ、のびやかに生活する喜びを、このニ部作で伝えられたらと考えています。
(引用おわり)
本文は縦書きで全ての漢字にふりがながありますが、ここでは省略しています。
サンタクロースがいるのか、どうか?これはお子さんにとっては大問題です。疑問を投げかけられた大人にとってもこの問いに答えるには思案がいるものです。この永遠の謎に対して歴史に残る名文を書いた記者さんのようにはいかないまでも、なんとか夢をこわさずこたえたい、そんな時に役に立つかもしれない絵本が『サン・サン・サンタ ひみつきち』(1986年偕成社) です。
この本によると今のサンタはソリではなく、もっと現代的なもので世界中にプレゼントを届けるのです。そのプレゼントは秘密の工場でつくられているのですが、(秘密基地なのに見返しには地図があります!)その工場ときたら、おもちゃ、オモチャの大集合。かこさとしが描くのですからその数と種類は半端なく期待を裏切りません。
『サン・サン・サンタ ひみつきち』のあとがきをご紹介しましょう。
あとがき かこさとし
(引用はじめ)
キリスト教徒の少ない日本の子でも、クリスマスはとても楽しい待ち遠しい日となっています。特に、それはサンタの存在によって、鮮やかに、そして、快く印象づけられています。しかも、その事は地球の北の冬、氷雪や厳しい寒さと強く結びついています。それゆえでしょうか、全世界からサンタ宛の手紙に、北欧フィンランドの郵便局が返事を送り続け、子どもたちの夢にこたえています。
もちろん、夏である南半球の子どもたちも、サンタの来訪を待ちわびています。何世紀も前から伝えられているように、たった1日で地球のすみずみの各家庭を、いっせいに訪れることができる不思議なサンタの謎と、その秘密の全部を、すっかり明らかにしたのが、この本です。どうぞ、まだ知らない子どもさんがいたら、そっと、この本を渡してあげてください。
(引用おわり)
なお、本文は縦書き、漢字には全てふりがながありますが、ここでは省略しています。
下はあとがきに添えられている絵。サンタからのプレゼントに喜んでいます。
クリスマスツリーというと何を思い浮かべられますか。絵本や映画の場面、あるいは実際にご覧になった思い出の光景でしょうか。
今頃の時期になると、アメリカでの事ですが、クリスマスツリー用に注文していたモミの木を学校の校庭や公園などに届けられた大きなコンテナまで取りに行き、なんとか車に押し込んで持ち帰ったことをその芳香とともに思い出します。
そういう木はクリスマス用に栽培されたものですが、そもそも昔は、モミの木を切り出すことからしたそうです。『みごとはなやかなあそび ーあそびの大星雲 3』(1992年農文協)(上の写真左側)には、易しくクリスマスツリーの由来が書かれています。右側は『こどものカレンダー12月のまき』(1975年偕成社)の前扉です。
日本の門松に根引きの松を飾るのに通じる思いがクリスマスツリーに込められいるのは人間の心理を考えると興味深いものです。
加古作品の中では、行事の本や季節の遊びとともに沢山のクリスマスツリーが描かれていて、上の写真は『こどもの行事 しぜと生活 12がつのまき 』(2012年小峰書店)の裏表紙(右)と本文でクリスマス・ツリーを紹介しているページです。
クリスマス・ツリーが主人公の絵本もあります。年少版こどものとも129号〈12〉として刊行された『きれいなかざり たのしいまつり』(1987年福音館書店) です。その折り込み付録には著者による「クリスマス・ツリーの絵本」と題する解説がありましたのでご紹介します。
クリスマス・ツリーの絵本
加古里子
(引用はじめ)
この絵本は12月にちなんでモミの木の飾りと、そのまわりでの集まりや遊びいわゆるクリスマス・ツリーを題材にしています。
気の早いところでは10月ごろから、こうした飾り付けが行われ、各地各所でさまざまな工夫や出来栄えが競われています。そのきれいできらやかな様子に、子供たちはわくわく心をはずませます。いわばすっかりこうして気運づくり、下地ができているのですから、こんな良い題材を用いないテはないでしょう。
ところが、これまでクリスマス・ツリーは、サンタの絵本の片隅の、背景の、小道具といった脇役でしかありませんでした。今回は主役の、主題にえがいたーーーというのがこの絵本で作者の私が意を注いだ第一の点です。
第二は、そうしたクリスマス・ツリーを描くために、縦長の画面、それぞれのページが縦につながって次々に展開する手法を用いたことです。いわゆる「右開き」「左開き」ではなく「縦めくり」の組み方と造本を編集部にお願いしました。絵の都合で縦にしたり横にかいたりではなく、読者の理解と興味をの持続連繋(れんけい)のため、一貫性のある冊子の展示を借用したのです。
第三の最も留意した事は、日本ではクリスマスが盛んであっても、読者が全員キリスト教徒やその家族ではないと言うことです。
さりとて、キリスト教をぬきにしたクリスマス・ツリーは形骸(けいがい)となってしまいます。そこでキリスト教の習慣や行事の言われを述べるのではなく、広い宗教性をこの絵本にもりこむように努めました。ダ・ヴィンチの模写を、しかも2枚ある「岩窟(がんくつ)のマドンナ」のうち、ロンドン美術館の方を選んだのも、こうした願いからです。作者はキリスト教はもちろん他のどんな宗教でも、真に誠実な方には常に尊敬を抱く者ですが、この絵本の願いが幼い読者の心に届くのを大きな喜びと思っています。
(引用おわり)
*ロンドン美術館とあるのはロンドン・ナショナルギャラリーを指しています。
『きれいなかざり たのしいまつり』の一場面。
冬になると編み物をしたりお子さんたちの間では、あやとりが流行ったりします。指についての絵本、『かこさとしからだの本6 てとてとゆびと』(1977年童心社)をご紹介します。
この本は、指の名前から始まり、指を使ってできる様々な動作、人間の進化と指の関係、手偏のつく漢字まで、指にまつわることを様々な視点から分かりやすく伝える絵本です。指を使うこと、使えることの大切さが自然に理解できるようになります。
あとがきは以下の通りです。
(引用はじめ)
この頃は、日曜大工とか"ドウ・イット・ヨア・セルフ"か言って大人の方々が、さかんに手作りを楽しんでいらっしゃいます。結構なことです。
しかし、おとな以上に手を動かすことが、子どもには大切で必要です。
けれども、それは、なんでもかんでも手を動かすことが、器用になればよい、わき目をふらず動かしていればよというのではありません。
考える、工夫する、思案するーーーそうした大脳の働きを誘い、対応しているからこそ大切で大事なのだということをくみとってていただきたいのが、私の願いです。
(引用おわり)
あとがき冒頭のカタカナ部分は"Do it yourself."の事です。
上の絵は前扉で、こういった手遊びも子どもの成長にとって必要なものだと気付かされます。
2017年12月10日まで開催の「だるまちゃんとあそぼ!かこさとし作品展」(藤沢市民ギャラリー)でこの本の表紙にもなっている場面を展示しています。
今から40年前に描かれた絵本です。当時の日本では公共の場での禁煙どころか、禁煙という発想がまだまだありませんでした。最近は受動喫煙に関しての認識も広がりましたが、大気汚染など地球規模で考える必要のある問題が残されているように思えます。
あとがきをご紹介します。
あとがき
(引用はじめ)
人間は、自分の有利になることや益することに貪欲であり、不利で悪くなることには決して手を出さないものだーーーと思いがちですが、それには「目先だけの」とか「感覚的に」とかを付け加える必要があるようです。
自分の子には決して悪いことや不利になることをしないはずの両親のなんと70%が、同室でタバコを吸っておられる例が、このことにあてはまります。
その上、「ずーっと赤ん坊の時からすってますけど、何ともございませんよ。」というお母さんなどいらっしゃるものですから、もっと次元の高い指導やしつけは、もっと「目先だけ」、「感覚的な」程度に止まっているのではと疑わしくなるわけです。
ともかく、今や空気は、残念にも高価で貴重なものとなりつつあるのは事実のようです。困ったことです。
(引用おわり)
尚、かこさとし・からだのほんシリーズ10巻のうちの第2巻『たべもののたび』は越前市絵本館で展示中ですが、2017年11月12日までとなります。どうか、お見逃しなく。