メディア情報

盛岡市民文化ホールでの『かこさとしの世界展』は、おかげ様で好評のうちに終了となりましたが、公式図録『かこさとしの世界』(2019年平凡社)は全国の書店、ネットでも購入できます。

その全167ページには、出版された本の紹介のほかにデビュー前の絵画作品や貴重な写真、本の下絵、資料など紙上初公開のものも含め盛り沢山です。読み物としても面白いと書評が以下に掲載されています。

かこさとしの世界

2021年1月8日中日新聞(北陸)「かが人私文庫」で『とこちゃんはどこ』紹介

この図録でもご紹介している『とこちゃんはどこ』(1970年福音館書店)の書評が掲載されました。大勢の中からとこちゃんを探し出す楽しみ、絵本で是非どうぞ。

かこのデビュー作は『だむのおじさんたち』(1959年福音館書店・上)です。当時、日本は電力不足で佐久間ダムの建設が進められている最中でした。取材に行くことはできず何回も記録映画を見て、建設の様子を探ったとかこは語っていました。それから約30年経ったある日、読者からのお手紙でインドネシアで大きなダム建設が始まっていることを知りました。

『絵本への道』(1999年福音館書店)によると
(引用はじめ)
『だむのおじさんたち』のテーマは、建設と生活、科学技術と自然とを、対立するものでなく、渾然として調和させて描くことでした。昭和30年代はそれがまだ可能の時代だったのだけれど、その後の社会情勢は矛盾と問題を生み出すようになり、今の日本では限界となりました『ダムを作ったお父さんたち』の出版に際しては、向こうの人々のダムに対する対処の雰囲気を確かめたかったのです。
(引用おわり)
そこで、現地に赴き、当時のインドネシアは30年前の日本同様であることがわかり、執筆に取り掛かりました。

この現地取材でお世話になった方々が、かこの訃報に接し、福井県越前市のふるさと絵本館を訪ねてくださり、その思い出を色々と語ってくださったそうです。そういったことが2020年9月26日、日刊福井新聞に連載されている「絵本のまほう かこさんから子供たちへ⑥科学絵本の凄さ」で谷出千代子絵本館館長により紹介されました。

前扉のカバーには次のような説明があります。
(引用はじめ)
この本の舞台となったチラタ水力発電所は、1983年12月に着工され、約5年後の1988年9月に完成しました。貯水量約22億立方メートル(22億トン)、十和田湖より20%も大きい、64キロメートルの湖が出現する巨大なダムです。最盛時には、5000人もの人々が働いた、現在のピラミッド建設とも言える、スケールの大きな工事です。技術的にも、世界じゅうの関係者から注目されました。

総予算6億ドル、世界銀行の融資による国際的なプロジェクトで、日本からは約300人の技術者が参加しました。この本は、ダムと、発電所となる巨大な地下空洞を担当した大成建設の多大な協力を得て作成されました。
(引用おわり)


それでは、あとがきをお読みください。

あとがき

(引用はじめ)
この絵本は、インドネシア・チラタに建設された、水力発電用のダムとトンネルのようすを描いたものです。

わたしはかつて1959年、当時の日本のダム建設をテーマにした絵本を作ったことがあります。その本は残念ながら、経済・社会の変化により絶版となりましたが、アメリカのTVA(テネシー川流域開発公社)などに見るように、国の発展や地域の復興上、水力による発電は人類の基幹技術・基本事業として、今後も消えることがないというのが筆者の考えでした。そのような場と機会を求めていたところ、読者の方から、地球規模の大きな計画が、国際協力と言う新しい理想的な姿で実施されているのを教えていただき、勇躍したわたしに、関係部所の誠実で温かい理解と、取材のためのあらゆる便宜が与えられ、30年ぶりに取り組んだと言うわけです。

ようやくまとめることができた今、それらの方がたと、現地で奮闘された各国の人々に、この絵本を捧げたいと思います。それらの人の労働の大きさ、協力の美しさ、信頼の尊さを子どもたちに伝えたいと願います。
(引用おわり)
漢字にはすべてふりがながあります。

このダム竣工30周年の2018年7月、建設に当たった日本の方々が現地を訪れたそうです。この時、かこはすでに他界していましたが、イドネシアの電力を支えるこのダムの現在を知ったら、どんなにか喜んだことでしょう。

ラジオ深夜便 人生のみちしるべ “生きる力”は子どもたちから かこさとし

2016年5月11日に放送された「ラジオ深夜便」のインタビュー2回分が、放送ライブラリーで公開されました。横浜新情報センター8階視聴ホールで無料で聴くことができます。詳しくは以下でどうぞ。

放送ライブラリー

愛媛県歴史文化博物館で開催中の「かこさとし絵本展」の見どころを学芸員さんの解説で紹介するシリーズの第7(最終)回は、『こどもの行事しぜんと生活』(2011年小峰書店)について。

かこが『日本伝承の遊び読本』(1962年福音館書店)を書いたのはまだサラリーマンであった頃です。セツルメント活動で川崎の子どもたちと接し、子どもたちがあそんでいる石蹴りや絵かき遊びの多様性、柔軟性、創造性に目を見張り子どもたちが持っているすばらしい力に気づきました

各地で遊びを収集、29万点の資料を系統別に分類、そこには科学者としての視点と絵かき遊びの言葉の素晴らしさに感嘆する文学の心がありました。

『こどもの行事しぜんと生活』12巻では、月ごとに全国そして各地に伝わる行事にこめられた、先人たちのこどもの健やかな成長や生活の安心を願う祈りと知恵をわかりやすくひもといています。このような時代だからこそ、もう一度長い間伝えられてきた思いを探り、未来へ向けて考えるヒントにしたいものです。

展示会では、『伝承遊び考』4巻(小峰書店)の膨大な資料の一部、『こどもの行事しぜんと生活』12巻の表紙を全てご覧ただけます。お楽しみください。

みんなこどもから教わった

『人間』至上主義排し歴史追求

愛媛県歴史文化博物館で開催中の「かこさとし絵本展」の見どころを学芸員さんの解説で紹介するシリーズの第6回目は、『人間』(1995年 福音館書店)について。

『かわ』(1962年)『海』(1969年)『地球』(1975年)『宇宙』(1978年)に続く科学絵本シリーズの総合ともいうべき本作品の制作にはおよそ17年の歳月がかりました。生き物としての人間、社会や歴史、文化の面を「科学という知の力」を借り、「人間至上主義を排し」て描いたと、あとがきにあります。

下の絵は最後から2番めの場面「死の恐れと悲しみをこえて」。
人間が遭遇するであろう身体的苦しみ、症状や病名、そして命が尽きると起こる症状にまで言及しています。

この場面上部には、生命誕生以来およそ40億年ずっと私たちにひきつがれている「生命の設計書」が描きかれています。そして最後の場面には「150億年の宇宙、46億年の地球の歴史を秘めている人間」と「母なる地球の海水をたたえている人体」がいて、記事でも引用されている次のような言葉で終わります。
(引用はじめ)
このように、その細胞や脳や体や心に、宇宙・世界・地球の、歴史と現在と未来とをやどしているのが人間です。
その人間のひとりがあなたです。
そのすばらしい人間が、君なのです。
(引用おわり)

『人間』のあとがき全文は当サイトの【編集室より】の「あとがきから」(2020年3月)にあります。

愛媛県歴史文化博物館の展示では、この絵の他にも『人間』の複製画をご覧いただけます。

以下で『人間』などを展示している会場の様子をご覧ください。

「かこさとし絵本展」は子どもたちへのメッセージ

みんなこどもから教わった

数奇な運命 歴史も表現

愛媛県歴史文化博物館で開催中の「かこさとし絵本展」の見どころを学芸員さんの解説で紹介するシリーズの第5回目は『ならの大仏さま』(1985年福音館書店/2006年復刊ドットコム)についてです。

かこは、東大寺の大仏について日本では小学校でも中学校でも習うけれど、本質的なことが伝わっていないと嘆くように申しておりました。コロナ禍で注目を集めた大仏建立前の状況、聖武天皇(下)の願い、そして1000年以上にわたり現在にいたるまで、戦乱や災害にまきこまれながらも存在していることを様々な角度から歴史を追って科学的に伝える77ページの科学絵本です。

お寺に残る古い資料などもみせていただき、化学者として自ら塗金の方法や必要な金(きん)の量を計算をするなど執筆までに5年を費やしたと、あとがきにあります。

展示会場で絵をご覧いただくと感動される方が多いのも、この本の特長です。機会がありましたら是非お出かけください。

(『ならの大仏さま』のあとがきは当サイト「あとがきから」コーナー2019年5月に3回に分けて掲載しています。)

みんなこどもから教わった

『どろぼうがっこう』 歌舞伎調 笑いとスリル

愛媛県歴史文化博物館で開催中の「かこさとし絵本展」の見どころを学芸員さんの解説で紹介するシリーズの第4回目は、『どろぼうがっこう』(1973年偕成社)について。

前扉(上)から、すでに定式幕に大入袋、幕引きの黒子は頰被りと芝居の雰囲気、ユーモアたっぷりなこの本は、男性ファンが多く「子どもと一緒に楽しみました」というお父様からのファンレターに、かこは大変喜んでいました。

かこが学生時代に体験した、子どもたちが劇を見て笑いで反応する場面、夢中で遊ぶ姿、「プチ悪」から善悪を見抜いていく感性、そういったことをキーワードに解説が展開されます。

ところで、このお話には続編があるのです。「どろぼうがっこう」の生徒たちがクマサカ先生とどうやって全員脱獄(?!)し、大運動会を開催できたのか、是非、絵本でお楽しみください。

みんなこどもから教わった

『からすのパンやさん』

愛媛県歴史文化博物館で開催中の「かこさとし絵本展」の見どころを学芸員さんの解説で紹介するシリーズの第3回目は、『からすのパンやさん』(1973年偕成社)について。

見開きいっぱいのパンの場面をいつまでも見ていた覚えのある方も多いことでしょう。パンやさんにやってくるからすたちの個性的なこと、4羽の子どもが家のお手伝いをしてお店を盛り立てる「個性を尊重し共生に思い」そこに「社会を考えるヒントを与えて続けている」と解説。

この本とその続編『からすのおかしやさん』(2013年偕成社)については以下の偕成社のサイトを是非ご覧ください。本屋さんで手に入る素敵なプレゼント情報があります。

偕成社 からすのパンやさん

2020年6月30日愛媛新聞 「加古作品の魅力 知って 児童らに読み聞かせ」

本展示会にあわせて6月27日には歴史文化博物館のある西予市の図書交流館分館で学芸員さんによる絵本の解説と読み聞かせ会が開かれ6月30日愛媛新聞にその模様が写真とともに紹介されました。以下でどうぞ。

愛媛 読み聞かせ

誕生日に贈りたい絵本

『からすのパンやさん』については絵本ナビスタイルで、「3歳、4歳、5歳の誕生日に贈りたい絵本」として紹介されています。以下でどうぞ。

絵本ナビ からすのパンやさん

2020/04/15

一枚の写真

2015年2月、みぞれまじりの寒い朝、かこは川崎市中原図書館で開幕する「かこさとし川崎の思い出〜1950年代のセツルメント活動と子どもたち〜」展の初日の記念講演の会場に入りました。

開場までにはまだ充分の時間があり、入場はハガキによる予約制でお断りをするのに苦労するほど多くのご応募があったため講演会の準備にも大勢にお手伝いいただき余念なく進むなか、一人の男性がマイクチェックをしている舞台のかこのもとに近づいて来られました。

その表情はなんと表現して良いのか、目元がくしゃくしゃしていて、何事かあったのかと思わざるを得ない様子でした。言葉も明瞭ではなく、聞けば、手にした一枚の写真を見せ、これは自分だといわれました。その方が持っていたのが冒頭の写真。かこのセツルメント活動を語るときに必ずと言って良いほど紹介されるものです。

女の子を先頭に子どもとセツルメントのメンバーたちが背の順にならび最後に立っているのが、メガネに帽子の若き日のかこさとし。その男性は「かこ先生」といったきり、もう言葉が出てきません。お顔を拝見すると、そう、写真の男の子の面影があります。慌ててかこの傍らにお連れし、あとは涙、涙の再会となりました。

その日の講演では、前半はかこがセツルメントについて語り、後半はセツルメント活動に携わった方々やかつての子どもたちが壇上に上がりに思い出を語るという構成でした。この日の為に、長い時間にわたる献身的なご協力をいただき、ようやく連絡がとれた当時の関係者の方々のお話からは、セツルメント活動が果たした役割の大きさが伝わってきて満員の聴衆も大変心を動かされました。写真の男性にも急遽壇上に上がっていただきました。

60年以上の時空を超えてかこと再会できたこの男性のおかげで当時の子どもたちのことが次第にわかりました。かこはこの再会を何にもまして喜んでいたのは言うまでもありません。その写真が、2020年3月20日に出版された『写真が語る 川崎市の100年』(いき出版)に収録されています。かこにとって忘れえぬこの一葉は、戦後日本の復興を支えた工場で働く人達の多くが暮らした川崎の歴史を伝える一コマでもあったのです。

2020年3月川崎市広報特別号などでも

この写真やセツルメント活動については川崎市広報特別号やタウンニュースでも取り上げられました。かこの手書き資料(初公開)などが掲載されています。詳しくは以下のサイトでご覧ください。

川崎市広報特別号

タウンニュース

日ごろの疲れがたまっているときにこそ、手に取ってほしい本5選 (プレシャス)

不穏な空気の中、「温かい気持ちになる本」を紹介しているコーナーで加古の遺言とも言える『未来のだるまちゃんへ』を取り上げています。遺言なのに温かな気持ち?と思われたら是非、お読みください。

記事は以下でどうぞ。

未来のだるまちゃんへ