作品によせて

春の野辺で楽しそうに遊ぶ子どもたちの表紙は、見ているだけでもワクワクしてきます。

草花遊び、虫や鳥、空模様など自然の中で楽しむ方法や、手品あそびや折り紙、文字あそびなど盛りだくさん。一人で遊べるもの、みんなで楽しめるもの、いずれも今すぐできるものばかりです。

「あそびずかん」4巻に込めた著者の思いが表紙カバーにあります。

子どものあそびがもたらす実り かこさとし

(引用はじめ)
子供の遊びは、楽しみながら知恵や力を伸ばし、体や心を育てゆく実りをもたらしてくれます。
しかし、いやいやながらやおしつけでは、良い実りにはなりません。
小さい子があそびのおもしろさを知ると、いろいろ考え、探し、工夫して、自分に合ったあそびにしてゆきます。
この「あそびずかん」は、書いてあることがわかって、すすんであそびができるよう、絵と言葉でやさしくつづった、子どものあそびの本です。
(引用おわり)
漢字にはふりがながあり、縦書きです。

はるのまき まえがき

(引用はじめ)
このほんは ちいさい このための はるの あそびの ほんです。そのため、よういするものや あそびかたなどは、ぜんぶ ひらがなで かいてあります。こどもは ちいさいときは たのしい あそびを しながら くふうを したり、ちえを みがいたりして、てや あしや からだ ぜんぶを つかって うごくので、ぐんぐん すばらしく そだってゆきます。
ですから、どうぞ げんきに はるの あそびを たのしんでください。
(引用おわり)
上記のように分かち書きになっています。下は、まえがき、もくじに続く「くさつみ、はなつみ、さんさいとり」の場面。

はるのまき あとがき

(引用はじめ)
本書は主文をひらがなで記述しているところからおわかりのように、3歳ごろから小学校1、2年生頃の幼い子供のためのやさしい遊びを選びました。やり方や内容がすぐに理解できて、興味を覚えると自分ですすんで体の各部位や指先までうまく使おうとはげみ、もっている知恵や能力を総動員して挑戦を続けます。この面白さに推進された心身のいとなみが、幼い子のよき成長の原動力となってゆきます。どうぞたっぷり春の遊びを楽しまれるよう、はげましていただきたいと念じます。
(引用おわり)
漢字には全てふりがながあります。

2018/03/14

ランドセル

小学校入学の思い出はランドセルとともによみがえってきます。背中より大きなちょっと重いランドセルは小学1年生にとって大人に近づく自覚を促す特別な道具のようでもありました。

加古作品にも、そんなランドセルを背負った小学1年生が登場します。上は、『ことばのべんきょう 2くまちゃんのいちねん』(1971年福音館書店)、下は、『こどものカレンダー4月のまき』(1975年偕成社)で、当時の小学一年生の姿を現しています。昭和時代の小学生はまさにこんな感じでした。

『おたまじゃくしのしょうがっこう』(2014年偕成社)は、「おたまじゃくしの101ちゃん」の続編です。小さなおたまじゃくしのたちに後足が生え、ランドセルを背負って「いちべえぬま小学校」にはいって勉強をします。ずらりと並んだランドセルは小さくてカラフル。

3月13日に出版された、かこさとしが小学校卒業にあたり学校で書いた作文と絵からなる『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社)は、満開の桜の下ランドセルを背負った自身の小学校入学の様子から始まります。今から85年以上前の小学校一年生。

桜の開花時期が早まっても、いつの時代でも 日本人にとっては入学式に桜は欠かせないもののように思います。

「はじめに」にあるようにこの本は、『あそびの大宇宙全10巻』(1990〜1991年)を492ページの一冊に再構成編集したものです。著者の言葉をご紹介します。

はじめに

(引用はじめ)
私は戦後、川崎の戦災跡の工場労働者住宅街で、会社に勤めながら子ども会を25年間していて、遊びのもつ野生的な楽しさと生きる意欲を、子供たちから教わりました。その後、会社を退職し、六つの大学で10年間、児童文化と行動論の講義を担当しました。

その折、「遊びの本」出版の依頼を受けたので、子どもたちから受けた遊びの多彩な楽しさと、大学講義の基軸である、子供の成長発達の推進力を込めて記述したのが『あそびの大宇宙』で、思い出深い著書です。

今回、新書を出版にあたり、嬉しい懐かしさと共に、新しい読者の方々に、当時の子供たちの生き生きとした行動と生き抜こうとする力が伝わるなら、最高の幸いです。
かこ さとし
(引用おわり)


『てんとむしバッタくんのあそび遊びのこん虫曲芸団』

かつての第6巻『てんとむしバッタくんのあそび遊びのこん虫曲芸団』は、この事典ではパート6として同じタイトルで登場し、単行本の時のあとがき「ムシは子どもと同格、同類」も収録されています。啓蟄も間も無く、お読みください。

(引用はじめ)
よく、「子どもの目のたかさで」と言われるように、同じ条件、状況下にあっても、大人とちがった強度や印象でこども等に投影することを知らねばなりまでん。その子どもの視点に適合する対象のひとつに身近にいる虫たちがあります。この巻は、そうした「生きているおもちゃ」昆虫や、身近にいて「相手となってくれるともだち」の、いろいろムシたちの遊び集です。「虫たちが可哀そう」とか「虫をとる子をみたらやめさせよう」という視点や「うちの子はムシなんかより、ずっと高級」という考えに対し、子どもとムシたちにかわって、形をかえた抗議が、このパートです。どうぞ、よろしく。
(引用おわり)

2018/01/04

気になる犬

戌年ということで、犬が気になります。絵本の中に多く見られる子どもと犬の組み合わせを探してみましょう。
上の絵は『あなたのいえ わたしのいえ』(1969年福音館書店)の裏表紙で、このイヌはこの家に暮らし、屋根の上の小鳥同様、家族が増えていきます。

家族の一員として登場するイヌには、ネコと同じように凝った名前がつけられてることがあります。農文協の「食べごと 大発見」シリーズに出てくるイヌはコチいぬ。コチは東風(コチ)で、菅原道眞「東風吹かば 匂い起こせよ 梅の花」からの命名です。

『子どもの行事 しぜんと生活』(2012年小峰書店)に出てくる茶色の垂れ耳をもつ白犬のマルスは、3月生まれだからこの名前です。

名前はないけれど物語を通して登場するイヌもいます。『たっくん ひろちゃんのちょうちょうとっきゅう』(1997年小峰書店)・下の写真)の白い毛並みに赤いブチは他の動物同様ぬいぐるみという設定です。小さな、たっくん、ひろちゃんと一緒に「ちょうちょうとっきゅう」に乗ってスリルあふれる旅のお供をします。

『だるまちゃんとにおうちゃん』(2017年福音館書店・下は裏表紙)には、だるまちゃんとにおうちゃんちゃん達が境内で遊んでいるのを遠巻きに見ている女の子が、イヌを連れています。

あとがきにもあるように、このお寺はかこさとしが戦後間もなく家族が住んでいた京都府宇治市に戻った際、近くの黄檗山萬福寺(おうばくさんまんぷくじ)の境内で実際に見かけた光景を取り入れています。食糧難の時にイヌを連れているのが非常に珍しく思われたそうです。お相撲遊びには加わらないのは女の子だからなのでしょうか。女の子を見つめるかこの視点が本を読む者と同じ側にあるのが感じられます。

この他にも、『とこちゃんはどこ』(1970年福音館書店)の裏表紙のイヌ(下の写真)など、子どもの友達として犬が描かれています。皆さんが気になるイヌはどこにいますか。

2017/12/22

吹雪

この4冊には共通点があります。それは「吹雪」の場面があることです。

デビュー作の『だむのおじさんたち』では四季折々の雄大な自然を背景に人間の力を結集しダム建設が進む様子を描いています。その大変さ過酷さを表すのが吹雪の中の危険な作業に取り組む「らんぼうで、こわくてーーーやさしい」吹雪にも負けないおじさんたちの姿。肌を刺す強風のヒュウヒュウ鳴る音が聞こえてくるような(下の)場面。そうした困難、苦しさを乗り越えて、桜舞い散るうららかな春にダムは完成します。

かこさとしは北陸(現在の福井県越前市)、雪国育ちで、1階の高さまで降り積もる雪の重さで木造の建物はギシギシ音をたてその重みで玄関は扉が開けられず2階の窓から出入りしたこともあったそうです。そのときの不気味な音と不安な思いを今でも天気予報で故郷に雪だるまマークがつくと語ります。

『ゆきのひ』は『だむのおじさんたち』のような大自然の中ではないものの雪と暮らす人々の日常生活を描き、著者の幼い頃の体験が画面に投影されています。下は吹雪の夜、雪に埋まった線路の復旧作業をする人々の場面。

科学絵本、例えば『地球』や『地下鉄ができるまで』でも、そこには四季が描きこまれています。晴れの日もあれば雨風の日もあり、暑い夏も雪降る冬の日もあるのだからそれを描かない方が不自然なのでしょう。長久の歴史を持つ壮大な規模の『万里の長城』も同様で「長城の守備線で日本軍と戦う八路軍」の様子、「痛ましい犠牲や悲しみにしずむ人々に、長城はその巨大な姿で無言のはげましをあたえ」る2場面は吹雪の様相となっています。

童話である『しらかばスズランおんがくかい』(1986年偕成社)はかこさとし七色のおはなしえほん・青をテーマにした創作で、シラカバやスズランの咲く寒冷地を舞台とする物語は以下のような文で始まります。
(引用はじめ)
ひどい ふぶきのなかを
おおきな ひこうきが
とんでいました。
あんまりゆれがひどくて、
おおきな にもつが
おちたのに
きがつきませんでした。
(引用おわり)

この大きな木箱の荷物の中身は一体なんなのでしょう? 雪が消え春になって森の動物たちのたちが、この箱から出てきたものをめぐりお話が展開します。吹雪で始まり雪が再び降り出し冬ごもりをする動物たちの場面でこの話は終わりとなります。『ゆきのひ』同様、静かな冷たい世界ながら平和な空気、暖かさが感じられる物語になっています。

下 の写真は、この冬最初の降雪が止んだ越前市ふるさと絵本館の様子。

クリスマスツリーというと何を思い浮かべられますか。絵本や映画の場面、あるいは実際にご覧になった思い出の光景でしょうか。

今頃の時期になると、アメリカでの事ですが、クリスマスツリー用に注文していたモミの木を学校の校庭や公園などに届けられた大きなコンテナまで取りに行き、なんとか車に押し込んで持ち帰ったことをその芳香とともに思い出します。

そういう木はクリスマス用に栽培されたものですが、そもそも昔は、モミの木を切り出すことからしたそうです。『みごとはなやかなあそび ーあそびの大星雲 3』(1992年農文協)(上の写真左側)には、易しくクリスマスツリーの由来が書かれています。右側は『こどものカレンダー12月のまき』(1975年偕成社)の前扉です。

日本の門松に根引きの松を飾るのに通じる思いがクリスマスツリーに込められいるのは人間の心理を考えると興味深いものです。



加古作品の中では、行事の本や季節の遊びとともに沢山のクリスマスツリーが描かれていて、上の写真は『こどもの行事 しぜと生活 12がつのまき 』(2012年小峰書店)の裏表紙(右)と本文でクリスマス・ツリーを紹介しているページです。

クリスマス・ツリーが主人公の絵本もあります。年少版こどものとも129号〈12〉として刊行された『きれいなかざり たのしいまつり』(1987年福音館書店) です。その折り込み付録には著者による「クリスマス・ツリーの絵本」と題する解説がありましたのでご紹介します。

クリスマス・ツリーの絵本

加古里子

(引用はじめ)
この絵本は12月にちなんでモミの木の飾りと、そのまわりでの集まりや遊びいわゆるクリスマス・ツリーを題材にしています。

気の早いところでは10月ごろから、こうした飾り付けが行われ、各地各所でさまざまな工夫や出来栄えが競われています。そのきれいできらやかな様子に、子供たちはわくわく心をはずませます。いわばすっかりこうして気運づくり、下地ができているのですから、こんな良い題材を用いないテはないでしょう。

ところが、これまでクリスマス・ツリーは、サンタの絵本の片隅の、背景の、小道具といった脇役でしかありませんでした。今回は主役の、主題にえがいたーーーというのがこの絵本で作者の私が意を注いだ第一の点です。

第二は、そうしたクリスマス・ツリーを描くために、縦長の画面、それぞれのページが縦につながって次々に展開する手法を用いたことです。いわゆる「右開き」「左開き」ではなく「縦めくり」の組み方と造本を編集部にお願いしました。絵の都合で縦にしたり横にかいたりではなく、読者の理解と興味をの持続連繋(れんけい)のため、一貫性のある冊子の展示を借用したのです。

第三の最も留意した事は、日本ではクリスマスが盛んであっても、読者が全員キリスト教徒やその家族ではないと言うことです。

さりとて、キリスト教をぬきにしたクリスマス・ツリーは形骸(けいがい)となってしまいます。そこでキリスト教の習慣や行事の言われを述べるのではなく、広い宗教性をこの絵本にもりこむように努めました。ダ・ヴィンチの模写を、しかも2枚ある「岩窟(がんくつ)のマドンナ」のうち、ロンドン美術館の方を選んだのも、こうした願いからです。作者はキリスト教はもちろん他のどんな宗教でも、真に誠実な方には常に尊敬を抱く者ですが、この絵本の願いが幼い読者の心に届くのを大きな喜びと思っています。

(引用おわり)
*ロンドン美術館とあるのはロンドン・ナショナルギャラリーを指しています。

『きれいなかざり たのしいまつり』の一場面。

1967年の『だるまちゃんとてんぐちゃん』、翌年の『だるまちゃんとかみなりちゃん』に続き『だるまちゃんとうさぎちゃん』が出版されたのは1972年、こどものとも2月号としてでした。その時の折り込みふろく「絵本のたのしみ」(下の写真)に掲載された著者による解説をご紹介します。

かこさとしによる解説

(引用はじめ)
私が「だるまちゃん」の絵本を書くに至った動機は、日本の子供たちにふさわしい、日本的な風土や香りを伴った筋と内容、主人公でつづってみたいと思ったのに発しています。外国の優れた絵本を見る度に、そこに出てくる登場者や脇役たちの服装やしぐさや背景や、ときには手にもつ小道具や刺繍の模様に、ちゃんと風土に培われた意味があり、民族性がいきづいていることに気がつきました。優れた翻訳家や解説の努力によっても、埋めつくせないよさがあることがうらやましかったのです。狭い偏った国粋主義などではなく、しかしやはり日本の風土に育ち、日本の言葉を語り、日本の歴史の中に生きていく子供たちには、バタ臭いものや無国籍的なストーリーより、はっきりと日本的であって、しかも現在の子どもにふさわしいものが一つぐらいあってよいだろうと模索しはじめました。

そんな折、たまたま目にしたソビエトの「ビショリーエ・カルチェンキ」と言う幼年雑誌の中に「マトリョーシカちゃん」と言う楽しい絵物語を見つけました。ソビエトの民族人形であるマトリョーシカのところへ、いろいろな玩具たちが遊びにきて、相手がいないと思ったら、マトリョーシカの体の中から、次々と人形があらわれ、皆と楽しく踊りをしたという話です。感心した私は、まずい訳で「紙芝居」と言う雑誌に紹介しましたがこのときの示唆から、日本の郷土玩具や民族説話に主人公を求め、「だるまちゃん」を選ぶようになりました。

こうしてできたのがだるまちゃんシリーズと呼ばれる絵物語や絵話です。まっ赤な衣とひげと大きな目を持つ「だるま」は、日本の子どもたちはもちろん、大人の方にも好まれ愛される素晴らしい典型だったので、興のおもむくまま、とらやかっぱや白ぎつねや三猿や龍やくじらや金時やらとの交流交絡する話を次次作ったのですがそのうち三つだけが絵本となり、読んでいただいているという訳です。

ところが求められるまま、前述した動機などをご紹介すると、中には「日本の代表といっても、だるまは元はインドじゃないか」と言われる方がおられました。さすが博識の方は世に多いもので、もとはといえばインド香至国第三皇子であることや慧可断臂(けいかだんぴ)の禅宗の祖であることは指摘の通りです。しかしあの眼光の鋭い菩薩達磨師の像は、中国文化が磨きあげ、それが日本に渡来したものということがいえましょうが、木彫りや張り子のだるま(傍点あり)にまで化して、敬愛し民族化したとき、それはインドや中国のものではなく、私たち日本のものといってよいでしょう。純粋な土着性だけを日本とするなら、騎馬民族や南方漂流民としてのわれわれの祖先を排除しなければならぬという妙なことに至ります。

さて、こうして誕生した「だるまちゃん」に遊びとしての要素をもりだくさんおりこんだのが「うさぎちゃん」との物語です。しかしその中に慧眼(けいがん)な方は一種場違いな人物が見えがくれするのにお気づきでしょう。丹下左膳と座頭市です。戦前チャンバラのすきな子どもたちは丹下左膳ごっこにあけくれていました。戦後はチャンバラどころか遊ばなくなってしまいました。そしてこの二人とも障害をもちながら悪に敢然とたちむかった人です。この二人を創作された林不忘さんや子母沢先生に感謝しながら、なぜ、こんな伏線をしたのかを、大人の方はその教養でちょっと考えていただければ幸いです。
(引用おわり)

上の写真は裏表紙、左端の雪だるまに注目。

『だるまちゃんとうさぎちゃん』は、11月8日から12月10日まで藤沢市民ギャラリーにて開催の「だるまちゃんとあそぼ! かこさとし作品展」にて2場面を展示。また11月16日より越前市ふるさと絵本館にてほぼ全場面を展示いたします。ぜひご覧下さい。

すっかり秋らしくなり『そろって鍋もの にっこり煮もの』が嬉しい季節になりました。

食いしん坊の誰かさんは、夜寝付けない時に、羊の数を数えるのではなく、おでんを食べるとしたら何からどんな順番で食べようかなあと想像するそうです。そんな事をしたら尚更目が覚めてしまいそうですが、この本の1ページは、おでん鍋を囲む笑顔の一家の会話(下の写真)から始まります。まずは前見返しにある〈この本のねらい〉をご紹介します。

〈この本のねらい〉

ゆっくり煮こんでほしい

(引用はじめ)
食べものを煮たりたいたりという事を物理化学的に味気なくいえば、食品を水とともに加熱する工程となるでしょう。しかし、その水の量や加熱処理の時間、温度によって「煮こんだり」「煮つめたり」「煮っころがしたり」といういろいろな料理となり、それにふさわしい大きさや深さや形や材質の加熱容器がさまざまな鍋となって登場します。

それでは、一体どんな煮たきの操作によってどんな料理に変わるのか?どんな処理を行うために、どんな鍋が用いられのかーーーどうぞこの巻でゆっくり煮こみ、とっくり煮つめてみてください。
(引用おわり)

さらに著者の言葉が続きます。

煮たきもののかくし味発見!

(引用はじめ)
煮たきすることは熱を加え食品をやわらかくするだけでなく、「ふるさと」とか「おふくろ」といった味がわきでる不思議な様子を4~5、6~7ページにのせてあります。

煮るものといえば、あなたの一番好きな、おでんのたねはなんでしょうか?20〜21ページの絵(下の写真・一部)の中にあれば幸いです。

こうした日本の煮込みものは、シチュー(10〜11ページ)とか、ポトフやボルシチ(12~13ページ)とかと、どうちがうのか、ぜひおたしかめください。

そして全国のなべものめぐり(24~31ページ)や見返しの煮もの、汁ものの日本地図によって、忘れていたなつかしい味を思い出していただきましょう。

このように、この煮もの、たきものの巻は各所にちりばめた、いろいろなかくし味をお楽しみいただく発見の絵本です。
(引用おわり)
尚、漢字には全てふりがながあります。

最後のページには、次のようにあります。

寒い季節の暖炉の魅力

(引用はじめ)
日本でも外国でも寒い地方では、冬一日中暖炉を燃やし続けます。その熱源を生活している人々は見逃しません。湯をわかし、薪や衣服を乾かし、なべをかけます。こうして暖炉を必要とする生活は、暖炉を使っての料理や、それを囲んで集う家族や隣人との接触親和の場をつくります。したがって暖炉という熱源は、単に料理づくりに役立つだつだでなく16〜17ページ(下の写真・一部)にご紹介したように、まわりをかこむ人々を結びつけ、心をあたため、会話や笑いをはずませていくという事です。この不思議な魅力、すばらしい威力を北国の冬の暖炉ばかりでなく、いろいろな煮もの、たきもの、なべものが秘めている様子をお知らせしたのが、この巻です。北国の冬生まれ一人として、この本をお読みいただいた事を感謝し、南国生まれ方にも、この食べごとを見つけられるよう祈ります。
(引用おわり)

さらに、後ろ見返しには著者から読者の皆さんへの言葉があります。

台所の代表は何か?

(引用はじめ)
簡単に台所を、絵であらわすにはどうしたらいいでしょうか?魚や野菜をかいても店屋さんと間違えますし、ガスレンジや冷蔵庫は、よほど上手でないと手提金庫が物入れになってしまいます。という訳で、一番早くてやさしいのは「なべやフライパンのある部屋」というあらわし方だと言うことになりました。やはりなべやフライパン(これも浅い片手鍋の1種です)は、台所を代表する道具であることがわかります。

この台所の代表は、その役目である煮たきのための、食品と水を収めておく容器としての機能と、熱を加え、伝える、種々の材質の壁を持っています。さらにフタのあるなし、持ち運びのための柄や取手、通気穴や中底のあるものなど、多くのなべが工夫され使われている様子を、どうぞあらためて見てください。
(引用おわり)

鍋ものだけあって著者の熱い思いが伝わってきます。それにしても、おでん好きの様子、さては、、、?!

2017/09/22

運動会

秋の学校行事といえば、かつては運動会が筆頭でした。一家揃ってお弁当を広げてというのが定番で、その形体が変わったとはいえ、普段見れられぬ一面を発揮する姿に声援を送るのも運動会ならではです。

1950年代、かこさとしが川崎でセツルメント活動・子ども会の世話をしていた頃、秋になると地域の運動会を催し500人近い子どもが集まってきてリレーや借り物競争などで大いに盛り上がったそうです。どんなにか賑やかだったことでしょう。

かこ作品の中でも、運動会はなくてはならない一大イベントです。

セツルメント活動で子どもたちに見せていた紙芝居から生まれたお話の一つで、秋晴れの空を背景に繰り広げられるのが、『とんぼのうんどうかい』(1972年偕成社)です。大群で飛ぶとんぼを見たことがあればその発想に頷けるのですが、そんな光景を近頃の都会では見かけられなくなってしまい本当に残念です。

典型的な種目といえば、綱引き、大玉ころがし、玉入れでしょうか。ご覧いただいているのは『こどものカレンダー10月のまき』(1975年偕成社)からです。2見開きが運動会に当てられています。動物たちの表情がそれぞれ面白く、右下、「スプーンきょうそう」のからすの表情は最高です。

二人三脚の、うさぎとカメ、オオカミとブタの組み合わせにも笑ってしまいます。

『ことばのべんきょう くまちゃんのいちねん』(1971年福音館)では11月に運動会となっていて、熱中症予防の現在を先取りでしょうか?! テントには「土等猫(ドラネコ)小学校PTA同窓会」とあります。

一方、『どろぼうがっこう だいうんどうかい』(2013年偕成社)はその競技種目が何ともアッパレ愉快で、いつかどこかで実践してみたいと密かに願っているのは筆者のみではないはずです。

「どろぼうがっこう」とはいえ学校ですから校長先生のちょっと気取ったお話から始まり応援歌という流れにもニンマリしてしまいますし、ハプニング発生でプログラム変更が余儀なくさせられるあたりは妙に現実味があり、後見返しにその表示があるのも、いやはや参ったなと言わざるを得ません。

パンやさんと言えば『からすのパンやさん』(偕成社1983年)ですが、加古作品には、他にもパンやパンやさんを描いた絵本があります。

1987年に農文協から『かこさとし たべものえほん10巻』(文のみ・かこさとし)が出版され、その第2巻が「せかいのパン ちきゅうのパン」です。この本のねらいについて、かこさとしのことばが巻頭にありますのでご紹介します。

この本のねらい かこさとし

(引用はじめ)
食物のシリーズのなかで、このパンの絵本をかいたのは、パンが数千年の昔から、今も世界各地で毎日作られ、多くの子どもたちが食べている重要な食物だからです。

子どもにとって食物は、健康や成長の糧であるとともに、文化・生活・教育などに関わり、精神や心に大きく作用していることを、このパンが最も雄弁に物語っています。

パンのながい歴史と、背景となった風土や文化を、香ばしさやふくらみをこめてえがいたのがこの絵本です。
(引用おわり)

『食べごと大発見 第6巻 たまごサラダこんがりパン』(1994年農文協)は主に西洋の食事や料理を紹介する巻で、[リーンなパン こんがりパン](下の写真)[リッチなふわふわパン]と[三度サンドサンドイッチ]」という3項目3見開きでパンの作り方や調理法と美味しそうなパン、サンドイッチ、バーガー、ホットドッグなどが並びます。

美味しそうに描かれている絵を見るだけでも幸せに気持ちになりますが、実際の食事をともにすることにより「国や言葉や文化の壁がいっぺんに取れ、互いに親愛を深められる」食べごとの意義を実感していただけたら幸いです、というのが著者のこの本に込めた願いです。

絵本館から定期的に届けられるご来館者の方からのお手紙の中に『うさぎのパンやさんのいちにち』(2004年 ベネッセコーポレーション)が大好きですというお子さんのお便りがありました。

この本は題名からわかるように、うさぎのパンやさんが早朝から粉をこねる場面からはじまり、時間の経過とともに成形、発酵、焼き上げ、調理を経て店頭に並んだり給食になったりと多種類のパンを彩りに、片づけ掃除で1日が終わる様子が手にとるように描かれ、小さなお子さんにもパン作りの様々が理解できるお話です。

かこは給食用のパンを含む多くのパンを長年製造している熟練の方をパン工場に訪ね、その製造過程やコツ、注意点などを取材した上でこの本を描きました。『からすのパンやさん』同様、楽しんでいただけたら幸いです。