だむのおじさんたち
加古里子のデビュー作。1959年福音館書店より『こどものとも34号』として刊行された本の裏表紙には以下のような出版社の思いと加古の言葉が記されています。
力強い絵本を
のりもの絵本、動物絵本、物語絵本、数の絵本から観察絵本まで、絵本の種類はなかなか豊富ですが、それらをみているうちに、なんだかものたりないような気がしてきました。もちろん『こどものとも』を第一巻から通してみても、同様の不満がのこります。何かが欠けている、何だろう、と考えたすえできあがったのがこの絵本です。
作者の加古里子さんは、それについて次のようにいっています。
"私が、この絵本であらわしたい、知っていただきたいとおもう点は、
①大きなダムのことより、それをつくったひとびとのことーーその人々の苦労や、よろこびや、悲しみやーー人間労働というもののすばらしさ、
②西洋風な、あるいは夢幻的なおもしろさより、日本的な現実的な美しさ、
③科学的な真実さと、人間味のある詩情を共存させたいということ、
④社会と歴史の大きな流れを前向きにすすめようとしている人々、それをささえている人々にこそ、人類の智恵や技術は役立ってほしいこと、
⑤子どもとおとなの世界を隔絶させないで、おとうさんおかあさんたちの今の生活を、考えを、子どもたちにしってもらいたい、知らせたいということ、
以上のような点です"
こうした意図を、科学者であり、労働者であり、芸術家であり、その上に、子どもの会のすぐれたリーダーでもある作者は、みごと絵本に結晶させています。表紙に象徴されるヒューマニズム、はじめ動物達の世界からはいって、しだいに人間の生活へと導いていく組み立てかた、建設工事と労働を一体として、しかも働く人達の感情をとおして生き生きとえがいていく方法、その底を流れる力強い人間性。未来をせおう子ども達が、この絵本をとおして、労働と建設の世界を子どもなりに感じとってくれればと願っています。