こぼれ話
「大きなもの」と聞いて何を連想されますか。
『ピラミッド』、『万里の長城』、『ならの大仏さま』⋯いずれも加古作品になっていますが、2024年11月16日の福井新聞「越山若水」では、その冒頭で加古のデビュー作『だむのおじさんたち』(1959年福音館書店)を紹介しています。
今からさかのぼること65年前、まだ戦後の復興途中にあった日本では電力の供給が追いつかず夕方になると停電が起きたりしていました。当時福音館の編集長であった松居直さんに「時代にふさわしい大きなテーマ」の絵本をかいてほしいと言われてかいたのが、水力発電のため次々と建設されていたダムについてでした。
その後、読者さんからのお手紙をきっかけに、国際協力でインドネシアに建設されたチラタダムを取材して『ダムをつくったお父さんたち』(1988年偕成社)を出版することとなりました。
この福井新聞ではじめて知ったのですが、福井県では足羽ダムが5年後の完成を目指し建設中だそうです。そのスケールの大きさに圧倒されたと記事を書いた方の感想がありました。加古が存命だったら、出かけて行って3冊目のダム絵本に挑戦したかもしれません⋯
加古の2冊のダム絵本については当サイトに詳しい記載があります。
2冊のダム絵本
ダムをつくったお父さんたち あとがき
6年ぶりに新しい素数が発見されたというニュースが伝わりましたが、素数とは1とその数以外に約数がない数で、すべての自然数は素数の積になっています。英語ではprime numberといいます。(英語だと何か特別な感じがしますね。)
ところで、具体的にある自然数がどの素数の積になっているのかを調べることを「素因数分解」といい、中学数学でも学習します。『科学者の目』(新版2019年・童心社)に登場するガウスは、18世紀の終わりにこの素数が自然数の中にどのように分布しているのか予測を立てました。それから百年以上も経った19世紀の終わりに、ガウスの予測が正しいことが証明され、素数定理と呼ばれるようになりました。この定理はのちの数学の発展に大きく貢献しました。
『科学者の目』(新版2019年・童心社)では「数学の王さま」と呼ばれるガウスの若い頃の逸話や「算術幾何平均」などを紹介「真実をどこまでも追求するすばらしい「科学者の目」となったのである」と結んでいます。
紙芝居といえば幼稚園や保育園でご覧になったでしょうか。
ご自分で演ずることはあまりないかもしれませんが、紙芝居にまつわる話題をお届けします。
加古が子どもたちのためになることをしようと思い至り20代はじめ、会社員の時に人形劇と紙芝居の勉強を始めました。人形劇は劇団プークで、そして紙芝居は童心社の前身、教育紙芝居研究会の会合に参加し自作を披露、合評会を通して学んでいったようです。
後に、その童心社からは多くの紙芝居を出版する機会をいただきました。現在販売されているものは、かこさとし かがくのいりぐちシリーズで以下の5作品と『みんなげんき ピヨピヨ1・2』です。
『あめふってきた ゆきふってきた』
『うみのはなし』
『スイスイおよごう スイミング』
『せぼねのはなし』
『6がつ6ちゃん はっはっは』
『みんなげんんきピヨピヨ1・2』は、小さいお子さんも大好き、誰でも思わず笑顔になります。
セツルメント活動で子どもたちに見せていた手描きの紙芝居や、現在出版されていないものなど150あまりを作りました。その全部をご紹介しているのが書籍『かこさとしと紙芝居 創作の原点』(2021年童心社)です。
たのしい 紙芝居の世界 童心社のぜんぶだしフェア 2024年10月17日〜11月20日
全部と言えば、上記のようなフェアが開催され、かこさとしの作品と拙著も並ぶそうです。紙芝居を本屋さんでお手にとっていただくことはなかなかできませんが、この企画ではじっくりご覧いただけそうです。
詳しくは以下をどうぞ。
童心社 紙芝居フェア
昨年の今頃は『からすのパンやさん』に登場する84種類のパンにまつわるお話をパンやさんのお父さんの視点でご紹介していました。このサイトはおかげ様で大好評で今日に至るまで多くの皆様にご覧いただいております。
投票で1番の人気だった「かめパン」でご紹介できなかったのがこの『あおいしまの ゾウガメどん』(1989年偕成社)でした。最初の回のみ、いくつかのパンをまとめてのご紹介だったことと、ゾウガメという珍しい種類だったこともあり、掲載していませんでしたが、加古が実際に現地で観察した「かわいい動物たちをモデルにして、いつまでも美しく静かであるよう願って」つくった物語です。
青い島というのはインド洋に浮かぶセイシェル諸島で、ここでは「あとがき」にもあるように太古の昔、アフリカ大陸から離れて島になったため、希少な植物、生物を数多く見ることができます。その中でも有名なのが国章にもあしらわれているゾウガメです。
この島々の海と空の美しさは息をのむほどです。ほぼ赤道直下にあるため、一年中色鮮やかな美しい花が咲いていて野生のポインセチアも見かけました。下の絵で、ゾウガメの左に見えるオレンジ色の鳥はスズメ、真上にいるのは軍艦ドリ、右上にいる白い羽に青いくちばしはアジサシです。
5月12日まで「こどもの読書週間」です。
かこさとし『ほんはまっています のぞんでいます』をご紹介いただきました。
この本が最初に出版されたのは1985年、2017年に復刊復刊ドットコムから復刊されました。
あとがきにもあるように「学年がすすみ、年齢が大きくなるにしたがい、だんだん本を読まなくしまうのです。」
絵本を卒業したこどもさんたちが読める本、そんな思いもこめて刊行されたのが『かこさとし童話集全10巻』(2023ー24年偕成社)でもあります。
この絵本の題名の通りです。ぜひこの期間に絵本や本を手に取っていただけたらと思います。
こども読書週間 ほんはまっています
北陸新幹線延伸で賑わう福井駅西口すぐハピリン5階にある福井市自然史博物館分館では福井の「宙(そら)じまん」と題した展示をします。県民衛星の模型やかこさとし著の幻の『できるまで とどくまで通信衛星』の本も展示していますので、お近くにお越しの際は是非ご覧ください。
この本は様々のものがどうやってつくられるのかを絵本で伝える副教材としてシリーズつくられたものです。基本的なことをわかりやすく丁寧に説明していて現在でもその役割を十分担える本格的な内容です。
福井 宙じまん
2024年3月5日より都営地下鉄三田線にも、「だるまちゃん」シリーズのデザインが装飾された子育て応援スペース設置車両が運行となりました。
これで都営地下鉄全線に「だるまちゃん」シリーズの応援スペースが誕生しました。
写真提供:福音館書店
子育て応援スペースのある車両の運行状況は都営地下鉄のサイトでご確認ください。(「だるまちゃん」シリーズ以外の装飾の場合もあります)
都営地下鉄子育て応援スペース
5・6歳の頃の加古に「どんな遊びが好き?」と尋ねたらきっと「凧上げ」と答えたに違いありません。凧上げが大好きだったことは本人の口から何度も聞いたものでした。(上の絵は『かぜのひのおはなし』(小峰書店)
2024年1月22日に山口新聞「こども心の本箱」でご紹介いただいた『たこ』(1975年福音館書店)の初版に折り込まれていた付録にもその思い出を詳細に書き綴っています。
『たこ』その1
『たこ』その2
こどもは風の子と言われたのは昭和時代も半ばまででしょうか。その頃は、雨が上がるかどうかのうちに子どもは外に飛び出してきて遊びましたし、風が強くて縄跳びの大縄がゆがんで回ってもそれを面白がって対応しながらとんだりはねたりしたものです。
令和の子どもたちは天候などに左右されずに遊んでいるのでしょうか。
確かに加古少年がしていたような河原の向こう岸にまで届くような凧上げができる場所は限られてしまいそうです。しかし、レジ袋を解体して作るほんの小さな、ヒモや糸の長さが1、2メートルほどのぐにゃぐにゃ凧でも風を受けて上がると、それこそ気分も上がります。
なぜだかわかりませんが、楽しいのです。年齢問わず笑顔になれます。風の日には是非お試しください!
上・下の写真はあそびの大惑星8『あんただれさ どこさのあそび』(1992年農文協)より
加古の絵本には本人らしき人が描かれているのはみなさんご存知の通りです。
『こどものカレンダー2月のまき』(1976年偕成社)の13日のページには、「なまえ」と題しこの日生まれた19世紀の歌劇作曲家ワーグナーと加古の自己紹介をしています。
「おうちのかたへ」のメッセージにあるように園に通うようになったら、自分の名前と家族の名前が言えるようにという準備を促すものです。
この本が出版された頃は、子どもたちは胸に名札を下げて園や学校に通ったものですが、今はそれが心配される社会になってしまいました。
ところで、この絵を見て気が付かれた方がいらっしゃることでしょう。この顔、どこかで見たような⋯ そうです。『かこさとし童話集』の背表紙、題名の上についている顔はこの絵から取りました。是非お手に取ってご覧ください。
童話集第7巻生活のなかのおはなし〈その2〉の表紙には、すいかやだいこん、かぼちゃなどがニコニコ顔でお祭囃子を演奏しています。
この絵は、この巻に収録している『おどろいた小さな八百屋さん』が最初に演じられた1957(昭和32)年当時に描かれた手描きの紙芝居からです。
当時はスーパーマーケットはほとんどなく、肉は肉屋さん、魚は魚屋さんという具合に小売り店で買うのが普通でした。お米は米屋さん、お酒やビールは酒屋さんが届けてくれました。豆腐は夕方になるとラッパを鳴らしながら豆腐屋さんが自転車で売りにくるので、鍋やボールを持って通りに買いに出たものです。
新聞の4コマ漫画で「八百屋さーん!」と吹き出しに書いてあり、「このハッピャクヤってなあに?」と加古に聞いたのは幼い頃の筆者です。加古は笑いながら「これはやおやと読むんだ。」と教えてくれました。まいったなあ、という気持ちと何やら嬉しさがいりまじった加古の表情でした。
『からすのやおやさん』はひらがなで書かれていますが、この童話集ではあえて漢字で書いているのは、筆者の思いこみかもしれませんが、「ハッピャクヤ」ではなくて「やおや」と読むんだよ、と教えてくれたその時の加古の「こどもが漢字を読む時の読み方」の発見と関係しているように思えてなりません。
そんなことはさておき、思わず笑ってしまう「おどろいた小さな八百屋さん」のお話をぜひお楽しみください。