作品によせて

6月1日は衣替え。かつてほど厳格ではなくなりましたが、『こどもの行事 しぜんと生活6月のまき』(2012年小峰書店)にはユーモラスな絵とともにその歴史や住まいのしつらえを変えたり、動物の脱皮などにも触れています。

変わるといえば、かこは変化する絵をよく描いています。『こどものカレンダー10月のまき』(1975年偕成社)の23日のテーマはこの日に生まれたピカソにちなみ「いろいろ かわる え」で、「えの かきかたや かたちの あらわしかたを いろいろ かえて かいた絵描きさんです。」と紹介し、ご覧のような絵を描いています。きのこが、「子どものカレンダー」シリーズに登場する「リボンちゃん」や「ぼうしちゃん」に変わっています。

ピカソどころかロダンもびっくりするのが、その名も『遊びの大惑星10 びっくりしゃっくりのあそび』(1992年農文協)にある「ミロのビーナスから⋯⋯ロダンのかんがえるひとへ」と題するこの絵です。ルーブル美術館に収蔵されている「ミロのビーナス」が上野の西洋美術館にあるロダン作「かんがえる人」、腰かけて顎に手をあて考える姿に変化しています。

この姿勢は実際にするのは難しいのですが、「かんがえごとの むつかしさや なやみの ふかさが、みる ひとに じっとつたわってきます。」「ひとの すがた そのままではなく、にんげんの ふかい なやみが わかるようにロダンが あたらしく あみだした かたち」なのだと『すばらしい彫刻』(1989年偕成社)に図いりで詳しく説明があります。

下の場面はドイツの民話をもとにした、『まほうのもりのブチブル・ベンベ』(1986年偕成社)で、魔法によって動物にされていた子どもたちが、魔法が解け、「みるみるかわって もとのこどもに」戻る嬉しい様子が描かれています。

『矢村のヤ助』にも同様な表現があります。ヤ助が冬の山で助けた山鳥が姿を変えてアカネとしてヤ助のお嫁さんになって幸せに暮らしていたのですが、村人に無理難題を突きつける鬼退治のためには特別な山鳥の尾羽が必要でした。それを持っているのはアカネ⋯。鬼退治のため、自らの姿を山鳥に変える場面がこちら、切ない変身です。

『こどもの行事 しぜんと生活6月のまき』衣替えの場面の下書き(コピー)を越前市ふるさと絵本館で2022年7月11日まで展示しています。また、『矢村のヤ助』のこの場面は2022年7月16日からBunkamuraザ・ミュージアムで始まる「かこさとし展 子どもたちにに伝えたかったこと」で展示予定です。お楽しみに。

創作料理というのがありますが、『からすのそばやさん』(2013年偕成社)には名前も愉快な創作料理が目白押しです。

筆者は幼い頃、きつねうどんとかたぬきそばとか、不思議な名前だなあと思ってその由来を尋ねたものです。その延長でしょうか、「にゃんにゃんそば」「おおかみそば」。ここからは言葉遊びのようになって「さんぞくそば」「かいぞくそば」。「れんぞくそば」とは、ざるが重なっていますから、おかわり付きということでしょうか。

月見うどん、花見うどん、雪見うどんは、なるほどありそうですが、夕焼けうどん(!)や真夜中(?)うどんは、どうやらその色合いによる命名のようです。「みけねこ」うどんは3色のうどん、「わんわん」うどんは、犬の顔が具材で表現されているキャラうどんです。

ラーメンに至っては「ちゃんばらラーメン」「かみなりラーメン」など再現が難しそうですが、「スタミナスパゲッティ」なら作れるでしょうか。残念ながらレシピのご用意はありませんので、絵をじっくり観察してから腕をふるっていただくしかありません。

下は最後の場面です。そばやさんのそれぞれの名前がついた麺類を是非ご賞味ください。

『からすのそばやさん』の絵は、こども陶器博物館で開催中の「かこさとし おいしいもの展」(2022年6月5日まで)で展示しています。

奇想天外な名前といえば、大勢が登場する『にんんじんばたけのパピプペポ』(1973年偕成社)の主人公である20匹のこぶたのなまえです。パ行やバ行の音で始まる名前が20も並ぶ紹介は圧巻で表紙の絵にも何匹かのこぶたたちの顔と名前が書かれています。パパタ、ベベタ、ペペコ、ブコ、、、こどもたちの名前を呼ぶだけで、ずいぶん時間が過ぎてしまいそうです。

さらに大勢が登場するのは、おたまじゃくしたち。さすがに名前ではなく番号で認識、一番小さい子は、騒ぎを起こすことになる101ちゃん。ご存知『おたまじゃくしの101ちゃん』(偕成社)として出版されていますが、かこがセツルメントの子どもたちにお話をしていた当初は「市べえ沼の大事件」という題名でした。

あとがきにもあるように、子どもたちにとってはこの物語の舞台となる「市べえ沼」より、たくさんのおたまじゃくしの方が印象に残ったようで、いつのまにか、この物語は作者の思いをよそに「おたまじゃくし」の話と呼ばれるようになっていったそうです。

お話の舞台になる地名に凝るのも、かこ流で『からすのパンやさん』は、いずみがもりのくろもじ3丁目にありますし、その続編には、かえでどおり、ひいらぎむらなど、木に由来する、からすのまちらしい地名が出てきます。かしのきみちの『からすのやおやさん』(2013年偕成社)の店名の付け方は、お店に関わるからすたちの名前を織り込む、なかなかの凝りようです。

尚、『にんじんばたけのパピプペポ』の表紙などは2022年4月9日から、こども陶器博物館で開催中の「かこさとし おいしいもの展」で、また藤沢市役所本庁舎1階のホールでも1枚のみですが展示しています。お近くにお越しの際はどうぞご覧ください。

かこがセツルメントの子どもたちにお話をしたり紙芝居を見せていた昭和30年代から50年代、男の子は、たろうやいちろう、じろうくん、女の子は、はなこちゃんやよしこちゃん、かずこちゃんといった名前が物語に限らず、例えば算数の文章題などでも広く使われていました。ここでご紹介するのは、その頃創作された作品です。

『あおいめ くろいめ ちちゃいろのめ』(1972年偕成社・上)では、「くろいめのたろーちゃん」が「あおいめのめりーちゃん」と「ちゃいろのめのばぶちゃん」と一緒に遊びます。

『たろうがらす じろうがらす』(2021年復刊ドットコム・上)はいたずらっ子のこどもからす、たろう、じろう兄弟のお話です。

『からすのパンやさん』(1973年偕成社)の4羽の子どもたちはご存知のように、チョコちゃん、リンゴちゃん、レモンちゃん、オモチちゃん、と食べ物に因んだものばかりで、食いしん坊の著者とおいしいものに目がないこどもたちの趣向が合致している命名はなかなか優れていると言わざるを得ません。

からすのこどもたちのお友達の名前は、スミちゃん、ロクちゃん、ミヤちゃん、ドンタちゃん。からすのパンやさんが焼けたと勘違いして、集まってくるのは、サイチどん、ゴロベエどん、ヤマおばさん、チリチリばあさん、マゴマゴじいさん、ゴサクだんな、アカベエどん。。。名前を聞いただけでも著者が描きたかった、からす一羽一羽の個性が感じらます。

『あかいありとくろいあり』(1973年偕成社)に登場する、あかあり小学校の1年生は、ちみちゃん、ぽてちゃん、なっちゃん。6年生のお兄ちゃんはぺっちゃん。いずれも愛称のようです。行方不明になったぺっちゃんを探すのは、ジンキチじいさん、ベンベロさん、モコモコばあさんにキチキチじいさんです。

こころなしか、名前や愛称からも時代の空気感が伝わってくるように感じられます。

有名人にあやかって命名されているといえば、この人。『どろぼうがっこう』(1973年偕成社)の「よにも なだかい くまさか とらえもん」先生は熊坂長範という歌舞伎や謡曲にも登場する義賊からお名前を頂戴しています。

生徒は「ネズミこぞうの じろきち」「いしかわの ろくでなし」とどろぼうならではの命名に笑ってしまいます。しかも、続編『どろぼうがっこう だいうんどうかい』(2913年偕成社)では、「アレ・カッポレ」(下)という青年が登場、事件を起こしますが、校長先生に勧められて、「どろぼうがっこう」に来ることになります。

「かこさとし」本人の名前から命名されているのが『カッコーはくしのだいぼうけん』(2022年復刊ドットコム)の主人公です。髪型、ヒゲこそ少し違いますが、メガネで「よあけになるとおきだし」「そうじといぬのさんぽ」「それからしごとにかか」るという習慣もそっくりです。

ただし、犬の散歩は庭で犬を走り回らせることなので、犬をひく姿はご近所の方でも目にすることはなかったはずですが、朝夕に箒を持つ姿は時計がわりになるほど規則的でした。

あとがきにあるように「人が好くって優しくて、知恵と正義のかたまりのような」点も共通しているように思います。いずれの作品にも、かこの思いがたっぷり込められていますので、場面の隅々までお楽しみください。

(上は『カッコーはくしのだいぼうけん』冒頭の場面)

入園や入学前のこの季節、持ち物に名前を書いたり、自己紹介で名前の由来を話す機会が多いことでしょう。名前の由来を聞くと、一度で名前を覚えられるように思います。

小説であれドラマであれ、登場人物の名前は、作者の思いが反映され気になるところです。こども時代の筆者はサザエやカツオは貝や魚の名前だとは知らず、後になってその命名の妙に気付きました。

『こどもの行事しぜんと生活』に登場する大家族の名前は大変ふるっています。全部答えられたら、かこさとし検定(?!)1級レベルでしょうか。

暦に関連する名前としては、1月生まれのムツキにいさん、4月のセイワとうさん、5月のアオイじいさん、6月ミナかあさん、8月生まれのボンちゃん、12月生まれのトウジくん。10月生まれのカンナちゃんは夏の花のカンナではなく、神無月からとられたものです。

花の名前をもっているのは、きくばあさん(9月)、文化を反映し風情があるのは11月生まれのユキミねえさんです。

そしてネコのアル(2月うまれ)は中国語の2からです。

イヌのマルス(3月)はフランス語、カナリアのユーリ(7月)はその月のドイツ語名に由来しますが、各々「古代ローマ時代(紀元前8世紀)、3月にはマルティウス(軍神月)という名前がついていた」ことや「古代ローマの政治家ユリウス・カエサルが紀元前45年に暦をあたらしくしたとき、自分の生まれ月の7月のことを自分の名前「ユリウス」とよぶことにし」たことに由来すると説明があります。

登場人物が案内する各月に関わる行事や文化、自然の話題をお楽しみください。

2022/03/24

うさぎの絵本

うさぎの絵本と言われたら思い出すのはどれでしょうか。

「ピーターラビット」は、その本が出版され今年で120年という記念の年だそうで、展覧会や特集雑誌が企画されています。そんな一冊「時空旅人」には「知っておきたい絵本作家」として、かこも紹介していただいています。

ピーターラビットの作者ベアトリクス・ポターが愛したイギリスの湖水地方は風光明媚で丘陵には、その住まいが今でも残っています。夏のその景色は緑が目に染みるように美しかったことを懐かしく思い出しますが、『だるまちゃんとうさぎちゃん』(1977年福音館書店)は白銀の小山が背景で、かこが幼い頃暮らした福井県越前市の風景が重なります。

かこによるうさぎ絵本に『うさぎのパンやさんのいちにち』(2021年復刊ドットコム)があります。かわいいうさぎたちが驚くほどたくさんの種類のパンを作る工程は、社会見学に行ったように本格的で世の中の仕組みもわかるおすすめの絵本です。

うさぎはキリスト教の国々ではイースターに欠かせないものですが、今年のイースター(4月17日)は、果たしてお祝いをできるような状況になるのでしょうか。ベアトリクス・ポターの子供時代は伝染病や産業革命による自然破壊が起きた時代で、現在の私達と似たような思いをしていたからこそ、美しい自然を背景にした物語が紡ぎ出されたことを思うと、120年の年月が長いのか短いのかがわからなくなってきます。まさに時空を超えてつながる世界を体験できるのが絵本でもあるのです。

上は『こどもの行事しぜんと生活4がつのまき』(2012年小峰書店)より

2022/03/18

祈りよ届け

どこかで見たことのあるヒマワリの絵。

これは『こどものカレンダー7月のまき』(1975年偕成社)の7月29日の場面です。この日亡くなったオランダの画家ゴッホ(1852年〜1890年)にちなみゴッホの描いた3枚のヒマワリの絵を、かこが合成して模写したものです。その本の見返し(下)にもヒマワリがデザインされています。

ウクライナの国花でもあるヒマワリ。平和を願いお届けします。

この原画は2022年4月3日まで名古屋松坂屋美術館で開催の「かこさとしの世界展」で展示中で、公式図録にも掲載しています。

2022/03/16

願いをつなぐ

急変している世界情勢を見てウクライナ民話「てぶくろ」を読む方がふえているそうです。
実はかこも1956年川崎の子どもたちと一緒にこの物語を紙芝居に仕立てています。セツルメントのボランティアで毎週日曜に子どもたちと遊んだり絵を描いたりしていた頃です。

かこの絵では、狩人や犬は子どもたちに馴染みのある日本風の姿になっていますが、子どもが描いたような画風は温かみが魅力です。

『かこさとしと紙芝居 創作の原点』(2021年童心社)でご紹介しています。2022年4月3日まで名古屋松坂屋美術館で開催の「かこさとしの世界展」ではその全場面をご覧いただけます。また、展示会公式図録(2019年平凡社 )にも掲載されています。

窮状にある人々におもいをつないでいただけたら幸いです。

2022/03/08

願いをこめて

ご覧いただいている『わっしょい わっしょい ぶんぶんぶん』(1973年偕成社)はあとがきにあるように、かこさとしにとって「記念碑的作品のひとつ」です。

起承転結のはっきりとした筋立て、子どもの自由な発想がその要である点、多くの人々、動物、ものが登場し生き生きとした群像として描かれている点など、かこさとしの作品の特徴が見出せます。

「七度目の筆をとり」とありますが、この物語の誕生の経緯は『かこさとしと紙芝居 創作の原点』(2021年童心社)に詳しく、その元は「新しい人形劇映画のためのシナリオ」として記されたもので、1951年にはセツルメント活動の中で大型紙芝居にして子どもたちに見せたようです。

意地悪な悪魔(下)の身勝手な振る舞いによって苦しめられる人々が、力を合わせ、悪魔を懲らしめ、幸せを取り戻すという筋です。

365日、どの日も誰かの誕生日や命日で、個人にとっては大きな喜びや悲しみの日になるのですが、多くの人に共通の忘れてはならない日があるのも事実です。1926(大正15)年生まれのかこにとっては1945年3月10日の東京大空襲、2011年3月11日がそうでした。

311で避難していた方がいらした福島県郡山での展示会で、なんとかして元気を取り戻していただきたく加えたのがこの絵本の最終場面(下)でした。人も動物も、嬉しそうに歌い踊り喜びを表現していて見ているだけで笑顔になれます。

2022年3月6日、かこの生まれ故郷福井県越前市に誕生した屋内水泳施設(Perky House)が、大人も子どもも明るく快活に集える場所となることを願い、その1階ホールに、この絵を飾っていただいています。

世界情勢が不安定な今、願いをこめてこの絵をご紹介致します。
____________

尚、2022年3月11日から26日まで川崎市幸区役所でこの絵が展示されます。詳しくは以下でどうぞ。

川崎市幸区 展示会