編集室より

2017

宝尽くし

投稿日時 2017/01/05

松竹梅や鶴亀、鯛などとともにに福だるまの連想につながるだるまちゃんは、縁起がいいとおっしゃってくださる方があります。年始にあたり繁栄や富貴など先人たちの願いがこめられた「宝尽くし」という吉祥文様と関係するものを加古作品の中で探して見ましょう。

お宝といえば、それを狙うのはどろぼうというわけで「どろぼうがっこう」(1973年偕成社)の裏表紙(上の写真)の左下に宝と記された壺(金嚢きんのうでしょうか)、そして表紙には宝鍵(ほうやく)があります。(下の写真、ひろげた手の右下)。字が示すように 大切なものをしまっておく倉庫の鍵で「鍵のてに曲がって」という表現に使われる鍵はこの鍵のことです。
どろぼうだったら、倉庫の中が気になるところです。顔の左上にあるのは、飾りのように見えますが、鍵穴隠しです。

だいこくちゃんの打出の小槌はご存知の通りですが、昔人たちが現代の私たちの生活を見たら打出の小槌で次々に欲しいものが目に前に現れるように思うかもしれません。手をかざせば水が出たり、そばに行けば灯りがついたり、画面に触れたら世界中のニュースが瞬時にわかったり。

下の写真は「だるまちゃんとだいこくちゃん」(1991年福音館書店) です。

逆に現在の私たちには理解しにくいお宝もあります。もうほとんど使うことがなくなってしまった隠れ蓑(みの)と隠れ笠(かさ)。身を守る、あるいは正体を隠す意味で大切なものとされたようです。
蓑笠を日常生活に使わなくなってしまい、若木の葉の形が蓑に似ている樹木のカクレミノなどは名前の由来がピンとこないかもしれません。
写真をご覧ください。若い頃は下にあるように葉が三つに分かれて蓑のようにみえます。

ミノムシ(蓑虫)といえば、木枯らし吹く木立にぶら下がり、まさに冬の図ですが、秋の季語だそうです。最近はすっかり見かけなくなってしまいました。みなさんのお住まいの所ではいかがでしょうか。下は、「かこさとし あそびずかん ふゆのまき」(2014年 小峰書店)の前扉の部分です。

筆者は小さい頃、毛糸や色紙を細かくして箱の中にいれ、蓑からだしたミノムシをその中にいれておくと毛糸や色紙の蓑をまとったカラフルなミノムシになるのを楽しみました。今では絶滅危惧種に上げられている種類もあるそうです。先人たちの意図とは全く異なりますが、生物多様性という視点から見ると隠れ蓑ならぬミノムシも大切な存在だと気づかされます。

(下の写真、ロウバイの幹にミノムシがついています)

投稿日時 2017/01/20

雪のことを思いきり書きたい。雪国育ちの加古の願いが実現したのが「ゆきのひ」(1966年福音館書店)でした。

その12ー13ページ(上の写真)に描かれている町の通りは、福井県越前市の方々によれば、駅前から伸びるあの道がモデルに違いない。新潟県長岡市の皆さんは、あれは雁木通りだ、と。半世紀前の面影を残す場面の数々は昭和をよく知る読者の皆さんには大変懐かしいものとなっています。

「だるまちゃんとうさぎちゃん」(1972年福音館書店)(上の写真)は次のような言葉で始まります。

「さむくなりました。
ゆきが こんこん ふりました。
そして どっさり つもりました。」

お子さん向けの雪の本といえば、「ゆきのひのおはなし」(1997年小峰書店)(上の写真)でしょう。辺り一面銀世界に遊ぶこどもたちの白い息が見えるような、けれども心が温かくなる作品です。

「あそびずかん ふゆのまき」(2014年小峰書店)には表紙(下の写真はその一部)のみならず、雪遊びのいろいろがのっていますし、「こどもの行事 しぜんと生活」の2月の巻(2012年小峰書店)には、様々な雪の呼び名が紹介されていてその数の多さに驚きます。

「地球」(1975年 福音館書店)では雪山と冬眠中の動物が描かれ(下の写真)、「ダムのおじさんたち」(1959年福音館書店)や「万里の長城」(2011年福音館書店)の吹雪の場面は科学絵本であっても効果的に印象深い場面を作りあげています。

「からたちばやしのてんとうむし」(1974年偕成社)の最後の場面(下の写真)、雪に埋もれた落ち葉の下でのてんとうむしたちの会話が聞こえてくるような、静けさに包まれつつ春を待ちわびる気持ちがにじむくだり、ここにも雪国の生活をしる著者らしい思いがこめられているようです。

会期を残すところ3日間となった本展示会は連日多くの方々のご来場をいただいているそうです。

下の写真は2017年2月4日の様子です。かこさとしの作品は「絵巻じたてひろがるえほん かわ」「宇宙」「だるまちゃんとてんぐちゃん」「だるまちゃんすごろく」の一部をご覧いただけます。

親子ですごろくを楽しまれていたり、「かわ」の細部をじっくり見られていたり、広い会場でゆったりとご覧になっているのが印象的でした。

かこ・さとし かがくの本 5「あまいみず からいみず」初版(1968年 童心社)は、かこさとしの絵によるB5変形・21センチの小型絵本でした。

以下はその表紙・裏表紙と28-29ページです。当時は4色刷り(カラー)が高価だったたため本文は2色刷りでした。

現在の大きさでカラーになったのは、初版から20年経た1988年で、この時に和歌山静子さんの絵に変わりました。

コップの実験からひろげる化学の推理

かこさとし画の版では、あとがきの見出しは「一般から特殊なものへひろげ演繹してゆく考え方」となっていましたが、1988年以降は「コップの実験からひろげる化学の推理」となりました。

あとがきの文は同じです。以下にご紹介します。

(引用はじめ)

「かがく」ということばはときどき困った場合が起こります。文字に書くと「科学」「化学」でわかるのですが、ことばや音だけでは説明がいることとなります。それでしばしばバケガクという言い方が、多少うらみをこめて言われます。

子どもの本、特に幼児向きの本で「化学」を扱ったものが非常に少ないというのがわたしには残念でなりませんでした。この本の塩や砂糖が水と引き起こす現象は、化学の中の溶解とか溶液とか濃縮という重要な項目の一つです。

また、小さなコップやおなべでわかったことがらを、大きな自然現象に拡張すること、手近な実験で確かめられた事実を、実験のできない現象にまで適用推論すること、そういう考え方、すじみち、手法は、化学の研究ではごく普通の、しかも大事なものとなっています。むずかしくいえば、一般的な事例から、特殊なものへひろげ及ぼしていく、いわゆる演繹法とよばれる考え方、すじみち、態度をくみとってほしいのが、わたしのひそやかな願いです。
かこ・さとし

(引用おわり)