2冊のダム絵本
加古はダムをテーマにした絵本を2冊かいています。1冊はデビュー作『だむのおじさんたち』(1959年福音館書店)で、電力供給のために水力発電が盛んに行われた昭和時代半ば、日本のダム建設をするおじさんたちが主人公です。
もう1冊は国際協力でインドネシアに作られたチラタダムの建設現場に取材に出向いて執筆した『ダムをつくったお父さんたち』(1988年偕成社)です。この本が出版された時、すでにデビュー作は絶版状態でした。それで、かこは『だむのおじさんたち』を彷彿とさせる場面をあえて織り込んでいます。
第1作『だむのおじさんたち』の表紙にはおじさんが男の子を肩車し、その上に動物、裏面にはサインかわりの◯に「さ」がついている黄色いヘルメットを女の子がかぶろうとしています。
このモチーフが第2作の『だむをつくったお父さんたち』の最終場面、ダムを見晴らす構図で再現されています。お父さんがダムを指差しているところも同じです。
いずれの絵でも、父さんの日焼けした手の色が子どもたちの足の肌より濃いところが工事の作業を物語っています。
ダムは川の上流につくられ、その測量の様子を動物たちが興味深げに見守る描写も共通しています。第一作(上)は日本ですので、ツキノワグマや野ウサギ、サルなどがいますが、インドネシア(下)ではテナガザル、トビトカゲ、アミメニシキエビ、サソリやオオトカゲなど、私たちには見慣れない動物が登場しています。
工事は70年前の日本でも30年前のインドネシアでも、24時間体制ですすめられます。山の動物たちが眠るあいだもおじさんたち、お父さんたちは働きます。その場面、眠っている動物にもお国柄が現れます。
『だむのおじさんたち』(上)では、月がでて、秋草がさく詩情溢れる第6場面でしたが、インドネシアでの方々は『ダムをつくったおとうさんたち』(下)のこの場面をどのように感じてくださるのでしょうか。
『だむのおじさんたち』が9場面、『ダムをつくったおとうさんたち』は23場面と倍以上もありますので、世界各地から飛行機でインドネシアに技術者が集まり、資材が船で運ばれてくる様子や工事の工程を検討する会議の模様、建設現場の写真や解説のための図を豊富に盛り込んでいます。
『だむのおじさんたち』ではかなわなかった現場での取材ができるとあって、インドネシアの山奥まで、喜んで出かけて行ったかこの熱意が伝わる画面が続く『ダムをつくったおとうさんたち』です。
デビュー作『だむのおじさんたち』はおかげ様で皆さまのリクエストにより2007年に復刊され、現在に至っています。ダムをテーマにした新旧2作品を見比べ読み比べてみてはいかがでしょうか。