2023
渺(びょう)、須臾(しゅゆ)、弾指(だんし)⋯あまり普段見かけない漢字です。この字が並ぶのは科学絵本『小さな小さなせかい』(1996年偕成社)の見返しです。
最初に出てくるのが、分、厘、毛。そう、これは小さな世界を漢字であらわす数詞で、分は10分の1、厘はさらにその10分の1、つまり100分の1。厘は1000分の1、10のマイナス3乗ということになります。
国際単位で見ると、d、c、m。そういえば小学校で習いました!
1リットル=10デシリットルのdです。1メートル=100センチのc、1センチ=10ミリのm。
μ(マイクロ)は10のマイナス6乗、n(ナノ)は10のマイナス9乗、p(ピコ)は10のマイナス12乗と続きます。
そのひとつ手前10のマイナス11乗が渺(びょう)、少という字が含まれていますね。須臾(しゅゆ)は10のマイナス15乗、弾指(だんし)は10のマイナス17乗だそうです。
「刹那」はこの漢数詞では10のマイナス18乗、ここに記されたいる一番小さいのは「浄」で10のマイナス23乗です。
数字が苦手な筆者には想像もできない世界ですが、この絵本では10分の1づつ小さな世界に進んでいきますので、絵や図を見ながら、最後には宇宙誕生時の「小さな小さなせかいにゆきつきます。」
小さいものを追求するうちに果てしなく広大な宇宙と関連してくる、まるでメビウスの帯のような不思議をこの本で体験してください。
2023年11月にオンデマンドで出版された『こぶた四ひき ちんちろりん』(偕成社)は文字通り4ひきのこぶたが主人公です。
こぶたといえば『にんじんばたけのパピプぺポ』(1973年偕成社)を思い出す方もいらしゃるでしょう。この本は『からすのパンやさん』と同じシリーズで今年出版50周年を迎えましたが、そこには20匹のこぶたたちが登場していました。それから13年後の1986年に出版されたのが本作です。
どうして加古はそんなにこぶたが好きなのでしょうか。
あとがきをどうぞ。
あとがき
(引用はじめ)
この絵本は、六年前、雑誌の依頼で書いた『四ひきのコブタ』の童話をもとにつくりました。なぜ主人公がブタなのか?と言われれば、やっぱりまるまるふとって健康で、親も子もかわいい(!)のがその理由です。もうひとつ、やっぱり仇役のオオカミとの関係で、おいしそうなことが選んだ理由です。
それでは、なぜ四ひきなのか?ときかれるなら、一ぴきや二ひきでが少ないし、三びきではもうすでに知られた古典があるうえ、五ひき以上を個性をもって描くには、短い物語では無理だったからです。
けれどもなかには、ブタなんかよりネコやパンダやラッコの方がずっとかわいいとおっしゃる方がいるでしょう。四ひきぐらいでもたもたしないで、一ダースか二ダースぐらいいたほうがいいのにとおっしゃる方もいるでしょう。うんと勉強して、千びきぐらいのかわいいゲジゲジちゃんの作品をかいてみたいですね。
では、チンチロリン。
(引用おわり)
オンデマンド出版になった5冊の絵本と『かこさとし童話集』の出版を記念して福井県ふるさと文学館の尾崎秀甫さんと加古総合研究所・鈴木万里の対談が開催されます。オンライン視聴もあります。
日時:2023年12月25日午後2時から
場所: 神保町ブックハウスカフェ
詳しくは以下でどうぞ。
対談 尾崎秀甫・鈴木万里
2023年が間も無く終わりとなります。この1年間公式サイト、そしてxをご覧いただきありがとうございました。
今年は『からすのパンやさん』などの50周年、続きのお話10周年を記念して、「からすのパンやさん特設サイト」で84種類のパンをご紹介し、お気に入りのパン投票には大勢の皆様にご参加いただき誠にありがとうございました。
下は、2023年12月15日発売のビッグイシュー。表紙にからすとその投票で人気のパンを並べてくださいました。12月29日には福井テレビのニュースでも紹介されました。
2023年12月29日福井テレビ
かこさとしの誕生日の3月31日にはDoodleに登場という嬉しい出来事もありました。
Doodle かこさとし生誕97年
加古作品のみの大きな展示会はありませんでしたが、越前市ふるさと絵本館や北海道西興部村で展示・ギャラリートーク、石川県加賀市「中谷宇吉郎雪の科学館」や藤沢市内の4図書館での展示など身近な場所でのミニ展示をしました。
好評のオンライン対談は来年も続けてまいります。
秋からは『かこさとし童話集』の刊行が始まり現在第6巻まで出版、2024年3月までに残りの4巻が刊行されます。
30年以上前に出版された5冊の絵本のオンデマンド復刊もでき、多くの本をお届けできた嬉しい一年でもありました。
こうした本や「くらげのパポちゃん」(未発表作品)の発見をテレビや新聞などでも報じていただきました。
暗く気がかりなニュースが多い2023年でしたが、2024年、小さくても明るいニュースをお届けできたらと存じます。
どうぞ皆様お健やかに佳き新年をお迎えください。
2023年4月からほぼ月に1回のペースで開催している無料オンライン対談の第4・5・7回の再配信を致します。お見逃しの方、再度ご覧になりたい方、下記の期日までにお申し込みください。(第6回は公開中です)
ぜひこの機会に、加古にまつわる思い出話や加古から得たものなど編集者さんたちが語るお話に耳を傾けていただけたら幸いです。ゲストは以下の方々です。
第4回 : 福音館書店編集部 関根里江さん
第5回 : 復刊ドットコム編集部 政田美加さん
第7回 :白泉社MOE編集部 位頭久美子さん
2023年12月31日(日)までにお申し込みの方は、2024年1月1日午後より、2023年1月5日(金)までにお申し込みの方は、2024年1月6日午後より、いずれも1月14日(日)までご視聴いただけます。
新春スペシャル オンライン対談
2023年12月15日発売のBIG ISSUE vol.469は『からすのパンやさん』50周年かこさとしスペシャル企画です。
表紙を飾るのは、「からすのパンやさん」と公式サイトのパン投票で人気のあったパン。
『からすのパンやさん』誕生にまつわる背景や逸話をお読みください。そして現在刊行中の『かこさとし童話集』や越前市 ふるさと絵本館の情報もあります。
寒い季節に心あたたまる記事をお楽しみください。
『からすのパンやさん』と同様に出版50周年の『おたまじゃくしの101ちゃん』(偕成社)は、元は「市べえ沼の大じけん」という題名で、手描き紙芝居や幻灯にして川崎セツルメントの子どもたちに見せていました。
ところが、「いつのまにか、題名が今のようにおきかえられてしまいました。わたしはたびたびもとの題にしようと試みたのですが、子どもたちまでが、「あのおたまじゃくしの話をしてよ。」といって、市べえ沼とは誰もいってくださらないのです。」とあとがきにあります。
それが理由でいろいろなことがあったのですが、結局は「多くの方がたが選んでくれた『101ちゃん』」になりました。
そして今年出版10周年の『からすのパンやさん』の続きのお話四話の題名も実は「市べえ沼」のように加古が考えた地名入りの題名でしたが、出版の段階で現在のような題名となりました。
現在越前市の絵本館で開催中の「からすさん大集合」では、その経緯がわかる手書きの原稿コピーも展示しています。ご来館の際はお見逃しなくご覧ください。
1986年に出版され、しばらくお手元に届きにくい状態だった『まほうのもりのブチブル・ベンベ』が、2023年11月にオンデマンド出版されました。
12月1日から越前市絵本館では、この本の最初の場面を展示しています。この物語に登場する子どもをご覧になられたら、その描き方が際立って珍しいと思われることでしょう。
それはこの物語がドイツの黒い森に伝わるお話を元にしているからです。この話が誕生した経緯が「あとがき」にありますので、どうぞお読みください。
あとがき かこさとし
(引用はじめ)
私は今から10年前、ドイツのバンベルクと言う古い町に泊まったことがあります。ホテルや旅館と言うより「はたご」と呼びたいような、ガッシリした古い宿の家族全員が、総出で私たちを迎えてくれたのに、同行の人たちは夕食にみんな外出してしまいました。遅れてロビーに来た私は、がっかりしている宿の夫婦や2人の子を見て、外での外食をやめ、言い訳をして、持参した私の絵本をその子に贈りました。
さぁ、それから私と家族4人が、10人分以上のご馳走を囲んでの夕食がはじまり、ご主人は、次々秘蔵のお酒やくん製を惜し気もなく出してくれました。やがて戻ってきた同行者を交え、夜明けまで楽しい会がつづきました。この夜の楽しさとその時、かわいい下の男の子が、私に話してくれた黒い森の話が、今も忘れられません。
このベンベのお話は、その黒い森のお話をもとにつくりました。あの時のご主人やおかみさん、そして2人の子は元気でしょうか。お礼を込めて、皆さんにお知らせします。
(引用おわり)
下の絵は前扉です。
『からすのパンやさん』刊行50周年、つつぎのお話10周年の2023年度の最後を飾る楽しくて、たくさんのからすさんに会える展示が始まります。
お馴染みの絵もあれば、こんなところにもからす?ときっと驚かれるような場面もありますし、初めてご覧になる「からすさん」がいるかもしれません。
少しだけご紹介しましょう。
11月から期間限定でオンでマンド出版が始まった『コチコチやまのとこやさん』(1984年偕成社)の表紙にもからすがいます。
同じくオンデマンドで復刊された『こぶた四ひきチンチロリン』(1986年偕成社)ではチンチロリンちゃんたちの名付け親の牛のおじさんが面白いお話をしてくれますが、その中にからすが登場します。
ドイツの「黒い森」を舞台にしたお話『まほうのもりのブチブル・ベンベ』(1986年偕成社)の第一場面、「黒い森」をよーく見るとからすが一羽、二羽⋯。さらにお話が進むと奇妙なからすも登場します。
そうそう、『からすのパンやさん』お気に入りのパン投票もあります!
ぜひお越しください。2024年3月25日までです。
絵本館は年末年始(12月28日から1月4日)、火曜日、国民の祝日の翌平日が休館になります。
相撲は加古が子どもの頃、つまり昭和のはじめ男の子なら必ずした遊びでした。
『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社)には小学校六年生の級友の60人余りの名前と「アダ名」に「スモウ名」が書かれた表があるほどです。
「僕」のあだ名は「ガンテツ」。頑固な哲(さとし=加古の本名)という意味ですが、級友はさとしとは言わずテッチャン、テツと呼んでいたそうです。そしてスモウ名は「大潮」。当時から身体が大きかったからでしょう。
駄菓子屋さんには「相撲カードや、お相撲さんの形をしためんこも売っていた」そうです。
絵本『だるまちゃんとにおうちゃん』には、指相撲や腕相撲、足相撲の他に「けんけんずもう」「てたたきずもう」(下)など、こんなにもたくさんの種類のお相撲があるのかと驚くほどが登場し、だるまちゃんたちが次々遊びます。
『あそびずかん ふゆのまき』(2014年小峰書店)にもたくさんの相撲遊びが紹介されています。
両手でする指相撲は難しそうですが、いつでもどこでも遊べていいですね。
『ぼくのハはもうおとな』(1980年フレーベル館)にでてくる横綱は「牙の山」というかわったしこなです。
これは、乳歯が生え変わる頃、おおむね6歳頃になると上下左右の奥にはえる「6さいきゅうし」を印象に残るように例えているのです。6さい臼歯は、はえそろうまでに時間がかかり虫歯になりやすいので、注意をしてほしいと願う加古の工夫から描かれたものです。
お相撲さんといえば思い出すのがちゃんこ鍋。
この名前の由来には諸説あるようですが、『そろって鍋ものにっこり煮もの』(1994年農文協)に登場する、このお相撲さんたちの見事な体つきとそれを支える大きな鍋に目を見張ります。
そして、鍋に入れる美味しい材料の番付!
しこなのような名前ひとつひとつに笑ってしまいます。加古のユーモアに脱帽です。
「紫式部のまち 越前市」ルポ 下
国民的な文化の担い手を送り出す風土
かこさとしの生まれ故郷、福井県越前市にある「かこさとし ふるさと絵本館」の紹介です。
絵本館は2013年開館、今年の4月に10周年を迎えました。加古の絵本をお読みいただくことができ、常時作品の複製原画を展示しています。
2023年11月27日(月)までは「だるまちゃん大集合」をテーマにシリーズに登場するさまざまな「だるまちゃん」を展示。
毎週火曜日は休館、国民の祝日の翌平日は休館、11月29、30日は展示替えのため臨時休館です。
2023年12月1日(金)からは新展示「からすさん大集合」が始まります。ご期待ください。
美術展ナビ 越前市ふるさと絵本館