作品によせて

2021年2月26日〜4月11日福井県ふるさと文学館 加古里子特集展 宇宙とどうぐ

ナビや通信など人工衛星のお世話になっていることを忘れるほど現在では当たり前のことですが、世界初の人工衛星打ち上げは1957年、日本の国産衛星の成功は1970年でした。
半世紀を経た現在、宇宙にある衛星の数は8000以上とも言われ、各国が競って打ち上げをしていた頃を知っている筆者にとっては、その数の多さとその半数以上が機能を停止している宇宙ゴミの状態ということに驚かざるをえません。

最近は宇宙ゴミにならないよう、燃え尽きる木製の衛星打ち上げも計画されているとか。そしてこの3月には福井県が日本初の県民衛星を打ち上げます。それに因んだ展示「福井県民衛星打ち上げ記念 加古里子特集展 宇宙と道具」が福井県ふるさと文学館で始まりました。

その模様がNHK福井で放映されました。以下でどうぞ。

人工衛星

衛星といっても地球を周回するものから、探索のため他の星に向かうものなど様々ですが、かこ作品ではどんな本に登場するのか見てみましょう。

『できるまで とどくまで 通信衛星』(1979年みずうみ書房・上)よると 初期の衛星の寿命は2年もなく、アポロ11号の月面着陸を中継したインテレサット3号の寿命は5年間でした。この本の最後には次のように書かれています。
(引用はじめ)
これからも、通信衛星は世界をむすぶ”塔のないアンテナ”として、宇宙に浮かぶ電波の中継基地として、ますます活躍することでしょう。
(引用おわり)

この時代は、各家庭ではテレビのアンテナを屋根の上に立てて電波を受信していました。そして現在は通信衛星や気象衛星にとどまらず、軍事衛星や科学衛星も地球の周りを回っています。

球形である地球の裏側の人や物が落ちてしまわない理由は引力があるからで、その引力のおかげで地球の近くであれば宇宙でも地球の周りを回って落ちることがないのです。ユーモラスな絵(上)とともに説明しているのは『あさよる、「なつふゆ ちきゅうはまわる』(2005年農文協)です。

『遊びの大星雲 1ひみつのなぞときあそび』(1992年農文協・上)〈じんこうえいせいのひみつ〉には、
「どんな おもい ものでも 1びょうで7、8キロ すすむ はやさで なげだすといつまでも ちきゅうの まわりを まわりつづけます。(くうきや ほかの ほしの えいきょうが ないようにしないといけません。)」
とあります。

さらに詳しい説明があるのは『宇宙』(1978年福音館書店・下)のこの場面。左上に小さく見えるのは宇宙船回収グライダー(アメリカ・1964年)で、左下方が世界最初の人工衛星スプートニク1号です。

人工衛星が地球を回る速度をさらにあげると、「じゅうりょくの ひっぱるちからを ふりきって、ちきゅうを はなれ、もっととおくへ とんで」ゆき、他の星の周りをまわって観測することができるようになります。『宇宙』の話はまだまだ続きますが、人工衛星の追跡はこの辺でおわりといたします。
肉眼でも見ることができる人工衛星。宇宙からこの地球を見下ろしたらどんなことを感じるのでしょうか。

*福井県民衛星は2021年3月22日に無事打ち上げ成功したそうです。

2021/03/07

ノミのたとえ

ここで話題にするノミは、虫のノミのことです。ノミは体長1ー9ミリ、後ろ足の力が強く体長の60倍の高さ、100倍の距離を跳べるそうです。そんな場面から始まるのが『宇宙』(1978年福音館書店)です。この場面では5種類のノミが描かれ次のような文があります。
(引用はじめ)
「ノミはじぶんのからだの 100ばいも たかくとびあがり、 150ばいも とおくへ とぶことが できます。
もし ノミが にんげんほどの おおきさで おなじくらい とべるとしたら、たかくて おおきなビルも ひととびに できることに なります。」
(引用おわり)
何倍の距離を跳ぶのか倍数の数字に差がありますが、宇宙に行くには、地球の引力をふりきれる高さと速度が必要であるという説明の第一段階として、ノミの跳躍が登場する次第です。

ノミが使われているもう一つの例は『あそびの大星雲5 がくしゃもめをむくあそび』(1992年農文協)です。この本は丸ごと一冊各ページをご紹介したいほど内容の濃い項目が並びます。
〈げんぱつのもんだい〉、その前段では〈げんばくのもんだい〉〈すいばくのつくりかた〉、そしてその前には、〈核はんのうのもんだい〉が取り上げられています。

この核反応を説明するのに、陽子をヨウコちゃんというあだ名で、中性子をチューコちゃん、電子をデンコちゃんとわかりやすく言い換え、それぞれを赤いノミ、しろいノミ、カに例えています。

原子アトムの説明文は以下のようです。
(引用はじめ)
アトムを 100メートルしほうの やきゅうじょうだとすると まんなかにある ノミくらいのおもいかたまりが 核(かく)で やきゅうじょうの まわりを ものすごい はやさで とびまわっている ちいさなカが 電子(でんし)となります。
(引用おわり)

そして、核の中の陽子と中性子の組み合わせと数の違いがアトム、そして物質の違いとなること、自然界の物質で一番重いウランのアトムは92の陽子と146の中性子、92の電子からできていることが図とともに説明されます。

さらに、「かんたんな アトムの 核が くっついて、おおきな核のアトムになる はんのう」が核融合反応、「おおきな アトムの核が わかれてちいさな 核になる はんのうーーーたとえばウラン(235)から いろいろんな ものに かわる はんのうを 核(かく)ぶんれつはんのうといいます。」と説明が続き、「どちらの 核はんのうも、そのとき すごい ねつと ちからが でてきます。」

注意書きにはウランには、238,235,234の3種類があり、ふつう核分裂反応をするのは235とあります。

2011年3月11日、この反応を利用する原発をコントロールをすることができず、大きな事故につながってしまいました。

2021/02/14

10年目の311

あと一月で、10年となる東日本大震災。昨年も同じ時期に「編集室よりー作品によせてー」で、同じ絵を使って書きました。この出来事は決して風化させてはならず、毎年同じように思い出し、その歴史を未来へ語りつなぐ必要があるはずです。

記憶にとどめ伝えるべきと判断し、出版社にすでに渡してあった『こどもの行事しぜんと生活 3月のまき』(2012年小峰書店)の原稿を差し替え、急遽描いたのがこの絵です。その大切な役割を果たすことを念じて、今年もあえて同じ絵を掲載します。

本来なら昨年夏に開催のはずだったオリンピック誘致でも語られた、この震災からの復興はどうなっているのでしょうか。時間を経て忘れられる出来事は多くありますが、記憶からは消えても残り続ける事実があるのではないかと思います。

卒業式がたけなわで新たな希望をいだいた春のあの日。それに続く事故で不安に覆われた日々。その中でも光を受けて芽吹き花をつけ成長する植物にあの時ほど励まされたことはありませんでした。

東日本大震災被災地の支援拠点として重要な役割を果たした岩手県遠野市にこの夏[こども本の森 遠野]が開設されるのは明るいニュースです。10年目の311に向き合いたいと思います。

上の絵は『がくしゃもめをむくあそび』(1992年農文教・下)の一場面、「げんぱつのもんだい」

2021/01/07

オーロラ

オーロラという言葉が神秘的に感じられるのは、その光と色が幻想的な上に、宇宙で起きる現象だからでしょうか。 

日本の空では、北海道の一部を除いてなかなか見られませんが、本の中で眺めてみましょう。

宇宙のことですから『宇宙』(1978年福音館書店)で確認すると、30ページ(上)、地球の極の上空にオーロラが描かれています。その原因については38ページに次のように説明されています。
(引用はじめ)
ときどき たいように ばくはつや じきのみだれが おこると バースト とよぶ つよい でんぱや たくさんの りゅうしが あたりに とびちります。そのみだれや りゅうしが ちきゅうに そそぐとき じきあらしとなって つうしんの じゃまをしたり うつくしいオーロラの もとにになったりします。
(引用おわり)

題名にズバリ、オーロラとある『よあけ ゆうやけ にじやオーロラ』(2005年農文協)では、太陽の光と熱に関して、太陽や月のかさ、陽炎や逃げ水、蜃気楼、そして後ろ見返しではブロッケンの輪、反射虹についてもふれています。

そして、さらに太陽の出す電気を帯びた粒による不思議な現象としてオーロラを「たいようかぜと くうきが けいこうランプのように きれいな ひかりを つくったもの」と、紹介しています。

オーロラを背景に物語のクライマックスがおとずれるのは、『サン・サン・サンタ ひみつきち』(2019年白泉社)です。クリスマスのお話でしょ?と思われるかもしれませんが、お話の前半は、クリスマスのために長い時間をかけて氷の下で進む、秘密の作業が次第に明らかになって、きっと目が釘付けになります。そしてオーロラの出現とともに隠れていたものの姿が次々あらわれます。

科学絵本であれ、ファンタジーであれ、オーロラは私たちの心をひきつけることに変わりありません。

2021/01/01

丑、牛、うし

明けましておめでとうございます。
年頭恒例の干支探し、丑年にちなんで牛を見つけましょう。
なんといってもまず第一にあげられるのは『だるまちゃんとてんじんちゃん』(2006年福音館書店)の黒い牛です。上は表紙です。てんじんちゃんは、学問の神様、菅原道真公のことで受験生の合格祈願を込めてこの絵からはじめます。

藤沢市役所1階ホールに新年仕事始めの日から展示するのもこの一枚です。お近くの方は是非ご覧ください。

菅原道真公は845年、丑年の生まれ、亡くなった時に公を運んだ牛が動かなくなってしまったこともあり、爾来、牛は天神様のお使いと信じられているようです。

絵本では「てんじんちゃん」のお手伝いで「だるまちゃん」も牛の世話をしています。

紙芝居に『かわいいモウちゃん』という作品があり、まさしく牛が保育園に通うというかわいいお話です。
牧場に牛がいる絵は『地球』(1975年福音館書店)にもあります。

『あそびの大事典 大宇宙編』(2015年農文協)〈パート3 しかくまぶたちゃんのあそび〉は、〔遊びのどうぶつ大行進〕とあるように、色々な種類の動物による楽しい遊びの紹介があり、{うしさんのあそび}は、「もーいいかい」「もーいいよー」のかくれんぼです。絵の中に隠れている牛の数は何匹でしょうか。

おうし座にはアルデバランという星があり「冬の六角形」の一つであると『子どもの行事しぜんと生活12がつのまき』(2012年小峰書店)や『ふゆのほし』(1985年偕成社)に紹介されています。

七夕祭りの彦星、牽牛の絵が『かこさとし お話こんにちは7月の巻』(1979年偕成社・下)にあります。

牛の文字がつく名前で思いうかぶのが「牛若丸」。『かにちゃんオーエス かめちゃん オーエス』(2007年全国心身障害児福祉財団)というジャンボ絵本では牛若丸が弁慶と現れて、綱引きで力を貸します。

難しい名前ですが僧侶の鞭牛(べんぎゅう)は江戸時代、南部藩大飢饉を目の当たりにし、食料を運搬するには道が必要と自らツルハシをふるって工事にあたりました。『土木の歴史絵本第1巻 くらしをまもり工事を行ったお坊さんたち』(2004年瑞雲舎)でご紹介しています。現在盛岡市民文化ホールで開催中の全国巡回展「かこさとしの世界展」(2021年1月31日まで開催)の会場で原画を展示しています。

郷土玩具の中にも牛がかたどられたものがあるようですが、お正月にお家で楽しみたい『だるまちゃん すごろく』(2016年福音館書店)には、茨城の「わらうし」と福島の「あかべこ」が登場しています。

2021年の干支さがしはすごろくの場面で上がりです。
本年が皆様にとって佳き一年となりますようご祈年申し上げます。

雪だるまつくりは雪がなければできない遊び、しかも雪質により丸く固められない場合もありますから、これができるのは天の恵みです。とはいえ今年はいきなり大雪に見舞われた地域も多くご苦心されていることでしょう。

雪だるまは、一人で小さく作るもよし、力を合わせて大きく作るのも愉快です。だるまちゃんたちが雪だるまを作る場面から始まる『だるまちゃんとうさぎちゃん』(1972年福音館書店・上)。面白い雪だるまが出来上がり、大喜びのうさぎちゃんたちを見ているだけで、こちらも嬉しくなります。

『ふゆのほし』(1985年偕成社・上)の前扉の雪だるまの目鼻は炭やたどんのようで時代を感じます。

『子どもの行事 しぜんの生活』12月のまきや2月のまき(2012年小峰書店・下)の表紙や裏表紙、前扉にもいたずらっ子がつくったような雪だるまが見えます。この2枚は1月のまきの表紙と合わせて、現在盛岡市民文化ホールで開催中の「かこさとしの世界」展(2021年1月31日まで)でご覧いただけます。

雪だるまができたら次は雪合戦。ゆきのひの遊びは止まるところを知りません。『ゆきのひのおはなし』(1997年小峰書店・下)のさあちゃん、ゆうちゃんたちの楽しそうな様子を見ていた雪だるまたちは、なんと雪合戦を始めます。。。大人が見てもワクワクしてくるお話の絵は、越前市ふるさと絵本館で全場面を展示しています。(2021年3月22日まで、ただし2020年12月28日から翌年1月5日までは休館)

一人ではできない雪合戦は、ちょっと今のご時世では難しいのかもしれませんが、かこが子どもの頃の男の子たちは、それこそ夢中だったようです。その様子を伝えるのが『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社)の四年生の時のこの場面もふるさと絵本館で展示していますが、まさにやんちゃの盛りです。

(引用はじめ)
二つ三つと塊が手頭に当たる。五つ目の塊が僕のほっぺたをかすめた。(中略)勝ったと思うとさっきのいたさがなおいたくなった。
陣に帰ってかちどきを上げた。さっきのいたさをわすれて大きな声で
「万歳!」
と叫んだ。今でもそのことを思いだし、雪合戦の愉快だったことをいたかったことをつくづく思い出す。
(引用おわり)

『ゆきのひ』(1966年福音館書店)の校庭では、ニコニコ見守ると先生とその脇で妙に落ち着いている犬と屋根のスズメ。熱戦から外れて長靴の雪を出している子、滑ったり転んだり、雪玉作りに専念したりとその様子は見飽きません。

寒さ厳しい毎日です。どうぞお大事にお過ごしください。

2020/11/26

サンタの帽子

クリスマス気分を盛り上げるものを一つ身につけてください、といわれたら、何を選ばれますか。私は、サンタの赤い帽子でしょうか。かぶればそれだけで、周りのみんなもニコニコしそうです。
『こどもの行事しぜんと生活12がつのまき』(2012年小峰書店)の前扉には赤い帽子のミナ母さん。せいわ父さんは、義士の討ち入りの装束です。

帽子といえば、まず思い浮かぶのはあの場面。『だるまちゃんとてんぐちゃん』(1967年福音館書店)、だるまちゃんがてんぐちゃんの帽子(ときん)を見て、家中の帽子を出してもらい。。。ありますね、赤いトンガリ帽子。

かこが小さい頃、冬はボンボンが先についた毛糸の帽子をかぶっていました。それが影響したかどうかわかりませんが、生涯、頭を守る意味で帽子を愛用していました。

11月7日の編集室・作品によせて〈マスク〉の項でご紹介した『ゆきこんこん あめこんこん』(1987年偕成社)のサンタさんは、おやおや、なぜか帽子や服がびしょ濡れでほしています。(上)このあとがきには、加古の若い頃の写真が載せてありますので、ご覧ください。

世界中の子どもたちにプレゼントを届けるには大勢のサンタが活躍しているとか、クリスマスにまつわる「秘密」を教えてくれる絵本、『サン・サン・サンタ ひみつきち』(2019年白泉社)では、赤い帽子をかぶったサンタさんがずらりと並んで準備万端、夜空の星を背景に、いよいよ世界各地に向け出発です。

上の場面は11月27日(金)から12月27日までの1ヶ月間、越前市のふるさと絵本館でご覧いただけます。お近くの方はぜひお出かけください。

星空といえば『ふゆのほし』(1985年偕成社)の表紙にも、サンタの帽子の女の子が星空を見上げています。
今年はこんな風に夜空を見上げて過ごすクリスマスがいいかもしれません。

昭和時代にはチャンバラがテレビ番組に必ずありました。スポーツのチャンバラではなく、サムライが刀でチャンチャンバラバラと戦う場面から、こう言われる剣劇です。

幼い私には、主人公らしき人はわかっても、次々に現れる刀を持ったやからを見て、あれは「いいもん?悪いもん?」と確かめるので、加古は笑っていました。

子どもが見聞きする話ならば悪いのは鬼や意地悪な人だと決まっていましたから、すぐに幼い子でもわかるのですが、テレビのチャンバラで見極めるのは難しかったようです。

加古作品の中で登場する悪者は『かいぞくがぼがぼまる』(2014年復刊ドットコム・上)のような極悪非道の海賊だったり、『でんせつ でんがらでんえもん』(2014年 復刊ドットコム・下)のような強欲な人間だったり、『あわびとりのおさとちゃん』や『青いヌプキナの沼』にでてくる、権力を振りかざす人など色々な人間ですが、鬼も登場します。

『こわやおとろしおにやかた』(1986年偕成社)は、昔ながらの鬼退治の話で、退治するのは三人の若者、鬼もゾロゾロ出てきますから大立ち回りとなります。

『ぬればやまのちいさなにんじゃ』(2014年復刊ドットコム・下)では、鬼に殺された親の仇を討つために小さな男の子がテングの元で修行を重ね、ついには命をかけて鬼を倒します。

冒頭の絵は、加古が米寿の記念として全国の図書館に寄贈した『矢村のヤ助』(下)の一場面です。
ヤ助は鬼から村人を救うため、大きな犠牲を払うのですが、この絵のような壮絶な場面の裏にある、あまりにも辛い秘密に胸が締めつけられます。是非図書館でご覧ください。

紙芝居『長者やしきのおとろしばなし』(1984年全国心身障害児福祉財団)は、かつて長者屋敷だったものの今は廃屋になっている家に鬼が出るという噂が村中に広まっている中、何も知らない旅の僧が一夜の宿にとやって来ます。すると現れたのは鬼。しかしそれは本物の鬼ではなく、鬼に化けた長者屋敷に住んでいた、こどもだったのです。そこには悲しい身の上がありました。

『わっしょいわっしょいぶんぶんぶん』は加古自身が記念碑的作品というものですが、平和な世界で楽しく踊り音楽を楽しむ人々を羨んだアクマが、人々の楽器や動物を取り上げてしまいます。そのアクマをやっつけたのはこどもの柔軟な発想と人々の協力でした。

こどもの知恵で悪者を懲らしめるといえば、ドイツのお話から創作した『まほうのもりのブチブルベンベ』(1986年偕成社・下)です。大変可愛らしい、加古の絵にしては珍しいタッチで描かれています。子どもの機転で魔女をまんまとやっつけ、万事解決する結末は『わっしょいわっしょい ぶんぶんぶん』に共通する点です。

はてさて、現実の私たちの身の回りには、まだまだ悪鬼のようなもこわいものがあるのです。

『遊びの大星雲 10 ちえとちからわきでるあそび ー人のいきがい 子の願いー』(1993年農文協)には、こわいものがいろいろ紹介されています。

「ふえる にんげんのおそろしさ」では2050年に世界の人口が100億人となるという予想も示され、「おそろしい こわいものが ちきゅうをねらっている」では、「むかしのひとがおそれていたものではなく あたらしいこわいものがあらわれてきています」として、排気ガス、酸性雨、地球温暖化、放射性物質、ゴミなどの問題がおそろしげな絵で、表現され「こんなことが つづけばーーひとも せいぶつも しにたえおそろしい ちきゅうとなって しまいます。」とあります。

この本が出版されて30年近くになりますが、その時より状況は悪化していることは誰の目にもあきらかでしょう。

この本のこの場面の下には、次のような諺が合わせて紹介されています。その引用で、こわいものまつわる作品のご紹介を終わります。

(引用はじめ)
せんりの みちも いっぽより
どんなに むずかしいことでも みじかなことから すこしずつ かいけつしてゆけば ゆきつくことができる
(引用おわり)

2020/11/07

マスク

今年ほど「マスク」という言葉がニュースに登場したことは過去になかったのではないでしょうか。

この絵は『ゆきこんこん あめこんこん』(1987年偕成社)の最終場面です。うさぎさん、ゆきだるまさん、さんたのおじいさんもみんな風邪をひいてしまったというオチで、みんなマスクです。

これは筆者が5歳の時に描いたもので、かこ作・絵の「ひがさんさん あめざんざん」という作品と合わせて一冊の絵本『ゆきこんこん あめこんこん』(1987年偕成社・下)になっています。

かこ作品の中にマスクの絵はないのですが、「マスク」という言葉を思いがけないところに見つけました。『過去六年間を顧みて』(2018年偕成社)は、かこが小学校卒業時にかいた絵いりの文集で、その四年生(1935年・昭和10年)の最後に次のような文があります。

(引用はじめ)
「入学だ受験だ試験だ勉強だ。」(空襲だ水だマスクだスイッチだ)僕の机にこう書かれた紙がはってある。五年になると本式に勉強しなくては中学へ入れない。
(引用おわり)

この(空襲だ水だマスクだ。。。)というのは空襲予防の標語だそうです。

小学4年生の時からこういった標語とともに生活して1936年に二・二六事件、翌年に日中戦争、39年には第二次世界大戦となり41年太平洋戦争、45年の終戦まで約10年間を過ごしたのかと思うと、想像するだけで辛くなってきます。

しかも、かこは1945年春に兄が亡くなり空襲で家を失い、戦後は食料難の日々だったと語っていました。
コロナ禍だからこそ気にかかった「マスク」が、日本が戦争に向かっていた時代を振り返るきっかけとなったことに複雑な思いがしています。

2020/10/31

あやとり

木枯らしが吹く頃、誰ともなくあやとりを始めるのが筆者が小学校の頃の女の子たちでした。毛糸の輪を首から下げたりポケットに入れておき、お休み時間に遊ぶのです。

その指の感覚が今でも記憶にあって、いざ始めてみると。。。おやおや、思っていたほど指の動きがなめらかではありません。こんなはずじゃなかったのに、これが現実です。

指を動かすことは脳にも良いと聞きますので、気を取り直して再挑戦。そんな時に役立つのが『かわいいみんなのあそび』(2013年復刊ドットコム・上)です。それぞれの形に名前があって、橋や鼓、川、はしごもありました。

同じシリーズの『しらないふしぎなあそび』(2013年復刊ドットコム・下)ではニューギニアのあやとりも描かれています。

一人あやとりも紹介しているのが『日本の子どもの遊び読本』(2016年福音館書店)です。この本では7つの章に分け、草や木の実のあそび、紙をつかうあそび、工作、絵や形をかくあそび、野はらや広場でのあそびの他に手やゆびのあそび、そしてあやとりが登場。
だるまちゃんもやまんめちゃんと遊んでいます。

そこには次のような、かこの言葉があります。

(引用はじめ)
すべりのよいひもか、太めの毛糸をむすんで、両手を広げた長さのひもを輪にしたものを、指で取り合ったり、からげたりする「あやとり」は手から手へ伝えられてきた、すばらしいあそびの宝です。

図や文字で伝えようとすると、ふくざつでむずかしそうですが、いちど覚えてしまうと、3歳くらいの子でも1人でできるものもありますから、どうぞゆっくり楽しんでください。
(引用おわり)

冒頭の絵は『日本伝承遊び読本』(1967年福音館書店)の表紙です。こんな風に昔は手から手へ、人から人へ伝えて覚えたものです。

『てとてとゆびと』(1977年童心社・上)にも子どもがあやとりをする絵があります。この本は遊びを紹介するのではなく、体ついて小さなお子さんの理解を助ける科学絵本です。

その一場面には下のように、全部手偏のつく漢字が並んでいます。これだけ手でする動作がたくさんあるとは驚きです。人間にとって手指を動かすことは大脳の働きと対応し大切なものであることを知って欲しいというのが著者の意図するところです。

昭和時代の雪国の生活を描いた『ゆきのひ』(1966年福音館書店)に、あやとりをする子供、発見!
ゆきおろしのかたわらで、女の子があやとりをしています。皆さんもいかがですか?