編集室より

《「海」にこめたもの》

さてこうして何度かおぼれそうになった未熟熟脆弱な私が、これだけは描きたい、日本の子どもたちに伝えたいとこの絵本にたくしたものは、次の3点です。

(1) 海という身近ではあるがあまり大きすぎてつかみ難いものを、部分でなく全体像として提示したかったこと、言いかえれば、海の片々たる個々の現象でなく、 大きな基盤と柱をつかまえたかったこと。

(2) 海が持ち、包含し、関係している有機的な様相、動的な関連性を総合しつつ整理し、一段進んだ理解を得たいと試みたこと。(海の生物の食物連鎖やサイクル、 地理的条件による物理や化学上の変移、 また光や波浪や水圧の影響等をちりばめたほか、時間的な推移を映画のこまおと しのように示したのもそのためです。宝庫としての海をたたえる反面、狂暴非情な海を描いたのもそのためです)

(3) 海とそれをとりまく自然に対し、勇敢に働きかけ、知恵と努力によって開拓してきた先人の業績と精神を学びとり、人類が発生したはるか昔と、未来社会との間におかれている海洋の今日的意義を感じとるよすがにしてほしかったこと。(南北極探険や海洋研究の業績をできるだけ多くもり込んだり、ときに時間や空間をとびこえて海賊やコンチキ号や海底都市 を同居させているのもこのためです。それらは正しい人間的な立場にたつ国際性と、何よりも日本の子どもたちを中心として考えることを基準に選ぶよう心がけました)

こうした意図を絵本という形の中におり込むため、この本では次のような表示と処理がしてあることを何とぞご了承ください。

A. 小さい読者も絵と見くらべながらひとりででも読めるよう、普通かたかなで書く生物名をひらがなで表示しました。

B.全部ひらがなにしたり、解説をつけるとかえって混乱するものは漢字のままで 表示しました。

C.船長名と船名などまぎらわしくなるところは、一部かたかなとひらがなとで区別しました。

D.だいたいの相互の比較はくずさぬよう 配慮しましたが、一つのめやすとして概略の長さを添記しました。場所によって大 きさがちがうものや、調査が不充分なものについては、長さを書いてありません。

E. 季節、昼夜、緯度などにより変動する生物を、ある時点で固定し、一致性を貫くことは、かえって障害ともなるので、 許せる範囲で処理しました。

F. この本だけではどうしてももり込めなかった点が多々ありますので、もし子どもさんから積極的な質問や疑問があったらご家族の方々の経験や後述の各場面の解説や、お手元の図鑑や書籍を参考にしてどうかその欠をおぎなってください。

31ページより。海底に設置した地震計回収でも活躍の白鳳丸や垂直になって観測ができるフリップなどがえがかれている。